※この作品はR-18です。

ゾイド異伝〜神機獣戦記バハムート〜   作:蚩堂尤仁

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※閲覧に際しての諸注意※

・この物語はZOIDSシリーズ、及びゾイドバトルストーリー等の世界観を元に作成された二次創作です。

・作中に各ゾイドシリーズに於ける登場人物の他に、作中オリジナルキャラクターやオリジナルゾイド、オリジナル改造ゾイドが多数登場します。
 其れに伴い、原作に登場するゾイドであっても、細かい機体スペックや装備、能力等に差異が生じております。
 また、今作はシリーズを通して上記オリジナルキャラクターやオリジナルゾイドが中心となりますので、そうした作風や展開が苦手な方は御注意下さい。

・時系列的にはゾイドバトルストーリーの年表を元に、ZAC2109年に戦争は三国の和平、併合により終結。
 アニメ無印ゾイドにも登場したガーディアンフォースが設立され、
 そこから更に17年が経過した設定となっています。

・今の所、各アニメキャラ(バン・フライハイト等の各アニメ主人公、及び各アニメ主要キャラクター等)の出演は予定しておりません。
 時系列、物語的に矛盾が生じる可能性が大きい為、同名であっても別人、またはパラレルワールドの存在であるとご了承下さい。

・古代ゾイド人は出演予定ですが、各アニメゾイド等で語られる古代ゾイド人とは異なり、現代ゾイド人が喪ってしまった強大な能力(所謂読心術や精神没入等の超常的な能力)を持った『超人的な存在』とお考え頂いた方が良いと思います。

・今作に於いてデスザウラーはアニメゾイドの様な『破滅の魔獣』的な位置付けではなく、ガイロスやネオゼネバスの主力ゾイドの一つになっています。

・今作中、喫煙、及び飲酒描写あり。
・お酒と煙草は二十歳になってから。
 自身の適量とペースを踏まえた上で、適切な時と場所で愉しみましょう。

・上記を踏まえた上での閲覧をお願い致します。


第五章:自由都市

「さて、困ったな。」

 

「いや、困ったなじゃないですよ!

 困るのはこっちですよ!

 ココにこんなデカいの置いとかれても!」

 

「そうは言っても左足が完全にイカれてこれ以上動かせん、

 修理が終わるまで何とか都合を付けてくれ。」

 

ニビルシティ検問ゲート前で、男女二人が口論を繰り広げていた。

 

男はニビルシティ検問ゲートの管理担当者。

女はレディ准将その人だ。

 

ゲートの真正面には、バハムートの巨体が踞り、検問ゲートを塞ぐ様な状態になっていた。

 

「こんな大きなゾイドの修理がいつ終わるんです!

 その間ゲートが使えないなんて話になりませんよ!

 即刻退去させて下さい!」

 

「だから自力では無理だとさっきから説明しているだろう。

 動かすにはネオタートルシップ級二隻とホエールキング級六隻をだな…」

 

「またそれですか!!!

 もう結構!!そのまま御待ちを!!

 局長!駄目です!話になりません!」

 

とうとう検問ゲート管理担当者は肩をいからせ、自身の上司、保安局長へと助けを求めに行ってしまった。

 

「チッ…情け無い男め…女一人論破出来んか。

 此れだから表の軟弱な『モヤシ』共は好かんのだ。」

 

不機嫌そうに葉巻を吹かしながら、レディは吐き捨てる様に呟いた。

 

「(や、そりゃあーたから見りゃ世の一般人男性は皆モヤシでしょうけどさ…)」

 

そんな事を思いつつ、レディを他人のフリをしながら眺めていたアルゥは、言うと後が恐いので其れを言葉に出す事無く、そっと心のD:ドライブにしまうのだった。

 

「全く!何時になったら修理班か輸送班が来る!!

