※この作品はR-18です。

ゾイド異伝〜神機獣戦記バハムート〜   作:蚩堂尤仁

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※閲覧に際しての諸注意※

・この物語はZOIDSシリーズ、及びゾイドバトルストーリー等の世界観を元に作成された二次創作です。

・作中に各ゾイドシリーズに於ける登場人物の他に、作中オリジナルキャラクターやオリジナルゾイド、オリジナル改造ゾイドが多数登場します。
 其れに伴い、原作に登場するゾイドであっても、細かい機体スペックや装備、能力等に差異が生じております。
 また、今作はシリーズを通して上記オリジナルキャラクターやオリジナルゾイドが中心となりますので、そうした作風や展開が苦手な方は御注意下さい。

・時系列的にはゾイドバトルストーリーの年表を元に、ZAC2109年に戦争は三国の和平、併合により終結。
 アニメ無印ゾイドにも登場したガーディアンフォースが設立され、
 そこから更に17年が経過した設定となっています。

・今の所、各アニメキャラ(バン・フライハイト等の各アニメ主人公、及び各アニメ主要キャラクター等)の出演は予定しておりません。
 時系列、物語的に矛盾が生じる可能性が大きい為、同名であっても別人、またはパラレルワールドの存在であるとご了承下さい。

・古代ゾイド人は出演しますが、各アニメゾイド等で語られる古代ゾイド人とは異なり、現代ゾイド人が喪ってしまった強大な能力(所謂読心術や精神没入等の超常的な能力)を持った『超人的な存在』とお考え頂いた方が良いと思います。

・今作に於いてデスザウラーはアニメゾイドの様な『破滅の魔獣』的な位置付けではなく、ガイロスやネオゼネバスの主力ゾイドの一つになっています。

・上記を踏まえた上での閲覧をお願い致します。




第二章:機巧の神子

『誰ぞ在る。』

 

薄暗い宮中に、透き通った中性的な声が響く。

 

声の主は豪華絢爛なベッドに目隠しの濃いヴェールを掛けられた中に居り、

ぼんやりとヴェールに映し出されるシルエット以外その姿を伺い知る事は出来ない。

 

「此処に。」

 

短く答えたその男の胸には、ネオゼネバス帝国の軍事統括者を示す、

剣とコブラを模した意向が重ねられた金バッチ、

肩には金糸で編み上げられた、五つの星が輝いている。

 

しかし、ガーディアンフォースである事を示すバッチや階級章は付いていない。

一国の軍事統括者ともなれば、必ずと言って良い程ガーディアンフォースの責任者を兼任している筈である。

 

『シュヴァイツァーか。』

 

気だるげな声と共にシルエットが揺れ動き、もう一つのシルエットが起き上がる。

 

「こ…これは…皇后陛下御寵愛の所を申し訳御座いません。」

 

慌て頭を垂れるシュヴァイツァーと呼ばれた男を一瞥すると、ヴェールから出た裸の女は女官からガウンを受け取り、羽織りながらいそいそと部屋を後にした。

 

『良い。呼び付けたのは余だ。

 要らぬ気遣いをさせて済まぬ。』

 

「も…勿体無い御言葉…

 感謝の極みに御座います。」

 

君主からの気遣いの言葉に返礼するも、その言葉には恐怖心が宿っていた。

 

ヴェールの内側から微かに布地が擦れる音がした後、刹那の沈黙が訪れる。

シュヴァイツァーと呼ばれた男にとって、その刹那は悠久とも思える永い時間に感じられた。

額からは脂汗が吹き出し、全身から血の気が引いて行く。

 

『飼い犬が逃げたそうだな。』

 

静かな声にも関わらず、男の体がぎくりと跳ね上がる。

 

暖房が十分に行き届いているにも関わらず、男の体は吹雪の雪原直中に裸で放り出されたかの様に震え上がり、かちかちと歯を鳴らした。

 

「…も…申し訳……ご…御座いません!

