龍牙 side
龍牙「おい、何だこの屋敷は?宿なんていうレベルじゃねぇぞ。」
目的の宿であるサザーランドまで来たが、それは予想を上回る豪華な宿だった。料金表をチラッと見ると・・・
ルカ「お一人様一泊240万ゴールドぉ!?」
龍牙「明らかに一般客を泊める気ないだろ。」
ルカ「えーと、24時間で240万ゴールドと計算すると・・・手持ちが500ゴールドだと18秒の滞在、つまり三人だと6秒しかいられない計算になっちゃうよ。」
龍牙「早いな計算!?」
ルカの高速計算に驚く俺。
アリス「なんと。こんなことならグランべリアに制圧させた方が良かったな。」
ルカ・龍牙「おいおい(汗)」
アリスがろくでもない事を呟いた時だった。後ろから傷を負った男性が来た。
戦士A「すまない、ちょっと通してくれんか・・・いてて。」
確かグランべリアに叩きのめされて地面に転がってた奴だな。
戦士A「おい、女将。俺は勇者だ。勇者料金で一泊・・・」
女将「馬鹿をお言い!揃いも揃って魔物にやられた分際で何が勇者だい!」
龍牙「うおっ!?」
威勢の良い女将の啖呵が外の通りにまで響く。
戦士A「し、しかし俺は洗礼を受けて・・・」
女将「あんたみたいなヘボ勇者が勇者を名乗っちゃ、本物の勇者が迷惑だよ!出ておいき!」
戦士A「ひぃぃぃ!」
女将の怒声に圧倒され、戦士は脱兎のように逃げ去ってしまった。何だろうか、あの人には力でも口でも勝てる気がしない。・・・とそう思っていると女将は俺達に目を留める。そして―――その不機嫌そうな顔がたちまち和らいでいく。
女将「あら、あんたたち。この町の恩人じゃないか。せっかくだからウチに泊まっていきなよ。」
ルカ「いえ、でも・・・」
龍牙「恥ずかしながら、金が・・・」
女将「そんなの勇者料金でいいよ。三名様で6ゴールドね。残りの719万9994ゴールドはイリアス様につけとくよ。」
・・・すまんイリアス。もしかしたら宿代がそっちにいくかも。
ルカ「ど、どうも。でも僕は洗礼を受けた勇者じゃないんですけど・・・」
女将「洗礼なんて関係ないよ。勇者の資格は洗礼のあるなしじゃない、その振る舞いさ。」
ルカ「お、女将さん。」
俺達はその言葉を聞いて頭を殴られたような衝撃を受けた。本当に良い女将さんだ。
アリス「そうは言うが、貴様等は普通にやられていたではないか。」
ルカ「ぐふっ!」
龍牙「・・・返す言葉がない。」
さすがはアリス。心の深層まで突っ込んでくるな。
女将「そういうわけで・・・ほらほら、どうぞどうぞ!」
アリス「ふむ、貴様は見所のある人間だな。ほらルカ、龍牙、いつまでのけぞっている。」
ルカ「はいはい、分かったよ。」
龍牙「悪い悪い。」
こうして俺達は女将の好意により高級宿「サザーランド」に一泊することになったのだった。
龍牙「・・・全然落ち着かねぇ。」
ルカ「うん、僕も・・・」
中に入り、今はルカの部屋にいる。部屋は一人一部屋なので、俺は休む時は二つ隣の部屋に行くつもりだ。落ち着かない理由はこれまで見たことがないほど豪華な一室を見て、場違いな感じがしてならないからだ。
アリス「むぐむぐっ。」
龍牙「随分美味そうに食うな。」
ルカ「美味いか?」
アリス「・・・あまい♪」
どうやら非常に満足な様子。目を細め、尻尾がぴこぴこと振りながらご満悦のようだ。おいおい、変身が解けてるぞ。
ルカ「宿の人に見られないかなぁ。」
アリス「ふぅ、美味かった。余は満足したぞ。」
アリスは人の姿に戻ると、ベルをリンリンと鳴らした。すると、女将が自ら食器を下げに来た。どうやらかなりのVIP待遇のようだな。
女将「当宿自慢のあまあまだんご、満足してくれたかい。」
アリス「甘さが際立ちながらも、だんごの風味を殺していない。まさにあっぱれな味だ。貴様が魔族なら、公爵位を与えても良いほどだ。」
アリスがここまで褒めるとは・・・と言ってもこのあまあまだんごは本当に絶品だ。これなら一流の和菓子店に置いても、好評間違い無しだろう。
女将「あはは、面白いことを言うね、お嬢ちゃん。」
女将にはウケたようだ。お前は本当の魔族だからあまり話には出すなよ。
女将「でも、最近はハピネス蜜が不足しててねぇ。このおだんごも前ほど沢山は作れなくなったんだよ。ハピネス村もあんな事になって、男手が足りないから。まぁ、仕方ないんだけどねぇ。」
ルカ「ハピネス村で何かあったんですか?」
女将「それがねぇ・・・あ、そうだ。あんた達が行って何とかしてやりなよ。」
龍牙「んっ?」
説明も無しに何とかしてくれと言われても・・・
女将「あんな強そうな魔族を撃退したくらいなんだから、楽勝だよ。」
ルカ「は、はぁ。」
実力で撃退したわけではない以上、何ともおさまりが悪くなってしまった。
女将「じゃあ、おやすみ。ゆっくり休みなよ。」
ルカ「はい、ありがとうございます。」
龍牙「ふぁ・・・」
疲れたせいか眠くなったので、部屋に戻ることにする。
龍牙「じゃあまた明日な。おやすみ。」
ルカ「うん、おやすみ。」
ルカの部屋を出て、自分の借りた部屋に入る。すでにシャワーは済ませてあるので後は寝るだけだ。
『あぅ!あ、あぁぁぁぁ!!』
何やら隣からルカの悲鳴が聞こえるが、まあ性的なことだろうから大丈夫か。ベットに入り、目を閉じて意識を手放した。
『お父さん、勇者ってどうやったらなれるの?』
んっ、これは・・・夢か?ガキの頃の俺が父親に話しているのが見えた。確か絵本にあった話で勇者にはどうなれるのかと聞いたことをうっすらだが覚えている。
『うーん、英雄や勇者はなりたくても簡単にはなれるものではないんだよ。』
『そーなの?』
『お父さんが昔見た物語にはこう書いてあったんだ。』
父がその時の内容を思い出すように口にする。
『英雄や勇者と呼ばれる者は、ただ力が強くても、名誉が凄くても、それを名乗ることは出来ない。己の全てを賭けて人々を守ろうとするその心意気を持つ者が名乗ることを許されるのだ。今でもはっきり覚えているよ。』
『みんなを?』
『そうだよ。みんなを守ってあげられる優しい人が英雄や勇者と呼ばれるんだ。』
ははっ、あの頃は本気で勇者になるって張り切ったっけな。けど、いつの間にか自分が強くなりたいという思いになったんだよな。
『龍牙、これだけは覚えておきなさい。』
父は肩をポンッと置いて静かに語り出す。
『龍牙に大切なお友達ができた時に、お友達を守ってあげられるような強い子になりなさい。』
『強い子・・・』
ガキの俺は何かに得たような表情をした。情けないな、この夢を見るまで父の言葉を忘れていたなんて。だが、もう忘れるつもりはない。
夢の終わりを知らせるかのように周りが白く染まり始める。暫く父の顔を見ていなかったから、見れて良かったと思う。