 日が暮れてしまうではないか!莫迦ーッ!」

 

…理不尽である。

 

‡………‡………‡………‡

 

【自由都市】

 

‡………‡………‡………‡

 

ニビルシティ

 

其処はかつてニカイドス島が要塞化された折、旧ゼネバス帝国皇帝ゼネバス=ムーロアがガイロス帝国によって連れ去られ、祖国を失う瞬間を彼方から見届けた都市である。

 

終戦の折、ニカイドス島随一であったこの都市は自治権を三国から勝ち取り、如何なる武力も権力も及ばぬ自由都市として発展を続けた。

 

東方大陸の様に治外法権が認められており、

都市内部は都市長と都市管理組合によって政が執り行われ、

都市司法委員会が敷く都市法によって法が定められ、

都市治安維持局によって司法権が認められている。

 

有り体に言い換えれば都市長と管理組合が内閣、

司法委員会が国会、

治安維持局が裁判所である。

 

そしてこの都市には、独自の警察組織として治安維持局下組織の『都市保安局』が存在する。

 

彼等は都市法違反者の取締り、拘留権の執行による犯罪者の留置、拘束、治安維持局による身分を無視した強制調査権限が与えられている。

また、都市外から訪れる旅行者、移住希望者等の調査取り調べ、及び監視も請け負っている。

 

街の入り口に設置された検問ゲートも、そうした外からの来訪者を調査、入出管理を行う為の物である。

 

そして今、その国境と呼んでも差し支え無いその場所に都市保安局長、

つまりこの都市の法の番人、その最高峰が立っていた。

 

鍛え上げられた肉体は2m近く筋骨隆々、健康的に日焼けした肌に白と青で彩られた保安局の制服が栄える。

しかし、その唇には薄いピンクのルージュが引かれ、薄紫のアイシャドーに付け睫が揺れる。

 

顔がまるきり男にも関わらず、である。

 

「アータ達ね?アテシ達の大事なゲート塞いでくれちゃったっていう困ったチャンは…」

 

予想通りのオネエ言葉に、アルゥ達が凍り付く。

 

そう、キャットウォークで近付いて来るこの男

 

…と云うかオカマこそ

 

「アテシがニビルシティ都市保安局局長、

 アントニオ=アルフォンソよン。

 アーニャって呼んで頂戴ねェ?

 ヨ、ロ、シ、ク。うふン。」

 

わざとらしいモデルポーズを取りながら、レディ達に近付いて行く。

彼が一歩進む度、アルゥとキティが一歩下がる。

そうこうしているうちに、アーニャを名乗る男はレディ達の鼻先にまで近付いていた。

女物の香水を使っているのが判る程の距離だ。

 

「あら、アータ達中々度胸あるじゃない。

 大概のコはアータ達のお仲間と同じ反応するんだケド…

 …お名前、教えて下さらないカシラ?」

 

「漸くと真っ当に話せる輩が出て来たな。

 私はレディ=ハーケン准将。

 元ネオゼネバス帝国技術開発部隊隊長だ。」

 

「同じく、ジーク=フリード准将。

 同部隊副隊長だ。アーニャ局長殿。」

 

「…ベルセルク=ジオ大佐。

 同部隊副隊長補佐だ。

 …故有って、階級も肩書きも過去の物だがな。」

 

「グラシアス(有難う)。

 そんなお尋ね者なアータ達が、

 この街に何の御用カシラ?」

 

その場に居る全員が固唾を飲む。

四人とも口元はにこやかに笑っているが、

その眼は鋭利な刃物の様に鋭く研ぎ澄まされていた。

 

見える者には、両者間に視線のぶつかり合う火花が散る様が見えた事だろう。

 

「何、搭乗ゾイドの足の修理だ。

 ゲートまで何とか来たは良いが、

 とうとう動けなくなった。

 貴様の部下が云う様に退かすにも、

 修理するか然るべき規模で輸送せねばならなくてな。

 …その説明もまともに聞けん貴様の部下に辟易していた所だ。」

 

「此方としても、これ以上無関係な人間を厄介事に巻き込む前に、

 この街から移動したいのだがね…

 どうかご協力頂けるかな?ミスター。」

 

「このまま放置するのは、双方無益有害。

 ならば早急に手立てを講ずるが肝要。

 …非は此方なれど道理まで通させぬ御心算か?」

 

「…ナルホド、確かに筋は通ってるワ。

 ちょっとアータ!?ハナシと違うじゃないの!