 目下総力を上げて捜索に当たって…」

 

『良い。その者等のするが侭に致せ。』

 

「な!…あ…」

 

大量の脂汗を流す顔が仰天する。

其れと同時に、男は眼前の光景に言葉を失った。

 

男の目の前には何時から居たのだろうか、

女性の象徴である乳房と、

男性の象徴である陰茎を併せ持ち、

男女の美しさを諸共に持つ人間が立っていた。

凡そ異様な光景であるにも関わらず、その姿は何処か神々しくも見えた。

 

『汝の主、ゲシュタール=ベルンスタインの名に於て、

 其の者等の成すが侭にせよ、

 と、申したのだ。』

 

ゲシュタールと名乗った者が軽く右手を掲げる。

 

「ひっ……」

 

小さく悲鳴を上げ、恐怖に頭を下げる男に、ゲシュタール帝はくすりと笑みを溢した。

右手を軽く手繰ると、きらびやかなガウンを手にした女官が現れ、ゲシュタール帝に手際良く着せて行く。

 

『そう恐れずとも良い。

 汝の云う完全者である余とて、裸体のままでは風邪を引く。

 曰く、神より完全者たるこの肉体を賜ったという余も、所詮は人の子。

 例え一国の主と申せど、国無き者と申せど、等しく人の理と云う軛(くびき)より出でたる事は罷りならん。』

 

きしりと軽い音を立て、ゲシュタール帝は女官が用意していた白い木椅子に腰掛ける。

 

ふとガウンの間から覗く自身の男性と女性を見やり、ゲシュタールは少し表情を曇らせた。

 

暫しの沈黙の後、口を開いたのはゲシュタール帝であった。

 

『…なあシュヴァイツァー。

 余の肉体は醜いと思うか?』

 

突然の発言に、男は更に仰天し、思わず立ち上がった。

 

「なっ…!!何を仰います陛下!陛下の御身は神より賜りし完全者たる肉体!

 畏れ多くもその神聖な御身を醜いなどと宣う事は、天に唾吐く所業に御座います!

 万が一にも下々の者に聞かれれば、陛下とネオゼネバスの名に傷が付きます!

 どうか!どうかその様な事は申されませぬ様…!!」

 

男は声を荒げ、憤慨にも似た口調で否定した。

が、はたと冷静を取り戻したのか、慌てて平伏し、再び頭を垂れた。

 

「…ぶ…無礼な発言でした…どうか平に御容赦を…」

 

『良い…余も不躾な言葉であった。赦せ…』

 

ガウンを直し、背もたれに体重を預けると共に、ゲシュタール帝は大きな溜め息を一つ吐いた。

 

『…斯様な諍いの渦中に、余と帝国が在ると存じ上げたなら…ヴォルフ陛下はどれ程御嘆きになるだろうか…』

 

ゲシュタールは長きに渡る戦乱終結の直後、子に恵まれなかった先帝ヴォルフにより後継者として見出され、帝都へと召し抱えられた。

 

ヴォルフ帝が不治の病に倒れ、崩御するその直前まで、ゲシュタールはかの永い戦いの愚かさと、今この惑星Ziに真に必要とされる民族の調和という使命の重大さを叩き込まれて来た。

 

晩年、病床に伏したヴォルフ帝はガーディアンフォースと共に、先ずはネオゼネバス帝国の安寧を磐石な物とするようゲシュタールに言い聞かせ、ネオゼネバス帝国をゲシュタールへと託した。

 

しかし、ゲシュタールの肉体は半陰半陽。

 

所謂両性具有であったのだ。

 

ヘリック共和国とゼネバス帝国は、初の中央大陸平定者であるヘリック・ムーロア一世の血族が代々治めてきた。

 

その伝統は戦火の中でも絶える事無く100年以上もの間続き、今も尚根付いている。

 

その伝統を打破したのが、現ネオゼネバス帝国皇帝となる筈であるゲシュタールであった。

 

唯でさえ世継ぎに恵まれず、先帝ヴォルフの遺言があるとは云え、ムーロアの血族外の者が即位しただけでも前代未聞の一大事である。

 

それに加えて、その即位した皇帝が両性具有だと云うのだ。

 

ネオゼネバス帝国の臣民に限らず、ムーロアの血を神聖視する惑星Ziの民草達が黙っている筈が無い。

 

幸い、ガイロス帝国のルドルフ帝は

『この問題に我々が触れる事は他国の政治、統治に介入する明らかな越権、侵略行為である』

として、国内で挙がったゲシュタール皇帝即位に関する異議申し立てを全て棄却させ、ネオゼネバス帝国内部で起こった紛争、テロリズムの鎮圧補助以外の政治的不介入を宣言した。

