・この物語はZOIDSシリーズ、及びゾイドバトルストーリー等の世界観を元に作成された二次創作です。
・オリジナルキャラクターが多数登場します。
・今の所、各アニメキャラの出演は予定しておりません。
同名の別人、若しくはパラレルワールドとお考え下さい。
(時系列、物語的に矛盾が生じる可能性が大きい為、ご了承下さい。)
・デスザウラーは破滅の魔獣的な位置付けではなく、ガイロスやネオゼネバスの主力ゾイドの一つになっています。
・今回緩い『尋問』という名の拷問表現あり。
・今回(自称)結構な性的表現あり。
・上記を踏まえた上での閲覧をお願いします。
薄暗く狭いキャビンの中で、二つの影が寄り添っている。
影の一つは、傍らのサバイバルキットを開き、飲料水とレーションを取り出した。
「お前様、御加減の程は…」
『大事無い……赦してくれ、レジー。
…昔から君には苦労ばかり掛ける。』
もう一つの影は気丈に振る舞うがしかし、傍目にも心労と疲労を見て取れる。
「良いのです…此れが妻の務めですもの。
さ、お水と食べ物を。
お前様…今少しの辛抱ですわ。」
『……済まぬ……。』
二つの影が再び寄り添うと、其処に日の光が差し込み、二つの影の姿を照らし出す。
表向きはゼネバス城の爆発により、生死不明とされるネオゼネバス帝国皇帝、皇后の二人。
ゲシュタール帝とレジーナ后である。
世間が再び牙を剥いた戦争という獣に脅かされ始めて、今日で6日が過ぎた。
衛星軌道上の廃衛星を隠れ蓑にした改造ゾイド『ステラス』は無情にも、
ネオゼネバス皇帝皇后両陛下の崩御、
シュヴァイツァー元帥が名誉の死を遂げたという二つの報道を傍受していた。
「おのれ…獅子身中の蟲共め…
死体も無しにいけしゃあしゃあと…
この期に及んでまだ茶番を続けるか!」
ステラスのコックピットでシュヴァイツァーは、己が君主夫妻と自らの死を嘯く報道に、苦虫を噛み潰していた。
『是非も無い。
彼奴等にとって、己が正体を知り置く余の存在は帝国を傀儡に変えるに最も邪魔な存在。
手早く消すに越した事はあるまい。
…気掛かりなのはルイーズ大統領閣下だ、
このままでは彼女も血縁の者も、命が危うい。』
「ルイーズ大統領閣下とその血縁の方々が…?
畏れながら、大統領閣下は正当なムーロアの血族。
彼奴等に担ぎ上げられど殺される筈は…!」
無いと言いかけたシュヴァイツァーは、その言葉を固唾と共に飲み込んだ。
ゲシュタール帝の云う『彼奴等』が何者であるかを、その目的と共に悟ったのだ。
「…まさか…此度の戦は目隠し!!」
『そうだ…真の敵の求むる所は、
血でも、地位でも、まして国でもない。
ニカイドス島へ急げ、シュヴァイツァー。
恐らく、ルドルフ陛下も彼奴等に御命を狙われるに違いあるまい。』
「御意!!」
『…彼奴等を此処まで野放しにしてしまったのは余の失態…
惑星Ziに生きる民の為にも、一刻も早く彼奴等を止めなくては…!』
惑星Ziのたわんだ水平線を、ステラスはなぞる様に加速した。
‡………‡………‡………‡
【巣くうモノ】
‡………‡………‡………‡
紫煙満ち溢れる会議室で、あからさまな苛立ちを隠そうともせず、熊の様な体格の男は遅々として進まぬ捜査報告を聴いていた。
「……以上が、今回の捜査報告となります。」
「…つまり、大統領閣下の捜索は、
未だ何も進展していない、と。
そういう事かね?
キティ伍長。」
「はっ!!申し訳御座いません!少将閣下!!」
その言葉が終わるや否や、会議室のテーブルの一つが真っ二つに割れ、うず高く捩じ込まれた煙草の吸い殻が灰皿ごと吹き飛び、炸裂した指向性地雷(クレイモア)の様に吹き飛んだ。
「馬ッ鹿者ォ!!!!!
だったらさっさと捜査に戻れィ!!!!
進展有るまで報告は要らぁん!!!!」
「ぶぁ!?
しっ…失礼致しましたぁっ!!」
頭に喰い付かれんばかりの怒号を受け、キティ=アリエラ伍長は半ば転げる様に会議室を飛び出した。
「…気持ちは判らないでもないが、
余り私の部下に当たらずで頂きたいな、
グレゴリオ少将殿。
あれでも中々見所ある兵士なのだよ。」
ガイロス帝国の紋章を軍帽に掲げる女将校が、怒り冷めやらぬ男、
グレゴリオ=レキシントン少将に静かに語り掛けた。
「御言葉ですがアーデルハイド中将閣下、
此れはヘリック共和国と!
ネオゼネバス帝国両国の!
存 亡 に 関わる!!
極 め て!重大な事件ですぞ!?
戦時の最中とは言え!
一週間以上も捜査に進展が無いのです!
お陰で自分は共和国軍部の恥晒しだ!!」
今まで以上に感情的になったグレゴリオ少将を尻目に、ガイロス帝国の女将校、
アーデルハイド=バウムガルテン中将は静かに軍帽の居住まいを直した。
しかし、そんなアーデルハイド中将を他所に、グレゴリオ少将は尚も捲し立てる。
「…確かにガイロス帝国は政治的不介入を宣言し、
公にヘリック、ネオゼネバス両国に介入する事は出来ないのは重々承知の上です!
ですが!その両国元首が不在のまま勝手に事が進み!
両国が共に身に覚えの無い罪を問われ!!
其れが原因で要らぬ戦争が始まっているのです!!
ですが!!!」
「その要らぬ戦争を止める為の超国家治安維持特別機動部隊、
通称ガーディアンフォースの筈ではないのか。
…そう、言いたいのだろう?
グレゴリオ少将殿。
…だが、我々の権限にも限界がある。」
冷たく光る碧眼の視線がグレゴリオ少将の眼を射抜く。
まだ感情的とは言え、グレゴリオ少将の眼には少なくとも、冷静な光は失われていなかった。
周囲に下士官が居ないと確認すると、アーデルハイド中将は会議室のドアを閉め、くすりと笑みを溢した。
「…其処まで昇っても相変わらず熱い男ね、グレイ。」
「フン!!…お互い様だこの隠れお転婆。
冷静沈着過ぎるのも考え物だぜ、ハイジ。」
互いに煙草に火を灯し、一服。
揺れる紫煙と吐き出される白煙が、全く同じタイミングで入り交じる。
そして、アーデルハイド中将が煙草を灰皿に三回、ゆっくりと打ち付ける。
「(…内訳は?)」
「(耳2、眼2、出歯亀1)」
互いに何気無い仕草を暗号に、脅威を伝え合う。
グレゴリオ少将とアーデルハイド中将のみが知る、盗聴、盗撮、監視危険度のサインである。
「…Sxxt…」
グレゴリオ少将は腕時計を見やり、そのスイッチを押す。
プシュッ……ズンッ
壁や床が低い唸りを上げ、扉が余圧室の様な音を立てる。
その刹那、壁掛け時計と部屋のコンセントから、何かが弾ける音がし、二つの出入り口付近でも、何かが弾ける音がした。
先程グレゴリオ少将の押したスイッチによって発生した特殊電磁波により、仕掛けられた盗聴機、盗撮機器は破壊、無効化される。
同じく作動した特殊隔壁は電波から音波に至るまで、あらゆる『波』を遮断している。
今この会議室は外界から完全に隔離された空間となっているのである。
「…五分だ、それ以上はヤバい。」
「Ja(了解)」
手慣れた様子で机の上に腰掛け、軍帽を脱ぐ。
「…グレイ、コレを見て欲しいのだけど…」
アーデルハイド中将は胸元から一通の封書を取り出し、グレゴリオ少将に手渡した。
一見只の在り来たりな封書には、
赤く『A』一文字が記されている。
「グレイの勘、今回アタリかも知れないわ。」
「ヤッパリかよ…クソッタレ!
