闇。
闇。
闇。
ぽつんと、人と人。
一面の暗黒。
安直な光などその深遠なる闇に全て喰らわれる黒い世界に、四肢の先を闇に囚われた少女と、それを楽しげに見つめる少年がいる。
彼らの周りだけ、闇は薄く、淡く発光して闇を照らしている。
ボゥ…と浮かび上がる足元。
顔を完全に照らすには足りない灯りの中、少年の瞳が淡く紅に光を放つ。
【千里眼】と同様に、この世界に飛ばされると共に目覚めた【夢渡り】のスキル。
この世界で勇者として召喚された正樹は、その実、単体戦闘力はこの世界のトップクラスには遠く及ばない。
同じく異世界より召喚された一騎当千の実力を秘める高崎茜、聖騎士団筆頭、神の寵児シェーナらとサシでやりあえば、ただの一合すら打ち合う事も出来ずに一蹴される程度でしかない。
その為、高田正樹という存在を客将として招くオーシェンの重鎮達は、前述の二人以上に、彼を軽視していた。
異世界より渡りし勇者、高田正樹の真髄は後衛特化のスキル群。【千里眼】にて世界に起こる事象の全てを見通し、【夢渡り】にて敵首脳らの心を読み取り、軍単位の戦力を瞬時に死角へと送り込む【転移】を用いる。他のスキル達もまた使いようによっては、それらのスキルに勝るとも劣らぬ働きを期待できる、最高級の戦略級兵器――それが高田正樹であったのだけれど。
重鎮達はより分かり易い、より簡単に力を振るってくれる高崎茜を重用するようになる。尤もこれは、正樹自身が己のスキルをとにかく不便な制約でしか使えないと嘘八百を並べ立てていたからという理由も付加される。
軽視されているとは言え、茜が名声をあげている点もあり、【勇者】の肩書きは偉大だ。
だから、彼は許される。
そのスキルを悪用していようと。市井の娘達を毒牙に掛ける程度であれば、黙認される。
英雄は色を好む者だ、そう擁護する武官達もいる。
けれど、彼らは知らない。
その毒牙が、オーシェンの深部にまで既に差し掛かっている事に。
【聖女】シェーナも【勇者高崎茜】も、正樹の肥大し暴走する欲望の対象である事を。
今宵、夢に渡る先は高崎茜。嘗ての幼馴染み。
ロシア人の祖母を持つクォーターの少女。
艶を持つ輝く金髪に、挑戦的な釣り目の瞳はグレー。ギリシアの女神アテネと同じ海のグレーを宿している。もっとも、胸上まで伸びるストレートの髪はともかく、シェーナと比する神聖さを宿した瞳は、気絶している今、閉ざされているが。
造形美としても美しいシェーナの躰とは対照的に、機能美を追求したような躰、今はくたりと闇に囚われ、脱力している。
茜の手足はその闇の一部に捉えられ、動きを封じられている。
佇む正樹はしどけなく囚われる茜の姿を観察する。
濃紺のセーラー服は、転生する前の彼女が着ていた学園の物だ。今はもう、この世界でしか見られない格好に、薄く舌を覗かせ、唇を湿らせる。
そうしてどれだけの時間が経過したか。
観察していた少女の睫毛が、薄く震える。重い瞼をどうにか開き、瞬きを数度。
闇に浮かび上がる紅の瞳を光らせる正樹を認識すると、げんなりと茜は溜息を漏らす。
「また……いい加減にして欲しいんだけどなぁ、正樹。私はキミの性欲処理係かい?」
「ふふ、相変わらずこの世界に招くと不機嫌そうだね、アカネ。綺麗な顔が台無しだぜ?」
「…っ、光栄、だ、ね? こんな好き勝手に弄ばれて。喜ぶような…私、なんて。こっちから願い下げだ。それ以上、触るな、正樹。これは、警告だ。今のキミには、触れられたくない」
侮蔑と軽蔑とをまぜこぜにした瞳が正樹を射る。
当初、【夢渡り】で渡った何度かは、その眼光だけで射竦められ、動けずに終わった。それも今はいい思い出だ。
距離を一歩、詰める。
闇の世界、僅かに発光する足元は、音の一つさえも飲み尽くし奇妙な静寂を保つ。
そうして茜に寄り添うように立つ正樹。瞳を見つめ、その瞳の強さに唇を綻ばせる。