 

ヘリック共和国のルイーズ大統領も、この問題に対してガイロス同様に政治的不介入を宣言したが、ルイーズ大統領自身がムーロアの血族であると云う理由から、共和国議会が紛糾。

 

ネオゼネバス帝国議会を巻き込み、両国の首脳陣は

『即刻現皇帝を排し、改めてムーロアの血族を正当な皇帝として即位させるべき』

と主張する【ムーロア派】と

『先帝の遺言に従い現皇帝を正当な後継者と認め、先帝の悲願であった国も民族も超えた調和の象徴として迎えるべき』

と主張する【ゲシュタール派】の真っ二つに割れてしまったのである。

 

結局、この問題はゲシュタール帝の戴冠式開催の是非にまで飛び火し、冠を戴く筈のゲシュタール本人不在のまま戴冠式典が行われるという異例の事態を招くに至ったのである。

 

『…ヴォルフ陛下はこの様な些末な争いを望んではおられなかった筈だ…だのに何故…』

 

自らが置かれた状況を改めて理解し、ゲシュタール帝は堪らず頭を抱えた。

 

「…はい…ですが、ネオゼネバスの民草に限らず、この惑星Ziに於いてムーロアの血脈を信奉する者は多く、陛下の御身の素晴らしさを理解せしめる臣民は少のう御座います…」

 

今少し私に人望と力が有れば…

シュヴァイツァーがそう言葉を紡ごうとした矢先、部屋の扉が勢い良く開かれた。

開門の主は全身を己の血の紅に染め、扉の外に続く廊下に血糊の足跡をくっきりと残していた。

 

「こ…皇帝陛下!!げ…元帥閣下!!

 ご…御無礼承知の上で失礼致します!!

 帝国議会のむ…ムーロア派が一斉に蜂起!!

 此所ゼネバス城を目指し、セイスモサウルス一個師団が進軍中!!

 に…2時間後には、この城も

 ぜ…ゼネバス砲の…射程圏内に入ります…!!

 ど…うか…た…退避…を……!!」

 

その言葉を最期に、全身を己の血で染めた帝国兵士は事切れ、大理石の床に倒れ伏した。

 

『何と云う事だ…この様な無体が…何故…!』

 

ゲシュタール帝は血で汚れる事も構わず、息を引き取った兵士を抱き起こした。

己の命を省みず、その最期まで自国元首の身を案じた兵士の死に顔は、

既に絶命しているにも関わらず、その力強い決死の表情を貼り付けたままであった。

 

「己が命を省みず、陛下と帝国に尽くしてくれた勇者よ…

 貴殿の名と偉業は、私が死した後も忘れはせぬぞ…!」

 

シュヴァイツァーは血糊に塗れた兵士のドックタグをそっと外し、己のドックタグに繋ぎ止め、その手に握り締める。

 

「死せる貴殿に尚鞭打つ私を赦してくれ…

 だが陛下の無事を得るまで、今暫く貴殿の力を貸してくれ…」

 

シュヴァイツァーはドックタグを額に掲げ、涙ながらに祈った。

 

「さあ陛下、参りましょう。この勇者の死を無下にせぬ為にも…」

 

シュヴァイツァーの言葉に、ゲシュタール帝は横たえるも見開いたままの勇者の眼を、その手で優しく閉じ、立ち上がった。

 

『…うむ…しかし、何処へ…』

 

超長距離射程を誇るセイスモサウルスの主砲である超集束荷電粒子砲、

通称『ゼネバス砲』の射程圏内に一旦でも捉えられれば、特殊な荷電粒子シールドを持つゾイドでもなければ耐える事も逃げる事も叶わない。

 

そのアマラリックの射手が一個師団、必中必殺の弓をつがえて此方に迫っている。

 

かつて東方大陸で対セイスモサウルスの切り札として産み出されたゾイド『凱龍輝』ですら、一個師団のゼネバス砲を浴び続けるとなれば、無事では済まない。

 

一瞬の思案の後、シュヴァイツァーは力強く言葉を紡いだ。

 

「陛下、此れは大きな博打となります。

 ですが、今は最早此れしか道は御座いますまい。」

 

