ヒメの馬車に戻って、彼女は馬車に乗ってもらった。御者と剣士は、鋭く俺を睨み付けているので、少し距離はあるが、馬車の扉は開けっ放しなので会話に支障はない。
もっとも、睨み付ける二人は外にいるのでビチャビチャになっているが。
もうちょっとフードで顔を隠そうかな。
「まず謝ります。私の従者が失礼いたしました」
「お、おう」
人生で初めて謝られたかも。
「私もあまりの出来事に戸惑い、止めるのが遅くなりました。申し訳ございません」
二度も謝られた! お袋にも謝られたことないのに!!
「全然! 問題ないさ! ほら、俺頑丈だからさ、フードは破けたけど傷なんてないし!」
と、フードの下の肌の色が違うことを思い出した。慌てて隠す。
「これは、あの、肌の病気で、色が違うんだ…」
「そうでしたの。お辛くありませんか?」
大丈夫! だって嘘だから!
これを言うと台無しなので我慢する。嘘がこんなに心苦しいものだとは思わなかった。
やばい、俺いま幸せだ。
「それより、あの馬車は、あんたたちのか?」
「それは…はい…」
さっきまで口角を上げていたのに、それが急に下がってしまった。
すげぇ罪悪感!
「乗っていた方は…私の妹は…」
「すまん…誰が誰かわからない」
「あ、そうですよね。妹の特徴は――」
「誰か誰がわからないけど、みんな死んだ。何人か生き残ってたけど、怪我はしてて、結局みんな死んだ」
ヒメの顔が凍りつく。
呼吸が荒くなり、ガタガタと震えだした。
「お嬢様!!」
「アマリス様しっかりなさって!」
二人はヒメに駆け寄り、彼女の体を支えた。俺も近づこうとしたが、やはり目で牽制される。
「い、妹の特徴は、小さな、女の子です。少しくせっ毛で、肌は、白くて、目は大きいの、あぁ…神様…首に黒子があって、そばかすが可愛くて、足が早くて、が、学校で一番なの! お姉様って、いつも甘えてきて…」
彼女は、瞬きすら忘れたように、大きな瞳を俺に向けている。その目から、涙がこぼれ始めた。
「全員の荷物がある。見てみるか?」
「私が」
御者のほうが俺の運んでいた馬車に入っていく。
「大丈夫です、大丈夫ですよお嬢様」
剣士に背中を擦られるヒメを見ながらしばらく、御者が戻ってきた。その手には、小さな手荷物。
その手荷物は――
「このバッグの主は…どうなった」
俺のことを知ろうとしてくれた人族の少女。彼女が死んでも手放さなかった荷物だった。
「それは女の子のだ。一番最後に死んだ」
突如響き渡る金切り声。
ヒメは馬車から転がり落ちながら、御者から荷物を奪いとる。
そのまま地面へうずくまってしまう。
「アメリアァァ! アメリアァァァ!! ァァァ!! ァァァあああああ!!」
喉が裂けてしまうほどの絶叫が、大草原に響き渡る。
剣士も御者も、なす術なく立ち呆けている。
俺も意外なタイミングで、あの少女の名前を知ることができた。アメリアーか。アメリアー、うん、いい名前だ。
心に残っていた、彼女に対するわだかまりが溶けていくのがわかる。
しかし、こんな絶叫を聞きながらでは、どうしても感動が薄いな…。
「お前が誰かは、あと判明させる。だが、アメリア様のご遺体を確認するまで、その言葉を信じるわけにはいかない。現場まで案内してもらおう」
「いいけど…」
「もし嘘であった場合、お前は死刑だ、わかっているな」
え、そうなの?
人間って嘘ついただけで死刑になるの?
俺もっと正直に生きよう。
剣士に言われた言葉を信じ、さっそく正直者として生きようではないか。
「全員墓を作って埋めてるんだ、あの山のほうになる。一晩はかかるけど、大丈夫か?」
「…わかった」
ヒメと剣士は馬車に戻り、御者が俺に話しかける。
「お前の連れとやらはどこにいる」
やべぇ死刑にされる。
「あれは…その、大丈夫」
「では馬はどうする」
「えっと…あの…俺が運ぶから…」
「お前が? 馬車を?」
「ち、力だけは強いんだ」
やべぇ嘘を嘘で塗り固め、なおかつ本当のことでコーティングした。俺嘘うめぇ。
死刑になる。
人族もなんだかんだで野蛮だな。
俺が馬車を引きながら先導し、一晩かけて墓場に戻ることになった。