※この作品はR-18です。

ゾイド異伝〜神機獣戦記バハムート〜   作:蚩堂尤仁

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※閲覧に際しての諸注意※

・この物語はZOIDSシリーズ、及びゾイドバトルストーリー等の世界観を元に作成された二次創作です。

・作中に各ゾイドシリーズに於ける登場人物の他に、作中オリジナルキャラクターやオリジナルゾイド、オリジナル改造ゾイドが多数登場します。
 其れに伴い、原作に登場するゾイドであっても、細かい機体スペックや装備、能力等に差異が生じております。
 また、今作はシリーズを通して上記オリジナルキャラクターやオリジナルゾイドが中心となりますので、そうした作風や展開が苦手な方は御注意下さい。

・時系列的にはゾイドバトルストーリーの年表を元に、ZAC2109年に戦争は三国の和平、併合により終結。
 アニメ無印ゾイドにも登場したガーディアンフォースが設立され、
 そこから更に17年が経過した設定となっています。

・今の所、各アニメキャラ(バン・フライハイト等の各アニメ主人公、及び各アニメ主要キャラクター等)の出演は予定しておりません。
 時系列、物語的に矛盾が生じる可能性が大きい為、同名であっても別人、またはパラレルワールドの存在であるとご了承下さい。

・古代ゾイド人は出演予定ですが、各アニメゾイド等で語られる古代ゾイド人とは異なり、現代ゾイド人が喪ってしまった強大な能力(所謂読心術や精神没入等の超常的な能力)を持った『超人的な存在』とお考え頂いた方が良いと思います。

・今作に於いてデスザウラーはアニメゾイドの様な『破滅の魔獣』的な位置付けではなく、ガイロスやネオゼネバスの主力ゾイドの一つになっています。

・上記を踏まえた上での閲覧をお願い致します。


第四章:告死凶鳥

《Viiiii…Pi》

 

〔――――――。〕

 

「……………私だ。」

 

〔―――――、―――――?〕

 

「そんな事はとっくに知っている。」

 

〔――――――?――――――――!!〕

 

「其れは君の仕事だろう?」

 

〔―――――!?―――――!!〕

 

「契約違反はどちらかね?

 私は然るべき前金を支払い、

 そしてその依頼を君は請けた。

 書面無き同意書に、君は既にサインしているのだよ。

 判るかね?」

 

〔………――――、――――――。〕

 

「確かに、アレは誤算だった。

 まさかネオゼネバスの連中が盗むとは…

 だが掛けた保険は効いたようだ。

 …ニビルに入られる前に奪い給え。」

 

〔……――――――、―――――?〕

 

「其れは君の仕事の仕上がり次第だ、

 後金はクオリティ次第で額を決める。」

 

〔―――――、―――――?――――。〕

 

「そんな事を聞いてどうするのかね?

 あの無能共ならもう『すげ替えた』

 …君の望みは金だけの筈だがね。」

 

〔――――――、――――――。〕

 

「フゥム…既に手配した筈なのだがね。」

 

〔―――――――、――――――!!!〕

 

「其れは済まなかったね。

 改めて手配しておくよ。」

 

〔――――!―――――、――――!!〕

 

「その為の君だろう?

 違うかね?」

 

〔……………。〕

 

「私の思う様に埒を明けてくれ給え。

 では、宜しく頼むよ。

 此れでも忙しい身でね…

 ……

 何の為に私が君を雇ったのか…

 改めて思い出してくれ給えよ。」

 

〔………――――!―――――――!?〕

 

「忘れてなどいないさ。

 今回の仕事を成功させたら…

 の、話だかね。」

 

〔………………――――――!!〕

 

「では仕方が無い、この商談は破談だな。」

 

〔―――――!!―――――!!!〕

 

「其れは残念、他を当たるとしよう。

 では、御機嫌良う。」

 

〔――――――!!――――…〕

 

《Pi》

 

「んっフフフフ…狗にしては中々聡い…

 使い潰す心算だったのだが…」

 

《RRRRRRR…Pi》

 

「私だ。」

 

〔お忙しい所を申し訳ありません、社長

 ZOITEC社のムナカタ兵器部課長がお見えです。〕

 

「おっと…もうそんな時間か。

 120階のスカイラウンジに御通ししろ。

 私も直ぐそちらに向かう。」

 

〔畏まりました。〕

 

《Pi》

 

‡………‡………‡………‡

 

「クソッ!あンの…欲呆け爺ィィ!!」

 

部屋の中から大音響の破砕音が響く。

その音に釣られたか、十数人の女が武器を手に駆け込んで来た。

 

「姐さん!!何事―――」

「クソがっ!!!!」

 

蹴

 

「アリガトナス!?」

 

覗き込んだ女の顔面に『姐さん』と呼ばれた女の蹴りが突き刺さる。

 

「クソッ!!糞っ!!クソがっ!!糞がっ!!クソがぁぁぁぁぁ!!」

 

尚も怒り治まらぬ様子で『姐さん』は地団駄を踏み続けている。

止めに入ろうとすれば蹴りや拳が飛び、止めに入らなければ部屋の物に八つ当たりし始めた。

 

そんな様子の怒れる『姐さん』を、モニター越しに見る二人が居た。

 

「…マクヴィー…怒る……姐さん………可愛い…。」

 

「本人の前で言えよセシル。

 Fxxkされてブッ殺されっケドよ。」

 

『姐さん』の怒りが炸裂している部屋から程近いゾイドドックで、二人は愛機であるディプロガンズの整備をしていた。

 

「……でも…ちょっ…と…良……い気……味。」

 

「イエテル。

 アタシらの獲物横取りってなぁ…

 姐さんでもちょーっと赦せねーなぁ。」

 

ん、という言葉と共に、マクヴィーの左手が挙がる。

 

「…ウチら…で…殺っ……ちゃ…う?…アレ。」

 