…ガイロスのお上にゃ出したか?」
「敵の手が入ってるかも知れない所に、
こんなの出せると思う?
あくまでガーディアンフォースで対処よ。」
中にはルドルフ皇帝のニカイドス島訪問期間中の予定表と、そこで行われる三国緊急会談の日程表が記されていた。
「…ケッ…俺達ゃ相変わらず貧乏クジ引く係かよ…」
「そうでも無いわ。
特大の貧乏クジは、ネオゼネバスの正義のヒーロー
…いえ、ヒロインが引いてくれたもの。」
そして、同封された写真には、バハムートから一台のジープに駆け寄るレディ、ジーク、ベルセルクの三人が写されていた。
「…そりゃァ良い。
漸く俺様にもツキが回って来たらしいや。」
「それと、死んだって云うネオゼネバス皇帝、皇后、元帥の三人、まだ生きてるわ。」
「…その二組、ニビルに着けるのかよ?」
「着かせるのよ。
其れが今回の私達の仕事。」
資料を封書に入れ直すと、くしゃりと丸めて灰皿に載せ、煙草を押し付ける。
途端に封書が白く輝く様に燃え上がり、煙草の吸い殻に混じった。
「……クソッタレ、ヤッパリ貧乏クジじゃねえか。」
「何時もの事じゃない。私の可愛いテディ?」
今度良い店紹介するわ。
そうグレゴリオ少将に耳打ちして、アーデルハイド中将は隔離空間から解除された会議室を後にした。
‡………‡………‡………‡
「とほほであります…
グレゴリオ少将閣下はやっぱり恐いお人なのであります…」
ガーディアンフォース本部内の食堂で既に空になったペットボトルを抱え、
キティ伍長は大きな溜め息を吐いた。
彼女の所属する部隊が大統領誘拐事件の捜査と云う大役を仰せつかったものの、必死の捜索にも関わらず、誘拐犯を示す証拠所か、それらしい証言すら獲られていないのだ。
「(それにしてもオカシイのであります…)」
証拠や証言が『出なさ過ぎる』のである。
犯行当日の現場周辺には、数多くの一般人が日常生活を営んでいた。
警備員、
郵便局員、
移動露店、
店舗群、
オフィス群、
配送業者、
ゴミ集積業者、
反ゲシュタール派のデモ行進参加者、
反ムーロア派のデモ行進参加者、
その他移動中の一般市民。
事件のあった共和国立連邦会議場の周辺には、これだけの種類の日常生活が無数にあった筈である。
其れも共和国大統領と共和国参議院、ネオゼネバス帝国議会の重鎮達の誘拐という、二国家の存亡に関わる程のVIPが一挙に拐われた大事件にも関わらずである。
しかし、その何れもが知らぬ、存ぜぬの一点張りなのだ。
更に犯行当時、謀った様に周辺基地から追跡隊の出動が遅延するというトラブルが発生。
事前に犯行グループが細工をしていたにしても、24時間体制で忙しなく回る共和国軍の基地、それも100km圏内の基地、大小併せて65箇所全てで同時にトラブルが発生するとは思えない。
基地の取り調べを行った同僚達も、皆空振りの調査結果に終っている。
「(…全ての基地に共犯者が居るとしか考えられないのであります。)」
そもそも、共和国軍部は両国議会がムーロア、ゲシュタール両派に割れた後も、頑なに政治介入を拒んでいた。
だが、ゼネバス城爆破消滅事件の後、ルイーズ大統領はヘリック、ネオゼネバス両国議会のゲシュタール派共々誘拐され、現在も安否は定かでない。
其所へ帝都襲撃事件である。
両国元首が不在のままにも関わらず、
勝手に両国議会が宣戦布告、
混乱収まらぬまま戦争が始まり、
中央大陸は疎らな小競り合いが各地で起こっている。
ネオゼネバス帝国ではゲシュタール帝崩御のニュースと共に、些か派手な国葬が行われている。
第一、何故政治介入を拒んだ筈の共和国軍部が『ムーロア派』を名乗るのだろうか。
誘拐を隠れ蓑に、消えたルイーズ大統領が彼等を裏で操っている可能性はある。
しかし、終戦後も賢君として名を馳せた、あのルイーズ大統領がそんな御粗末な茶番劇を演じ、回りくどい事をするとは思えない。
では一体誰だ?
この戦争によって『一番利益を得る』のは誰だ?
ガイロス帝国?
否、ルドルフ皇帝は非常に穏健な政治を望んでいるし、かのギュンター・プロイツェンと同じ愚を冒す筈が無い。
そも、現皇帝の人的性質と、ガイロス帝国という国柄を鑑みたとしても、この様な小狡い手で漁夫の利を狙う事は、誇り有るガイロス帝国の名に泥を塗る。
万が一、皇帝やガイロス帝国議会が望んでいるとしても、この様な暴挙を他のガイロス帝国議会と首脳陣が黙って見過ごす筈が無い。
あまつさえ、ヘリック共和国とネオゼネバス帝国両議会が二分された際、早々に政治的不介入を示し、混乱の平定にのみ協力すると宣言してしまっている。
その掌を返し、その陣頭に立って混乱を助長したとあっては、今度はガイロス帝国民達が黙っては居るまい。
自国民の反乱というリスクを負ってまで、この戦争を引き起こしたとは考えられない。
ヘリック共和国?
有り得ない。
ムーロア派の掲げる『ムーロアの血族』であり、影響力の最も高いルイーズ大統領を捨て駒にする筈が無い。
ガイロス、ネオゼネバス両国よりも、共和制という性質上議会の規模は桁違いに広く大きい。
其れを一挙に纏め上げるには、ルイーズ大統領という存在以外に有り得ない。
要たるルイーズ大統領を欠いた状態で、しかも自国議会の半数以上が大統領と共に拐われている状態だ。
自国のみならず、ネオゼネバス帝国までも操るには、些か力不足だ。
何れにせよ、戦争を引き起こす程の大儀を掲げる為には、その象徴たるルイーズ大統領に疑惑が掛かる様な真似は出来ない筈である。
ネオゼネバス帝国?
莫迦な、ムーロア派が現れる切っ掛けとなった中心人物が、どうやってムーロア派を動かせると云うのか。
そも、表向きは既に故人。
それもヘリック共和国の陰謀によって消された事になっている。
もし自らの存在を消しておいて、共和国に対する仇討ちという大義名分を果たすなら、寧ろ生きていては都合が悪い。
もし生きているとすれば、帝国民の意識を打倒ヘリック共和国に向けるこの上無いデモンストレーションを、自ら潰す事になる。
ネオゼネバス帝国議会ムーロア派が暗躍しているとしても、議会のほぼ半数は拐われたゲシュタール派。
共和国同様、自国を操るにも共和国を操るにも、その影響力は共和国以上に小さい。
「うんにょ〜〜〜〜〜……………」
考えれば考える程、根拠も確証も無い憶測が現れては消えて行く。
しかし、ただ一つだけ『絵空事としか思えないが』妙に辻褄の合う仮説が残っていた。
無意識に弄っていたのか、手元のペットボトルはくたくたに潰れていた。
「随分と難しそうな顔をしているな、キティ伍長。」
ふと声を掛けられ見上げた視線の先には、アーデルハイド中将が静かに佇んでいた。
「しれぇ…」
「『ラッキー・キティ』が『アンラッキー・キティ』になっているぞ。」
何時の間にか寄っていたキティ伍長の眉間のシワを、アーデルハイド中将がくにりと押す。
「ぶぁ……あ、あの、しれぇ…一つだけ宜しいでしょぉか?」
「ん?…何だ、キティ伍長。
言ってみろ。」
厭に訝しげな視線が気に掛かり、アーデルハイド中将はキティ伍長の隣席に座った。
「しれぇは今回の一連の事件、どうお考えでしょぉか?
出来れば、グレゴリオ少将閣下のご意見もお聞きしたいのですが…
お目通り出来ますでしょぉか?」
暫しの思案の後、真剣みを帯びた目線と共に、キティ伍長に言葉を切り出した。
「…………貴様、この後の予定は?」
「はっ!ヒトハチサンマルまでに提出する書類がありますので、提出後是非に!!」
「宜しい。提出完了後、私まで連絡を寄越せ。
その後の指示は追って知らせる。」
「はっ!!りょぉかいであります!!