ゲシュタール帝が見るシュヴァイツァーの目には、ある確信と覚悟の焔が燃えていた。

 

‡………‡………‡………‡

 

高度4万メートル上空を、そのゾイドは静かに飛行していた。

 

共和国軍が生み出した傑作機であるプテラスの改造ゾイド、『ステラス』である。

 

そのコックピットには、間一髪で攻撃から逃れたユーベル=シュヴァイツァー元帥。

 

その後ろの座席には、地上監視モニターに映る光景に涙にするレジーナ=ベルンスタイン皇后と、ゲシュタール帝その人が座っていた。

 

『シュヴァイツァー…レジー…見よ、そして忘れるな…

 ヴォルフ陛下の城が…帝国の歴史が消えて行く…』

 

地上監視モニターは、今まさにセイスモサウルス師団によって消し飛ばされてゆくゼネバス城を映し出していた。

 

ごく僅かな帝国兵と帝国ゾイドも応戦しようと立ち向かうが、荷電粒子砲の超長距離射撃が可能なセイスモサウルスに対抗出来る訳も無く、その光の奔流の前に成す術も無く消え去って行く他無かった。

 

『…余は忘れまいぞ…この光景を…

 …無辜(むこ)の民の悲痛を…

 …余に尽くした兵達の無念を…

 …彼奴等の成した無体の数々を!!』

 

モニターを鬼の形相で見つめるゲシュタール帝の目には、止め所無く血の涙が流れていた。

 

この後、民間への報道は次の様な物であった。

 

ゼネバス城は謎の爆発事故により地図上からその姿を消し、皇后と共にゼネバス城で休養中であったゲシュタール帝は、皇帝皇后共に生死不明。

 

軍事会議の為に偶然ゼネバス城を訪れていた帝国軍部統括者ユーベル=シュヴァイツァー元帥は、この事故からゲシュタール帝と皇后を救わんとするも、行方不明となってしまったと報じた。

 

調査の結果、この爆発事故はヘリック共和国議会のムーロア派による皇帝暗殺計画であり、皇帝崩御の隙につけ込んだ帝国領土の略取が目的であると主張。

更にこの事件の黒幕は、ムーロアの血を引くルイーズ大統領自身が画策した残忍且つ卑劣極まり無い侵略行為であるとし、以前から行われていたゲシュタール派要人の不審な死亡事故も、共和国議会がルイーズ大統領の命により引き起こされた、暗殺計画の一環であると発表した。

 

時を同じくして、両国議会ゲシュタール派は共和国議会ムーロア派、及びルイーズ大統領に対して厳しい追及を行ったが、元より身に覚えの無い共和国議会ムーロア派は此れに反発、そのタイミングを見計らったかの様にルイーズ大統領、及び両国議会のゲシュタール派が何者かによって全員拘束、誘拐されるという事件が発生した。

 

両国内は混乱を極め、遂に最悪の事態が発生してしまう。

 

ルイーズ大統領の行方が判らぬ最中、共和国ムーロア派を名乗る大規模武装集団が、復興ままならぬネオゼネバス帝都を襲撃したのである。

 

唯でさえ緊張の高まっていた両国は遂に互いに向け宣戦布告。

 

時はZAC2126年10月14日

 

其れが仕組まれた物とは誰も知る由も無く、両国元首不在のまま、第三次中央大陸戦争の火蓋が切って落とされたのである。

 

そして、宣戦布告から3日後。

ZAC2126年10月17日。

 

ニカイドス島、ウェスタ砂漠。

 

‡………‡………‡………‡

 

【機巧の神子】

 

‡………‡………‡………‡

 

左前足を引き摺り、砂を掻き分け、バハムートはゆっくりとウェスタ砂漠を南下していた。

 

本来ならヘラス平地東のレムス基地を経由し、そこからニビルシティに向うのがベストなルートだ。

 

過酷な砂漠の長距離縦断を、補給物資も無しで行なう莫迦なぞ何処にも居ない。

 

しかし、バハムートならば、無補給での砂漠縦断は可能な事なのだ。

 

バハムートはコア以外にも、艦内設備運用の為に大出力のジェネレーターを多数搭載している。

その有り余るエネルギー生産能力で数々の機構、加えて施設を維持、運用している。

 

