ルカ side
日が暮れて、イリアスベルクは目前。その町並みはここからでも見える。しかしこのまま町に入るわけにはいかないのだ。
龍牙「アリスのその恰好は流石にマズイな。」
ルカ「アリス、お前は人間の姿に化けられないのか?」
アリスが今のまま町に入れば、たちまち大騒ぎになってしまうだろう。
アリス「人の姿に化けるのは簡単だが、少々不愉快だな。なぜ、姿を偽る必要がある?」
龍牙「そのまま町に行ったらあまあまだんごが食えなくなるぞ?」
アリス「それは困るな。仕方ない、これでいいか?」
ルカ「うん、良い感じだね。」
これなら少々破廉恥な恰好をした旅人ということで通るはずだ。こうして僕達はイリアスベルクの町に入ったのだった。
龍牙「・・・なんだ?」
ルカ「何か、町の様子がおかしい。」
通りには旅人も商人も見当たらない。本来なら人でごった返しているはずだ。それなのに、人々は屋内に閉じこもっているらしく、町全体が張り詰めた殺気のようなもので満ちている。
龍牙「ちょっと住民に状況を聞いて来る。後で町の入口で合流だしよう。」
ルカ「う、うん。分かった。」
龍牙は情報収集のため町の走っていった。僕らも情報収集のため足を進める。暫く歩いていると、何か異様な気配を感じて僕は思わず街路樹の陰に身を隠した。
ルカ「あ、あいつは!!」
竜族の魔剣士「なんと他愛ない。この町に強者は一人としておらんのか!?」
荒れ果てた広場に立つ一人の魔剣士。
戦士A「く、くそ。」
戦士B「なんて・・・強さだ。」
戦士C「う、ぐ・・・」
相対している戦士が三人。その周りには屈強そうな戦士達が何十人も倒れている。恐らく全員あの魔剣士にやられてしまったのだろう。
竜族の魔剣士「残るは三人。お前達は来ないのか?」
戦士A「くっ。」
戦士達は戦う前から圧倒されている。誰がどう見ても彼等に勝ち目はなさそうだ。
ルカ「あの魔剣士、もしかして。」
巨大な剣に無骨な鎧をまとった竜族の魔剣士。その噂は田舎者の僕でも聞いたことがある。魔王軍四天王の一人、魔剣士グランべリア。その剣の腕は人間にも魔物にも並ぶ者はいないという。
たった一人で町を壊滅させたとか、一万人の軍隊を叩き潰したとか、武勇伝に事欠かない。
それほどの魔剣士がイリアスベルクを襲撃してきたのだ。見たところ供も連れず一人で。
ルカ「ア、アリス・・・どうしよう。」
ふと見ると、例によってアリスの姿はない。逃げてしまったのか?もしかして見かけ倒しで本当は弱いんじゃないかと思ってしまう。
大体なんで最初の町にこんな大物が出てくるんだ。普通最初の町なんてもっとしょっぱい中ボスが相手だろう。なんで僕らの旅はこんなことばかりなんだと、ついぼやいてしまう。
グランべリア「残るはお前達三人のみ。この町が我が手に落ちるのを傍観するか?それとも勇者として責を果たすか。・・・さあどちらか選ぶがいい!」
戦士A「く、くそぉぉ!」
戦士B「魔物なんかの好きにさせてたまるかぁ!」
二人の戦士がグランべリアに向かっていく。残る一人は体が竦んで動けない様子だ。
グランべリア「その意気やよし。しかし実力の伴わん気迫は無意味と知れ!」
グランべリアの巨剣がおもむろに炎に包まれる。その刹那、周囲に凄まじい熱気が生まれる。
ルカ「う、うわぁっ。」
聞いた話では、魔王軍四天王はそれぞれ火、水、風、土の四属性を得意とするらしい。グランべリアが得意とするのは、火属性なのだろう。
戦士A「てりゃぁ!」
熱気に怯まず果敢に踏み込むも、グランべリアは一瞬で背後に周り戦士を昏倒させた。