では!失礼いたします!しれぇ!!」
ぱたぱたと軍人にしては小さな身体が、食堂から駆け出して行く。
その姿を見送ると、アーデルハイド中将は懐から通信端末を取り出し、グレゴリオ少将に連絡を取る。
「………私だ。」
『…如何なさいましたかな、中将閣下。』
「うむ、今回の事件捜査について、私の部下と今後の方針を擦り合わせしたい。
ヒトハチマルマル以降、時間は取れるか?」
『…畏まりました、取り急ぎ残務を片付けましょう。』
「済まんな、頼む。」
通信を終えて、アーデルハイド中将はある確証を得ていた。
こんな時、キティ伍長の『女の勘』は非常に良く当たる。
彼女が眉間にシワを寄せ、妙な声を上げた後の推論は、恐ろしいまでに的中するからだ。
「ふふっ…ラッキー・キティか。
言い得て妙とはこの事か。」
テーブルに残され、くたくたに潰れているペットボトルを屑籠に投げ入れ、アーデルハイド中将は食堂を後にした。
‡………‡………‡………‡
「ガイロス帝国所属ガーディアン、
キティ=アリエラ伍長だな?」
ヒトハチマルマル。
キティ伍長が書類を提出し終え、
アーデルハイド中将に連絡を取ろうと通信端末を取り出した直後、
突然共和国軍服を着た集団に取り囲まれたのである。
「…あのぉ、私に何かご用でありますか?」
武装は5.56mmと思しきマシンガンが2、
9mmと思われるハンドガンが2、
454マグと思われるハンドガン1、
『共和国軍規格から外れた』サバイバルナイフ5、
どうやら鴨が葱を背負ってやって来た様だ。
「貴官に任意同行を求める。
理由は言わずとも解るな?」
「あのぉ、仰っている意味がさっぱりなのでありますが?」
マシンガンを構えた二名がキティ伍長の後ろに回り込む。
「貴官には共和国軍ムーロア派を名乗る武装集団との内通容疑が掛けられている。
…大人しく縛に付けば、生命は保障しよう。」
「だ、そうです。
しれぇ、少将閣下。」
「何っ!?」
全員が声を掛けた方向を注視する。
その瞬間
「吐くならもう少しマシな嘘と、規格に合わせた装備で来て下さいねえ?」
キティ伍長の両袖から二本の長刀が飛び出し、マシンガン二名の両腕を切り落とす。
マシンガン二名の絶叫に振り向こうとした9mm二名は、ハンドガンに手を掛ける間も無く背中から心臓を抉られ、454マグの一人にのし掛かる。
454マグの一人は何とか死体をはね除け、キティ伍長を探すが、何処にも見当たらない。
「何方かお探しですかぁ?」
ひたり
と、454マグの兵士に冷たい殺意がまとわり付く。
「ひ…」
首筋と股座に血塗れの刃を当てられ、背中から囁かれた454マグの兵士が小さい悲鳴を上げる。
どうやら女であるらしい。
「女のヒトってぇ痛みに強いんですよねぇ…
良かったですねぇ、
出産の痛みにぃ、男のヒトは耐えられずにぃ
ショック死するそうですよぉ…」
口調は変わらず舌足らずなままだが、
背後から感じる空気はまるで別物である。
冷たく、鋭く、そして何処か妖艶であった。
ぞりぞりという音と共に器用に軍服の布地が剥ぎ取られ、女の下腹部が晒け出される。
女の最も重要な器官には、既に刃が向けられていた。
「…赤ちゃんの出口ぃ…拡張しますかぁ?」
既に命の主導権を握られている事を認め、
偽兵士は漸く454マグを地面に落とし、
両腕を頭に乗せた。
「あ、しれぇ!少将閣下!被疑者確保しましたぁ!
そちらはどうでしたか?しれぇ。」
「全く、思った以上に手が早い。
残念だが、此方は全滅だ。
尤も…」
むんず
「あいひっ…………!?!」
「力加減を間違えて握り潰してしまったのだがね。」
アーデルハイドの手が、女兵士の下腹部を鷲掴みにする。
ブチブチと肉が裂ける厭な音が響き、アーデルハイドの指が女兵士の下腹にめり込んで行く。
「きひいいいいああああ!!!」
偽兵士は下腹を貫かれた上に女の急所を締め上げられ、情けない声を上げた。
「フフフ…良い声で啼くじゃないか?
もっと啼いてみるか?うん?」
「ダメでありますよぅしれぇ。
…潰すなら私が拓きたいであります。」
「あいっ……ひぃぃぃ………!!」
ジョボボボボボ………
アーデルハイドの足下に、すえた臭いと共に生暖い湯気が立ち上る。
無理も無い。
前門のデスザウラー、後門のデススティンガーの状態である。
女の最重要器官を無理矢理掴まれる痛みと、首筋と腹に向けられている刃の恐怖。
二つの殺気に押し潰され、偽兵士はとうとう失禁してしまったのだ。
「フン、肝の小さい奴め…
本物の共和国軍はもっと根性が据わっているぞ。
まぁ良い、貴様にはたっぷりと…
ガイロス式尋問術を味わって貰おうか。
グレゴリオ少将、装甲車を一台貸せ。
それと…ゴム手袋を一パックだ。」
女の腹から指を引き抜き、事の成り行きを見守っていたグレゴリオに指示する。
「御言葉ですが中将閣下…そんな物を何に…」
グレゴリオは其処まで出た言葉を、咄嗟に飲み込んだ。
グレゴリオの見たアーデルハイドの顔は、まるで子供の様な純粋さと、この世の物とは思えぬ恐ろしさがない交ぜになった物を感じる笑顔を張り付けていたからだ。
「勿論……『尋問』だ。」
アーデルハイドは不気味な笑顔を貼り付けたまま、青い顔のグレゴリオに答えた。
‡………‡………‡………‡
偽共和国兵士がアーデルハイドと共に『尋問』の為に用意された装甲車に押し込まれてから凡そ10分後。
「ひらき………。」
「鯵で我慢しとけ。」
「ひじき………。」
「そりゃ海草だ。」
「ひでき………。」
「カンゲキ?…ってお前本当に22か?」
車外で待機せよとアーデルハイドから命を受け、キティとグレゴリオはこんな問答を繰り返していた。
装甲車はその分厚い装甲板故に内部の音を漏らさず、その内情を伺い知る事が出来ない。
グレゴリオ達の声を除き、辺りは不気味な静寂に包まれている。
「(しかしハイジの奴、マジであんな長ェゴム手袋なんざ何に使うんだ…)」
煙草に火を点けながら、グレゴリオは至極当然の疑問を思い浮かべていた。
アーデルハイドが要求したゴム手袋は、彼女の脇付近まである、家畜ゾイドの腸内検査に使用する様な非常に長い物であった。
ゾイド畜産家や軍部の野生ゾイド生育に携わる者以外、使い道の無い様な代物である。
「少将閣下、ゴム手袋が気になるでありますか?」
顔に出ていたのか、キティが首を傾げていたグレゴリオに問うた。
「ああ。まぁな。」
「あれはしれぇが得意な
『内科問診用』であります。」
「内科…何だって?」
「ですからぁ………」
『あ゛い゛い゛ぎ ゃ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ あ あ あ゛あ゛っっがあ゛あ゛ぁああ゛あ゛あ゛!!!!!』
今まで微動だにしなかった装甲車の中から、偽女兵士の血も凍る様な絶叫が響き、装甲車が縦に横にと揺れ始めた。
「あ、始まったでありますな。」
『う ぎ い゛い゛い゛ぎゃああああっ!!!