居住空間、

福利厚生施設、

医療スペース、

ゾイド用ドッグベイ…

 

正に要塞が歩いていると言っても差し支えは無いだろう。

それは、只でさえ巨大な体を持つセイスモサウルスだが、そのセイスモサウルスの5倍を優に超える巨躯をバハムートが備えているからに他ならない。

 

そんな施設の一つに、ジーク=フリードの姿があった。

 

実弾試験場出奔から既に4日経過している。

 

幾ら彼等三人が屈強な軍人と云えど、疲労の蓄積や空腹を無視する事は不可能である。

 

彼等は6時間のローテーションで交代し、こうして食事や睡眠の時間を取っているのである。

 

しかし。

 

カタカタとプラスチックボディを鳴らしならがら、傍らのチェストに乗せられたアラームタイマーが、微細な震動と共にジリジリとチェストの端へと這い進んで行く。

 

「…ええい五月蝿い!

 …これじゃ仮眠なんか取れやしないじゃないか…。」

 

ジークはベッドにだらしなく寝転がり、そう一人ごちた。

 

左足が地を這いずる度に、バハムートの体内には地鳴りに似たノイズと振動が響くのだ。

 

ジークはチェストの端に到達しかけたアラームタイマーを掴み、仮眠室の壁へと叩き付けた。

 

『我慢せよ。レディ准将はこの三日間一睡もせずに操縦し、我等に休養の時間を割いてくれているのだ、貴様も少しは見習え。』

 

ベルセルクからの要らぬ応答が、余計にジークを苛立たせた。

 

だが、追跡されている事を当然と考えれば、立ち止まる時間は作れない。

 

 

追っ手から逃げる為にも、今尚広がる封鎖を抜けてニビルシティに到着する為にも、不眠不休で移動する他無かったのである。

 

「こんな事なら、レムス基地を潰してでも東のルートにすべきだったな…

 あんな封鎖、メギドバスターで薙ぎ払えば一発じゃないか…」

 

レディ准将反乱の一報は、即ネオゼネバス本国に通達された。

 

軍の最高機密、しかも最新型旗艦が強奪されたとあれば、大規模な封鎖措置が取られるのは想像に容易い。

 

案の定、中継点になるであろうレムス基地には、早速本国から送り込まれたセイスモサウルスのみで構成される一個大隊が、ゼネバス砲の発射態勢を取って待ち構えていた。

ジークの言う通り、超長距離からのメギドバスターによる掃射でならば、セイスモサウルス一個大隊を全滅させる事は容易い。

 

だが、レディは敢えて交戦を避け、過酷なウェスタ砂漠の縦断を選んでいる。

 

寧ろ、其の方が都合が良い。

 

交戦ともなれば、素早く有利な位置取りを行なう必要が生じてくる。

 

超長距離地域での狙撃戦闘ならば、尚更に機動力が重要な要素となる。

 

そうなれば、当然破損している左前足にも負担をかけざるを得ない。

 

海洋ならばいざ知らず、陸上で歩行が困難になれば、バハムートはその自重で動けず、只の的になってしまうだろう。

 

その点砂漠の縦断は、過酷な環境が追撃を困難なものとし、柔らかい砂は左足に掛かる負担を軽減してくれる。

 

しかも、砂漠を越えた先はすぐニビルシティ、一週間もあれば、砂漠の縦断は可能だ。

 

山脈に囲まれているとは云え、ニビルシティへ抜ける為の山脈横断トンネルは大小合わせ無数に存在する。

 

いざとなれば、メギドバスターでトンネルを拡げてしまえば良いのだ。

 

バハムートにとって、これ程快適な逃走経路は他に無い、と言う訳である。

 

が、しかし。

現在彼等は別の、其れもかなり危機的な状況に直面していた。

 

「…所で、だベルセルク君。

 我々のレーション(携帯食料)は、

 あと、何日分、残っているのかね?」

 

『……い…一日分……だ…』

 

「そうだ!貴公の馬鹿喰いする分を除いてもな!!」

 

『……………………』

 

ぐぎゅるるる…

 

ベルセルクの代わりに、通信端末のマイクが拾える程に大きな鳴き声を腹の虫が上げた。

 

そうなのである。

 

この男、ベルセルク=ジオは、

三ヶ月分あった携帯食料を、

この4日でほぼ平らげてしまったのである。

 

レディにとって、これは唯一にして最大の誤算だった。

 

ベルセルクの異様な大喰らいのお陰で、レディ達は『自滅型兵籠攻め』に遭っているのである。

 

「レディもこの三日間、何も食べていない。

 さっきの台詞を、

 そっくり!