上等だ。正樹の方こそ、即座に悦びに堕ちるような女にわざわざスキルを用いたくはない。
「く、ははは。あァ、うん。なぁ、アカネ。一体何度、警告をしてくれるんだ?」
茜の肌理の細かい肌に指を伸ばす。鋭利な刃物を思わせる目尻に触れながら、肉付き薄く鋭角な頬をなぞり滑る指腹。瞼を強く瞑り、逃れようと首だけを振り立てる茜の顔を執拗に追いかけ、その間も指は下っていく。薄い唇の端を掠め、張りに満ちた喉を触れ、そこに猫にするように逆手に指を這わせると、ひくり、と震える様に、正樹は酷薄に笑む。
「――ッ、ぁ………ん!」
嘗ての、元の世界の正樹であれば決して浮かべぬような下衆な笑みに、茜の眉根が寄せられる。
一体何が彼を狂わせたのか。
確かに、以前から性的な事項に興味を示す事はあったが、それはあくまで思春期や青春期の平均か、せいぜい多少上、という程度の筈だ。
いつの間に、夢の中でだけであろうとも暴虐に自らの快楽を追求する下賤な輩に成り果てたのか。
正しく力を磨いてきた茜には、狂った幼馴染みが分からない。
「警告ばかり送って、迷っている所為で、精神体のお前はすっかり俺に馴染んじゃったっつうのに」
「馬鹿を言う、なぁ………ッ? っく! 正樹! キミは――キミはぁ! 本当に、仕方のない奴だな!」
耳元に粘り気を持った囁きを囁くと、正樹は無遠慮に喉元を擽っていた手を更に下ろしていく。濃紺のセーラー服を押し上げる膨らみへと。裾野を登り、頂近くで親指のつま先がくるりと円を描いて弄ぶ。
柔らかで、なのに張りのある小さめな双丘を残る四本の指が下から掬い上げるように触れれば下着の底を支えるワイヤーの硬さを感じて――
「必要、これ?」
からかう。
「――ッ、ッッッ……黙れ…」
無駄な贅肉を宿さず、最低限の曲線で女を表現する茜の肢体は、即ち女らしさとは対極。肉付きの薄さは、彼女の軽いコンプレックスであった。
無論、それを面に見せるような無様な様は見せない強さは持っていたけれど。愛情でこそない物の、近しく思っていた異性に揶揄されれば、睨む瞳に僅かな動揺を見せ、蔑む視線の中に僅かな羞恥が滲み出る。
その様子を見て正樹はほくそ笑む。
確かに大きさこそシェーナや隣の同盟国カノー神聖国の『銀鬼』エイリークと比せば物足りないが、彼女達にはない、未完成の危うさが茜にはある。
若鮎の如き肌から派生する柔らかさと、それに相反すると思われる概念――押すと戻ろうとする反発力、全てが一級品だったし、何より。
「……キミに会うたび会うたびこんな事をされればね……ぅんっ!……ッ、ァ、ん…普通でいろってのが、無理じゃないか? 私とて、ぇ……ただの、女だ…からな」
「ああ、知ってるよ。ただの女だから、気絶するほど感じちゃうんだよな? 覚えてるだろ、こないだの事さ」
「――…ッ、さぁ? 忘れてしまったよ」
その揶揄に、冷静をなんとか守ろうとしていた茜の顔が瞬間的に紅潮する。その瞳に動揺が走るのが傍目からも良く分かった。しかしそんな感情の揺れ動きも僅かの事。
次の瞬間には、キッと己を睨み据える瞳には弱さなど見られない。
これだ。
これが、正樹を燃え上がらせる。汚しても、穢しても、折れない強さに、正樹は惹かれる。
壊してしまいたい衝動と、慈しみたい愛おしさを同時に感じながら、今日もまた彼女を嬲るのだ。
何度も何度も何度も夢に渡った。最初の内は遠目に精神体の彼女を眺めるだけ。やがて少しずつその距離を縮めていき、四肢を拘束して彼女を観察し始めたのはスキル【夢渡り】の扱い方を十全に行えるようになってから。そうして、彼女の前衛特化の単体戦闘力を発揮させぬようにしても尚、彼女の瞳の強さと纏う覇気に挫ける事十数度。
こうして、胸を嬲り、唇を奪えるようになったのは極最近。
思えば、シェーナの裸体を【千里眼】で覗いてから、自分は変わったのだと正樹は感じる。
