龍牙 Side
戦意を喪失したクィーンハーピーは特に何も抵抗すること無く、地面に座り込んだ。
龍牙「ルカ。合図頼む。」
ルカ「うん。」
ルカは持っていた魔法信号筒を真上に投げつけた。それが空中で弾け、色とりどりの光が生み出された。
おばさん「よし、突っ込むよ!」
若い女性「イリアス様、どうか私に力を。」
あちこちで茂みが騒めき、村の女性達がなだれ込んだ。
おばさん「このハーピーがボスだね!」
若い女「ボスさえ押さえてしまえば、後は・・・!」
クィーンハーピー「そうですか・・・村の女性達まで攫われた男達を救いに。」
龍牙「そうだ。けど、もう戦いは終わった。」
俺は村人達に聞こえるように大きな声で言った。
龍牙「村の皆、聞いてくれ!!」
おばさん「んっ、どうしたん・・・あんた達、何だいその怪我!?」
若い女性「ああ、あんなに血塗れになって。」
多少緊張があったせいか俺達の状態には気付いていなかったようだが、そんなこと今はどうでもいい。
龍牙「見ての通り、ハーピーのリーダーは何とか押さえることが出来た。さっきまでは聞く耳を持たなかったが、今はこちらの話を聞いてくれるらしい。・・・そう考えていいよな、クィーンハーピー?」
クィーンハーピー「・・・はい。」
確認のために聞いたが、クィーンハーピーはきちんと応じてくれるらしい。
ハーピー1「女王様、どうなされたのです!」
ハーピー2「人間達の襲撃!?」
騒ぎを聞きつけたハーピー達が駆けつけ、周りの状況に驚いていた。
龍牙「村長代理。俺は村の人間ではないので、後の交渉とかは任せてもいいか?」
村長代理「あい分かった。苦労を掛けて済まないね。」
村長代理がクィーンハーピーの前に行き、話し始めた。俺は交渉事は苦手だし、第一部外者だから話がうまくまとまることを祈るしかない。
龍牙「いてててっ!!」
ルカ「龍牙、大丈・・・いたたたたっ!!」
気が緩んだ途端、全身に痛みが走った。交渉が出来るかが心配でそれどころではなかったから、体が痛みを忘れてたのかも。
若い女性「大変。勇者様達を早く治療をしなければ。」
ハーピー「わ、私も手伝うよ。」
村の女性とハーピー達に連れられ、傷の治療をしてくれた。けどさっきハーピーに木の上の家に俺を運ぶ際、爪が傷口にめり込みそうになって、冷汗を掻いた。人を運ぶ時はもう少し慎重にお願いしますよ、ハーピーさんよ。
夜遅くまでの交渉の末、何とか話を纏めることが出来たらしい。内容は、ハーピー達がハピネス村から強引に男を攫わない。
その代わりとして、村の男を可能な限りハーピーの里に婿として入れることになった。そして、産まれたハーピーの娘達も農作業を手伝うという事で協定が結ばれた。
ハーピーは女性しか存在しないので、繁殖をするにはどうしても人間の男性が必要だった。だからハーピー達もただ黙って滅びを待つ訳にはいかず、今回の事件を起こしてしまった。
龍牙「あれだけのことがあったのに、今はもう完全にお祭りムードだな。」
村の女性達は嫁が増えたり、自分が義母になったりと状況がかなりカオスなことになっているが、口出しなどできるはずがない。
おばさん「これというのも、全部あんた達の活躍のおかげさ。ハピネス村一同を代表して礼を言うよ。」
ルカ「いえいえ、勇者ならば当然とこと・・・あたたっ!!」
龍牙「俺は単に戦いたかっただけ・・・いででっ!!」
アリス「まるでコントだな。」
そこ、うるさいぞ!!
