<ルカside>
ルカ「・・・ぁぁ・・・ぉ・・・ぅぅ・・・」
時刻は正午過ぎ、僕は呻きながらフラフラとイリアス神殿を出る。今の僕の顔は蒼白で、ゾンビ状態だと疑われるだろう。今日は一生に一度の洗礼が受けられる日。なのに、僕は洗礼を受けることが出来なかった。あの妖魔で時間を取られたが、遅刻はしてない。だが、イリアス様は何故か降臨されなかった。神官様が言うには、イリアス様から洗礼を与えて下さるようになって以来の大珍事らしい。
神官「お主はイリアス様に見放されたのではないのか。イリアス様は旅立ちを祝うつもりはないのだろうな。」
と、胸にグサリと突き刺さる。もはや僕は勇者になれないのだ。
ルカ「・・・ぁぅぅ・・・ぉぁ・・・ぅ・・・」
通りすがりの冒険者の人に毒の状態異常と間違われる程、ひどい顔なんだな。
ルカ「・・・とりあえず家に戻ろう。」
妖魔「ふむ、遅かったな。」
龍牙「勝手で悪いがお邪魔してるぜ。」
ルカ「えっ、あれっ!?」
絶望する僕を迎えたのは、さっきの妖魔と龍牙だった。いつの間に家に入ったんだろうか。
ルカ「鍵は掛けたはずだけど、それ以前に何で僕の家が分かったの?」
とりあえず、話を聞いて落ち着こう。
龍牙「あーと、家の場所はコイツの嗅覚で、鍵は俺が針金で開けた。コイツに早く開けろと言われてさ。」
ルカ「そ、そうなんだ。けどここまで来るのに村の人に見つからなかったの?」
妖魔「人目を盗むことなど容易。余を誰だと思っている。」
龍牙「いや、自己紹介も何もしてないのに分かるわけないだろ。」
龍牙はそうツッコむ。確かに僕もそう思う。
龍牙「そういやお前が家に入って来た時、何かこの世の終わりみたいな顔してたが、どうした。」
ルカ「うっ、それが・・・」
龍牙にイリアス様が降臨されなかったことを説明する。
龍牙「・・・お前イリアスをオカズにし過ぎたんじゃないか?」
ルカ「そんな事してないよ!?」
何を言い出すんだ龍牙は。
アリス「そうか、イリアスは現れなかったか。余にこれだけの手傷を負わせたのだ、相応の仕返しだ。創世の女神の面目も丸潰れだろう。くっくっくっ。」
龍牙「お前イリアスに何したんだ?」
龍牙はそう尋ねるが、答える気は無くそっぽを向いた。
妖魔「とりあえず食事だ。」
ルカ「はぁ?」
妖魔「食事を出せと言っているのだ。気が効かん奴め。」
本当に何なんだ、いったい。
龍牙「腹が減ったってうるさくてな。悪いが何か食わせてやってくれんか?」
ルカ「食べさせるって、洗礼を受けたら旅立つ予定だったからなぁ。食材も調理器具も片付けちゃって。あるとしたら・・・」
僕は食糧袋からほしにくを取り出した。
ルカ「これくらいしかないけど。」
妖魔「・・・貴様にはうんざりさせられるが、まあいい。」
妖魔はほしにくをひったくり、口に運ぶ。
妖魔「んっ、美味いではないか。絶妙なスパイスの味付けが肉の香ばしさを引き立ててる。」
ルカ「未来の勇者として、料理の腕も磨いたんだから。旅に出るからには、野営しなきゃならないからね。・・・洗礼受けてないから勇者にはなれてないけど。」
龍牙「そんなに美味いのか?ルカ、俺も一ついいか?」
ルカ「うん、いいよ。」
長旅を見越して、非常食は多めに持ってたりする。飢え死には嫌だからなぁ。
龍牙「おおっ、確かに美味いな。酒のつまみにぴったりだ。」
ルカ「・・・お酒飲んでるんだ、龍牙。」
未成年だから本当はダメだけど、多分言っても聞かないと思う。
妖魔「ふむ、ほしにくは前菜のつもりだったが、余はこれで満足だ。喜べ、メインディッシュは必要ない。」