 このコ達のドコが幼児誘拐犯なのヨ!」

 

「幼児…」

 

「…誘拐犯…」

 

アントニオから出た言葉に、レディとジークがベルセルクとキティを交互に見やる。

 

「……………」

 

「ぶぁ!?わ…私の所為でありますか?!」

 

「そりゃぁ……ねぇ?お約束?みたいな?」

 

半ば予測通りの疑惑を掛けられていた事に、ベルセルクは黙して首を振るばかりであった。

 

そうしている内に、アントニオがレディと会話していた部下へと歩み寄る。

 

「…アータ、何処でそう判断したのカシラ?」

 

「はぁ、背中に刀剣を担いだあんな大男が、

 似てもいない小さな女児を連れていれば、

 誰がどう見ても…その…」

 

「………ハァ〜…アータどうしてもアテシに恥かかせたいらしいワネ。」

 

失望を隠しもせぬ大きな溜め息を吐きながら、アントニオが再びレディ達に向かい、今度はキティに歩み寄る。

 

「本っ当に御免なさいね?

 身分証、拝見して宜しいカシラ…?」

 

散々子供扱いと愛する男を『女児』誘拐犯呼ばわりされ、キティは河豚の様に膨れながら身分証を付き出した。

 

「ガイロス帝国第七機甲師団!

 第三偵察部隊諜報部所属!!

 ガーディアンフォース!!

 キティ=アリエラ!!伍長!!

 22歳!!

 

 に、じゅ、う、に、さ、い!!!!

 

 であります!!」

 

ずい、と突き出された身分証を確認するや、あらぬ嫌疑を掛けていたゲート管理者は瞠目した。

 

あの体躯で、女児と思っていた相手が、まさかの成人女性であったからだ。

 

「ぅいえっ?!?……あ…った…

 大っっっ変失礼致しましたぁぁっ!!」

 

「もぅ…おバカ…

 ニビルシティへようこそ。

 アテシの部下が大変失礼致しましたワ。

 改めて修理手配をさせて頂くワネ。」

 

「当然だ莫迦者が。

 もう少し部下をきちんと教育しておけ。」

 

不機嫌な顔を二つに増やし、レディ達は漸くニビルシティの門を潜ったのだった。

 

‡………‡………‡………‡

 

【ニビルシティ滞在:レディとジークの場合】

 

‡………‡………‡………‡

 

「他の部位は良い!退かすにも都市に入れるにも先ずは足だ!

 緩衝機構修復が最優先だ!急げ!!

 そこ!!民間機とは違うんだぞ!!

 修復資材も丁寧に扱わんか!!」

 

拡声器と指示書を手にしたレディ准将から、矢継ぎ早に修復指示と激が飛ぶ。

 

アントニオの計らいにより、早速ゾイド修理職人達が手配され、バハムートの足の修復作業が始まっていた。

 

レディとジーク、アルゥの三人を残し、

レディは修復作業現場の陣頭指揮を、

ジークは修復資材調達の交渉を、

アルゥはジークが調達した修復資材と人件費の価格交渉を各々担当していた。

 

レディが指揮し、ジークが指揮に合わせて資材と人員の調達を近隣のゾイド修理工場に交渉、空かさずアルゥが各種価格交渉に入る。

 

その手際の良さと的確な手腕は、ベテランの職人達すら舌を巻く程だった。

 

そのお陰か、バハムートは夕刻には歩ける様になり、何とかニビルシティの超大型ゾイド修理用ドックに入る事が出来たのだった。

 

しかし、所詮急場凌ぎの応急処置。

本格的な修復となれば、また2、3日は優に掛かるだろう。

 

「………ふぅ……。

 矢張り急揃えでは応急処置が限界か…。」

 

レディはドック内喫煙所のベンチに腰掛け、葉巻を燻らせていた。

徹夜の操縦に激しい戦闘、更に修理の指揮にと奔走し、漸く訪れた休憩時間であった。

 

「お疲れ、レディ。」

 

ジークの声と共に缶コーヒーが投げ渡される。

レディが愛飲する銘柄である。

 

「流石自由都市、レディの好きな銘柄も取り扱っていたよ。」

 

「…教えた心算は無かったのだがな…」

 

プルタブを引き小気味良い音と共にコーヒーの香りが広がって行く。

一口に缶コーヒーをあおるレディの隣に、ジークは腰を降ろした。

 

「…何年君と一緒にやって来たと思ってるんだい?

 此れでも、男以外の君の好みは把握して来た心算なんだけどな。」

 

ジークも懐から煙草を取り出し、火を点ける。

紫煙が立ち上り、吐き出された白煙が其れを揺らした。

 

「…こんな時に…いや、こんな時だからこそ私を口説く心算か?