 そのまま!

 貴公にお返しするよ。」

 

『…………………済まぬ……。』

 

苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、ジークは再びベッドに寝転がった。

 

「全く…寝ようにも眠れない!

 腹が減るにも食い物は無い!

 これでは精神的に…」

 

ガクンッ

 

「どぅぁっ!?」

 

唐突にジークの視界が縦に滑り出し、視界一杯に星が瞬く程、脳天に強烈な衝撃を受けた。

 

ジークはバハムートが急停止した慣性によって吹き飛ばされ、壁に頭突きを馳走する羽目となったのだ。

 

「あぐっ……っつぁぁ…

 おいレディ、一体どうした?」

 

早速タンコブとなって膨れて来た脳天を擦りながら、ジークは内部回線を艦橋に繋ぐ。

 

其処にはモニター越しにも解る程に冷や汗をかき、顔面蒼白となったレディ准将の顔があった。

 

『…あ…危うく人を踏み潰す所だった…』

 

「はっ!何を馬鹿な事を!

 此所は別名『ゾイドの墓場』と呼ばれている広大な砂漠なんだぞ?

 そんな所で人を踏み潰しかけるなんて事があ…」

 

どうせ疲れから野生ゾイドか何かを見間違えたんだろう。

そうたかを括りながら切り替えた映像を見るや、ジークはレディ同様に血の気が引く事となった。

 

人の乗っているジープのほんの数ミリ鼻先に、バハムートの巨大な足が立ち塞がっていたのだ。

足が接地する衝撃をもろに喰ったのか、ジープに乗った人間はハンドルに突っ伏し、微塵も動かない。

 

『「『うわああああああああああああああああ!!!!!!!』」』

 

自身が追われる身である事も忘れ、三人は大慌てでジープへと駆け出していた。

 

‡………‡………‡………‡

 

「ん、傷は大した事は無いが、ごく軽い打ち身と、右足の捻挫が見られるな。

 此所で暫く休んで行くと良い。

 ジープの修理と燃料補給はベルの奴に任せてある。

 …色々と済まなかったな。」

 

レディは手早く少女の治療を行い、謝辞を述べた。

 

尤も、謝辞と呼べるかは些か微妙ではあるが。

 

「んーん、ボクの方こそありがと。

 砂漠の真ん中で迷子になってたし、あそこでヒボシにならずに済んで助かったよ。

 …まぁ…流石にアレにはちょっとキモが冷えたけど、さ…。」

 

「…う………うむ、済まなかった……。」

 

事の経緯はこの様な物であった。

 

急ぎ駆け付けた三人は、眼を回していた彼女を殺してしまったのではと大慌て。

 

寝不足と空腹から来るパニックか、脈を取る事も忘れ、いきなり最大電圧設定のAED(自動体外式除細動器、要は電気ショックである。)

を処置しようとしたのだ。

 

幸い、少女は処置寸前の所で目を覚まし、事無きを得て今に至るという訳だ。

 

少女の名はアルゥ。

それ以外は本人ですら解らないと云う。

 

というのも、彼女は自分の名前以外の記憶が無かったのである。

 

アルゥ曰く、気が付いた時にはキャラバン(村単位で行商を行なう商人達の移動集落)でゾイドの修理の仕事をしながら、各地を転々としていたと云う。

 

自分がアルゥと云う名である事以外、一体いつ、何処から、どういった経緯でキャラバンに入り、何故修理工として働いているのか。

 

その一切を彼女は全く覚えていないのである。

 

とは云え、記憶が無くとも腹は減るし寝床も必要だ。

幸い自分には修理工としての技術があり、キャラバンと云う拠点もある。

 

ならば使える物をフル活用し、日々の糧を獲なければならない。

先ずは生きる事が最優先、記憶は二の次だ。

 

しかし、昨日次の拠点に移動する最中、突然の砂嵐に遭い、仲間とはぐれてしまったという。

 

