トルクーシュという都市がある。
その都市には多くの二つ名がある。
【貿易都市】。
【自治都市】。
【自由都市】。
口さがない者は、人の欲望を吸いとる【夢幻都市】だとも。
とある夢を秘めた若者には巨万の富を、また別の大志を抱く青年には笑いながらパンツ一枚まで奪い取る。
危険な落とし穴だらけでいて、どこよりも活気溢れる都市。
大国であるオーシェン神聖王国と海峡一つを隔てた地理条件。
それでいながら、かの大国に迎合する事なく、あくまで完全中立を守り通した誇り高き商人たちの街。
そんなトルクーシュという街において、その名を冠した中央の名ばかりの城(豪商たちの評定自治会の場として用いられる)と、街々を囲む城壁はまさに要であった。
所詮は商人と侮る国家群を相手に、専守防衛にしか使えぬ【暴力】であるとは言え、実力行使出来る抑止力という意味において。
何度となく南方のアストライド帝国が併呑しようと小競り合いを掛けて来ても、四方を囲む堀と城壁と、高額な傭兵たちを盾に、受け止めきったのだ。
トルクーシュの城壁は象徴的存在として、また、それ以上に実用的な軍事要塞として威容を誇り、トルクーシュの人々に慕われつつ城下を見守ってきたのである。
――十年前までは。
神聖王国オーシェンが代替わりして八年。
危険ではあるが概ね平和だったトルクーシュに、何の前触れも無く突如として【堕ちた勇者】高田正樹が率いる【無銘の傭兵団】が現れた。
トルクーシュの主だった大商人たちは、即座に評定自治会最高会議を開催。
耳敏い彼らの耳はカノー神聖国の王都陥落に際して、何が行われたかを共有していた。
王都に残っていた王族貴族、豪商から一般市民に到るまで、苛烈で徹底的な凌辱と殺戮劇が【無銘の傭兵団】によって行われた事を知っていた。
降伏、非戦論を即座に却下され。
抗戦に舵を切る。切らざるを得ない。
同時に、海峡を隔てた大国神聖王国オーシェンに救援を発する。「お前らの不始末だろうが、何とかしろや莫迦」という言葉を丁寧に長々と、婉曲に書いて送りつけた。
その間にも押し寄せる【無銘の傭兵団】を相手に大商人と評定自治会は自分の財産を切り売りし、腕利きの傭兵たちを雇って屈する事無く抵抗を試みた。
しかしアンデッドのくせに統制の取れた作戦、何よりも一人一人の兵の質と量に圧倒され敗戦を重ね、劣勢になっていく。
敗勢濃厚の色が増すのに従い、金で雇われた傭兵たちは一人、また一人と逃げ出していく。
そんな状況をあざ笑うかのように【傭兵団】は死した傭兵や義勇兵たちを自らのアンデッド兵と変化させ、陣容を厚くさせていく。
結局、【無銘の傭兵団】が出現してから、トルクーシュの商人達が稼げた時間は二日。
かつて帝国の攻勢を耐え抜いた城壁は、二日目の朝、開戦と同時に放たれた大魔術によって崩され、堀はアンデッドの躯で埋められて。
たった二日で陥落した。
更にその脚で衛星都市をも蹂躙し、抵抗を試みる者達を例外なく殺戮し尽くした。
こうして【傭兵団】の侵略戦争はカノー神聖国に続いて完勝に終わる。
圧倒的な暴力と殺戮を背景に【傭兵団】がトルクーシュ城に居座ったのが二週間前。
何者にも支配されず自由に生きる事を誇りとしてきたトルクーシュの民。
その数は全盛期の四割となっていた。
要とも言える場所に土足で上がりこんだ支配者である高田正樹は法を制定しない。
数少ない生者たる【傭兵団】の兵士達が白昼堂々通行税だと金を巻き上げ理不尽な暴力を振るい、女相手には兵士たちの屯所に連れみ日がな一日薄汚い欲望をぶつけても、何も。
兵士たちの躁に偏った心が、変質し、幼子にまで牙を剥いても尚。
彼らは無法こそが法だとばかりに謳歌する。
かつての活気を失ってしまったトルクーシュの失意の時代は半月に及んだのである。
及んだ。
過去形である、今は既に。
【堕ちた勇者】高田正樹。彼が作った【無銘の傭兵団】。
彼らはやり過ぎた。
列国はカノー、トルクーシュを墜とした【傭兵団】に対し連合軍を結成。
盟主に【七強】が三席【星賢】ミソラを擁し、トルクーシュに進軍。
破竹の勢いで【傭兵団】をトルクーシュから撤退させる事に成功したのだ。
◇
「ミソラさま、ばんざー――い! 連合軍万歳!!!」
夕闇に響く盛大な合唱。