ルカ「メインディッシュ?」
ルカ「他に食べ物なんて・・・ああ、そういうことか。」
妖魔は僕を・・・具体的に股間部分を見ていた。僕は思わず身震いしてしまう。
ルカ「それで、そこの妖魔が何者か分かったの?」
龍牙「少しはな。名前はアリスフィーズ・フェイタルベルン、旅の妖魔らしい。呼び方はアリスでいいと本人が言ってる。アリスがお前に用があるってよ。」
ルカ「用?」
アリス「先程は、少しばかり言い過ぎたと思ってな。未熟がゆえの幼稚な使命感━━それは未熟がゆえに仕方がない。
だからこそ、見識を広めるのは重要なのだ。世界というものを旅し、様々なものを見、己の幼稚さを恥じる。それで良いのだ。」
龍牙「まあ、アリスなりの慰めだ。なんだかんだ気にしてたんだろう。」
アリス「・・・ふんっ。」
アリスはプイッとそっぽを向く。少しは可愛げがあるなと思った。
龍牙「それで、これからどうする?旅には出るのか?」
ルカ「うん。例え勇者でなくても旅には出るよ。魔物との共存が僕の夢だからね。」
勇者でなくとも魔王退治はできるはずだ・・・と言っておこう。じゃないと今の僕は悲しすぎる。
アリス「くくく、それでいい。実は少しばかり貴様に興味が湧いたのだ。」
ルカ「僕に?」
アリス「そうだ。貴様は人と魔物の共存という世迷い言を胸を張って口に出してるからな。」
ルカ「世迷い言で終わらせたりしないよ。必ず、そういう世の中にしてみせる。」
僕は魔物であるアリスに言ってやった。
アリス「くくく、いつまでそう言ってられるか見物だな。貴様の旅について行って化けの皮が剥がれる瞬間を見てやろう。」
ルカ「僕の旅に?」
アリス「余は旅の妖魔だ。どうせなら貴様と世界の両方を見ようと思ってな。理に適ってるだろう。」
ルカ「勝手にしてよ。止めても無駄だろうし。」
けど、同行者がいることに少し安堵した。正直一人旅は心細かったのだ。
龍牙「ルカ、ちょっといいか。」
ルカ「どうしたの?」
龍牙「俺も旅に同行していいか?」
ルカ「龍牙まで、どうして?」
この旅は遊びではないことくらいは分かってるはずだ。
龍牙「友人として心配だからな。護衛として・・・」
アリス「本心は?」
龍牙「強い魔物と戦って強くなりたい。」
うん、言うと思った。一緒に龍牙と村に戻る時に、魔物と戦った理由を聞いたら・・・
龍牙『魔物と戦えるって聞いたら、戦いたくなるだろ。』
と言った。多分そんな考えを持った人は君くらいだよ。
ルカ「分かった。本当は龍牙にも来て欲しかったんだ。よろしく。」
龍牙「ああ、こちらこそ。」
僕と龍牙は握手を交わした。
ルカ「よし、行こう。」
アリス「余は裏口から出る。無駄な騒ぎは好まんからな。村の外で待っているぞ。」
そう言い残し、お騒がせ妖魔は裏口から出て行った。
ルカ「龍牙。」
龍牙「んっ?」
家を出る前に僕は龍牙を呼び止めた。
ルカ「これを・・・龍牙に持ってて欲しいのだけど。」
龍牙「これは・・・宝玉か。でも何で俺に?」
ルカ「えっと、母さんから渡されたんだけど、その時にこう言ってたんだ。」
『もし、あなたが旅立つ時に信頼できるお友達がいたら、これを渡してあげなさい。
強い力を宿した御守りでね、きっとそのお友達の役にたつはずよ。』
龍牙「そうか。それじゃあ、その期待に応えないとな。」
ルカ「無理はしないでよね。」
龍牙「分かってる。」
そう言って龍牙は家を出て行った。
ルカ「行ってくるよ、母さん。」
亡き母にそう語りかけ、僕は住み慣れた家を後にした。
宝玉についてはだいぶ先に分かります。
ではまた。