ざげえ゛う゛あ゛あ゛あ゛っっがあああああ!!!!!!!』
「……Ye GOD………」
余りに壮絶な叫び声に、グレゴリオは思わず胸で十字を切った。
微かに揺れていただけだった物が、叫び声が上がる度に、縦に横にと大きく揺れ始めた。
「ふぅ…あれがしれぇの
『内科問診』であります…んっ…。」
淀んだ瞳を羨望に歪ませ、キティの白い肌が紅潮し始める。
新たな叫び声が上がる度に熱を帯びた吐息を吐き出し、幼さが残る唇を艶かしく濡らす。
『あ゛っぎゃあ゛あ゛あああああっ!!
じぎだっっぎゃひっっお゛っごお゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛!!!
ぎゃめ゛げぇぇえ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっっ!!
ぎい゛い゛い゛い゛や゛あ゛あ゛あああ!!!』
「…あれで『尋問』かよ…」
「んぅ…はいでありますぅ。
『内臓に』『直接』『聞く』のでぇ『内科問診』なのでありますぅ。
でもぉ、マゾヒストには最高の御褒美になってしまうでありますぅ。
アレで『目覚める』事が多いのでぇ、何度も出来ないのがぁ…欠点でありますなぁ…」
顔を合わせた際に覗き込んだキティの瞳は、底の見えぬ泥沼の様に濁り、その幼い顔は桜色に火照り、羨望とも陶酔とも付かぬ、しかし妖艶で淫猥な笑みに満ちていた。
『ぎゃえ゛っっ!!!
い゛い゛い゛ィ゛ィあ゛あっ!!
お゛うぉっ!?
お゛ほぉぉお゛っっ!?
ん゛お゛ほぉぁあ゛あぁあ!!!』
「…んっ…はぁっ…そろそろぉ…仕上げっ…でありますぅ…っ!」
装甲車からの絶叫に色が混じり始めると共に、何かを押し込める様にキティが腕を抱える。
『ぷぎいぃっっ!!
ぴぎひいぃ!!
ぴぎいぃひいいぃいいぃいいぃ!!!!』
「………っ!!……………っっ!!」
最初とは異質な、歓喜とも悲痛とも付かぬ一際大きな絶叫が響くと同時に、キティの小さな身体がぶるりと大きく震えた。
「っ……ぁ……はああぁぁ…………っ!」
大きく熱い吐息を吐き出しながらキティは身体を小刻みに震わせ、額には珠の汗を滲ませていた。
…この見た目幼い女は、あの絶叫と装甲車の中の出来事を妄想し『達した』のだ。
先程まで大きく揺れていた装甲車は再び元の静けさを取り戻し、何事も無かったかの様な静寂が辺りに戻っていた。
「ん…ふ…少将閣下ぁ…
ふふっ…お喜び下さい。
しれぇが完全にぃ
『掌握した』でありますぅ。」
満足そうに微笑み、語り掛けるキティの瞳は、最早奈落の底と呼べる程どす黒く、幼さと同居する妖艶な笑みも、グレゴリオにとっては既にこの女の中に潜む物への恐怖を増長する要素でしかなかった。
グレゴリオはこの時確信し、戦慄した。
この女を怒らせてはならない。
この女は『真性のサディスト』であると。
其れから暫くして、装甲車からやけににやついたアーデルハイドが漸く姿を現した。
その後ろから、鼻を強く貫く異臭が漏れている。
アーデルハイドがぬらぬらとてかるゴム手袋を車内に投げ棄てると、べちゃりともぐちゃりともつかぬ湿った音が聞こえた。
「フフフ…中々可愛い奴だ、躾のし甲斐がある。
奴等の出所だが、調べは付いたぞ。
矢張りニカイドス島に向かわねばならぬ様だ。
キティ伍長、早速で済まんがグレゴリオ少将と会議室に頼む。
貴様の見解を聞かせてくれ。」
終始機嫌の良いアーデルハイドは、軽い足取りで本部棟へと向かっていった。
『…ぴぎぃ…えひ…
…えへぇ…ぶひひぃ…
えへ…ぴぎぃ…
ぴぎ……ぴぎいぃ……
…えへぇ…えへぇ…』
「(…中で一体何が……)」
開け放たれた装甲車の扉の中からは凄まじい異臭に紛れ、奇妙な笑いすら聞こえて来る。
恐怖と好奇心に後押しされ、装甲車の中を覗こうとするグレゴリオを、アーデルハイドとキティが制した。
この時、グレゴリオはキティとアーデルハイドの眼を視るべきではなかった。
「…構うな、グレゴリオ少将。
飯は…特に肉は美味く喰いたかろう?」
「…見たら暫く食事が出来なくなるでありますよう、少将閣下ぁ。」
微笑みかけるアーデルハイドとキティの瞳が、先程と同じくどす黒い渦を巻いている。
其れを見るや、百戦錬磨の軍人である筈のグレゴリオが、一瞬恐怖で石の様に固まった。
無理も無い。
二人の眼の嗤い方、瞳の暗さが全く同じなのだから。
背筋に薄ら寒い気配を感じたグレゴリオは、二人に言われるがまま、異臭と不気味な笑いが漏れ出る装甲車を後にした。
しかし、グレゴリオは更に戦慄を覚える事となった。
「…とてもよいこえでありましたなぁしれぇ…」
「…やはりおちるしゅんかんのこえはさいこうだなぁ…」
二人の背を見るグレゴリオに、二人の表情は伺い知れない。
しかし、その声の陽気さが、自身が前大戦中、幾度も経験した『死のイメージ』を思い起こさせたのである。
「(俺様ァ何も視て無ェ、聴いて無ェ…
忘れろグレゴリオ、忘れろ!)」
この後、会議室で何時もの眼に戻った二人を見るまで、グレゴリオは四つの嗤う奈落の底に視られ続ける感覚を味わうのだった。
‡………‡………‡………‡
「…確かに荒唐無稽だ。
今時子供向けヒーローコミックのネタにもならねェ。」
「でも、其れが現実に動いてるのよ。
…私が吐かせた情報が嘘じゃないならね。」
「並の人間がしれぇの『内科問診』に耐えられる筈がないであります。
しかし、元から虚偽の作戦を受けていた可能性を考えると、些か判断が難しい所でありますな…」
隔離空間と化した会議室の中で、アーデルハイド、グレゴリオ、キティの三人が情報交換を行っていた。
キティの仮説とは『軍需産業、特にゾイド兵器関連企業の暗躍と介入』である。
あらゆる戦争に於いて、兵器の供給と新兵器の所有がその後の戦況を大きく、そして容易く覆すのは周知の事実である。
かつての戦中、ネオゼネバス帝国と東方大陸企業『ZOITEC社』との関係が、そのまま戦況を大きく左右した要因となっていたのも事実である。
しかし、現在までZOITEC、ZiArms両社は不穏な動きを見せていない。
基地や都市への大規模な人員移動も行われておらず、大統領誘拐事件の主犯はおろか、片棒を担ぐにも些か動きが少な過ぎる。
そも、終戦による軍需部門の規模縮小により、両社には既に国家を左右する規模も、資金力も無いのが現状である。
「そうなると…容疑を掛けられるのは一つしか無えよなぁ…」
「…GAT社…」
「はい。
ネオゼネバス帝国新型旗艦の開発に携わった企業であります。」
GAT社
正式名称『グローバル・アームズ・テクノロジー・コーポレーション』
前大戦の終戦後に起業した軍事主体の複合企業ではあるが、迅速且つ高品質の商品提供を実現し続けており、その成長力と経営手腕で、ZOITEC、ZiArms両社を取り込み始めている。
新型超収束荷電粒子砲、
重力コントローラー、
ピンポイントEシールド、
グラビティモーメントバリアシステム、
有人仕様キメラBLOXゾイド等、