すでに太陽の半分以上が山の奥に落ち、刻一刻と暗さを増しているというのに城門前に押し寄せる、人、人、人。
黒山の人だかり。
その全ての顔は喜びに満ち、口々に解放軍の盟主ミソラを称えている。
「ウチで焼いたライ麦パンです……少しでも皆様のお役に立ちますなら、受け取ってやってくださいまし」
杖に頼る老婆が風呂敷一杯に詰め込んだパンを持ってきた。
「帝国の奴らから必死で隠してた干し肉や調味料さ。帝国への長征の時にでも使っておくれよ」
巨大なカゴ一杯に詰め込んだ重い荷を夫に持たせた妻がいた。
「あのね、へーしさん。これ、ボクらから、ミソラさまにって」
子供たちが手を握り合っておやつだったのだろう、ビスケットのかけらを渡した。
自分たちを再び自由に戻してくれたミソラの、連合軍の役に立ちたい、その一心でそれぞれに出来る事を精一杯こなしていた。
鍛冶屋は久方振りに炉に火を入れ相次ぐ激戦にすっかりくたびれた兵士達の剣を鍛え直し、落ちぶれた商家も蓄えこんでいた虎の子の米穀を、常なら足元を見た値段で売る物を、解放軍に無期限無利子無催促で売却した。
およそ半月振りに活気を取り戻したトルクーシュ。
城門に押し寄せた人々から起こる歓喜の雄叫びや合唱は止む事無く、夕刻から夜に時間が変わろうというのにかえって人数を増したそれは盛大に響いていた。
◇
しかし、民衆の喜びとは裏腹にトルクーシュ城の一角は重い雰囲気に包まれている。
――トルクーシュ城執務室。
卓の一つに【星賢】ミソラ、その傍らに近衛騎士兼軍師のオイフェ・ド・レイブン。
世の民たちから救世主の如く崇められる光の巫女ミソラ。
肩にまで届くブルネットの髪を無造作に飾り紐でくくり、切れ長の一重に湛えるはレント湖にも湛えられる青の色。【七強】の主席や次席である色香艶やかに振りまく女帝や清楚さを滲ませる聖女とはまた違う、鋭い印象を抱かせる顔立ち。
しかし今は資料を読み上げるオイフェの報告にその面持ちを固く強張らせている。
「――以上、先の戦いでの我が軍の被害状況です」
淡々と資料に書かれていた文字を追っていたオイフェの声が止まった。ようやく終わったかとミソラは溜め息をもらし、額を指先で押さえる。
「………緒戦で、三割が損耗、ね」
「全滅した隊が三割、ですね。損耗で言えば……」
「……七から八割には行くでしょうね」
「ええ。」
「まったく。まったく……各国からの本隊がこれから本格的に到着するとは言え……」
「厄介ですな、文字通りの死兵というのは」
疲れない。怯まない。怯えない。
更には【傭兵団】のアンデッド兵たちは統率され、組織的な動きさえ可能とし
「雑魚も問題だけど、【銀鬼】と【執事】が十全でいるのが痛い。士気が落ちる。なんで生きてんのよ」
また溜息。オイフェも咎める気にはなれず、ただ瞑目して見なかった振りをする。
彼の視界から一時的に椅子に凭れたミソラの姿が消える。
【星賢】ミソラ、東方の弧状列島を拠とする彼女が纏うのは民族衣装でもある白地に紅鮮やかな花が散りばめられたユカタである。
躊躇いも、配慮もなく大きく脚を開けば必然、その御足が晒される事になる。
だというのに。
肉付きの薄い太腿を晒し、秘所を開陳するような大股開きを為しているというのに。
沈痛な面持ちで戦況報告を続ける二人の間には不審の色はない。淫靡の気配も、無論ない。
ただ一人。
机の下でミソラの足元、下着越しに秘裂を撫でて戯れる男以外には、この光景は認識されない。
彼が目にするのは白の綿。素材自体は良い物を使っているのだろう。ほつれもしていないそれはただ必要な部位を隠しているというだけで飾り気のない物であった。
ある意味、装飾に彩られているよりも中性的な雰囲気を纏う彼女に似合う品と言えるかもしれない。
男――正樹は嗤って指腹で弄っている内に滲み始めた楕円を舌で舐る。
「ッ、…ぁ……レヴィン。隊の再編を」
「シェーナと比べれば、塩辛いかな」
「どうしたって綻びが出るぞ」
小首を傾いでの寸評は――聞けばミソラが従える鬼獣の全てを用いてでも評した男を殺そうとするであろうその声は、誰の耳にも届かない。
「トルクーシュから義勇兵を募ってもいい。この際、錬度には目を瞑る………ぅ…~~!」
思慮深い顔に一瞬の間、顔を顰め、これからの最善を模索するミソラ。
その股間に顔を埋め、ほんの僅かに滲んだ愛液を下着越しに楽しむ正樹。
