※この作品はR-18です。

Harry Potter and Ancient Wolf   作:クレカ

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ホグワーツ急行

古くから魔法使いを輩出した名門校であるホグワーツは、秋の始まりである九月一日と定められて居る。その日、金色の刺繍が入った純白のコットンシャツに、シフォンレースのフリルを裾にあしらった、アーガイルチェックのハイウェストスカートに、上品なモカ色のトレンチコートを羽織ったドラコニカは、スキールニルを共だってキングズクロス駅に降り立っていた。

 

マグルの注目を浴びない様にと言う配慮から、スキールニルもシンプルなレザージャケットにシャツとジーンズと言った出で立ちだが、何分美形な2人である。すれ違う一般人が一体どこの令嬢か芸能人かと皆振り返っていた。そのため、生まれて初めてマグルの交通機関で移動したドラコニカは想像以上の疲れに既にくたびれていた。

 

しかし、スキールニルが少女を守るようにして八番線と九番線間の壁に吸い込まれ、ホグワーツ行きの赤い蒸気機関車を目の当たりにした途端、ドラコニカの心は他の子供達の様に浮つき、風船の様に期待が膨らんだ。冷徹な従者が何度も呼びかけているのにさえ気づかずにーー

 

「ーー様、奥方様!」

 

「はっ、はい!」

 

ふと背中を刺すを感じ、羽織ったコートを手繰り寄せる様にして、ドラコニカは上ずった声で答えた。にこりともせず、スキールニルは列車に荷物を詰め込み、右手を左胸に当てたまま、一礼した。

 

「旦那様よりご伝言です。別行動を取るからには、初対面のつもりで接して欲しいと。また、存分に学校生活を楽しまれ、ご学友を作られれ様にと仰せでした。家のことはご心配なきよう。困った事がありましたら、手紙をくださいませ。それでは、ごゆるりと」

 

そう言って、眉目秀麗な従者は、煙の様に消え去った。

 

 

 

車内は人でごった返していた。初めての光景に心を踊らせて居るうちに、すっかり乗車のタイミングを逃してしまったのだ。そのせいか、どこを歩いてもコンパートメントはいっぱいで、座れる席などどこにもなかった。

 

ドラコニカの不安を感じた様に、先ほどから寄り添う様に少女の肩に停まっているハティが不安げな鳴き声を上げる。それに釣られた様に、小型魔法をかけられ、ドラコニカの首筋に巻きついていたリントヴルムがシャツの襟からこっそりと顔を出した。既に何車両分も移動している。どこか空いている席は無いものかーー

 

「あらあなた、座るところが無いの?」

 

声をかけてきたのは、豊かな栗色の巻き毛が特徴の、賢そうな少女だった。少し気取った話し方をしていたが、今まで親切に声をかけてくれたのは彼女だけだったせいもあって、ドラコニカはすぐに親しみを覚えた。

 

「ええ、ちょうど困っていたの。出来れば、その…」

 

「私との相席でもよければどうぞ。ハーマイオニー・グレンジャーよ。ハーマイオニーでいいわ」

 

「本当にありがとう。私はドラコニカ・マルフォイ。宜しくね、ハーマイオニー」

 

「あなたマルフォイ家のご令嬢?確か名家図鑑で見たわ。でも、マルフォイ家は確か男の子の跡取りしか…」

 

途端にハーマイオニーと名乗った少女が疑わしげな視線を向けた。それ対し、ドラコニカは困った様に眉を下げた。

 

「色々と事情があって、公に認められた子供では無いの。6歳以来、両親には会ってないわ」

 

「ごめんなさい、私ーー」

 

「ああ、気にしないで。私にはハティも居るし、それにーー『おいで(Khrme)』

 

少女が小さく何かつぶやくと、美しいメタル・グレイの鱗をした小柄なドラゴンが彼女の手のひらに乗り、翼を優雅に畳んでハーマイオニーに一礼した。

 