砂嵐こそ止んだものの、強行軍が祟ったのか車は燃料切れでエンスト。

夜も明けてしまい、灼熱の砂漠の真ん中で途方に暮れていた所に、いきなり天から鋼の足が降ってきたと言う訳である。

 

しかしてこのアルゥと言う少女、何とも不思議な少女である。

 

「…で、お前の車は何と?」

 

「うん、おじさん顔は悪人面だけど、腕は確かだって結構満足そう。

 それにこの子も喜んでるよ、足を気遣ってくれてありがとうってさ。

 でも、三日間飲まず食わずで操縦して無茶が過ぎる!って、ちょっと怒ってるよ?

 まぁ…あのおじさんが食べ物殆ど食べちゃったみたいだからしょうがないけど…」

 

『うん?俺を呼んだか?』

 

「んーん、何でもないよ。

 コッチのハナシ。」

 

集積回路を思わせる不思議な紋様を体中に持つこの少女は、まるで機械やゾイドの言葉が判るかの様な言動をするのである。

 

今しがた出会ったばかりのこの少女が、バハムートの不調を知る筈も無い。

 

だが、アルゥは乗り込む直前、瞬時に左前足の不調を見抜いていたのである。

 

他にもレディが不眠不休で操縦している事や、ベルセルクが食料を平らげてしまった事など、同行していなければ知り置く筈の無い情報を、出会ったばかりの彼女がピタリと当ててしまうのである。

 

そして何よりも…

 

「うん、多分ボクは古代ゾイド人か何かだと思う。

 だっておかしいじゃん?こうして面と向かってたり、

 あの人何考えてるのかな〜って思うだけで、

 何考えてるか解っちゃうんだもん。

 まぁ、お陰で野盗とか山賊に襲われても、気味悪がって逃げてくれるんだけどさ。」

 

「…………便利な能力だな………。」

 

「あ、やっぱ先読みしたからいい気分しない?

 やっだぁレディおねーたま怒っちゃやーよぉ?」

 

読心術。

 

面と向かっているか、アルゥが意識を向けている相手一人に限られるが、アルゥは任意の対象の心情や行動を、ほぼ正確に読み取る事が可能なのである。

 

心を読むだけでなく、その状況判断能力と演算処理能力は、通常の人間の其れを次元レベルで超越しているのは明らかだった。

 

嘘か真か定かではないが、アルゥ曰く『動体視力と計算速度ならゾイドにも負けない自信がある』という。

 

幾ら戦闘技術を習熟し、鍛えられた軍人と言えど、事前に行動を読まれ、意識を奪う最適解を先んじて実行されれば、成す術は無い。

 

…此方から仕掛けない限り、彼女にも敵意が無いのがせめてもの救いだろうか。

 

「んふっ…まぁ、概ねそんなトコだよ。

 まぁロハでニビルまで乗せて貰おうなんて思ってないし、帝国の刺客だとか追跡隊だとか、そんな物騒な人間?じゃないから安心して。

 そーだなー…売り物の食料品がまだあるから、それがニビルまでの運賃代わりでどーカナ? それに、お尋ね者になっちゃってるなら、民間に紛れ込める手立ても必要っしょ?

 交渉、品卸し手数料、お安うしときまっせぇ?

 ウェヒヒヒヒ!」

 

流石にキャラバンで働いていただけの事はあるらしく、アルゥは損得勘定が巧かった。

 

相手の心が読める事に加え、自身の損得を踏まえた上で、相手の得につけ込み、上手く自分の交渉ペースに持ち込んで来る。

 

言葉の魔術で相手を負かし、交渉の主導権を掌握。

相手から得られる利益を根刮ぎかっ浚うのがジークならば、

相手の損得勘定を巧みに操り、あくまで相手に得を掴ませたまま、それ以上の利益を強かに、

しかし合理的に手に入れるのがアルゥという女である様だ。

 

ある意味、諜報部の軍人よりも余程手強く、敵に回したくない部類の相手である。

 

「…ああ、こちらも助かる。

 宜しく頼むぞ、アルゥ。」

 

「ん!商談成立、だね。毎度ありぃ〜。

 じゃあ早速だけど、日給月給計算でキャラバンの時がこの額だからぁ…

 交渉代理手当てと仕入れの各種手数料でマージンが…

 …あ、やっぱ商魂逞しい奴だなあって思っちゃったりする?」

 

「ま…まぁ、な…」

 

不意を突く的確なタイミングで心を読み取り、精神的な揺さぶりを掛ける。

 

一度手に入れた主導権を手離さず、相手に定期的な揺さぶりを仕掛ける事で、精神的優位を保ち続ける。

 

強かな女である。

 

「いやはぁ〜!!照ぇれるなぁ〜!