セシルが背中越しに投げ渡したレンチを、マクヴィーは振り返る事無く受け取る。

 

「…アタシらが殺れる連中ならそれまで、

 殺られるなら姐さんのが正しかった。

 そーいうワケかよ?」

 

「……………否定……は…しな…い。」

 

二人が向き合いにたりと笑う。

 

「何勝手にオレの獲物狩るハナシしてんだバカヤロウ。」

 

「「げっ……」」

 

ぎ、ぎ、ぎ、と、まるで錆び付いたジョイント部宜しく、向き直った二人の顔が一気に青ざめる。

何時の間にか、部屋で暴れていた筈の『姐さん』が、二人の間に仁王立ちしていたのだ。

 

「何が「げっ」だバカヤロウコノヤロウ。

 この『紅鯱のナギ様』が、

 手前の飼い猫の世話ぁ出来ねぇとでも思ってンのか?」

 

「ややややや、違うンスよ姐さん!!」

 

「い……ろいろ……深…い…訳…が…。」

 

「違ぇも訳もへったくれもあっかコノヤロウ!!

 …応!手前ら!出航準備だ!!」

 

部下達に指示を出しながら、ナギはマクヴィーとセシルを抱き寄せる。

 

「オレの可愛い仔猫共が喰いてぇ喰いてぇと可愛く啼いてやがンだ…

 喰わせてやるのが人情ってぇもんだろぅがよ。」

 

「姐さん…。」

 

「…だか…ら…姐さん…好き。」

 

「止せやい、照れるじゃねぇか。

 (手前ら、ちっと耳貸せ。)」

 

忙しなく動くドックを見回し、ナギが二人に耳打ちする。

 

「(え、何スか。)」

 

「(『クライアント』から緊急の打電だ。

  アイツらは『真っ黒』だ。

  とうとう『クライアント』を抱き込みに来たらしい。)」

 

二人を抱えたままナギは座り込み、更に続ける。

 

「(コッチの動きが筒抜けっつうのを引き合いに出しやがった辺り、あの欲呆け爺ィ…オレらを使い潰せると思ってやがる。)」

 

「(……バレた……の…?)」

 

「(ンの前にコッチから斬ったンだよ。

  オレらの舎弟だけ集めとけ。

  デカい『鞍替え』すっぞ。)」

 

「…その…前に…仕掛け…る…気で…しょ…?

 『海神』…の…追跡…装置…外し…て…ある。

 …ココに…は…姐さん…の…舎弟し…か…居な…い。」

 

「姐さん最初っからそのつもりだったんだろ?

 アヒャヒャ!とっくよとっく。

 アッチ靡いたビッチ共ごと簀巻きにして蹴り出してあらぁ。

 …ネオゼネバスのベッドテク拝見とイこうぜぇ?」

 

「…けぇっ!全く賢い仔猫共だぜ手前ら!」

 

既に自分の意志を汲んで行動していた二人の頭を、ナギはわしわしと撫でた。

 

「よぉし!!手前ら!オレの『海神』回しな!!

 オレ達を金で買えると安く値踏みしやがったクソ共に、

 『紅鯱一家』の底力、とっくりと魅せてやろうじゃねぇか!!!」

 

『『『「「アイ・アイ・マム!!!」」』』』

 

‡………‡………‡………‡

 

【告死凶鳥】

 

‡………‡………‡………‡

 

『第四ピンポイントEシールドジェネレータ出力、60%に低下!!

 拙いぞレディ!左翼が押し込まれる!』

 

「五番と六番を回せ!後ろはもう要らん!

 アルファ!並列操作から直列操作に切り替えろ!

 切り替えの瞬間にコントロールを奪われるな!」

 

〔オーケイレディ、切り替え準備を開始します。〕

 

『三番ピンポイントEシールドジェネレータオーバーヒート!

 …駄目だ!コントロールを『喰われ』た!再起動を受け付けない!』

 

「ちいい!!ニビルシティは目と鼻の先だと言うに!!」

 

ウェスタ砂漠の山脈縦断トンネルを抜けた先で、レディ達は待ち伏せていたネオゼネバス帝国軍に集中砲火を浴びせかけられていた。

 

無数のダークスパイナーのジャミング部隊により、外装兵器を無力化され、内臓兵器のみでの応戦を余儀無くされていた。

 

後続の追撃部隊の足止めに後方のトンネル出口を塞いだは良いが、無数にあるトンネルからは次々に追撃部隊が現れ、身動きが取れなくなっていた。

 

ピンポイントEシールドと内臓兵器で何とか凌いでいるものの、次々に現れる敵増援に、バハムートの防衛ラインは次第に圧され始めていた。

 

『第三カタパルト被弾!隔壁作動不能!!

 敵ナパーム弾による火災発生!!

 網目を突かれるとは…不覚!!』

 

「泣き言は良い!ダメコン急げ!

 第六から第二十三隔壁閉鎖!!

 動力区画に火を回すな!!

 自動消火システムの復旧急げ!」

 

『左右隣の中型トンネルから敵援軍!

 …ええと…兎に角いっぱい!!』

 

〔アルゥ、正確な敵戦力の報告をお願いしますよ?〕

 

『あのねえ!ボクは民間人なの!!

 幾ら能力あっても知識は無いんだから!

 無茶言わないでよファーちゃん!』

 

〔馬っ鹿テメー撃ちゃ良いんだ撃ちゃ!!

 オイ!アルゥの嬢ちゃん!

 外装兵器のシステムリンクの復旧まだかよ!

 さっきから接続エラー吐きっぱなしだぜ!!〕

 

『ダークスパイナーのコントロールジャミングが無くならなきゃ無理だよメガちゃん!

 ええとこの接続経路がこうでこうだと…

 何とか物理接続でスタンドアローンに切り替えないと…!』

 

『我が行こう!