「…えっ、ちょっと何これ?ドラゴンだなんて!あなた校則を一体何と、それよりっ…ドラゴンが人間に礼をするなんて…そんな高い知能を持つ生き物とは一言も……」

 

「ハーマイオニー、落ち着いて。この子は私が偶然拾った子なの、後見人が圧縮魔法をかけてくれて…喉の下を撫でてあげて、きっとリントヴルムも喜ぶわ」

 

言われたとおり、栗毛の少女が鱗の柔らかい喉元を撫でてやると、リントヴルムは甘えるようにゴロゴロと喉を慣らした。ついには後ろ足を折り、ごろりと猫のように転がってハーマイオニーの指先を堪能する小さな竜に、流石の彼女も怒るより母性本能が擽られた。

 

「凄いわ、私教科書は全て読破したけど、ドラゴンがこんな可愛い生き物だったなんて」

 

「本当の大きさを取り戻すと凶暴だけど、今は大丈夫。でも凄いわ、ハーマイオニー、教科書もう全部読んだの?」

 

「当たり前じゃない。予習は基本よ」

 

さらりと言ってのけたハーマイオニーに、ドラコニカは思わず赤面した。ホグワーツに入学できると知って、喜ぶばかりで一度も教科書を開いてないからだ。確かにハリーの蔵書は幾つか読んだが、ホグワーツで習う魔術とはおそらく同系統ではなかった。そんな時、ふとコンパートメントの扉がコツコツとノックされた。

 

「どうぞ」

 

急いでリントヴルムを襟の内側に隠し、ドラコニカが佇まいを直すと、ハーマイオニーが毅然とした声で答えた。ガラリと扉が開き、入ってきたのは、人懐っこい丸顔が特徴の、やけにおどおどした少年だった。見たところ、2人と同じ新一年生らしい。

 

「あ、あの〜ペットのトレバーが逃げちゃって、君たち見てない?」

 

「トレバー?どんな動物?先にそれを言ってもらわないと分からないわ」

 

リントヴルムとの戯れを中断させられ、やや御機嫌斜めのハーマイオニーがつっけんどんな声で返した。それに苦笑しながら、ドラコニカが優しい声で畳み掛ける。

 

「フクロウは籠に入ってるはずだから、猫?ネズミ?それか、カエルかな?」

 

「ご、ごめんなさい。トレバーはカエルです。すぐに逃げ出しちゃうんだ」

 

「カエルは見てないわ」

 

「仕方ないわね、一緒に探しに行ってあげるわ。あなたも飼い主らしくしゃんとしたらどうかしら」

 

「私も一緒に行くわ」

 

どこかトゲがあるものの、なんだかんだ優しいハーマイオニーが席を立つと、ドラコニカも慌てて後を追った。

 

 

 

少年は苛立っていた。少しくすんでいるものの、紳士らしくオールバックにした金髪を撫でつけながら、少年は大幅に車両を移動した。あんな屈辱は初めてだった。魔法界を知らない有名人ーーハリーポッターに少し手を貸して引き入れようとしたのに、淡々とあしらわれてしまった。まるで養子の自分(まがいもの)とは違うと言わんばかりに。その経験は少年のコンプレックスを十二分に刺激するものだったーー

 

半刻前、スコーピウス・マルフォイは腰巾着の2人の少年、クラップとゴイルを引き連れて、噂の魔法使いのいるコンパートメントにやって来ていた。養子で貰われた身とは言え、自分はマルフォイ家の正当な後継者である。赤ん坊にして闇の帝王を倒した世間知らずな英雄様をもてなしてやろうと思ったのだ。

 

コンパートメントには先客がいた。燃えるような赤毛とひょろ長い身長、古びた持ち物と来れば、ウィーズリー家の一員だと言うことは容易に想像できた。純血でありながらマグル贔屓する風変わりな家など、魔法界の面汚しである。それがどうだ、英雄はその面汚しと楽しく談笑してるではないか?