 でぇも、そんなに誉めても割引とかしないけんね。」

 

「………………現金な奴め……。」

 

「ぅンもぉ〜!だから怒っちゃやーよぉおねーたまぁ!

 …今夜辺りサービスしたげるから…許して?ね?」

 

「っ!!き…貴様が云うと洒落にならん!!」

 

「ウェヒヒヒヒヒヒ!!

 やっだぁ!レディおねーたまウっブぅい!!」

 

…随分と賑やかな逃避行になりそうである。

 

‡………‡………‡………‡

 

その頃、ニビルシティの南200海里沖の海中では、水面から射し込む光が奇妙に曲がり、群れ泳ぐ魚が時折鏡写しになる奇妙な場所が二つあった。

 

しかし、周囲に漁船も無く、気付く者など居る筈も無かった。

 

『…見た事も……無いゾイド…どう…思う?』

 

モニターの明かりのみが照らすコックピットの中で、HUDを被る女がボソボソとか細い声で相方に問うた。

 

別機体の相方は、同じ女でありながらモニターの前でだらしなく股を開き、淫靡だが下品にロリポップキャンディーを舐め回している。

 

『…………ちょっと……聞いて……る?』

 

『ッハァァァァ?知らねーし!聞いてねーし!アヒャヒャ!

 まァFxxkスんなら負ける気しねーケドよォ〜…要塞級相手すンのマジだりぃしィ〜

 賞金が掛かってなきゃ無視っちゃえばいージャン?

 …Fxxkした後でサイッコーのオカズに出来ンなら、アタシの自慢のCxxkであの×××本気でFxxkシてやってもイイケドなぁ!!ギャハハハハハハハハ!!!』

 

漸く口を開いた女は下品な言葉とFワードを連発し、知性の欠片すら見えない。

 

が、モニターに映る『其れ』を見つめるその眼には、獲物を捉えて離さぬ狩人の焔が燃えていた。

 

『……聞いてる…………じゃない………

 …一応…姐さんに報告……するね…』

 

『お好きにドーゾー、アタシは知らネーヨ』

 

『……ホントは……狩りたい………んでしょ……アレ。』

 

『っせンだよテメー!…っきしょォ最近Fxxkシてねーから溜まってンだよコッチはよォ!!

 …コレ以上アタシ滾らせンじゃねーよ…

 マジテメーFxxkすンぞ固羅?』

 

下品な物言いの女は息を荒げ、目を血走らせる。

 

その興奮は口から並べ立てる性的な物では無く、闘争心の昂りによる物であった。

 

『…ヒヒ!…イイよ…ウチで……今……シても…!』

 

下品な女の言葉を受けてか、か細い声の女の声にも熱が篭る。

 

か細い声の女の眼も、いずれ見れるであろう『其れ』が壊れる様を想像し、期待と興奮に満ちていた。

 

彼女もまた、ある種の闘争狂であるらしい。

 

『……テメーはアイツをブチ犯した後な。

 哭かして、噴かして、逝かせてからテメーだ。

 ヒヒ…ギャハハハハハハハハ!!!』

 

『……楽しみ……に……してる……ひ……ひ……ヒヒヒ!…ヒ……!』

 

光学迷彩に身を包み、不気味に嗤う二体のディプロガンズの主が、遥か上空の監視衛星を介し、モニター越しにバハムートを見下ろしていた。

 




さて、さて、さて、この物語のもう一人の主人公とも言える主要キャラクター、ゲシュタール帝の登場と相成りましたが、いきなりピンチの状態に。

彼(?)の動向もこの物語の中核となります。

また、此処で漸く古代ゾイド人(らしき人物)のアルゥも、主人公達の輩に。

このキーパーソン達の動向が如何なる物語を紡ぐのか。
御期待頂けると幸い至極。
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