 レディは手動バランサーで左前足以外に重心を移行しろ!

 メギドファイヤーで埒を明ける他有るまい!』

 

『気を付けてねおじさん!!

 …痛いよね…でももうちょっと頑張って、バハムート!』

 

如何なる強大な兵器と言えど、正常な機能を発揮出来なければ、その存在意義を容易く失ってしまう。

 

かつてネオゼネバス帝国がヘリック共和国を壊滅寸前にまで追い込んだゾイド。

 

『ダークスパイナー』

 

かつての共和国ゾイドを次々に機能停止へと追い込み、一時は中央大陸全土をネオゼネバス帝国一色に塗り替えた程である。

 

一部のゾイドを除き、その背鰭から発せられる悪魔の繰り糸

『コントロールジャミングウェーブ』を防ぐ術は無い。

 

其れはバハムートも例外では無かった。

 

今でこそ疑似人格AIの働きによって辛うじて機能を保てているが、無数に張り巡らされた悪魔の繰り糸によって、バハムートはじわじわとその機能を奪われ始めていた。

 

「…致し方無い!

 オメガ!全荷電粒子コンバータ作動準備!!

 メタトロン!

 サンダルフォン!

 セフィロト!

 駆動系のコントロールシステムを全て手動に切り替えて此方に回せ!」

 

〔〔〔了解です、我が主。〕〕〕

 

「くっ…中々難しい物だな!!」

 

亀の様な動きでよたよたと重心を傾けるが、矢継ぎ早に放たれ続けるダークスパイナー達の攻撃の激しさから、如何せん重心が固定出来ない。

手動で操作を行うが故に、被弾のショックで重心が容易くずれてしまうのだ。

 

重心が掛かる度に、バハムートの左前足からは金属が歪み、へし曲がる、悲鳴を思わせる厭な音が響いた。

 

「ぐっ…まだかオメガ!」

 

〔ドっ畜生が!

 コントロールジャミングの所為で接続が上手くいかねえ!〕

 

『…よし!此方ベルセルク!一部の外部兵装が復旧した!

 復旧していない部分は、今から我が手動操作で敵機迎撃に移る!』

 

重心移動に苦戦する最中、ベルセルクから一部兵装復旧の報せが届く。

軍上層部連中の大艦巨砲主義に、レディ達はこの時ばかりは感謝した。

 

「良し!ジーク!アルファ!

 第七、第八Eシールドを上部砲塔に回せ!

 ベルをフォローだ!

 オメガ!まだコンバーターとは繋がらんのか!?」

 

〔付け入る隙が無ぇんだよ!

 ベルのオッサン!俺も手伝うがスパイナー優先して片付けてくれ!

 これじゃ内臓兵器のコントロール盗られンのも時間の問題だ!〕

 

『承知!』

 

ややあって、左右4門のスーパーガトリング砲が唸りを上げる。

左右に展開していたダークスパイナーの集団が、まさか動くとは思っていなかったのだろう、かわす間も無くその唸りに飲み込まれ、次々に爆ぜ跳ぶ。

が、機体の武装の殆どは未だその機能を失ったまま、打ち付ける砲火の中で沈黙を守っていた。

 

〔ドっ畜生!

 コンバータのコントロールシステムとは何とか繋がったが、

 まだコマンドを受け付けねえ!

 前に居る奴らが火器管制握って離してねえんだ!〕

 

『オメガ!復旧した火器で時間を稼げ!

 我が内部から伝達経路を接続する!』

 

『無茶言わないでよおじさん!!

 人間が荷電粒子浴びたら、ウェルダン所じゃ済まないんだよ!?』

 

ゾイドの分厚い装甲を容易く溶解し、貫通し得る程のエネルギーである。

人間が浴びようものなら、一瞬で灰も残さず燃え尽きてしまう。

ある程度のシールドが施されているとは言え、荷電粒子の伝達経路上は、非稼働状態であっても対荷電粒子防護スーツ無しには、数秒でも立ち入れぬ危険な区画となっている。

 

『では如何する心算だ小娘!!

 このままではいずれ蜂の巣だ!!』

 

『民間人のボクにそれ言う!?

 そういうの考えるのが軍人でしょ?!』

 

『っ…!其れはそうだが…!!』

 

〔オッサン!嬢ちゃん!10分だ!

 俺に10分時間をくれ!!

 そんかし射撃管制をオッサンと嬢ちゃんに渡す!

 撃たせてやるぜ、メギドの火をよぉ!〕

 

アルゥとベルセルクが不毛な言い争いを始めようとした所に、オメガの通信が無理矢理に割り込む。

 

『え!?えぇ!?

 ちょっとメガちゃん!何でボクまで!?

 だからボクは民間人で―――。』

 

〔ジャミング無効化処理の所為で射撃管制まで処理容量が割けねえ!

 人手が足りてねーんだ!つべこべ言いっこナシだぜ!〕

 

アルゥの抗議も虚しく、立体投影型のコンソールに射撃管制システムの管理画面が回される。

 

『あ゛あ゛あ゛もおおお!!!

 いいよ!やったろーじゃん!!

 後で慰謝料むしり取ってやるんだからぁ!!』

 

とうとう怒り心頭に達したのか、アルゥは乱暴にHUD搭載のヘルメットを被り、VRコンソールを射撃操作モードに切り替える。

HUDがノイズだらけの外部情報とターゲットスコープを映し出し、先程復旧したリニアレーザーガンのサイトユニットとリンクした。

 

「請求先は事の黒幕まで頼むぞ!」

 

『こーなりゃヤケクソだああああ!!

 このっ!このっ!!このっ!!!

