※この作品はR-18です。

Harry Potter and Ancient Wolf   作:クレカ

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ダイアゴン横丁

始めての空間浮遊魔法はお世辞にも快適とは言えなかった。マダム・マルキンの洋装店前まで、ハリーの姿現しで移動した2人だったが、到着して暫くの間、ドラコニカは激しい目眩に耐えるため、ハリーにしがみついたままであった。

 

マダム・マルキンは小太りした頗る愛想のいい魔女で、全身を藤色の装いで包んでいた。この中年の魔女は最初ハリーの額にある傷跡に目敏く気付き、驚いた表情で口をあんぐりと開けたが、ガリオン貨幣がぎっきりと詰まった小さな革袋を渡すと、すぐ心得た様に立ち入り禁止の札がある、店の二階に通してくれた。

 

正直誘われたくなければ、トウィルフィット・アンド・タッティングに向かえばよかったのではないかと少女は考えたが、そこはどうやらハリーの拘りがあるらしい。曰く、学校に通い始めたら庶民の生活も分からなくてはならない、らしい。

 

一人でに動く魔法の巻尺で一通り体のサイズを計られると、マダム・マルキンはすぐに幾つかのホグワーツ指定ローブを持ってきた。あまり知られていないが、動きやすさを重視して、魔法界のローブはほとんどすべてがオーダーメイドだ。そして、学校指定とあってデザインはほぼ統一されているが、購入者の好みによって、目立たない程度の紋様や刺繍などを施すことは許されている。

 

「此方は新入荷の生地でして、アクロマンチュラの糸を使っております。しなやかで丈夫な材質、その上薄く通気性が良いため、夏には最適で御座います」

 

「染料は何ですか、マダム?」

 

「流石ですわ、レディー・マルフォイ。これらの染料は全てドラゴンの鱗を特殊加工ですり潰したものを利用しております。通常のローブとは比べ物にならない高い防御力を誇りますよ」

 

「ハリー、この蒼い光沢のは?」

 

「よく似合ってる。スウェーデン・ショート‐スナウト種の鱗だな、だがーーウクライナ・アイアンベリーのも混ざっているか。と言うことはグリンゴッツから提供された事になる。見返りに何を差し出した?」

 

続けざまに色と素材となる龍鱗の関わりについて説明をしようとしたマダムは、弱冠11歳の少年に全て言い当てられたことに驚きを隠せなかった。ぶっきらぼうな口調で核心を突く魔法界の英雄に、マダム・マルキンは冷や汗を垂らしながら、なんとか言葉を紡いだ。

 

「ポッター様、どうかこの事はーーどこもかしこも不況でして、仕方なく小鬼どもと取引いたしました。内密にして頂けましたら、そちらのローブは…」

 

「良いだろう。これは我々だけの秘密だ、マダム」

 

大粒の汗を額に浮かべて深々と腰を折るマダムを背に、2人は洋装店を後にした。ドラコニカは彼等の会話が意味するものを完全には理解できなかったが、敢えて質問はしなかった。

 

 

 

次に2人が訪れたのは、オリバンダー杖店だった。紀元前382年創業のその店では、月の様に輝く淡い瞳を持った老人が2人を出迎えた。驚くことにこの老人は今まで制作、販売した杖の一本一本について、購入者や材質などを覚えているらしい。そして彼は、ハリーの素性を知る1人でもある。

 

「これはこれは、ミスター・ポッター、いや、フェンリル卿とお呼びした方が良いのかな?使い心地はいかがで?」

 

ろうじんの視線の先にはハリーがついている、腰位の高さの杖(ステッキ)があった。かつてスキールニルが紳士の嗜みですよと勧めた際、ハリーが仕込みステッキとして購入したものだった。

 

「本体は黒檀、柄は純銀製、芯は溶けない氷とフェンリルの子孫の毛皮、柄には最古のフェンリルの牙の欠片が埋め込まれている。96.5cm、上質でしなやか、そして限りなく丈夫。氷魔法との相性はこの上なく良い」

 

「素晴らしいよ、オリバンダー翁。道具(つえ)に頼るのは趣味ではないが、良いものを使うに越したことはない。これはとても気に入ってる。だが、生憎今日の主役は彼女だ。俺は約束のものを貰おう」

 