時折、性感が刺激されるのか、入室当時には青ざめていたミソラの表情に、微かに赤みが指していく。
「まあ、そうするしかないだろうな…」
「厄介ね、【転移】って。しかも、一刻に及ぶ大規模な儀式を必要とし、運べるのは四名までで距離は視界の及ぶ範囲――オーシェンが言っていた制約をまるで無視してる」
「あの糞爺共に素直に教えるのも癪だったしね」
味見は済んだと、今度は会議を続けるミソラの胸元に手を伸ばす。しっかりと帯に止められたユカタの左右を無理矢理に剥がすと、シェーナ以下茜以上、正樹の正誤怪しいカップ数定義でいう所のCカップ程度の胸がまろび出る。
同時にふわりと漂う女の香りは、無意識にでも感じて仕舞った証左だろうか。
色味的にやや茶色の色素が強いが、昨今の評価対象が薄すぎただけで、世間一般なら十分淡いと表現出来る輪の中央、頂は寒さに震えてか縮こまっていた。
「今更嘘を重ねる意味も無い。恐らくは奴らが弁明しているように本当に知らなかったんだろうさ」
「なら、もっと協力して欲しいのだけど。……ん。…ぅ、【聖女】か【真なる勇者】、どちらか貸して欲しいわね」
「ほ~ら、乳首ちろちろ~」
重い雰囲気が満ちる二人を無視し、右胸の先を舌で、左胸の乳首を指で細かに震わせ、撫でて行く。
「【堕ちた勇者】の報復を恐れているのさ。先代以前であれば兎に角、保身と延命しか頭にない今の王ではな。期待薄だろうさ」
「は、っ、ぁ…ん、っふ……【七強】の、…ぉ、他は?」
「【女王】は後詰め。【番人】はその警護。【断絶】は行方不明。【銀鬼】は【傭兵団】に堕ち、【聖女】は先に述べた通り」
「連合軍の名が泣くわね…」
噛んだ。
「あ…!……本隊と一緒に来るのは【剣神】だけ?」
懸命に膨れた硬さに、犬歯を食い込ませてやれば痛みに体を揺らした【星賢】の姿。
「そういう事だ。何分、山奥で修行中だったとの事で連絡が遅れていてな。三日後には合流出来るそうだ」
「そ、れは……朗報ね。……となると…」
「っと……ああ、もういいや……出すか!」
ミソラの体を概ね楽しむと、そこで正樹は立ち上がる。
いい加減、直接的な刺激が欲しくなった。
机の上に膝立ちになれば、ミソラの真剣な面持ちを見下ろしながら己自身を擦り立てていく。肴は乳房と下肢を露わにしたミソラと、無理矢理に延ばさせたその右手だ。
細い手指に己の手を重ね、窮屈な恰好となるミソラに構わず擦り立てていく。
オイフェは、そんな無体を強いる闖入客を気にした風もなく、ただ主人であるミソラに通じる視界を遮られた為に、数歩横へ移動するのみだ。
「ああ。そうすれば、数の優位を作れる。【堕ちた勇者】の本陣まで一気に突っ切り――お前と【剣神】でアレを討てる」
二人の会話は滑らかに続いて行く、真剣にこれからの未来を案じるミソラの無自覚な手指奉仕もまた同時に、正樹を慰めていく。
擦る。
擦る。
擦る度に、ミソラの乳房が揺れる。
外では崇め奉り、救世の巫女だと謳われる女が、無造作に自分の大砲を扱いている。
そんな光景に正樹の股間はますます硬く屹立し。
「ああ!……も、ぅ、…ダメだ……いいわ、これ……!!」
会議の発言を続けようとしたミソラの顔面へ、白濁を撒き散らす。
「おっぷ、っぺ……ん……!」
「っと…おいおい……吐き出すなよ……たく」
「ん……ん……っ、っは……ぁ……ごめんなさい、咳が」
「大丈夫か? 今、連合軍でタカダに対抗出来るのはお前だけだ、自愛してくれ」
「ええ。ありがとう。それ――んっぷ!?」
急に液体が口にかかったミソラは、反射的に其れを吐き出そうとして。
指で掬った白濁を、正樹に突っ込まれて大人しく飲み下していく。
正樹は掬えるだけの白濁を全てミソラに飲み込ませると、何やらオイフェに指示を出しているミソラの口に突っ込んで簡易的な掃除として、身支度を調えていく。
「ん、まあ【星賢】もまあまあだけど……最近アレだな、シェーナとかエイリークとか年上続いたしちょっと食傷気味なんだよな……もちっと若いの探しに行くか」
そんな自分勝手な言葉を残して、支度を調え終えた正樹は部屋を後にしトルクーシュの街に詰めた連合軍の中から新しい獲物を見つけ出そうと進み始めた。
新たに身に付けた【認識錯誤】の力。所謂、いない者として扱われるという新しい力で以て。