 …貴様も大概懲りん男だ。」

 

「…懲りないさ…。

 君は俺が唯一口説き落とせなかった女だ。

 高嶺の華程手に入れたくなる…

 男ってのは、そういう生き物なんだよ。」

 

じり、と煙草が音を立て、紫煙の柱を揺らす。

ジークの吸うペースは早く、早速一本が灰皿に押し込まれる。

 

「そら。一本くれてやる。久々に試してみろ。」

 

貴様の男の成長ぶりを見せてみろよ、と、煙草の二本目が取り出される前に、レディから葉巻が渡される。

 

『ノスタルジー』

 

プレジデンテと呼ばれる形状をした共和国製の葉巻であり、故郷を想う兵士の為にと作られたという。

三国の和平が成された頃から広く民間にも流通しているプレミアムシガーである。

 

鼻先に葉巻を近付け、香りを確かめる。

強い煙草葉の香りの中にも、仄かに甘く、何処か懐かしい香りを感じさせる。

 

「…相変わらず香りは良いね。」

 

「…ちゃんとこいつを使え。

 そんな無粋な物で斬るな。」

 

サバイバルナイフで両口を斬ろうと手を掛けたジークの眼前に、狼の銀細工が施されたシガーカッターが差し出される。

 

「…君は何時も使ってるが、かなりの年代物だね。」

 

ばちんという二つの音と共に両口が切られ、葉巻独特の香りが更に強く匂い立つ。

改めてシガーカッターを見れば、良く磨かれた銀細工の狼の眼には、小粒ながらも輝き褪せぬ、紅く燃えるルビーが埋め込まれている。

 

メーカー名の刻印が見られない所を見るに、どうやら一点物の様である。

 

「……親父の形見だ。

 …親父も葉巻が好きな男でな…

 そいつは親父が若い頃作らせた特注だ。」

 

「…初耳だね。」

 

「…言わなかったからな。

 所で、其れはオイルか?

 それともガスか?」

 

シガーカッターをレディに返しながら、ライターで火を点けようとするジークの手を指さし、レディが問う。

 

「…オイルライターだ。」

 

「なら此れを使え、オイルライターでは風味が死ぬ。」

 

「…御親切に。」

 

手渡されたガスライターをしげしげと見つめる。

大小の傷や錆び等、使い込まれた痕が見て取れる。

此方はレディ個人の物のようだ。

 

じりじりとガスライターに焼かれ、葉巻の煙草葉が炭化して行く。

紅い火が灯った事を確認し、火を離す。

其れだけでも焼かれた葉の香りがジークの鼻腔を擽り、我々がよく知るシガレットの比ではない程の香りが周囲を包む。

 

すぱ、すぱ、と吹かしてみれば、更に濃厚な香りを含んだ煙が立ち上り、周囲を霞ませる。

 

「(…毎度ながら、こいつは凄いな…)」

 

何時もの吸い癖を堪え、ゆっくりと煙を吸い込む。

肺に煙を落とさず、喉に押し留め、其所からまたゆっくりと吐き出して行く。

 

葉を嗅いだ時とは違った、重くも濃厚な香りが大量の煙と共に、己の鼻腔と口を抜けていくのをジークは感じ取った。

 

「ほう…中々上達したじゃないか。」

 

「…其れはど…う゛っゲホッ!?ゴホッ!!」

 

煙がまだ喉に残っていたのか、肺に落としてしまったのか、ジークは突然咳き込んだ。

 

その姿をそれ見た事か、とレディが笑う。

 

「フハハハハハ!!矢張りやったか!!

 玄人ぶって吸っている最中に喋るからだ。」

 

「げはっ!!ごほっ!!…ぉえっ!!かはっ!!」

 

からからと笑いながら、レディは咳き込むジークの背を擦る。

 

「フハハ…以前渡した時は、煙を吐き出す前に噎せた上に吐き戻したからな!

 クックッ…『ヤニゲロ坊やのジーク』にすれば、大した成長ぶりじゃないか!…ククク!」

 

「ゲホッ!!…全く…相変わらずだよ、君は。…ケホッ!