「おお、そうでしたな。貴方様にご用意した此方は、柊に不死鳥の尾羽、28cm、良質でしなやか。真逆兄弟羽が貴方様を選ばれたとは思いもよらなんだが、いやはや、因縁ですな。それでは、レディー・マルフォイ、前へどうぞ。杖腕はどちらですかな?」

 

「左です」

 

マダムの所でも見た、魔法の巻き尺が1人でに動いて、ドラコニカのあらゆるサイズを測り出した。流石に、胸囲を勝手に測り出した際は、フェンリルのステッキに踏みつけられて、怯えた様に老人の手に戻ったが。

 

「これは失礼。マホガニー、ドラゴンの琴線、23cm。小型で取り回しやすい」

 

だが、差し出された杖はドラコニカの手に触れるか触れないかで取り上げられ、次のものが渡された。

 

「柊、フェアリーの涙、36cm。少々かさばるが妖精魔法に最適」

 

今度は振ってみることは許されたが、すぐに店内に耳障りな爆発音が響き、またすぐに取り上げられた。その後も、山の様に杖の箱が積み上げられたが、どうもしっくりくるものは見つからなかった。オリバンダー翁は難しい顔をしたと思うと、店の奥に引っ込み、30分もかけて一つの箱を持ってきた。今度の箱は、象牙の様な白い透かし彫りのものだった、

 

「まず申し上げますがな、この杖は非常に強大で、かつ偏った性質を持っております。それ故箱自体強い封印がされております。通常の人間では、開くこと自体難しいですが…」

 

そう言って、物々しげに差し出された箱に、そうっと手を伸ばす。だが老人の言葉に反して、少女の指先が触れないうちに、箱は瓦解し、美しい透明な杖が姿を現した。自らての高さに浮くそれを握った途端、何か温かいものが少女の胸を埋め尽くした。杖の先端からは風の精霊(シルフ)の群れが絡み合い、輪舞を踊りながら宙を舞い、美しい歌声を響かせながら、空中へと消えて行った。

 

「…ブラボー!!もしやとは思いましたが、その杖が貴女様を選ばれるとは!

 

クリスタル製、33cm、丈夫でタクトの様に細い。そして芯材にはーーこれが最初でさい後の試みとなってしまったが、ハイエルフの女王の髪が織り込まれております。

 

私がまだ若かった時分ですがな、魔法使いの台頭とともに弱体化したエルフの最後の女王が直々にご自分の髪で杖を作る様に頼みにきたのじゃ。オリバンダーの杖はどれも世界に一本だが、その後エルフ族は滅びてしまったから、同じ性質の杖は2度と作れなんだ。

 

しかし…魔法族で唯一エルフの血を引くマルフォイ家でも、今まで箱を開けたのが1名のみ、二千年ぶりに貴女様の手に渡った事に、女王様もさぞお喜びだろう。

 

また、先ほども申し上げた様に、その杖は極端に偏っておる。妖精魔法と癒しの魔法との相性は非常によく、またそれを持つものは女王の加護から殆どの魔法生物を従わせることが出来ます。だがその他はからっきしでな。扱いは十分注意される様勧めますぞ」

 

そう言って、オリバンダー翁はまだ何かブツブツ呟きながら、奥へと引っ込んでしまった。ハイエルフの杖は人の手に渡ることが女王の悲願だったとのことで、代金は不要だった。なんとも言えない気分のまま、ドラコニカはハリーに手を引かれたまま、オリバンダー杖店を離れた。

 

 

 

2人がこの日最後に訪れたのはイーロップフクロウ店だった。そしてここで、2人は先のオリバンダー翁の言葉の意味を思い知らされるのであった。何せ、2人が入店した途端、店内のフクロウたちが、一斉にけたたましい鳴き声で檻の中で暴れ、ドラコニカに自らの存在をアピールし出したのだった。

 

その中でも一際喧しく鳴いていたのが、成人したてのツンドラハヤブサだった。白い嘴と体毛を持ち、爪まで白皙だが、唯一翼にはダークグレイの斑紋が入っている。大きさ自体は大きめのフクロウと同程度だったが、聡明な黒い瞳を持ち、驚くほどすばしこかった。

 

「あれが気に入ったのか?」

 

「ええ、でも指定動物ではないからホグワーツには持ち込めないわ」

 