その他にも全くの新技術やかつて失われた技術、新旧問わぬゾイドをも蘇らせ、今や惑星Ziの軍需産業を一手に引き受けている。
軍事産業以外にも、
交通機関、
アパレル産業、
生活必需品、
教育機関等、
今や惑星Ziに於ける『トイレットペーパーから荷電粒子砲まで』ありとあらゆる産業を担っている。
何より、バハムートの開発人員の提供、三国が所有する基地、都市への大規模な技術人員提供、実地テストという名目こそあれ、三国への新型ゾイドとそのパイロット提供等、今回の一連の事件に関わる要素を全て持ち合わせているのは、このGAT社だけだ。
裏を返せば自社で揃えた兵員を共和国、ネオゼネバス両国に偽装する事も、
提供した自社人員を使い、無数の基地へ短期間で妨害工作を行う事も、
献金と云う名の政治資金の提供をちらつかせる事で、議会を買収する事も可能なのだ。
そして、一度戦争という一大マーケティングプレイスが展開されれば、国を問わず自社製品に注文が殺到し、更に膨大な利益が手に入る。
準備に幾らか高額な『先行投資』を行った所で、戦争規模が大きくなればなる程、軍需利益は雪だるま式に膨らんで行く。
其れが前大戦以上の規模を持つ戦争となれば、元を取り戻し、更に利益を得るのは容易い。
だが強大とは言え、果たしてたかが一企業に国を操り、戦争を引き起こせる程の力が有るのだろうか。
その疑問が辻褄が合うとも、この仮説を荒唐無稽な絵空事としている最大の要因である。
しかし、アーデルハイドが引き出した情報が、その荒唐無稽な絵空事に現実味を帯びさせたのである。
「今までの動きと各情報を整理すると、
黒幕の次の狙いは間違いなく我が祖国。
ガイロス帝国現皇帝であるルドルフ陛下よ。」
「……畜生、ヤッパリ特大の貧乏クジじゃねえか…」
「其れでニカイドス島、という事でありますか、しれぇ。」
元々、ネオゼネバス帝国新型旗艦の観艦式という名目で、ルドルフ帝のニカイドス島訪問が予定されていたのだが、此度のレディ准将反乱事件、及び第三次中央大陸戦争の勃発に伴い、ニカイドス島訪問の予定はそのままに、ルドルフ帝を伴った三国議会による緊急会談を行う事となったのである。
「そして観艦式…もとい緊急会談の会場設営から警備員提供、期間中ルドルフ皇帝が滞在する宿泊施設の手配、この全てを用意したのが…」
「そのGAT社、でありますか。」
「Ja。」
短く肯定するアーデルハイド中将の横で、グレゴリオ少将が煙草を灰皿に手荒く押し付けた。
「…クソッタレ、よくあのホマレフのじいさんが許したもんだ。」
「いえ、少将閣下。
この情報と推論が正しければ、ガイロス帝国議会も恐らく…。」
「Ja。
我が国の帝国議会は、ホマレフ宰相一人を除き、満場一致でこの訪問を是と決定しているわ。
既にガイロスだけでなく、他国の議会中枢まで黒幕の手が入っていると見て間違い無いわね。」
「おいハイジ、って事ぁ……。」
暫しの間、三人の間に重い沈黙が続く。
三国の議会中枢に黒幕の魔手が及んでいるという事は、その議会中枢が管理責任を負うガーディアンフォースにも、黒幕の息の掛かった将校が食い込んでいるという可能性が非常に大きいのである。
「はい、少将閣下。
考えたくはないのでありますが…。」
「…答えは”Ja”よ、グレイ。
最早私達の周囲に味方は居ないも同然でしょうね。」
「Fxxk…冗談じゃねぇぜクソッタレ…」
再び重い沈黙が場を支配する。
この隔離空間から一歩出た外は、全て敵の息が掛かっている様な物なのである。
「…ようし、判った。」
火の点いた煙草を素手で揉み消しながら、グレゴリオ少将は勢い良く立ち上がった。
「ハイジ、お前は最も信頼出来る直属の兵だけを集めてニカイドスに飛べ。
俺様も直轄の手練れを集めて直ぐニカイドスに飛ぶ。
キティ、お前は第八デッキに待機させてる『あるゾイド』を使え。
手の付けられねえじゃじゃ馬だが、お前なら飼い慣らせる筈だぜ。」
「Ja!」
「りょぉかいであります!!」
「さぁて…久々に俺様も『人喰い熊』に戻るかよ…」
未だ全容の見えぬ闇に対し、グレゴリオは瞳の奥で、かつての闘志を再び灯し、燃やすのであった。
‡………‡………‡………‡
「お疲れ様であります、ビッグス曽長殿、ウェッジ曽長殿。」
「よぉ、キティ伍長、お疲れ。
しかし災難だったなぁ、偽の共和国兵士に拉致られかけたんだって?」
第八デッキ前で、キティは待機していた共和国軍兵士の二人と話していた。
「馬ぁ鹿ビッグス、キティ伍長が俺達の偽物野郎に捕まるタマかよ。
5人全員、伍長が片付けたに決まってらぁ。」
「ハハハ!違ぇ無ぇなウェッジ!
何たってあのアーデルハイド中将閣下のお気に入りだからな!」
会話の最中、さりげなくウェッジ曽長が影となり、その影の中で、ビッグス曽長はキティにそっとカードキーを手渡した。
「…『例のモノ』は第三カタパルトに準備は出来てるぜ。
俺達の手で、直ぐにでも発進可能にしてある。
…気ィ付けてな。」
「俺達もグレゴリオ少将閣下と急ぎお前の後を追う。
…無事に戻って、ベルセルク大佐殿とまた呑み行こうぜ。」
「………りょぉかいであります…!」
三人は共和国式の敬礼を交わし、キティは指定のカタパルトへと駆けていった。
「……可愛いよなぁ。」
「……ああ、可愛い。」
「……泣かせたくねえよなぁ。」
「……ああ、泣き顔は厭だな。」
「…でも、ベルセルク大佐の彼女なんだよなぁ。」
「…ああ、たが伍長の為に命を賭けるのは嫌じゃない。」
「…あの娘笑顔も可愛いもんなぁ。」
「…ああ、あの笑顔は最高の勲章だ。」
「そんじゃ…オレ達も征くかよ、相棒。」
「ああ、征こう。」
二人は愛機である改造ストームソーダー『ショックウェーブ』へと歩き出した。
と、其処へ、慌てた様子でキティが駆け戻って来た。
「んあー?何だァ?」
「どうした伍長、忘れ物でもし――」
ピュンッ
そう言いかけたビッグス曽長の頬を、高速で飛ぶ何かが掠めた。
じんわりと焼ける様な痛みと熱が込み上げ、汗よりも粘性の高い液体が垂れる感覚を覚えた。
「おおい、ウェッジ…」
「…ヤバそうだぜビッグス…」
「そぉぉぉちょぉぉぉどのぉぉぉぉぉ!!!」
見ればキティの後ろから、一個中隊程の偽兵士群がわらわらと迫って来ていた。、
「「「戦略的撤退ーーーーー!!!!」」」
流石のキティも一個中隊が相手となると、分が悪い所の騒ぎではない。
三人は脱兎の如く駆け出し、格納庫入り口まで逃げ帰る羽目になった。
格納庫の扉の裏に滑り込んだ直後、銃弾が雨霰の如く扉や床にに打ち付けた。
「ふひーっ!間一髪!
本隊は『フレスベルク』に集まってたって訳かよ。
…カタパルトの操作端末室がらんどうだったのになぁ…」
「考えて見りゃあ、そりゃそうだ。
奪取されたバハムートの専用BLOXゾイドだもんな…
そりゃ現物のガードは堅ぇわ。」
「へうぅ……あの仔は……」
銃撃の雨が続く中、キティが涙声で何かを呟く。
「あん?どうしたよ伍長。」
「あの仔はベルセルク大佐殿が設計に携わった、大事な大事なBLOXゾイドであります!
大佐殿に届けなければあの仔が可哀想であります!