 いい加減、その呼び名は忘れて欲しいね…。」

 

「ふふ…良く見れば、貴様は中々良い漢(おとこ)になって来ているじゃないか。」

 

その言葉と共にふと目に入ったレディの表情が、今までに無い程柔らかい事にジークは気付いた。

 

嗚呼、矢張りこの女性(ひと)は美しい。

 

軍人という分厚い鉄の壁に覆われた中から時折僅かに覗かせる、

女という朝露に濡れた可憐な華の何と美しい事か。

 

計略と策謀の為に星の数程女を落とし、抱いて来た中のどの女にも勝る高嶺の華だ。

 

だが、自分は今はまだ其処に届いていない。

 

「…有難う。

 だが、まだまだだ。

 そうだろう?」

 

「…フッ…漸く慢心は消えたらしいな。」

 

三分の一程になっていた自分の葉巻を灰皿に押し込み、レディは何時もの足取りでドッグに歩いて行く。

 

「…コーヒー…有難うよ。馳走になった。」

 

その一言を残し、レディは喫煙所の壁で見えなくなった。

 

「(…全く、何であんな高嶺の華に惚れちまったかなぁ…俺は。)」

 

先程とは違う風味の香りを感じながら、ジークはまたひとつ大きな煙を吐き出した。

 

‡………‡………‡………‡

 

【ニビルシティ滞在:ベルセルクとキティの場合】

 

‡………‡………‡………‡

 

「どぁっからぁ!!きぃていうれありあしゅかべうしゃぶぁ〜!!!」

 

「ああ、聞いている。

 聞いているとも…」

 

げんなりとした顔で、ベルセルクは東方大陸名産の米酒『神鳴り』を呑む。

我々の世界で云う日本酒の其れである。

 

その向かいの席には。

 

「ぅあらひわぁ!!ひっく…ういぃ〜…

 りっぷぁらぅし…しぇえりんらのれありあしゅお!!

 しょえおあろおかまりょひたらぁ!!!」

 

様々な酒の徳利やボトルを空け、周囲に散乱させ、泥酔して管を巻いているキティが座っている。

 

店に入るやキティは酒を片端から注文、

徳利やボトルごとあおる事を続け、

10種類以上の酒を大小合わせて30本以上空けている。

…常人ならば急性アルコール中毒で急死しているアルコール摂取量である。

 

最早何を言っているかも判別出来ぬ程に呂律が回っておらず、

小さな体はまるで染め上げた様に、上は頭から下は爪先まで全身見事に真っ赤である。

 

「どぁがらぁ!!

 きぃてれぅれありあしゅかぁ!!!」

 

「ああ、聞いている。

 聞いているとも…」

 

「きぃれあいっ!!ひゃっく…ういぃ…

 べぅひゃぶぁあわぁひろはらひおきぃれあいれありあしゅ!!

 んあ………う?うぅ〜…

 ぉあぃひゃん!もぉっぽぉん!!」

 

煽ろうとした徳利が空である事に気付き、キティが店の女将を呼びつける。

 

「…あのう、お客さん、もう止した方がいいよ。

 まるで茹で蛸じゃないか…」

 

キティの様子にとうとう見かねた店の女将が、酒のおかわりを要求するキティを止めにかかる。

が、かなりの泥酔状態のキティに、そんな心配が届く筈もない。

 

「らぁ!ゆれぁこれぉらんれぉいっかぁもってこぉい!!!」

 

「あぁもう…はいはい、此れで最後だよ…

 お連れさんも、止めてやっておくんなましよ!!」

 

「…こ奴は一度管を巻いたら、吐くか寝るまで元には戻らん。

 我とて如何ともし難い。

 …赦せ、女将。」

 

「べぇぇうぅぅしゃぁぁぁぶぁぁぁ!

 ぅあらひろぃぅもろがぁりらがら…

 ほがのおんらろはらしゅぉれぅがぁぁぁ!!!」

 

しまった、とベルセルクが思うも、時既に遅し。

 

女将と会話していた事には気付いたのか、キティは突然大声で泣き始めた。

 

「ぅぎえええええええええええええぇぇ!!!!」

 

…こうなっては最早、制御不能のスーパーサウンドブラスターも斯くやである。

 

最早店の中は大混乱である。

外からもすわ何事かと店を覗き見る人集りが出来始めている。

 

此れは堪らん、と、ベルセルクは謝罪と会計もそこそこに、泣き喚くキティを小脇に抱え、足早に店を飛び出して行った。

 

