「これを、全部お前が?」
山を無理矢理切り開いた墓場に彼らを招待したら、真っ先に驚かれた。
…なににだろう。
墓の数で言えば、俺が根城にしていた洞窟の近くには、数倍は幅を利かせてる墓場があるし、化け物が墓を作ると言うことなら、俺以外の奴にも前例がないわけではない。
「そうだ。どうするんだ?」
「妹に…会わせてください…」
たった一晩会わないだけで、ヒメの印象が大分変わった。少なくとも、同じ人間だとは思えない。
泥だらけのドレス。髪はボサボサで、目には生気がなく、顔には引っ掻いたような後ができていた。
「…こっちだ」
場所は覚えている。
土に乗ってる石を放り投げ、両手で土を掻き出していく。掘り返したばかりの土は雨に濡れていても柔らかく、あっという間に粗方掘り進めることができた。
あとは、力を込めないように優しく土を退かしていく。
…いた。
「この子だ」
ゆっくりと抱き抱え、顔についた土を払う。
地面に寝せて、三人に見せた。
「……」
「……」
「……」
三人とも、時が凍ったように動かない。
やはり、知り合いが死んじゃうと、すげぇ悲しいよな…。
「………………誰?」
絞り出したような剣士の声。
ヒメは泥まみれのドレスをさらに土で汚すように、地面へ座り込んでしまった。
…え?
「…とりあえず、彼女の名前はアメリアーじゃないのか?」
「…あぁ、あぁ」
従者は大きく頷いた。
そうか、じゃあアメリアーって子はここにいないかもな。だけどさ、待ってほしい。
この子が死に際まで持っていた荷物がアメリアーのだとすれば、だよ?
アメリアーって名前じゃないとすれば、だよ?
彼女の名前はなんなんだ?
虚脱感に襲われていると、従者に話しかけられた。
「お前、これを全部掘り返せるか?」
「全部って、まぁいいけどさ…」
俺たち四人は、墓を掘り返すことになった。もっとも、ヒメは御者と剣士とに止められて、馬車に入っている荷物の確認をするらしい。
三人で黙々と作業していれば良かったのに、御者が話しかけてきた。
「お前…この紋章はどういう意味だ」
「そのマーク? なんか意味あるのか?」
「知らんのか」
「知らんのよ」
「そうか…」
「そうよ」
あれ? やっぱコイツ良い奴じゃね?
俺のことに知ろうとしてくれてるかもしれん。名前なんだっけ、オニース? イール? なんかヒメが呼んでたんだよな。名乗ったら教えてもらえるかな?
「おおお俺はうり、うり――」
「オニール殿! これは…」
「どうした」
許すまじ剣士。そして図らずも御者の名前がわかった。
「なんということだ…」
「まさか内部犯とは…いまから馬車を飛ばせば間に合いますか?」
「クーデターをしようというなら無理だろうな。だが、コイツが利用されただけならどうにかなる」
「オニール! イース!」
二人はヒメのもとに駆け出した。
興味本意で、二人が覗いていた人族を観察する。金髪の男だった。胸の膨らみはもちろんなく、格好からして盗賊だろう。目鼻立ちは整っているが、これといってここから読み取れる情報は少なそうだ。
うーん、と唸っていると、ヒメの声がまた響いた。
「感謝します! アメリアは生きています! ありがとう! あなたへの感謝は忘れはしません!」
ヒヒーン! ガラガラガラガラ!
馬の嘶きと、車輪の音が響いたかと思ったら、三人を乗せた馬車が凄い早さで下山してく光景が目にはいる。
なぜかはサッパリわからないが、俺は人間の手のひらで踊らされていたのだと、なんとなーく理解してしまった。