 こうしてやるこうしてやるっ!!』

 

アルゥに射撃管制が任されたリニアレーザーガンが矢継ぎ早に火を噴く。

盲撃ちに思えたその攻撃は、計算し尽くされたかの様に、バハムート前方に控えたダークスパイナーの隊列に吸い込まれていった。

突然復旧した火器に虚を突かれたか、ダークスパイナーの一団は回避も侭成らず、ジャミングウェーブの発生源である背鰭を撃ち抜かれてしまった。

 

『っしゃあああんなろー!!

 民間人舐めんなああああああ!!』

 

『良い腕してるじゃないかお嬢さん。

 訓練を積めば良いゾイド乗りになれるよ。』

 

先程まで接続異状を示していた計器類が次々と復旧を始め、本来の機能を取り戻して行く。

 

〔やるじゃねーか嬢ちゃん!!

 コントロールジャミングウェーブ消失!

 攻撃システムリンク全復旧だ!!〕

 

見えぬ戒めを解かれたバハムートの眼がぎらりと光る。

全身の荷電粒子コンバータが唸りを上げ始め、無数に配備された砲塔が一斉に周囲を睨み付ける。

 

「全砲門、一斉発射!!」

 

『ブッ飛ばせええええええ!!!』

 

アルゥの絶叫と共に、全身の収束荷電粒子砲が蒼白い咆哮を響かせる。

夜の闇を真昼の様に染め上げる其れは、周囲を取り囲むゾイド群を瞬く間に薙ぎ払い、赤く燻る鉄屑へと変えていった。

再びトンネルから現れた増援部隊も、ダークスパイナー部隊の全滅から自身の不利を悟ったか、慌ててトンネル内へと引き返した。

 

『ぃやったあああああ!!ボクらの勝ちぃ!!』

 

退却して行く追撃部隊の姿に、アルゥが感極まってガッツポーズを取る。

しかし、メインコックピットに座るレディの表情は、更にも増して厳しい物に変わっていた。

 

「…いや、まだだアルゥ。

 対空レーダーを見てみろ。」

 

射撃管制システムを押し退けて現れたレーダー画面を見たアルゥの顔から血の気が引く。

簡略表示された山脈の向こうから、其れを埋め尽くす程の無数の光点が、バハムートへと迫っていたのだ。

 

『ちょっ…ちょちょちょちょっ!!!

 何さこれぇ!?!

 さっきの大群の比じゃないじゃん!!』

 

『どうやら此方が本命の様だね…

 ダークスパイナーで足止めして、

 高高度爆撃部隊の到着を待った訳だ…』

 

『…してやられたな…進退窮まった、か…』

 

多数の高火力武装を満載した移動要塞のバハムートですら、射程外からの攻撃には手も足も出ない。

幾らかの対空兵装が有るとは言えど、その射程は精々あっても十数Km。

地上から30Km以上の高高度を自在に翔ぶ相手に撃った所で、地上から雲に向けて小石を投げるに等しい行為だ。

唯一届きそうなメギドバスターも、空を自在に翔ける空戦ゾイドには効果が薄い。

トンネルに戻るにも、その退路は埋めてしまったし、よしんば戻ったとしても、トンネル内部は先程の追撃部隊達が手薬煉を引いて待ち構えている事だろう。

逃げるにしても、巨体故の鈍足に加え、左前足は何時完全に破損するとも知れぬ状態である。

そんな状態で、高速で飛来する空戦ゾイドとその爆撃から逃げられる筈も無い。

 

八方塞がりである。

 

「幸い、火器管制は復旧している。

 対空兵装で迎撃し、爆撃を凌ぐ他有るまい。」

 

『十八連対空ビーム砲は全て無事だが…

 あの数だ、砲身が保てば良いが…』

 

〔空対地ミサイルなら兎も角、

 クラスターボムは的が小さ過ぎるぜ。

 俺とアルファ二人掛かりで捌き切れるかどうか…〕

 

〔ピンポイントEシールドジェネレータも、幾つかはまだオーバーヒートから復旧していません。

 それに通常弾頭ならまだしも、対Eシールド弾頭となると、防ぎようが有りません。〕

 

全員が決死の覚悟を決めた瞬間、

突如バハムートの通信回線に割り込む者が居た。

 

『大丈夫でありますベルしゃま!!

 私が居るでありますよ!!』

 

『その声…貴様、キティか!!!』

 

『あいっ!!』

 

キティの通信と共に、フレンドシップと表記された光点が、レーダー画面に現れる。

 

『え…ええええええ!?』

 

レーダー画面を眺めていたであろうアルゥが驚愕の声を上げる。

 

『ちょちょちょ!!これ縮尺倍率幾つ!? レーダー壊れてない!?』

 

アルゥが驚くのも無理は無い。

リアルタイムで更新され続けるレーダー画面を、凡そ有り得ない速度で味方機標示が進んで行くのである。

 

『キティ、緊急時故、手短に指示する。』

 

『あいっ!』

 

『【逃がすな】

 【撃たせるな】

 【必要なら戻る事を赦す】

 以上、健闘を祈る。』

『…くすくす…はあぁい。』

 

ベルセルクの指示からキティの口調が一変し、通信が切られる。

指示を受けたキティの声色は、指示前のそれとはまるで別人であった。

 

『アルゥ嬢、一つ警告しておく。

 今のキティに決して意識を向けるな。

 …暫く飯が喰えなくなるぞ。』

 

アルゥにキティの心を読ませまいと通信を繋げ、アルゥの居る管制室に入ったベルセルクであったが、其処には既に腰を抜かして失禁し、恐怖に完全に飲み込まれて震えるアルゥの姿があった。

 

「………ごめ………おじ…

 ……も………遅……」

 

その言葉を最後に白眼を剥き、アルゥは意識を放棄した。

 

「…………遅かったか……。」

 

『ベル、アルゥはどうした。

 バイタルサインが滅茶苦茶だったぞ。』

 

通信機から発信されるバイタルサインから異常を察知したであろうレディから、状況報告を求める通信がベルセルクに届く。

 