「…全く、あんな彼女じゃ、あのお連れさんも大変だよ。」

 

ベルセルク達の失せた席を眺め、店の女将はやれやれと首を振るのだった。

 

‡………‡………‡………‡

 

其れから暫くして…

ベルセルクは途方に暮れていた。

 

「べぅひゃぶぁあ!!もっけん!!もっけんぃこ!!ね!?」

 

「莫迦を云うな、どれだけ呑んだと思っている。」

 

「ゎあひぁ!むへひろぉ!ふぇしゅべぅくれありあしゅお!!えひゅっ!?うぃ〜…」

 

「やれやれ……しかし参った……

 …………此処は…何処だ……。」

 

酒も入り、土地勘の無い場所を滅多矢鱈に走り回ったが為に、ベルセルクはすっかり道に迷ってしまっていた。

 

バハムートにはアルゥやレディ達が残っている筈だが、まさか

『酒に酔って走り回り、道に迷った』

などと、口が裂けても言えた物ではない。

 

迷い込んだ場所は街灯も疎らな裏路地、歓楽街の光を探そうにも、高層ビルやマンション群が邪魔をして見えない。

まして、現状をして、人に会うのも至極拙い。

 

 

背には泥酔状態の見た目幼い女性を背負っており、検問ゲートでの一件から、とても信用されるとは思えない。

 

色々と手詰まりである。

 

「えひゅっ!?………ぷえぇ………ぅ?

 べぅひゃぶぁあ!

 ひゅごいれありあしゅ!

 おひろれぁりぁしゅ!!」

 

「あ痛、た、たっ!…一体何だ…?!」

 

何かを見付けたであろうキティが、ベルセルクの横っ面を平手で容赦無く張る。

 

「ぁひょこぃきひゃぃれありぁしゅ!」

 

ぐり、と無理繰りに首を向けられれば、すっかり酔いの醒めたベルセルクの目に、一気に情報が流れ込む。

 

些か派手な電飾と外装。

 

バス、トイレ完全個室、各種設備完備

 

休憩580C

 

宿泊780C

 

さて、此処で勘の良い読者諸兄ならば、ベルセルクとキティが何を見つけたかお分かりになるだろう。

 

歓楽街、それも飲み屋街の裏路地と来れば

 

そう、ラブホテルである。

 

道を引き返せばまた未成年者略取で騒ぎに。

 

道を進めば青少年の何かが危ない棘の園が。

 

「ぶぇぅしゃぶぁぁぁ!

 ぃきひゃいれぁりぁしゅぅう!!」

 

更に泣かれるという時限爆弾付き。

 

此処で、ベルセルクの中の天使と悪魔が言い争いを始めた。

 

(ベルセルクよ、貴様は良く耐えた。

 だが耐えたのはキティも同じ、

 貴様程意志が強い訳では無い。

 理解(わか)るか?

 抱いてやれ、誘われておるのだぞ?

 据え膳食わぬは男の恥だ。)

と、悪魔が囁く。

 

(馬鹿を云え。

 泥酔状態で誘うも何もあるか。

 そも、酔い潰れた相手をホテルに連れ込んで事に及ぼうなど、まるで強姦魔ではないか!

 ベルセルクよ、考え直せ。

 他で道を尋ねて保安局に戻るのだ。)

と、天使が囁く。

 

「…ええい!南無三っ!!」

 

「なぅしゃぁん!うぇ〜〜〜!」

 

最早ベルセルクが選べる道は無かったのだった。

 

‡………‡………‡………‡

 

「……で、恥を偲んで通報され難いであろうラブホテルで道を聞いて、ココまで戻って来た、と。そういう事なのネ?」

 

ベルセルクが酔ったキティを背負い、ラブホテル街に入って15分後。

ベルセルクとキティは保安局本部のロビーに居た。

 

結局ラブホテルに入ると同時にキティは眠りこけてしまい、ホテルの係員から保安局への道を尋ねただけに終ったのだった。

 

「………………………」

 

「まぁ、アータの義侠心とモラリストな所は認めてあげるワ。

 でもネ…」

 

こめかみに青筋を浮かべ、アントニオが大きく息を吸い込み。

 

「ホテルまで連れ込んで恋人と既成事実の一つも作らないって!!