誰だって家族と離れるのは辛いであります!悲しいであります!!」
何かとフレスベルクが重なったのか、キティは大粒の涙を流し始めた。
「…おい、ウェッジよう。」
「…何だ、ビッグスよう。」
「…泣き顔は宜しく無えよなあ…やっぱ。」
「…ああ、良くない。後味も夢見も悪い。」
「…泣かせた奴ァメチャ赦せんよなあ?」
「…ああ、漢(おとこ)の風上にも置けない屑だ。」
「…ほんじゃあよ、ウェッジ…一丁…」
「…ああ、そうだなビッグス…一丁…」
その瞬間、確かにキティはその耳で、
ば つ ん
と、『何かがキレる音』を確かに聴いた。
「「テメーら命(タマ)張る覚悟出来てンだろーなァ固羅ァァァァァァァ!!!!」」
降り注ぐ銃弾の雨を物ともせず、ビッグスとウェッジが猛然と偽兵士群に突っ込む。
素手で。
突然の素手の突貫に混乱したのか、偽兵士群はろくな発砲も出来ず二人の接近を許してしまった。
「う…撃ち方止め!!同士討ちにな――ペげえっ!?」
発砲停止命令を出した偽兵士の顔面に、ビッグスの拳が文字どおり『突き刺さった』。
この時、顔面を潰された隊長格であろう偽兵士は、三つの致命的なミスを冒していた。
「あんな可愛いオンナノコをよォォォ!」
「てぎゃ?!」
「あぎっ!!」
「ぷげぅ!?」
一つ
至近距離まで近付かれ、早々に発砲停止命令を出した事。
「大の大人が寄って集ってェェェェ!!」
「びぃえ!?」
「ぎぴっ?!」
「ごえぅ!!」
二つ
二人が肉弾戦闘、超至近距離戦闘のエキスパートであると知らなかった事。
「虐めて泣かしやがってよォォォ!!!」
「のぎょ?!」「ちょぶ!!」「んがょ!?」
三つ
「「女(ヒト)の恋路を邪魔する野郎は!
俺達が絶対に赦さねェェェェェェ!!」」
「ヒィィーーーーーーーー!!?!?」
彼等二人に、恋する女の悲しみの涙を見せた事である。
‡………‡………‡………‡
「諸君、勤め御苦労。」
「こ…これはアーデルハイド中将閣下!!
…出動命令が出たとはまだ聞いておりませんが…」
敷地内のガイロス帝国軍ゾイド格納庫に、アーデルハイドとその腹心二名が率いる第七機甲師団が出揃っていた。
ガイロス帝国が誇る一騎当千の強者達の眼光に、思わずガイロス帝国の巡視兵達はたじろいだ。
「特務である。
ルイーズ大統領誘拐事件の折、多数のゾイドに妨害工作が行われていた。
ガーディアンフォース内部に敵工作員が潜伏している可能性も有り、早急な対策を命じられている。
…此処を開けろ。」
グレゴリオ少将の署名入り命令書を片手に、格納庫の開門を命じる。
「いや、ですが…」
「開けろ、と言っている。
それとも、この命令書が見えん程、貴様の眼は節穴か。」
「…あ…いえ…その…おぐっ?!」
何かを言い淀む巡視兵だったが、突如アーデルハイドの左手が巡視兵の顔を掴んだ。
女の細腕、しかも利き手では無いとは思えぬ程の握力を受け、巡視兵の顎からミシミシと骨と歯の軋む音が聞こえ始める。
「…フム…貴様、見ない顔だな。
所属とIDは。
何時入隊した。」
「へひ…が…ガーディアンフォース…巡視…」
ドゴンッ
何時の間にかアーデルハイドの右手に握られていた大口径リボルバーが、巡視兵の心臓を撃ち抜いていた。
「誇り高きガイロス帝国軍を騙る愚か者め。」
偽装が発覚した事で幾人かの偽巡視兵が銃を構えるも、
瞬く間に『本物の巡視兵』によって射殺されて行く。
所属とID。
これはガイロス帝国兵ならば誰もが知り置く、自身の所属部隊と階級を現す呼称であり、ガーディアンフォースでの部署を示す物ではない。
しかし、撃たれた巡視兵は真っ先にガーディアンフォースの所属を述べようとした為、アーデルハイドは偽物であると判断したのだ。
既に絶命した偽巡視兵を片手で放り投げ、アーデルハイドは後続の部下達に向き直る。
「我が誇り高きガイロス帝国第七機甲師団の闘士諸君!
我等と我等が誇る各国同志達を侮辱する者共の卑劣を徹底的に洗い出せ!
抵抗、妨害を為す者は即刻射殺して構わん!!
本作戦は我等がルドルフ皇帝陛下の御身!
延いては陛下の敬愛する各国同志を御護りする為の栄誉ある物である!!
今こそ!皇帝陛下への忠誠を見せる時だ!!
良いな!!!!」
ガイロス式の敬礼を行い、その姿勢のまま、声高らかに命令を下す。
『『『ジーク・ハイル!!ハイル・ルドルフ!!!』』』
部下達の力強い敬礼と共に、本物の巡視兵達によって、格納庫の扉が次々と開いて行く。
「状況開始!!」
『『『『Ja!!!!!』』』』
力強い敬礼と共に、一騎当千の強者達が、一斉に格納庫へと雪崩れ込んで行った。
かなりの数の偽兵士が配備されていたのか、断続的に銃撃音が格納庫のあちこちで響いている。
「…気に食わんな。
私の鼻先で勝手を働きおって…」
「…御姉様、我が『フォイアードラッヘ(炎の龍)』の用意、整いまして御座います。」
アーデルハイドの右に音も無く、彼女の腹心であるブリギッタ少佐が並ぶ。
「ハイハイハーイ!おねえたま!
クリスの『ヴィンテルドラッヘ(冬の龍)』ちゃま、準備完了ですの!」
続けて左に、天井から降り立ったクリスティアーネ少佐が並ぶ。
彼女もまた、アーデルハイドの腹心の一人であった。
「Gut。(宜しい)
私の『ブリッツドラッヘ(雷の龍)』の準備は如何か。」
「既に。」
「滞り無くー!」
「Gut。
取り急ぎニカイドス島への行軍準備を急がせろ。
妹分に遅れを取るなよ、お前達。」
「「Ja!」」
敬礼と共に、二人の腹心はまた音も無く気配と姿を消した。
「さて…久々の『ドライ・ドラッヘ・シュヴェステルン(三龍姉妹)』揃い踏みか。
…クックックッ…何処の馬の骨か知らんが、誇り高き我等ガイロス帝国の名に泥を塗った事を、地獄の釜の底で思い知らせてくれよう…。」
サーチライトの写し出す影の中で、アーデルハイドは『尋問』前に浮かべたあの笑みを、再びその顔に貼り付けていた。
‡………‡………‡………‡
「ぃよォぅ!野郎共ォ!!」
「「「「「押ォ忍!!『御帰りなさいやし』親父(オヤッ)さん!!
御勤め、御疲れ様で御座いやす!!」」」」」
共和国軍ゾイド格納庫に、まるで仁侠映画の様な光景が広がる。
格納庫入り口からグレゴリオ専用機である改造ゴジュラスギガ『ブラッディヘルム』に続く道の両脇に、共和国軍将校から一兵卒に至るまで、全員が頭を下げ、ズラリと並んでいるのである。
その道のど真ん中を、軍服の上着を肩に羽織ったグレゴリオ少将が、肩で風を切りながらゆっくりと歩いて行く。
彼等の名は、人呼んで『人喰い師団』。
表向きは共和国軍の中でも札付きの悪漢共が揃い、共和国軍内で『最後の更正部隊』と呼ばれる、所謂『はみ出し者の溜まり場』である。
しかし、その実態はグレゴリオ少将を『親父(オヤッ)さん』と呼び慕い、グレゴリオ少将にのみ絶対の忠誠を誓う、共和国軍唯一の超法規的軍警察集団。
悪によって軍法で裁けぬ悪を喰らう、正に『人喰い師団』である。
「ィ野郎共ォ!!よォっく聴けェい!!」
「「「ぅ押ォォ忍!!」」」
「何ッ処の馬の骨か知らねェが!
俺様達の大統領(オッカサン)に手ェ出しゃあがった糞野郎共が居るなァ知ってんなァ!!」
「「「ぅ押ォォ忍!!」」」
「その糞野郎共が!