「…恐らく『戻ったキティ』の心を読んだのだろう。

 …警告が遅かった、失禁して気を失っている。」

 

『………アレの中を覗いたのか…。

 早急に医務室へ運べ、私が介抱する。

 ジーク、操縦を代われ。』

 

『了解…アーデルハイド中将閣下も貴公も、

 とんでもない『化け物』を育て上げたものだね…』

 

「…返す言葉も無いが、そう言ってくれるな。

 キティは我の女だ。」

 

『…お熱い事で…。』

 

ジークの皮肉を聞き流しながら、ベルセルクは気絶したアルゥを抱え、医療デッキへと向かった。

 

‡…………‡…………‡…………‡

 

〔こちらゴーストアイ、高速で接近する超大型飛行ゾイドを確認。

 かなり速いぞ、大きい癖になんて速さだ!。〕

 

「こちらボンバーリーダー、直掩隊各機に告ぐ。

 アルファとブラボーは迎撃に当たれ。

 チャーリーとデルタはバックアップ。

 速くともでかい図体高々一機だ、

 当てれば落とせる。

 爆撃を邪魔させるな。」

 

〔アルファリーダー了解。〕

〔ブラボーリーダー了解しました。〕

〔チャーリーリーダー、了解だ。〕

〔デルタリーダーりょーかいっと。〕

 

時はアルゥがその深淵を覗き込む、その暫し前に遡る。

 

爆撃目標であるバハムートを目指す改造デスザウラー『デスバード』4機が率いる爆撃大隊は、超高速で此方に近付く飛行ゾイドを捉えていた。

 

直掩機として護衛に当たるストームソーダー部隊に迎撃指示を下し、デスバード隊は予定通りに爆撃コースを飛行していた。

 

しかし。

 

〔こちらチャーリーリーダー!アルファとブラボーが―――〕

 

〔こちらデルタ3!こちらデルタ3!!助けて!た―――〕

 

直掩隊の敵機接触直後から、直掩隊との通信が途絶えてしまったのである。

 

「こちらボンバーリーダー。

 直掩各隊、状況を送れ。」

 

〔………………〕

 

〔………………〕

 

直掩隊に呼び掛けるが、待てど暮らせど応答は返って来ない。

 

64機ものストームソーダーで編成された直掩隊が、ろくに通信すら出来ずに、一機残らず撃墜されたというのだ。

 

「…墜とされただと!?

 …こちらボンバーリーダー、

 ゴーストアイ、敵機の現在位置を。」

 

〔……………〕

 

敵機の位置を確認しようと、ボンバーリーダーが特殊レドーム仕様に改修されたストームソーダーステルスに問う。

 

しかし、通信機は虚しくノイズを響かせるだけであった。

 

「…どうなっている…

 ボンバーワン、ボンバーツー。

 ゴーストアイも殺られたらしい、

 そちらの状況を送れ。」

 

〔……………〕

 

〔こ……こちらボンバースリー!!

 助け…来るな!来る―――………〕

 

「おい!ボンバースリー!

 応答しろボンバースリー!」

 

恐怖に引き吊った叫びを最後に、ボンバースリーとの通信は途絶えてしまった。

 

直掩隊の敵機接触から、僅かしか時間が経っていない。

にも拘らず、64機のストームソーダーと、偵察仕様のストームソーダーステルス、更に爆装とは言え、120機以上のブラックレドラー大隊と、空中要塞と恐れられるデスバード3機が次々に音信不通となっているのである。

 

「……そんな…馬鹿な……」

 

とうとう恐ろしさに心を折られたボンバーリーダーは、引き返そうと操縦捍を倒し、旋回を試みる。

 

が。

 

「…き…機体が……機体が旋回しない!?」

 

どの計器も機体の異常を示していない、

全て正常に動作している。

しかし、どう操作しても、デスバードは唯真っ直ぐに飛び続けているだけであった。

 

「何だ…何が…一体どうなって…」

 

ず し ん

 

鈍い衝撃がデスバードを揺らす。

忽ち計器が背部に異常を示すアラートを叫び始めた。

 

「なっ…なあああっ!?」

 

背部を確かめようと振り向いたデスバードのパイロットは瞠目した。

 

目の前には巨大な真っ白い機体が視界を埋め尽くし、此方を見下ろしていたのだ。

 

「あい……あ……あぁ……」

 

〔…ねぇ、生きたい?〕

 

「へえぁ?!」

 

突如通信機から、若い女の声が響く。

 

〔ねぇ、生きたい?

 アナタも生きたいって思うのかしら?〕

 

恐らくこの白い機体から発信されているのだろうそれは、デスバードのパイロットの正気を奪うには十分だった。

 

「ひ…ひひ…し…死にたくねえ……」

 

〔あはぁ…だったらぁ……

 

 そ の 証 を 見 せ て よ ぉ ぉ ! ! !〕

 

吼える通信と共に、白い機体の嘴が降り下ろされる。

嘴はデスバードの頭部リニアレーザーガンを貫き、その砲身を切り裂いた。

 

〔哭(な) い て!〕

 

続け様にもう一撃。

 

〔呻(うめ) い て!!〕

 

もう一撃。

 

〔吼(ほ) え て!!!〕

 

もう一撃。

 

〔叫(さけ) ん で!!!!〕

 

もう一撃。

 

〔命 乞 い を し て 見 せ て ぇ ぇ!!〕

 

「喰わないでくれええええええぇぇ!!!」

 

それが、コックピットに嘴が降り下ろされる瞬間、デスバードのパイロットが叫んだ最期の言葉だった。

 

弄ぶ様に幾度と無く降り下ろされる嘴は、既にパイロットを挽き肉に変えた後もデスバードの頭部の大半を喰い千切り、主を失ったデスバードを蹂躙して行く。

 

背から穿たれた爪が腹まで貫き、嘴が装甲板を引き剥がし、駆動系や動力伝達パイプを喰い千切る。

次第に脚が、尾が、首が、まるで子供に手足をもぎ取られる虫の様に、デスバードから千切り取られて行く。

 

遂に腹の爆薬の一部が爆ぜ誘爆、下半身を炎で包み、残った爆薬を弾けさせながら、デスバードはゆっくりと墜落して行った。

 

その後方、山脈の各所には、

シュレッダーに掛けられた様に寸刻みにされ、

最早原型を留めぬゾイドの残骸が無数に散らばり、

墜落で弾けただろう爆弾の炎に炙られ、山脈を赤と鈍色に染めていた。

 

「あはっ…

 あははははは!!!

 ひきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!!!」

 

白い機体の主であるキティは、眼下で爆散し墜落して行くデスバードを眺めながら、どす黒く濁る奈落の底を歓喜に歪め、狂った様に嗤い続けていた。

 

‡………‡………‡………‡………‡

 

「ひぅっっ!?

 ……っはぁ!!かはぁ!!はぁ!」

 

「気が付いたか、アルゥ。」

 

医療デッキの一室で、恐怖に塗り潰された表情のまま、アルゥは最悪の目覚めを迎えた。

 

「ぅあぅ!!ぁ…か…かひゅ…ひ…

 ぃぃいぃぃがぁぁあああぁ!!!」

 

目の前のレディの胸元を乱暴に掴み、掻きむしる。

焦点の合わぬ眼を見開き、言葉にならぬ声を喉から搾り出して、必死に何かを訴える。

 

「あがぁああ!!がうぅう!!

 うううう!ふぅうぅうう!!」

 

はだけた軍服から覗くレディの肩に、錯乱を窮めたアルゥはとうとう獣の様に噛み付いた。

恐慌と錯乱状態下に在る故に、発露した動物の防衛本能を理性が抑えられていないのだ。

 

「…大丈夫だ。もう『アレ』は居ない。

 …お前の恐いモノは居なくなった。」

 

アルゥの歯が食い込み、血がじわりと流れ出す。

しかしレディは、それでも苦痛の声すら上げず、アルゥの背を撫で続けていた。

 

「ふぅうぅ!!!ふぅっ!!ふうっ!!

 ふーっ!ふーっ!ふぅ!…ふぅ…

 っはぁ……はぁ………。」

 

「……良し、良い子だ。」

 

漸く落ち着き始めたのか、ゆっくりとアルゥの歯がレディの肩から抜かれ、荒げた息が治まって行く。

 

「……眼………。」

 

「うん?」

 

未だ震えるアルゥが、何かを話し始めた。

 

「眼…沢山の眼がね…こっちをじっと視てるの…

 真っ黒…真っ黒で…ヘドロみたいに真っ暗に濁った眼が…

 嗤いながらこっちを視てるの!!」

 

恐らく、アルゥが『戻ったキティ』の内側で観た光景なのだろう。

また恐怖が戻って来たのか、アルゥの呼吸が荒れ始める。

 

「無理はするな、アルゥ。

 思い出す必要は…」

「駄目!!止めないで!!

 …ぼ…ボクがこ…克服する為にも…」

 

「…解った。」

 

息を整えたアルゥは「もう大丈夫」とレディから離れた。

 

アルゥが意識を失っている間に、敵本隊と思しき爆撃部隊は全てキティによって撃墜されていた。

 

現在、バハムートはフレスベルクと合体、グラビティーコントローラーの増強によって復旧した鈍足で、ニビルシティを目指し移動中であった。

 

「噛み付いちゃってたんだ…ゴメンね…

 …おじさんもそこに居るんでしょ?

 ボクが心を覗いた娘と一緒に…

 …二人共そんな顔しないでよ…」

 

カーテンの向こう側に居るであろうベルセルクとキティに向け、アルゥが声を掛ける。

案の定、開いたカーテンの向こうには苦虫を噛み潰した様な顔のベルセルクと、今にも泣き出しそうなキティが立っていた。

 

「…キミがキティちゃん…だっけ?

 こんな初対面になっちゃってゴメン。」

 

「えぅぅ…すみませんであります…

 アレが出ると、私が私で無くなるであります…」

 

「…うん、解ってる。

 『全部視えちゃった』から…

 キミの心が『弄られた』所も…

 キミの中に居る『もう一人のキミ』も、全部。」

 

「…そう…でありますか…」

 

「だから、もう一度、会わせてくれないかな。

 『もう一人のキミ』と――」

「賛成し兼ねる!今度こそ嬢の心を壊されるぞ!」

 

アルゥの言葉を遮り、二人の間にベルセルクが割って入る。

キティがどの様な仕打ちを受けたかを知るが故に、ベルセルクはアルゥが耐えられる物ではないと判断したからだ。

 

「おじさん、言ったでしょ?

 『全部視えちゃった』って。

 だからボクはきちんと『彼女達』を識らなきゃいけない。

 偶然でも意図的でも、ボクはキティちゃんに踏み込んだ。

 此れから同じ釜の飯を食べる仲なら、

 尚更そういう『しがらみ』は無くさなきゃ。

 でしょ?キティちゃん。」

 

涙を溜めたまま、キティはこくりと頷いた。

 

「…ベルしゃま…私からもお願いするであります。

 やっと…やっとベルしゃま以外に、

 『私達』を解ってくれる人なのかも知れないでありますから!」

 

余りに危険な試みではあるが、アルゥの読心能力が存在する以上、何時かは通らねばならぬ道である事は確かである。

戦闘中、何らかの拍子で『戻ったキティ』を再び覗いてしまうかも知れないからだ。

 

「……嬢が危うくなったら、問答無用で二人の意識を飛ばす。

 ……良いな?」

 

「オッケー、おじさん。」

「解ったであります、ベルしゃま。」

 