 アータ…ッバカじゃないの?!」

 

「其れが法の番人たる者の長が抜かす科白かぁっっ!!!」

 

同時に叫んだ。

 

ベルセルクがあの短時間の中、良心や義侠心と、恋人との睦み合いを心の天秤にかけ、係員を呼び出すまでにどれだけ苦心したか

 

「ぅんにょ〜〜〜……べぅしゃまちゅっちゅ………」

 

知らぬは結局、ラブホテルに入る前に眠りこけたキティだけであった。

 

‡………‡………‡………‡

 

【ニビルシティ滞在:アルゥとバハムートの場合】

 

‡………‡………‡………‡

 

各々がそれぞれの夜を過ごす中、

アルゥは独り、バハムートのゾイドコアコントロールルームに来ていた。

 

「…と、云うワケでさ、

 明日から本格的な修理が始まるって。

 …またガマンさせちゃうかもだけど…さ。」

 

機械を介し、人と話す様に語りかける。

しかし、声が返って来る訳では無い。

彼女は機械の『心』を感じ取り、

其れを『声』や『姿』として認識する。

キティの心から、無数の嗤う眼を見た様に。

 

”アルゥさん、僕は大丈夫です。

 『かあさま』が付いていてくれますから。”

 

何も無い、ただただ真っ白な空間の中で、

アルゥには今、一人の少年が視えている。

 

ボサボサの銀髪に真っ赤な瞳、

ぶかぶかのシャツのあちこちが破れ、

釘か杭の様な物が刺さる左手には、

血の滲む包帯を巻いている。

しかし、その包帯は幾重にも整然と、

しかし優しく巻かれているのが判る。

 

きっと、あのレディに子供が産まれるなら、きっとこんな子供なのだろう。

 

アルゥには妙な確信が持てた。

 

”かあさまはきつい物言いですが、

 とってもとっても優しい人です。

 あなたもきっと、僕みたいに愛してくれます。

 きっと、きっとです。”

 

「まぁ、普段の物言いからじゃあ……

 ちょーっち想像出来ないかなぁ…?」

 

あの鉄の女が優しい所を想像しようにも、

アルゥにはとてもではないが、

優しい仕草や表情のレディを具現化出来なかった。

 

”何と云うんでしょう……………

 そう、かあさまは誰もが知る母…あ…。”

 

言いかけた所で、少年はその後に続く言葉を咄嗟に飲み込んだ。

 

”…ごめんなさい、失言でした…”

 

「いいのいいの!子供がそんなコト、

 今から気にしてちゃだーめ!

 今から気にしてたら、頭ハゲちゃうぞぉ?」

 

アルゥには母親所か、名前以外の記憶が無いのだ。

 

キャラバンで家族を見掛ける事はあれ、

其れがどれ程暖かく優しいかを知らない。

 

この幼い神鳴る龍は、既に相手を気遣えるまでに成長していたのだ。

 

”あう…頭がつるつるはげるのは困ります。

 折角かあさまがデザインしてくれたのに…。”

 

少年は慌ててその銀髪を押さえる。

その仕草が可愛らしく、思わずアルゥの顔に笑顔が浮かぶ。

 

「…レディさんの事、大好きなんだね。」

 

”はい!かあさまは大好きです!”

 

”オイラもオマエに負けない位、

 『ご主人達』は大好きだぜ!?

 速いし強いし可愛いしな!!”

 

「お?その物言いはフレスだなぁ?」

 

”フレスは駄目だぜねえちゃん!

 其れはご主人の一人の大事な名前だ!

 だからオイラは『タイホウ』だ!!”

 

真っ白な空間に、もう一人の少年が現れる。

翼の様な長い袖に、ぴったりと体にフィットしたシャツとスパッツ、その何れもが白く、

その瞳と、腰まで伸びた髪は青空を思わせた。

 

「タイホウ?」

 

”ご主人の一人が、最初はオイラをそう呼んでたのさ。

 ホラでっかくって恐いカオしたヒト。”

 

「ウェヒヒヒ、ベルセルクのおじさんかぁ。

 …でもタイホウって?」

 

”トーホータイリクって所でエンギのイイ、

 でーーーっかい鳥なんだってさ。

 …詳しいコトはオイラも良く知らないや。”

 

「そっか…でもボクにも判るよ。

 おじさん、キティちゃんもフレスちゃんも、

 何時だってとても大切に想ってるもん。」

 

”オイラの事だって想ってくれてるやい!!”