銃の引き金が、人一人を殺せば軽くなるのと同様、異性を穢す事への禁忌や倫理観はとうに麻痺し、泣き顔や、屈辱に堪える顔こそが正樹の欲望を煽るのだと知った。
最初は嫌悪感だけしか与えていなかった悪戯。鳥肌を立たせ、己を蔑んでいた幼馴染みがやがてその身に熱を覚えていく課程に、昂ぶる。段々と自分の中の女を意識していく茜に、正樹はこの世界でだけ身に付けるブレザー姿の制服、そのスラックスを怒張で押し上げていた。
そんな怒張に煽られるように衣擦れの音を零し、呼吸を時折噛み締める茜を嬲る手は止まらない。止まる事無く茜の胸を揉んでいた手指は、やがて制服やブラジャーとは違う手触りのしこりを感じ取る。
乳房の頂、爪先で引っ掻く度に微細に躰が揺れ動くのを懸命に各層として、隠しきれない茜を見つめる。
「ここが、いいんだよな、茜は。知ってる、お前の事は全部、知ってるよ……細かく、擽られるのがいいんだろ?」
笑いながらそこを中心に更に責めたてる。
「――……っ、ふ、っ……ァ、く……ん、ひ……無様、だな……キミ、は」
「へぇ?」
「不相応な、っ、…力を、ォ。手に入れて、はしゃぐ………子供、だ…。すまなかった――キミが、そこまで、追い詰められている……ん、事に。私、も…シェーナも………皆、気付けなかった」
「黙れ」
「分かって、いたのにな。良くも悪くも、キミは凡人なのだと」
「黙れよ!」
癇癪を起こした子供の悲鳴、胸を弄んでいた手が、茜のセーラー服の襟を掴み一気に引き裂く。
戦闘訓練をそれなりにしか積んでいない正樹に、そんな膂力が出る訳は勿論ない。
【夢渡り】、精神を渡るそれは、即ち強い心を持つ者が世界を容易く改変できる世界。間接的に、正樹が茜を穢したいと欲する欲望が、茜が正樹から逃れたいという精神を凌駕している事に繋がり、それが、茜の心に冷たい風雨を感じさせる。なぜ、彼の歪みに誰も気付けなかったのかと。
そんな茜の思いを知ってか知らずか、正樹の双眸は露骨に性欲を宿しながら、茜の引き裂いたセーラー服から覗く膨らみに向く。引き裂かれ、小ぶりな果実を包む、嘗ての世界よりも余程繊細なレースが散りばめられたブラジャーが、はっきりと確認できる。
「ん、ゃっ。懲りない、なキミも……また、胸か」
「そんな眼で、見るな……ッ!」
「見るとも。キミは、私の罪だ。私が、支えていればキミはこうならなかった」
「違う!」
「違わないさ。その程度には、私はキミの事を理解していた」
「………もう、いい。黙れ、こっちはこっちで勝手にするからさ」
欲情していた気分に水を差されたようで、ふて腐れた面持ちでブラジャーに触れる。そうすれば、隠しきれない廉恥に、茜の躰が反射的に強ばり、正樹はいくらか溜飲を下げる。
まるで焦らすように、彼女に今から男の目に晒す事を知らしめるように、ゆっくり、ゆっくりと少しずつ上に捲り上げていく。
ワイヤーが押し当てられる膨らみはその形を歪め、日の光に当たらない白い膨らみの裾野が見え始める。
まだ完全には熟していない果実の膨らみが少しずつ、少しずつ。
やがて、乳房の頂近く、色が淡く薄茶に染まる輪を見いだせば、其処で捲る動きを留め、彼女の瞳を覗く。
茜は、頬を紅潮させ、泣きそうに涙を湛えながらも、笑っていた
「や、やめて、この変態、それ以上捲ったら、許さないから!」
これ以上ない、棒読みで。唐突に動かない手足を必死に動かそうとして体をくねらせ捩る。
まるで、そうする事が彼の望みに叶う事だとでも言うように。
「――馬鹿にしてッ!」
そしてその行為はかえって正樹の嗜虐心をかきたててしまうのだが。
「キミが勝手にすると言うから、私も勝手にしただけだ」
羞恥を覚えているのは確かで、隠しきれない快感を覚えているのもまた確かだ。
なのに、折れぬ彼女の強さに、正樹は気圧される。
だから、嬲る言葉も忘れて、一気にブラジャーを首元まで跳ね上げるように捲った。
正樹の手によって抑える物体を失った双丘は小ぶりながらも、その乱暴な仕草に小さく弾み、その存在を主張する。