「猛禽と言う意味では変わらん。それより早く決めてくれ。耳がおかしくなる」

 

「じゃあ、この子で。貴方は今日からハティよ。ハリーの大鷲(スコール)とお揃いだわ」

 

ハティを入れた籠を携えてショップを出ると、スキールニルが待機していた。ハリーの愛鷲であるスコールを左腕に止めている。籠を開け、スキールニルが指笛を吹くと、スコールがハティと連れ立って空を駆けて行った。

 

「お迎えに上がりました。奥方様は私と一緒に」

 

「頼んだ。俺は少し野暮用がある」

 

「待って、ハリー。私も連れて行って」

 

純銀の髑髏の仮面を取り出し、去ろうとするハリーの腕を、ドラコニカが咄嗟に掴んだ。自分でも気が違ったとは思ったが、何と無くハリーが危険に身を抛ちそうな気がしたのだ。それは少女のこの5年間の初めての抵抗であった。

 

「正直に言って足手まといだ。お前を連れて行く理由がどこにある」

 

「……妻として、夫の行いを見届ける義務があるわ」

 

少女が真面目な表情で紡いだ精一杯の言葉に、ハリーは破顔したかと思うと、心底愉快そうに大笑いした。

 

「ククッ、ハハハハハハハ…実に面白い意見だ。スキールニル、予備の仮面はあるか?」

 

「はい、こちらに」

 

「では家のことは頼んだ。ドラコニカ、ついて来い」

 

「仰せのままに」

 

丁寧な一礼とともに霧散する従者を他所に、ハリーはドラコニカに手を差し出した。鼻で笑われながらも、要望を聞いてくれたハリーに少女は素直に嬉しかった。同年代で有りながら、頼もしいその手を握り返して、少女はハリーに続いた。

 

 

 

 

 

暫く路地を進むと、ハリーはドラコニカに仮面をさせ、自らは成長呪文で18歳の青年姿となった。この長身の男の姿が、皆が恐るフェンリル卿であった。曰く、これが一番戦いに適した姿らしい。品よくステッキをつきながら、ハリーは堂々とグリンゴッツ魔法銀行の扉を跨いだ。カウンターには髭もじゃの、巨人の様な大男が訛りの強い英語で小鬼と何か話していた。

 

「これはこれは、フェンリル卿、弊店にお越しいただき恐悦至極」

 

「グリップフックか。3番金庫を案内してくれ。妻用の夏服を取り出したい」

 

「心得ました。ですがその前に、一つお杖を拝借。いやはや規則でして、どうかご協力を」

 

「耄碌(もうろく)したのか?俺は杖を使わん。その代わり、妻の杖を登録しておけ。何れ用立てるだろう」

 

「失礼いたしました。如何せん私も歳でして。では、奥方様、杖を拝見いたします。……これは良いものを。確かにこれほどのものでは誤魔化し様もない。では、こちらに」

 

そう言って、左手にランタン、右手に金糸雀の籠を持った副支配人は、慇懃無礼な笑みを浮かべ、仄暗い洞窟を先導した。

 

トロッコに揺られ5分。地中深くの横穴の一つに、フェンリル卿の隠し倉庫の一つがあった。入り口を凶暴な三頭犬(ケルベロス)によって守られたそれは、強固な護りに信頼を置かれるグリンゴッツの名に恥じない外観をしていた。今や血に飢えた猛犬は金糸雀の歌声でスヤスヤと寝息を立てている。主に衣類を保管するため、巨大なウォークインクローゼットになっているそれに入ると、間も無くしてハリーは厚手のフード付きのガウンを手に戻ってきた。

 

「ご苦労だったな、グリップフック。疲れているだろうから、何も考えずに戻るといい」

 

「畏まりました、フェンリル卿」

 

ハリーがステッキで小鬼の前の床を2度カツカツと鳴らすと、ブリキの様にお辞儀をした小鬼は、虚ろな目でハリーの言葉に従い、一人トロッコに乗って帰って行ってしまった。

 

「ハリー?」

 

「ここからが本番だ。お前には必要ないが、念のためそれを羽織っておけ」

 

それっきり、ハリーは何も言わず、一人先をいく。疑念に満ちた目でその背中を呆然と眺めていたドラコニカは、我に返ると、そそくさとガウンを身につけ、ハリーの背中を追った。

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