「レディも、其れで良いな?」

 

アルゥに噛まれた箇所に絆創膏を貼りながら、レディはひらひらと手を振った。

 

‡………‡………‡………‡………‡

 

「…あの娘は、我等よりも強いな。」

 

キティの額に自分の額を寄せ、互いに深く『没入』しているアルゥを見ながら、ベルセルクはぽつりと呟いた。

 

「名前以外の記憶も無く、唯己の持つ腕前だけを頼りに生きて来た娘だ。

 …嫌でも強くなるさ。」

 

「其れだけでは無い。嬢は…」

 

ベルセルクは一瞬思案し、言い淀んだ。

 

「…嬢は、最初我が逃げ出そうとした物に、

 今真っ向から闘いを挑んでいる。

 我がキティに向き合い、理解してやるのに、

 我は3年もの年月を費やしたのに、だ。」

 

「…其れは貴様が要らん気を回し過ぎるからだ、

 この独り善がりのロリータコンプレックスめが。」

 

ベルセルクの独白に、レディは呆れと怒りがない交ぜになった口調で返した。

 

「流石に手厳しいな。

 だがキティの前でロリコン呼ばわりは止してくれ。

 キティは我がロリコン扱いされるのを本気で嫌がる。

 己の朋友を恋人に敵視されるのは、我も心底辛い。」

 

「だったらあの幼児体型を揉んでやるなり抱いてやるなりして、女らしい体にするのを手伝ってやったらどうだ。

 貴様、付き合ってから一度もキティを抱いてやってないだろう。」

 

「…女の洞察力とは斯くも恐ろしいな。」

 

図星を突かれたのか、ベルセルクはばつが悪そうにぱりぱりと後頭部を掻いた。

 

事実、ベルセルクはキティと交際を始めてからも、キティと性行為に及ぶ事は決して無かった。

 

「イエス、ロリータ、ノー、タッチか?

 莫迦莫迦しい…

 女の私から云わせれば、惚れた女の処女すら奪えん男など、只の腰抜けの玉無しだ。

 私がキティなら、貴様の股座にぶら下げている役に立たんモノを、有無を云わせず引き千切ってやっている位だ。」

 

「ちょぉーっとレディさーん!?

 今良い感じに話せてた所なのに!

 横で彼氏の暴露してくれちゃうから!

 『二人共』気まずくなっちゃってるっしょー!?」

 

見ればキティは耳先から肩口まで真っ赤になっており、頭から湯気を出してふるふると震えていた。

…どうやら今までの会話は全部聴こえていたらしい。

 

「何だキティ、貴様も図星か。

 私が言うのも何だが、女はナマモノだ。

 早くせんと貴様、腐るぞ。」

 

「れっ…!レディーーッ!?」

「れでぃじゅんしょーどのぉぉ!?」

 

「フハハハハハ!!青いな!貴様ら!」

 

とうとう爆発したベルセルクとキティを尻目に、

レディは高らかに笑いながら素早く医療デッキから姿を消してしまった。

 

「おのれレディめ…邪魔立てして済まぬな…

 レディには我から良く言い聞かせておこう。

 では、我も此れにて…御免。」

 

アルゥの様子から自分は不要だと判断したのか、ベルセルクも足早に医療デッキを出ていってしまった。

 

「あちょ………あーあ…。

 …まぁ、ボクが言うべき事じゃないから良い…カナ。」

 

『ねえ、アルゥちゃん。』

 

呼ばれて振り向くとキティの声色と目付きが変わり、纏う雰囲気が変わっている。

が、今までの様に深淵の底を覗く様などす黒く濁る眼では無くなっていた。

 

「お?出て来てくれたんだ!!…えーっと…」

 

『ワタシの事なら『フレス』で良いよ。

 案外キティもこの名前、気に入ってるし。

 …色々とその…ありがと、ね…。

 ワタシとこんなに話してくれたのって、

 ベル様以外に…アナタが初めてだから…』

 

『フレス』を名乗るもう一人のキティは、少し照れ臭そうに上目遣いでアルゥを見上げた。

 

「ぃやはぁー!照ぇれるなぁー!

 ナニナニ?ボクキミの初めて貰っちゃった的な?

 ウェヒヒヒヒヒ!たぁまりませんなぁ!」

 

『ひきゃきゃ!アルゥちゃん、それ何かオヤジくさーい!』

 

フレスとキティの深層で語り合った事で、アルゥもキティも解った事があった。

一つは、キティがテロ組織に精神操作を受けた際、フレスは壊れかけたキティが産み出した『身代わり』であった事。

キティという主人格を隔離し、フレスという人格を身代わりにした事で、キティは壊れずに済んだ。

しかし、身代わりとなったフレスは精神操作によって人格的に破綻を来してしまい、残虐な殺人機械に成り果ててしまっていた。

 

もう一つは、隔離されたキティと破綻を来したフレスという『精神的に非常に不安定な状態』に陥った事で、肉体の成長が極端に遅くなってしまった事。

 

人間という生命体は実に奇妙な物で、精神面の状態如何で肉体面に多大な影響を与えるものである。

 

其れは体調を崩したと精神が思い込む事で本当に体調を崩したり、

薬を飲んだ直後から体調が改善した様に感じる『プラシーボ効果』の様に、

キティという主人格が隔離された上、フレスという人格の精神破綻によって、一時的に肉体の成長力が止まってしまっていたのだ。

 

ベルセルクと出逢い恋をした事で、キティとフレスが人間らしい人格を取り戻し始め、漸く肉体の成長が戻り始めた様に感じる、と彼女達は語っていた。

 

『兎に角、ワタシもキティも頑張る、超頑張る。

 人間的な意味でも…その…プロポーション的な意味でも…』

 

「うんむ!ぐゎんばれ二人共!