真ん中にはピンクがかった薄い茶色の乳首が不似合いなほどに大きくなっている。
「―――!!」
「あははははっ。アカネ、アカネアカネアカネッ! 顔真っ赤だぞ? ああ、いい――そうだよ、そうやって、喰われてりゃ、いいんだ、よ!」
言葉を無く茜を見て、正樹は狂ったように哄笑し、茜の柔らかく健康的な唇に自身の唇を重ね合わせる。
「ん……ッ! ……むぅ…………うんっ……ぁ、はぁ……」
顔を左右に振り逃れようとする茜。言葉を奪われている今、果たしてそれが演技なのかどうかは彼女自身にしか分からない。そして正樹はどちらでも、彼女を許す気は無い。両手で頬を抑え、自分との口付けを無理矢理に受け入れさせる。
触れ合う唇の肉、その温もりに正樹は息子を更に大きく硬く膨れあがらせながら、唇に唾液をぬりたくる。平素から泰然とした彼女が、唾液まみれに唇を濡らしている姿に、本能の箍が外れ、彼女の口内に舌を捻じ入れ、身長差を用いて唾液を流しこむ。
押し返そうとする舌を、幾度も茜を貪った事で経験を重ねた正樹の舌が絡め取り、淫らで粘着質な水音を互いの頭蓋を通して理性を蕩けさせていく。
呼吸すら奪うほどの暴虐的な舌使いをどれだけ経たか。息を弾ませながら唇を離せば、互いの唇を細い銀糸が結び、ぷつりと切れて、茜の顎先に引っ掛かる。
そんな淫靡な光景を見詰めつつ、正樹は己と同じように口から酸素を取り込もうと口を開く茜の唇wを指腹で押さえた。
「それ。全部飲んだら今日はこれで止めてやるよ」
無邪気な子供のようでいて、淫欲に染まった提案を為す。
「……………………本当、に?」
「ああ、本当」
口内に溜まった他人の唾液の為に、呂律が回らない茜の言葉を受け正樹は、ほっそりとした顎に手をかけ上を向かせる。
「ん……」
意を決したように喉を鳴らす茜。
瞼を閉ざし、喉を上下に揺らして正樹の唾液を飲み干すと、茜は淡々と――それでもグレーの瞳を僅かに濡らして――問う。
「………飲んだけど?」
「ああ、じゃあ、『胸を弄るのは』止めてやるよ」
「………何回目だっけ、その手?」
「ああ、もううるさいな!」
そう言って、正樹は限界まで大きくなった乳首を口に含み、犬歯で軽く噛む。
「――ッ、っく! い、………った」
流石に、急所を鋭い歯牙で噛まれれば演技と仮面を被る行為を続行できず、躰が仰け反る。
伸ばしきった手は囚われた闇の中、何かの救いを求めるように揺れ、閉じられる。
「くはっ、そうだよ。弄ばれてれば良いんだよ!」
乳房に顔を埋める格好のまま、ねとりと這い出す舌が先端の尖りを責め立てる中、密かに臍を伝い降りる左手。スカートの生地に触れ、裾から潜り込む指先。内股に細い線を残すように爪を立てて這い上がる。
「……ゃ、め……ろ、正樹!」
制止の声を苦しげに紡ぐ茜。
当然、手は止まらず、紺のスカートの下から潜り込んだ指先がショーツの底を掻く。
「ん、っく――………! な、んで。こ、っの………」
秘部に触れられる。愛おしい幼馴染みで無く、変質してしまった男に。覚悟をしていても、揺れる身体、震える四肢、逃げ出そうとする本能は止められない。
しかし戦闘に特化し、【身体能力向上】【筋力増強】などのスキルを持つ茜がどんなに力を入れ、四肢を拘束する闇を破壊しようとしても、まるでびくともしない。逆に、必死な彼女をあざ笑うように彼女の四肢を拘束する闇は、その輪を狭め彼女に痛みを伝えてくる。
「無駄だよ……お漏らしアカネ」
「す、る訳、ッ、ないだろ、ぅ!」
動けない体を自由にされ、自分の最も大事な部分に触れられている屈辱に眼を潤ませながらも気丈に茜は言葉を発する。
「じゃ、この湿り気はなんだよ?」
蕩けた笑みを浮かべショーツの上から何度も指を擦り付ける。