今度ァ俺様達の同盟国(ダチコウ)に手ェ出しゃあがったのも知ってんなァ!!」
「「「ぅ押ォォ忍!!」」」
「その糞野郎共がなァ……」
ブラッディヘルムの前に立ったグレゴリオは、鬼の形相で振り返った。
其処に居るのはガーディアンフォース所属の少将の貌(かお)ではない。
かつて『人喰い熊』と呼ばれ、恐れられた、一騎当千の古兵(ふるつわもの)の貌である。
「俺様の惚れた女にまで手ェ出しゃあがったァッ!!!」
「あ゛にィィィィ!?!?」
「親父さん!!オレぁもう勘弁ならねェ!!」
「カチコミましょうや親父さん!!」
「アーデルハイドの姐さんに手ェ出しゃあがっただぁ!?」
「きっちり落とし前付けさせやしょうぜ!!」
グレゴリオの一言に、格納庫全体が怒りの色に染まる。
銃や改造ヒートマチェット、ミサイルランチャーを手に、怒りの波が格納庫に広がって行く。
「手前ェら静かにしろィ!!」
グレゴリオが両腕を大きく掲げ叫ぶと、格納庫内は水を打った様にしんと静まり返った。
「俺様ァ此れから、惚れた女と同盟国(ダチコウ)を護りにニカイドス島にカチコむ!!」
「「「ゥ押ォォォォォ忍!!」」」
「だァが野郎共ォ!!忘れてンじゃァ無ェだろゥなァ!?
人喰い師団ッ大ッ原則ゥゥゥゥゥ!!
手前ェらの護ンなきゃァならねェモンは何だァ!!!」
「「「一ォつ!共和国(テメエ)の平和(タマ)!!
二ァつ!同盟国(ダチコウ)の平和(タマ)!!
三ィつ!共和国(テメエ)の軍法(ダイモン)!!」」」
「ソイツに泥ォ塗る奴ァどうするゥゥ!!」
「「「権限(エンコ)剥奪(ツ)めて監獄(ジゴク)に投獄(ブチコ)む!
軍法違反者(ダイモンヨゴシ)に情けは無用!!」」」
「ソイツを護る奴ァ誰だァ!!!」
「「「俺達無敵の『人喰い師団』!!戦犯者(カスドモ)追い掛け骨まで喰らう!!
狙った容疑者(エモノ)は逃がしゃァしねェ!!」」」
「良ォォォし!理解(ワカ)ってんなァ!!
俺様が帰るまで、糞野郎共に好き勝手さすンじゃねェぞォ!!
…大統領(オッカサン)と共和国(ココ)ァ手前ェらに任せたぜ!!」
「「「ゥ押ォォ忍!!
親父さん!!
征ってらっしゃいやし!!」」」
全員が一斉に敬礼する姿を見届け、グレゴリオは満足そうに振り返り、ブラッディヘルムに向き直る。
「ブラァァァァァッッドォ!!!
カチコミだァ!!
目ェ覚ませェェィ!!!」
グレゴリオの一喝を受け、ブラッディヘルムの紅いカメラアイが、キャノピー越しにぎらりと光る。
〔〔VAOOOOOOOOOOOM!!!!〕〕
その名の由来である紅く塗装された頭部が振り翳され、凄まじい咆哮が格納庫全体を轟かせる。
その震動と衝撃で格納庫の窓ガラスが次々と割れ、金属製の壁からビスが吹き飛んで行く。
「グァッハハハハ!!
絶好調じゃァねェか!!
俺様の可愛いブラッドよう!!!」
〔VRRRRRR…〕
眼下のグレゴリオを見るや、ブラッディヘルムは大型犬の様に鼻先をグレゴリオに近付け、低く、しかし優しい唸りを上げた。
その肩には、髑髏を咥える真っ赤なグリズリーのマークが刻まれている。
グレゴリオの二つ名『人喰い熊』の由来である、彼のトレードマークだ。
「応応、良い仔だなァお前ェはよう。」
超古代チタニウム合金の鼻先を、グレゴリオは愛しそうに撫でてやる。
『ダックルァ!!
とっとと輸送用ホバーカーゴ回せェ固羅ァ!!
親父さんの御出陣じゃァァ!!!』
『ダッテメッコラァ!!
180糎砲弾がこんだけで足りっかオラァ!!
MAGラッチごと持って来んかィ!!!』
『ザッケンナコラァ!!!!
サブタンク予備もっと積んどかんかい!!
親父さんの可愛いブラッド飢えさす気かァウラァ!!』
「グァッハハハハハ!!!
口ァ悪ィが、良い野郎共だ。
なぁ?ブラッドよう。」
〔GRRRRRRR……〕
出陣に向けて悪態を吐きながらも、忙しなく動く人喰い師団を眺めるブラッディヘルムのカメラアイは、笑っているかの様に明滅を繰り返していた。
‡………‡………‡………‡
「びぃぐずぞぉぢょぉどのぉ!!!
う゛ぇっじぞぉぢょぉどのぉ!!!
キズは浅いであります気をしっかり持つであります生きる希望をあばばばばば……」
「だぁから大丈夫だっつの!!
白兵戦と肉弾戦のスペシャリスト舐めんな!!
こんなモン絆創膏だけでジューブンだぜ!
見ろ!この鋼の肉体!!なあウェッジ!」
「ああ、弾は喰ったが、筋肉で止めてるし致命点は外してる。
伊達にグレゴリオ少将閣下の『地獄のフルコース』を受けちゃいないさ。
…だからこのミイラみたいな包帯を外してくれると嬉しいんだけどね…」
第八デッキでは、ビッグスとウェッジの被弾にすっかり錯乱したキティが、これでもかと二人に治療とも言えぬ治療を施していた。二人の言葉通りその傷は非常に浅く、銃で撃たれたとは到底思えぬ軽微な出血と、弾丸がかすった際の軽い火傷と裂傷だけであった。
「良ォし!容疑者(エモノ)全員確保ォ!!
ッダコラァ!!キリキリ歩かんかい!!」
「ひいいい!!
きかないぃぃぃ!!
ひとなのにじゅうがきかないよぉぉぉぉ!!」
「……バケモノ……
バケモノが素手で……」
「ふひひひひひひひ!!
きんにくだぁ!!
きんにくがじゅうだんをふひひひひひひひ!!!」
銃声を聞き駆け付けた人喰い師団の面々によって、生き残った偽共和国軍兵士らは残らず逮捕、連行されて行った。
「ビッグスゥ!ウェッジィ!この『人間装甲車コンビ』コノヤロウ!
良くやりやがったな固羅ァ!
三割生き残らせるたァ上等じゃねェかオラァ!」
「ハッ!!お誉めに預かり光栄であります!!」
「有難う御座います。…しかし、その三割中二割は発狂、若しくは廃人にしてしまいましたが…」
「ムカシの皆殺しよかマシだァコノヤロウ!!
オウ!ニカイドスにカチコむンならァちゃんと治療してからカチコめよクラァ!!」
「「ハッ!了解しました!!」」
あの『ブチキレ』の結果、ビッグスとウェッジは『銃火器で武装し、対弾対刃装備を着込んだ』偽兵士群の七割を素手で撲殺。
残り二割は生身の筈の二人が銃撃を物ともしない姿に発狂、若しくは当たり所が悪く廃人化。
残り一割も正常な精神状態であっても、極度の恐慌状態に陥っていた。
彼等二人がこれ程の戦闘能力を持ちながら『曽長』で留まっているのは、得てして『撲殺』という戦争倫理上『時間をかけて相手を殺害するという拷問に相当する残酷な殺害方法』に当たり、正当な戦果として認められる事が無いからである。
彼等二人の撲殺が正当な戦果と認められるならば、既に佐官クラスの階級を得ている事だろう。
「さってと…キティ=アリエラ伍長!次はお前が任務を果たす番だぜ。」
「お前の『白馬の王様』に会わせに行くんだろ?アイツ。」
二人の視線の先には、バハムート専用BLOXゾイド『フレスベルク』が暖気され、発進準備を完了させていた。
「…あいっ!!アーデルハイド中将閣下指揮下!
第七機甲師団第三偵察部隊諜報部所属!!
ガイロス帝国ガーディアン!
キティ=アリエラ伍長!!
