※この作品はR-18です。

おお、我が豚よ   作:江上音

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魔王は踊る3

 

 

 ヒメの馬車に戻って、彼女は馬車に乗ってもらった。御者と剣士は、鋭く俺を睨み付けているので、少し距離はあるが、馬車の扉は開けっ放しなので会話に支障はない。

 もっとも、睨み付ける二人は外にいるのでビチャビチャになっているが。

 もうちょっとフードで顔を隠そうかな。

 

「まず謝ります。私の従者が失礼いたしました」

「お、おう」

 

 人生で初めて謝られたかも。

 

「私もあまりの出来事に戸惑い、止めるのが遅くなりました。申し訳ございません」

 

 二度も謝られた! お袋にも謝られたことないのに!!

 

「全然! 問題ないさ! ほら、俺頑丈だからさ、フードは破けたけど傷なんてないし!」

 

 と、フードの下の肌の色が違うことを思い出した。慌てて隠す。

 

「これは、あの、肌の病気で、色が違うんだ…」

「そうでしたの。お辛くありませんか?」

 

 大丈夫! だって嘘だから!

 これを言うと台無しなので我慢する。嘘がこんなに心苦しいものだとは思わなかった。

 やばい、俺いま幸せだ。

 

「それより、あの馬車は、あんたたちのか?」

「それは…はい…」

 

 さっきまで口角を上げていたのに、それが急に下がってしまった。

 すげぇ罪悪感!

 

「乗っていた方は…私の妹は…」

「すまん…誰が誰かわからない」

「あ、そうですよね。妹の特徴は――」

「誰か誰がわからないけど、みんな死んだ。何人か生き残ってたけど、怪我はしてて、結局みんな死んだ」

 

 ヒメの顔が凍りつく。

 呼吸が荒くなり、ガタガタと震えだした。

 

「お嬢様!!」

「アマリス様しっかりなさって!」

 

 二人はヒメに駆け寄り、彼女の体を支えた。俺も近づこうとしたが、やはり目で牽制される。

 

「い、妹の特徴は、小さな、女の子です。少しくせっ毛で、肌は、白くて、目は大きいの、あぁ…神様…首に黒子があって、そばかすが可愛くて、足が早くて、が、学校で一番なの! お姉様って、いつも甘えてきて…」

 

 彼女は、瞬きすら忘れたように、大きな瞳を俺に向けている。その目から、涙がこぼれ始めた。

 

「全員の荷物がある。見てみるか?」

「私が」

 

 御者のほうが俺の運んでいた馬車に入っていく。

 

「大丈夫です、大丈夫ですよお嬢様」

 

 剣士に背中を擦られるヒメを見ながらしばらく、御者が戻ってきた。その手には、小さな手荷物。

 その手荷物は――

 

「このバッグの主は…どうなった」

 

 俺のことを知ろうとしてくれた人族の少女。彼女が死んでも手放さなかった荷物だった。

 

「それは女の子のだ。一番最後に死んだ」

 

 突如響き渡る金切り声。

 ヒメは馬車から転がり落ちながら、御者から荷物を奪いとる。

 そのまま地面へうずくまってしまう。

 

「アメリアァァ! アメリアァァァ!! ァァァ!! ァァァあああああ!!」

 

 喉が裂けてしまうほどの絶叫が、大草原に響き渡る。

 剣士も御者も、なす術なく立ち呆けている。

 

 俺も意外なタイミングで、あの少女の名前を知ることができた。アメリアーか。アメリアー、うん、いい名前だ。

 心に残っていた、彼女に対するわだかまりが溶けていくのがわかる。

 しかし、こんな絶叫を聞きながらでは、どうしても感動が薄いな…。

 

「お前が誰かは、あと判明させる。だが、アメリア様のご遺体を確認するまで、その言葉を信じるわけにはいかない。現場まで案内してもらおう」

「いいけど…」

「もし嘘であった場合、お前は死刑だ、わかっているな」

 

 え、そうなの?

 人間って嘘ついただけで死刑になるの?

 俺もっと正直に生きよう。

 剣士に言われた言葉を信じ、さっそく正直者として生きようではないか。

 

「全員墓を作って埋めてるんだ、あの山のほうになる。一晩はかかるけど、大丈夫か?」

「…わかった」

 

 ヒメと剣士は馬車に戻り、御者が俺に話しかける。

 

「お前の連れとやらはどこにいる」

 

 やべぇ死刑にされる。

 

「あれは…その、大丈夫」

「では馬はどうする」

「えっと…あの…俺が運ぶから…」

「お前が? 馬車を?」

「ち、力だけは強いんだ」

 

 やべぇ嘘を嘘で塗り固め、なおかつ本当のことでコーティングした。俺嘘うめぇ。

 死刑になる。

 人族もなんだかんだで野蛮だな。

 

 俺が馬車を引きながら先導し、一晩かけて墓場に戻ることになった。

  

  

 

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