アリス「別に恩を売りたい訳ではないが、余は甘いもの好きでたまらん。」
おばさん「よし来た、おいしいハピネス蜜をたっぷりプレゼントするよ!今はおの壺の分しかないけど、どうぞ。」
アリス「別に期待した訳では・・・甘い♪」
ルカ「アリス、お前。」
龍牙「分かりやすいな、本当に。」
ハピネス蜜を舐めてるアリスを見て、俺も何か食べようかと食べ物が置かれているテーブルに向かった。
クィーンハーピー「あの、旅人殿。」
龍牙「んっ?」
不意に声を掛けられ、振り向くとそこにはクィーンハーピーが立っていた。表情が何だか暗いようだが。
クィーンハーピー「このたびは本当に申し訳ありません。あなた方に迷惑をかけただけでなく、怪我まで負わせてしまって。」
龍牙「ああ、そのことか。別に気にしてないぞ。ルカも気にしてないと思ってるし、むしろ村での問題が解決出来て喜んでたからクィーン様もそんなに気に病むなよ。それに俺なんてハーピーと戦ってみたいがために今回のことに首を突っ込んだわけだから
自業自得だ。」
クィーンハーピー「・・・面白い方ですね、あなたは。」
クスリと笑ったクィーンハーピーはふと、俺の隣に来て体を摺り寄せてきた。
クィーンハーピー「私、あなた方の事が気に入ってしまいました。命懸けで交渉の場を作ろうとしたその勇敢な姿を見て、私は思いました。あなた方なら私の夫として相応しい殿方だと。」
龍牙「認めてくれるのは嬉しいが、結婚とかはちょっとな。ルカは・・・根っからのイリアス信仰者だから恐らく無理そうだな。」
クィーンハーピー「それは残念です。ですが、もし気が向いたらいつでもここにいらして下さいね。」
龍牙「・・・まあ考えておく。」
チラッとクィーンハーピーの胸元に目がいってしまったので慌てて反らした。
龍牙「腹が減ったな。ちょっと飲み食いに行ってくる。」
クィーンハーピー「ええっ、今夜は楽しんでいって下さい。」
テーブルに向かい、置かれていた料理をとりあえず一通り皿に取った。ルカとアリスの分も持っていくか。ルカは足を怪我してて動けそうになさそうだし、アリスは自分からは取りに行かなそうだし。酒も置いてあるかな?
協定が結ばれた次の日、クィーンハーピーが『あなた方の傷が癒えるまでこの村に滞在して下さい。』と言われ、俺達はお言葉に甘え暫く滞在した。滞在中何人かのハーピーに子作りを迫られたが、そこは何とか言い繕って避けることは出来た。
ハーピー以外にも、妻と子供が増えて嫌気が刺した村の女性まで自暴自棄で俺に迫って来た時は本気で焦った。その女性を落ち着かせた後に、人生相談みたいな会話をして村から移住するという事で解決した。
そして、怪我がほぼ治ったその翌朝。
村長代理「お主達には本当に世話になったのう。」
おばさん「またハピネス村においでよ。あんた達なら大歓迎さ。」
クィーンハーピー「いくら事情があったとはいえ、我々は間違っていました。それを正すことが出来たのは、あなた方のおかげです。あなた方の旅が良きものとなることを心より願います。」
ルカ「皆さんも頑張って下さいね!お世話になりました!」
ルカの目指す人と魔物が共生する世界への第一歩になったんじゃないかと思う。
青年「ありがとな、あた遊びに来いよ。」
若い女性「どうか、ご達者で。」
ハーピー「えへへ、また来てね~!その時相手してくれると嬉しいな。」
龍牙「おいおい。」
あのハーピー、欲求不満で他の旦那さんを襲いそうで怖いな。誰か監視しておいてくれよ。
龍牙「さて、行くか。」
ハーピーの里を後にしようとしたが、アリスがクィーンハーピーに呼び止められていた。
クィーンハーピー「あの、一つお尋ねしてよろしいでしょうか?もしかして、貴方様は・・・」
アリス「余は旅のグルメ。大した者ではない。」
少なくともグルメなら自分のことを『余』なんて言うことはないと思うが・・・
クィーンハーピー「そ、そうですか・・・余計な詮索は無用でしたね。」
あの感じだと多分気付いているだろうが、騒ぎを起こさないために黙ってくれていた。ありがとよ。
ルカ「今度こそ、出発だ。」
こうしてハーピーの里を後にした、さて次はどこに向かうかな?