 

「僕はスコーピウス・マルフォイ。ポッター、友人は良く良く選んだ方がいい、僕が教えてあげよう」

 

鼻を鳴らし、少年はさも親切心からのアドバイスだと言わんばかりに、ハリーに手を差し出したが、ハリーはスコーピウスにちらりとも視線をやらないまま答えた。

 

「君の言う良い友人の定義とはなんだ?血筋か?家か?それのどれが君自身の才能で、どれが君自身の魅力と言えるんだ?友人なら自分で選ぶよ、マルフォイ」

 

「…いずれ君は後悔することになる」

 

得意げに笑うロン・ウィーズリーを背に、菓子を貪ろうとするクラップとゴイルを引き連れて、少年が屈辱とともにコンパートメントを去ろうとした途端、それは起きた。

 

「ごめんなさい、ペットのカエルが逃げたらしいんだけど、見てない?」

 

そう言って入ってこようとする栗毛の少女の後に、隠れるようにして、彼女はいた。母ナルシッサの面影を持ち、父譲りのーーいや、それ以上の見事な金髪を揺らしながら、そそと佇む様は、御伽噺のエルフの女王を思わせた。間違いない、彼女こそ本来のマルフォイ家の正当な継承者、ドラコニカ・マルフォイその人だった。

 

にこりと笑いかける彼女を押しのけ、挨拶もそこそこに少年はコンパートメントから逃げ出した。ハリーに言われた言葉が突き刺さる。確かに後ろ盾がなかろうと価値を示せる人間はいる。実子(ほんもの)である少女と、の養子(にせもの)である自分とでは格が違いすぎた。自慢の金髪も今はくすんで思える。それは、家系的に恵まれた少年が生まれて初めて感じた痛烈な敗北感だった。

 

 

 

「あら、あなた。魔法を使うの?ぜひ拝見したいわ」

 

少し得意げな声がコンパートメントに響く。カエルのことなどそっちのけで、ハーマイオニーは獲物を前にした猫のように目を細めた。素直な赤毛の少年は、そんなこととは露知らず、請われるがままにお古の杖を出した。先端からはユニコーンのたてがみがはみ出ている。

 

「兄のフレッドから教わったんだ。お日様、雛菊、とろけたバター、このデブで間抜けなネズミを黄色に変えよ」

 

意気揚々と杖を振ったものの、何にも変化は起きなかった。ネズミは相変わらずぐうぐうと寝息をあげ、鼻で笑ったハーマイオニーに、ロンの顔が髪色のように真っ赤に染まる。

 

「その呪文、合ってるの?私も簡単な呪文しか試してないけど、少なくともちゃんと効いたわよ。例えば、清めよ(Scorgify)。ほらね?」

 

ハーマイオニーが杖を振るうと、ロンの顔にあった汚れが瞬時に取れた。今度は怒りで顔を真っ赤にしたロンに、ドラコニカが声をかける。

 

「ごめんなさい。彼女もわざとじゃないの。でも、デタラメな呪文は暴発したりもすると聞くから、教科書を参考にしたら良いと思うわ」

 

「あら、そちらの貴方はハリー・ポッターね」

 

「ええと、君、僕のこと知ってるの?」

 

「あなた知らなかったの?私も参考書を2,3冊読んだだけだけど。『近代魔法史』、『黒魔術栄枯盛衰』、『二十世紀の魔法大事件』、そのどれもが貴方について書いてたわ。私があなただったら真っ先に調べるわよ。まあいいわ。行きましょ」

 

ハリーは本当に魔法界を知らないように振舞っていた。ドラコニカはそんなハリーの姿に少なからず驚いていた。一方で、ひとしきりまくし立てたところで、ハーマイオニーは嵐のようにコンパートメントを出て行った。それにネビルとドラコニカも従う。

 

結局、カエルは最後まで見つからなかった。

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