魔王は踊る
小柄な少女を、墓(のつもりで作った穴)へ置いて、土を被せていく。
少女の名前すら聞いてなかったことに、落胆を覚えた。
『俺はウリーク。キミの名前は?』
さっき少女の質問に答えてた量からすれば、その程度の言葉を加えても良かったろうに…。
俺は名前に無頓着だ。お袋の名前もわからない。もしかしたら、お袋はヒメという名前なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
お袋は俺に名前を付けてくれた。
なのに、彼女の名前を、俺は知らない。
「ごめんな…」
彼女について思い出せるのは、質問をいっぱいされたこと。長い髪。馬車できてたこと。他にもいっぱい人間が死んでいたこと。
全員の墓を作り終わったら、彼女が死んでいたこと。
「俺にも、魔法が使えたらな」
歌に聞こえた魔法使い。傷を癒して、死人を蘇らせるなんて、簡単にやってくれそうだ。
力しか能がない化け物。
くやしいなぁ。
立ち上がり、彼女にもう一度土を被せていく。
最後は石を割って、綺麗になった表面にマークを刻む。
なんの印なのかはわからないけど、お袋が使っていたから俺も使う。それだけだ。
文字も少しはかけるけど、やっぱり彼女の名前がわからない。
最後の手段だな…。
俺は少女や騎士や盗賊の荷物をもって、人間の里に向かうことにした。
ここから人族の町は遠い。
俺が走ったって半日はかかる。ということは、馬車では3日ほどだろう。
のんびり歩くことにした。急いだって誰が得するわけでもない。それに俺の速度で走ったら、人間が作った馬車なんてすぐ壊れてしまう。
馬車の中には、荷物を積めるだけ積んでいる。
久しぶりに食った馬はまぁまぁ旨かった。うまぁうまぁだった。
「ふっ…」
おもしろーい。
しかたないだろ。馬は俺の威圧に耐えられなくて怯えてしまう。馬車を引かないなら引く俺の糧になってもらわねばな。うん。しかたないのだ。
大草原の、星の綺麗なこと…。
空を見上げれば、満天の星空。お袋はよく言っていた。夜空が好きだと。
だから俺も大好きになった。まぁ一番気に入ってるのは、曇り空の夜だけどな。
あれは凄い。フードを深く被っていると、肌が触れそうな距離に人間がいても、俺が化け物だと気づかれないのだ。
あれはいいものだった。
多分俺は、人族が、亞人が、人間が好きなんだろう。
俺を知ろうとしてくれるヤツがもっと好きで、俺を知ろうとしてくれるヤツをもっともっとしりたいんだ。
だから彼女の名前を、俺は聞くべきだった。
本当に、ダメだなぁ俺は。
次の日は雨だった。
幸いだった。
大草原を抜けてしまうと街道に出てしまう。そうなると、昼間はまともに進めなくなる。
だがこの雨のおかげで馬を休ませる人間が多くて助かった。まぁ馬車を引くフード男の俺が、目立たないわけないんだけどさ。
泥に足を取られながら、ノシノシと進んでいく。人間は靴を履く。あれは濡れたらどうしているのか、興味が尽きない。
と、日も傾いてきたところで、始めて人間の馬車とスレ違っちまった。
大丈夫かなと不安になりながら、慌てて立ち止まって馬車を壁にするようにしゃがみこむ。
そりゃあ普通に立って隠れたら頭から上が丸見えだ。
馬車の窓ガラス越しに、人間の馬車を見て…ぎゃ、停まりやがった!
しかも御者が、馬車の中の人と話している。
やばい。