 

「ウェヒヒヒ!…ん、そだね。」

 

「アルゥ…バハムートと話していたのか?」

 

”あ、かあさま…”

 

掛けられた声に振り向けば、壁に寄りかかり此方を見るレディの姿が映った。

 

真っ白い空間が瞬く間に消え失せ、

元居たコントロールルームに戻る。

 

「…まぁ、そんなトコ。

 明日から修理始まるって、伝えてた。」

 

レディには勿論、バハムートの化身であろう少年の姿も、声も認識出来ない。

傍から見れば、独りで何も無い空間に話し掛けている様にしか見えない筈だ。

 

しかし、何故かレディには、何とはなしに判る様なのである。

 

「…そうか…」

 

「…ねね、レディさんも話してみる?」

 

「話す?…ああ、キティに使った『没入』か。」

 

「そそ、アレの応用編。

 ボクが電話回線、

 バハムート君が電話A、

 レディさんが電話B。

 どうよ?やってみる?」

 

自信ありげなアルゥを他所に、

レディは静かに首を横に振った。

 

「…………いや、止めておこう。

 今の私には…息子に合わせる顔が無い。

 …結局私は、この子を戦場に駆り出してしまった。

 親として、赦される事では無いよ。」

 

レディがコンソールの端に、そっと触れる。

愛しい子供を優しく撫でる母親の様に、

その表情は穏やかで

 

「私の我儘で…お前を闘わせる私を赦せよ…

 『リック』…」

 

とても寂しそうであった。

 

”………かあさま………”

 

「…リック?」

 

「……生きていれば、丁度アルゥ程の年頃か…

 …リカルド=ギュスター=ラーズグリーズ。

 …腹違いだが、私の弟だ。

 16歳になる前に、病で亡くなっている。」

 

「…じゃあ、レディさん…本名は…」

 

「否、私は言わば側室の子だ、

 ラーズグリーズの姓は名乗れん。

 故にレディハーケンの名のみを名乗る。

 権力を持つ家の名とは、色々と面倒なのさ。

 …尤も、その家も没落し、既に無いがな。」

 

「………そう……だったんだ……。」

 

思わず聞いてしまった興味は、想像を絶する程に重く、また聞くべきではない事だった。

レディ=ハーケンと云う女の過去は、

記憶の無いアルゥの其れよりも、

より壮絶であったからだ。

 

「…親父は最期まで、私に謝っていた。

 『何も遺せぬ私を赦せ』…とな。

 だが、遺してくれた物は確かにあった。」

 

胸ポケットから、シガーカッターを取り出す。

多少くすんではいるが、銀の狼は今も力強くその牙を剥き、ルビーの眼が燃えている。

 

「こいつと…親父の技と、誇りと、生きる意志だ。」

 

照明に翳された銀の狼は、鈍くとも確かに輝いている。

既にこの世に無い彼女の過去は、この輝きの中で、レディの意志によって確かに未来へ向けて進んでいた。

 

「…素敵だな…

 …ボクにはそういうの、無いから…

 ちょっと羨ましい…かな。」

 

「そうでも無い。

 無いなら今から作れば良い。

 無くしたならば、また探し出せば良い。

 私よりも輝ける物は、必ず見つかるさ。」

 

シガーカッターを仕舞い、部屋の扉を開く。

 

「……貴様にはつまらん昔話だったな…忘れてくれ。」

 

そう一言残し、レディは閉じる扉の向こうへ消えていった。

 

「…そんな事、無いよ…

 ね?リック。」

 

”はい。つまらなくなんてないです。

 …かあさまはやっぱり強い人です。

 だから、僕も強くなります。

 かあさまに遺された物を護る為にも。”

 

「ん、偉いぞ、リック。」

 

”じゃあ、オイラも頑張らねえとな!”

 

「うん、タイホウも偉いぞ。」

 

…じゃあボクは?

…ボクはどうしたら強くなれるかな?

 

心の内に秘めたアルゥのその言葉に、今は誰も答える事は無かった。

 




さて、今回は休憩回。
バトルの類いは次回まで御休みです。

今作で各キャラ達の人となりが見えれば幸い。
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