 …何ならこのアルゥちゃんが…

 組んで解して二人のん゛がわ゛ゆ゛っ!?」

「アルゥ…キティに何をする心算だった…?」

 

下品な顔といやらしい手つきで迫るアルゥからキティを救った(?)のは、何時の間にか医療デッキに戻って来たベルセルクの拳骨であった。

 

「ノ!ノ!ノー!ボーリョクベリーNO!

 ウィーアーザブラザー!!

 …つかおじさん何時の間に戻ったのさ!?」

 

早速たんこぶになって来た頭を擦りながら、ベルセルクからアルゥが飛び退く。

 

「今しがただ。

 何が嫌な予感がしてな。」

 

「くそう…二章に渡ってガッツリエロエロキティちょんでモニター前の紳士諸兄を懐柔するボクの作戦が…」

 

「…貴様は何を言っているのだ…」

 

ゆらり、と沸き立つ殺気と共に、ベルセルクの手が背中に背負う大太刀『斬龍丸』にかかる。

 

「や、チガウンスヨ?ボクはただですねぇ……

 ま!後は若い二人と旦那様にお任せ!」

 

今にも背中の太刀を抜刀しそうなベルセルクに生命の危機を感じ取り、アルゥは脱兎の如く医療デッキから飛び出していった。

 

「ちっ…キティ、フレス、気にする事は決して無いからな。」

 

ベルセルクはキティの目線まで屈み、その頭を優しく撫でた。

変わらず優しいベルセルクの大きな手、

その温もりに堪らず、キティはベルセルクの首にすがり付いた。

 

ベルセルク以外に自分達を理解してくれる者の存在を得た事も重なり、キティとフレスの二人から溢れた熱い物が頬を伝う。

 

ベルセルクは精巧な硝子細工に触れる様に、小さなキティの体をそっと抱きしめた。

互いの心臓の鼓動が、互いの心を充たして行く。

それきり、抱き合ったままの二人は何も語らず、静かに時を過ごして行く。

 

 

そてだけで、今の二人には十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ〜、見せ付けてくれちゃうでやんの〜。」

 

「『リア充爆発しろ』か?

 嫉妬は男女区別無く醜い物だぞ、アルゥ。」

 

「けぇ〜っ!!ぺっぺっ!

 どーせボクにはまだあんな彼氏も居ませんよーだ!

 どーせお金が恋人ですよーだ!」

 

「そう拗ねるなアルゥ。

 何ならニビルシティで、クルーを兼ねた恋人探しでもしてみるか?

 従軍経験有りの高能力者なら、紹介料も弾むぞ。」

 

「…詳細な金額提示と指定条件をKWSK。」

 

「…………本当に現金な奴め…。」

 

「や、ボク商人だし。当然だし。」

 

ベルセルクとキティの居る医療室から3ブロック程離れた部屋で、艦内カメラから二人を覗き見るレディとアルゥは、そんな会話を交わしていたという。

 

‡………‡………‡………‡………‡

 

その頃、ニビルシティ南西沖…

 

『あなた方の救助に感謝します。

 あなた達は私達の命の恩人だ。』

 

「いえ、御無事で何よりで御座います、

 ゲシュタール皇帝陛下。」

 

『…皇帝陛下は止して頂きたい。

 最早私は、一国の主ではないのですから…。』

 

「では、失礼ながらゲシュタール栄誉元帥閣下、狭いながら御部屋を御用意させて頂きました。

 閣下もさぞ御疲れでしょう、どうか御自愛を。」

 

『…重ね重ね誠に申し訳ありません。

 この御恩は、何時か必ず…。』

 

深々と頭を下げたゲシュタール帝は、グレゴリオの部下に案内され、兵員輸送船のキャビンへと通されて行った。

 

一週間という長時間連続稼働により、アーデルハイド、グレゴリオ両部隊によってホバーカーゴに回収されたステラスは、既に再起不能な程にボロボロになっていた。

 

ゲシュタール帝を支え続けたシュヴァイツァー元帥とレジーナ皇后も、救助された安心感からか倒れ伏し、現在救護班によって治療を受けていた。

 

「…一週間飲まず食わずで寝ずの番かよ…

 元帥閣下も大概だが、皇后陛下も凄ェ御人だぜ…

 俺様達たァ気合いが違わァ…」

 

「僅かな携帯食料と飲料水を全て皇帝陛下に差し上げていたのよ。

 此処まで保ったのも、御二方のゲシュタール陛下を想う御心有っての賜物でしょうね。」

 

「…大統領(オッカサン)も心配だが…

 同盟国(ダチコウ)此処までコケにされて黙ってたとあっちゃァ…『人喰い師団』の代紋に傷が付かァなぁ!」

 

「あら、奇遇ねグレイ。

 私もこのままじゃ誇り高いガイロス帝国、

 その栄え有る第七機甲師団を預かる者として、

 祖国に示しが付かないと思っていた所なのよ…。」

 

この時、見える者には二人の周囲が陽炎の様にグニャリと歪み、朱と蒼の焔が立ち上っていた様に見えていた事だろう。

 

「応!ソコの若ェの!通信兵呼んで来ォい!!

 ヘリック、ガイロス両方のだ!!

 間ッ違えンじゃァ無ェぞゥ!!」

 

「両部隊への合同緊急通達である!!!

 何をもたもたしている!!走れ!!!」

 

「は…ハッ!!!!」

 

この事件の黒幕にとっての『極悪大隊(バッドバタリオン)』が、ゆっくりとニカイドス島に近付きつつあった。

 

 




さて、今回は能登節の炸裂と、やられ役とは言えど、旧バトストを知る方にはニヤリと出来る改造ゾイドが出て来ましたが、如何でしたでしょうか。

筆者は旧バトスト好きの為、旧バトストの改造ゾイドも多数出演を予定しております。

御期待頂ければ幸い至極。
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