ルカ「なんだ、今の?全く見えなかった。」
戦士B「こ、この!」
もう一人の戦士が上段斬りを叩き込もうとしたが・・・
グランべリア「遅いな。」
グランべリアは振り返り、そして横一文字に剣を振り抜く。その速さは戦士が剣を振り下ろすよりも遥かに速かった。
戦士B「ぐはっ・・・」
持っていた剣が砕け、熱風を受けた彼自身も倒れ伏す。
ルカ「す、すごい。」
強すぎる。あの戦士二人も僕などよりも・・・もしかしたら龍牙よりも強者のはず。それを赤子よりも簡単にねじ伏せてしまったのだ。
グランべリア「さて、お前はどうするのだ?」
戦士C「ひ、ひぃぃ!」
彼は背を向けて一目散に逃げていく。グランべリアはそれを追おうともしなかった。
グランべリア「その選択が最も賢明だな。だが今後は勇者とも戦士とも名乗らぬ事だ。」
ルカ「これは・・・まずいぞ。」
どうやらこの町にいた強者はみな倒されてしまい、もうこの町を守れる者はいないみたいだ。
グランべリア「これで全てか!?ならばこの町を魔族が占拠するが文句はないのだな!」
町全体に響くほどの声でグランべリアは咆哮する。しかし住民達は息を潜めたままだ。
ルカ「ぐっ!?」
どうする?少なくとも今の僕では相手にならないのは明らかだ。もし僕が龍牙みたいな勇気があれば立ち向かえるかもしれない。
ルカ「・・・。」
いや、それじゃダメだ。勇者を志している者が、ここで傍観してていいのか?なにより、他人にいつまでも憧れるような気持ちでいいのか?
ルカ「いいわけ・・・ないだろ。」
僕は震える体に鞭を打って走り出す。
グランべリア「さて、この町は我が手に落ちた。後はこのまま・・・」
ルカ「ま、待て!」
僕はグランべリアの前に立ちはだかる。勝てるなどとは微塵も思っていない。英雄を気取りたいわけでもない。
だが、ここで声を上げなかったら、僕はいつまでたっても強くなれない!
グランべリア「なんだ、少年。」
グランべリアは初めて僕の方向に視線を向けた。ただこっちを向いただけなのに――それだけで圧迫感のようなものが押し寄せてくる。
ルカ「ぐ、うっ」
体がまた震えだすが、逃げるわけにはいかない。
グランべリア「剣を持ち、戦う意志を持っている。ならばお前を少年としてではなく戦士として扱う。それで文句はないのだな?」
ルカ「あるもんか!僕だって戦士だ。」
腕の震えを勇気で押さえつけ、剣を構えた。
龍牙「面白そうなことしてるじゃねぇか。」
ルカ「えっ!?」
突然背後から聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると・・・剣を抜いた状態の龍牙が歩いてきた。
グランべリア「お前も私と戦う気か?」
龍牙「ああそうだ。お前がかなり強いと町の住民から聞いて、居ても立っても居られなかったんでな。」
龍牙はグランべリアから放たれる威圧に一切怯まなかった。龍牙は僕の隣に立ち、肩をポンッと叩かれる。すると先程まであった震えが収まった。
龍牙「今のお前、かなりかっこいいぞ。」
ルカ「そ、そうかな?」
そう言われてすごく恥ずかしかったが、同時に嬉しかった。
グランべリア「お前からはこの町で戦った者達とは比べ物にならないほどの戦意を感じるな。いいだろう、お前も一人の戦士として扱う。」
龍牙「ああ来いよ。気ぃ抜くなよルカ。」
ルカ「う、うん!」
グランべリア「では炎の魔剣士グランべリアが相手をしよう!」
全員が剣を構える。そして、イリアスベルクを守る戦いが始まる。
ルカさんを少し勇敢にしてみました。
龍牙は相変わらずの戦闘卿です。
ではまた。