執拗に、偏執的に繰り返されるその行為に、幾度も精神体を弄ばれる茜の身体が本能に忠実な反応を示し、胎内だけに留めておけない蜜をショーツに染みこませ始める。掻き混ぜる正樹の指が、下肢から水音を立てるまで、そうは長くない時間。
茜は、濡らしていた。
「……うっ、く、ァ…ぁ……あ…汗、……っだ」
自分で、自分を騙せない嘘を、それでも紡ぐ茜の顔から、堪えていた涙がついに一筋零れ落ちる。
屈辱、羞恥、悔恨、同情、軽蔑、劣情。
様々な感情が混ざったそれを恍惚の表情で見詰める正樹は、指を引き抜き、擦り付けていた指を見せつける。
触れ合わせ、離す指からは一筋の糸が引き、弧を描いて切れる。
「下手な嘘。くっ、あはははは。ああ、何だかんだ言っても、お前も女だよなぁ、茜。ほら、見ろよ。こんな糸引いて、さぁ」
粘度の高い液体が付着し、指を開閉するたびに新たに糸を引く。
そんな様をこれ見よがしに見せる正樹の指は茜の目の前で幾度もそんな動きを繰り返す。
「さ、てっ………私には、何も、っく、ふ…ァ。見えない……ッ」
「そんな赤い顔でなに言ってんだよ ―――――――ちっ、もう"来た"か」
機嫌良く、責め立てる正樹。
そんな彼に再度水を差す出来事。
世界が、壊れる。
音を立てて闇が崩れ始め、光が差し込み始める。
「アカネ、狙ったろ?」
半眼で見据える先、茜は軽く肩を竦める真似をした。
【夢渡り】は精神に潜り込むスキル。潜る先の対象が眠りから醒めてしまえば、当然渡る先の対象との接続は強制的に切断される。。彼女の挑発に乗り、長々と前戯に時間を割いてしまった所為で志半ばで消えて行く自分の世界を見回し、正樹は舌打ちを響かせた。
急速に世界が壊れ始め、茜を押さえていた闇も掻き消えた。
茜は、苦しげに膝から崩れ落ちると正樹へ視線だけを持ち上げ、与えられた快楽を必死に堪えながら話し始める。
「はぁ……悪いね、もう戻る時間のようだ。またな、壊れた正樹」
「へぇ、もうやるなって言わないんだ?」
「やるなって言っても、やるだろう? 安心しろ、いつか必ず、『壊して』やる。私の存在を賭けて、必ずな」
壮絶に、凄絶に。半裸に剥かれ、太腿にはショーツが吸いきれなかった蜜を垂らしながら、茜は笑う。
「はっ、そうかよ。なら、俺も宣言するよ、茜。お前も、シェーナも。この世界の全て、俺が喰らい尽くしてやる」
正樹の体が浮き始める。最初はゆっくりと、徐々にその上昇の速度は上がって。
茜は見上げ、正樹が見下ろす。
互いに笑みを浮かべ、挑む瞳を交わして、壊れた夜の闇は完全に掻き消え――【夢渡り】は崩壊する。
――――――――――――
目を覚ますとそこには見慣れた天井があった。
「アカネ、大丈夫ですか?」
そんな視界の端、シェーナが自分の顔を心配そうに見下ろしていた。
はらはらと心配を分かり易く瞳に乗せている姿に、自分より年上な彼女に思わず、ぷすん、と笑いになりきらなかった息を吐き出す。
その反応に、年甲斐もなく唇を尖らせるシェーナの柔らかい髪に触れながら茜は微笑む。
「うん……大丈夫。そんな心配しなくても大丈夫だ。どこにも異常はない」
「良かったぁ……。流石にやりすぎたかなって、もう夕暮れなのに眼を覚まさないから……正樹も心配していましたよ?」
「そう。うん、そうか……」
「茜ほどの魔力ならすぐ回復すると思って。本当に申し訳ありません」
「いや、その事は、いいんだ。ああ、いや、良くはないんだろうけど……」
眉を顰める。何か、忘れている気がする。
そんな思いを抱くのに、何を忘れているのか判然としない。
明晰な頭脳を持つ茜には珍しい様子に、シェーナは気遣うように上半身を起こした茜を横にするように身体をそっと押す
「ゆっくり休んで下さい、今更鍛錬の続きも出来ませんし」
「ん、そうさせて貰おうかな」
二人に共通する、不思議な事柄。
身体が覚える不思議な倦怠感。
十分な睡眠を取っても十全と回復しない魔力。
その理由を、二人が【夢渡り】の世界だけでなく、現実でも知るには、未だ早い。