必ず、任務を遂行するであります!!」
‡………‡………‡………‡
バハムート専用BLOXゾイド『フレスベルク』
共和国軍BLOXゾイド『バスターイーグル』を基に有人仕様で開発され、機体各所に内臓、装備された無数の超高周波振動ブレードによる超音速格闘戦に特化している機体である。
グレゴリオが『じゃじゃ馬』と評したのも、その凄まじい加速度と、格闘戦特化というピーキーな機体性能を活用出来る人間が居なかったからである。
そのフレスベルクの二輪車に跨がる様なコックピットに、キティは居た。
インターフェースの位置、操縦桿のテンション、レスポンス、果ては武装や各種ガジェットの配置に至るまで、キティの持つ癖に合わせてあるのだ。
何よりフレスベルクというBLOXゾイド自体が、初めて顔を合わせた筈のキティに懐いており、ガーディアンフォースの精鋭ゾイド乗り達を拒み続けた『じゃじゃ馬』は、あっさりとキティにその全権を委ねている。
「グレゴリオ少将閣下が言っていたのはこの事だったでありますね…」
既に愛する男によって自分用に誂えられていたと思うと、キティの顔がかっと熱くなった。
「ぶぁっ!い、イカンであります、任務に集中しなくては…。」
〔その通りです、キティ。
レディセットアップ。
ランチ・シークエンス。〕
「あいっ!」
そして、疑似人格搭載AI『ALICE』
フライトナビゲート、オートパイロット、機体の重力コントロール等、機体制御のサポートを担当している。
キティはHUDを内蔵したヘルメットを装着し、浮かび上がったVRコンソールを操作する。
発射用のリフトに機体が設置され、カタパルトへと牽引されて行く。
〔カタパルトテンショニング。〕
キティはフラップやエアブレーキを稼働させ、問題が無い事を確認する。
〔ランチ・エアクラフト〕
メイン、サブ両エンジンの多段式ベクターノズルの動作を確認する。
『フレスベルクハート』の名の示す通り、フレスベルクの心臓に命が宿り始める。
〔キティ、スタート・ユア・エンジン。〕
「あはは、ALICE、人間にエンジンは無いでありますよ。
だから人間は翔ぶ時、心を翔ばすであります。」
あの人はそう教えてくれたであります。
と、キティは小さく付け加えた。
〔…了解、訂正します。
キティ、スタート・ユア・ハート。〕
「あいっ!!!!」
素早くマグネッサーシステムの動作状況を確認し、スロットルを調整しながら開いて行く。
少しスロットルを開けただけでも、凄まじい出力である事が、音と振動から感じ取れる。
カタパルトが動作を始め、既に満天の星を抱く空が広がって行く。
が、しかし、其処に無粋な客人が現れる。
〔Caution、敵射撃用レーダー作動を検知。
ターゲット、ブラックレドラー、接近。機影4。
カタパルト射出まで、5…4…3…〕
キティには射出までのカウントダウンが、やけにゆっくりに思えてならなかった。
〔2…〕
早く翔びたい。あの人が造ってくれたとびきりの翼。
スロットルを全開にして、ラダーとロールのレスポンスを確めて、上昇下降の性能を見て、コンバットモード時の挙動も確かめて…
早く音を超えて翔びたい。
〔Ready…〕
あの音を超えた世界の中を、
誰よりも、
何よりも
速く、
疾く、
迅く、
早く、
はやく、
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく!!!!!
〔GO〕
爆風、爆炎、轟音、極光。
凡そBLOXゾイドとは思えぬバーニア炎とアフターバーナーを焚き、カタパルトが吹き飛ぶ。
フレスベルクの加速度が、カタパルトの射出速度を超えたのだ。
「……あはぁ……。」
機首を引き上げ、垂直に上昇を始める。
「あはははははは」
今まで乗ったどの飛行ゾイドよりも速く高度計の数値が上昇して行き、雲が瞬く間に視界から消え失せた。
「あっっははははははははは!!!!
最っっっ高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
高高度からの爆撃を試みるつもりだったのだろうレドラー編隊が、正面から凄まじい勢いで迫って来る。
〔〔WARNING、衝突警「黙ってェェ!!!今ぁぁぁ!!一番ンンン!!イイッッッッ!!!所なのぉぉぉぉぉ!!!」
衝突警報を発するALICEを獣の様な叫びで遮りながら、キティの指がスロットルバーのボタンを押し込む。
翼が後退し、機体後部と翼のサブエンジン『フレスベルクフェザー』が更に点火され、急激な加速と共にレドラーのダイヤ編隊、その中心に飛び込んだ。
刹那
レドラー編隊の中心で、空気が空間ごと『爆発』し、レドラーの機体を粉々に吹き飛ばした。
ソニックブーム。
移動する物体が音波の進む速度『音の壁』を破る際に、物体の周囲に発生する衝撃波である。
キティはフレスベルクの加速力から音速突破速度を逆算し、ダイヤ編隊の中心でソニックブームが発生する様に調整、コンバットモードに移行させる事無く、戦闘を終わらせてしまったのである。
「んはっ!!…っはぁっ!!……あはぁっ!!……んうぅっ…!!」
キティはコンバットスーツの股座を失禁した様に見える程しとどに濡らし、愛する男との情事の余韻を堪能しているかの様に、艶かしく嬌声を上げ、見た目幼い身体を達した快楽の波に震わせていた。
〔オートパイロット、チェンジ。〕
ALICEがオートパイロットに切り替えると、キティは糸の切れた繰り人形の様に倒れ伏し、ぶるりと震えた。
「…ふぁ…あ…あふうぅ……」
ぴちゃぴちゃと水音がコックピットに響き、キティの太ももを幾筋もの熱が伝った。
「はぁ…はぁ…
あぁ…べるくしゃまぁ…
いっぱい…でちゃったぁ…
わたしのぉ…って…
まーきんぐ…しちゃったぁ…」
赤子の様に指をしゃぶりながら、キティは淫らに、そして満足そうに呟き、微笑んだ。
‡………‡………‡………‡
「陸戦ゾイドはからっきしだが、空戦ゾイドの扱いは随一。
っつーか、ゾイドが音を上げるのが先だった位だからなぁ。」
「あのストームソーダーをフルチューンしたってキティ伍長には機体が追い付かなかった。
あの娘は生まれついての空戦ゾイド乗りさ。
それを見越した彼氏からの彼女専用プレゼント…なのかもな、フレスベルクは。
ベルセルク大佐殿、恐ろしい御方だぜ…」
ビッグスとウェッジの二人は、ニカイドス島行軍準備が進むガーディアンフォース本部で、一足先にニカイドス島へと空高く雲を引く『告死凶鳥』を見送っていた。
「そういやウェッジ、キティ伍長の昔のコードネーム、知ってっか?」
「言ったらベルセルク大佐殿に殺されるってアレだろ?
そんな物騒な知識はノーサンキュ…」
「『フレスベルク』…あのBLOXゾイドの名前そのまんまだよ。
相手の肉体ごと魂を喰って、あの世に持って行っちまう死神みたいな鳥なんだとよ。
テロ組織に居たのをアーデルハイド中将閣下が取っ捕まえて教育、ベルセルク大佐殿が訓練したったんだと。」
「……………ベルセルク大佐殿…やっぱり恐ろしい御方だぜ…。」
「スイッチ入ったら、あの娘も大概おっかねえけどな。」
「可愛いって同意を求めたの誰よ。」
「俺。」
「云ってろバカヤロウ。」
「ビィィィィィッグスゥ!!ウェェェェェェッジィ!!なァにぶっ座って呆けてやがる!!!とっとと出動準備しねェかァァァァァァ!!!」
暫しぼんやりとキティの残した飛行機雲を眺めていた二人に、グレゴリオの雷が落ちた。
「もっぺん俺様の地獄のフルコースを味わいてェかァァァ!!!」
「おおいウェッジよう。」
「ヤバそうだぜビッグス。」
地獄のフルコースは堪らんと、二人は慌てて愛機へと駆け出して行った。
さて、今回は序章にて存在を匂わせていたバハムート専用BLOXゾイドの一体、フレスベルクと、そのパイロットであるキティ伍長の登場回で御座います。
この物語、下手を踏めば全く色気の要素が無くなってしまう為、無理やり色情的な場面を捩じ込んだ間が否めませんが、其処は平に御容赦を。
合法ロリやサディスト、マゾヒストな皆様の好みに合えば、幸い至極。