淫魔ちゃんにも好き嫌いはあるのです。というお話。
エロ薄め。風呂敷を広げる足掛かり的なモノです。
多くの人が行き交う街を当て所もなく歩き続ける。珍しく数日経っても吸精して塵にしたヒトの名前を憶えているのは、やはりそれだけ印象に残ったからかしら。別段、感傷に浸っているわけではない。思考にあるのは、吸った精気の質、味の問題だ。
妻を喪い、全てを諦めた男の味気無さと、枯れ果てる寸前だと言うのに、命を燃やして全てを私に捧げた男の濃厚な旨味。私はこの二つの例を前に、ずっと考え続けていた。そしてやはり辿り着くのは「愛」という一文字。
愛情は最高のスパイスという言葉があるけれど、淫魔の吸精にまで作用するとはね。愛の無い性行為で相手を吸い殺す私には皮肉にしか思えないけど。
例に出した二人で何が違うのかと言えば、それは感情が向けられた対象だろう。前者は妻に、後者は私に。
ヒトの性欲から生まれ落ち、特に男の理想が集約される私には当然、愛だの恋だのは理解することができる。しかしそれはあくまで世間一般の常識としてのものであって、辞書で説明を読んだから理解したと言っているようなものだ。
だから私は知らねばならない。いや語弊があった。別に知らなくても生きてはいけるけど、知ることによってこれから吸う全ての精気がごちそうにもなりえるのだ。これを逃す手はない。
それにしても、心が読めても感情っていうのは難しいわね。姿かたちが理想を取っているだけでは足りないのかしら。さらに言えば、その感情が向く対象が私でなくとも良いはずだし。妻を喪った男は怒りという感情で生気を猛らせていたけれど、それは妻を愛していたがゆえ、だしね。
んー、難しい。取りあえず小腹も空いたし、ジャンクフード感覚でいいからお腹に入れたいわね。肉棒的な意味で。
「ぁいたっ」
アホみたいな言葉遊びをしながら歩いていると、前から来ていた女の子と肩がぶつかってしまった。「美咲」より少し年上、女子高生という今の私とはまた別の、ある種のブランドを武器にもつ少女だ。しかしまあ、化粧の濃いこと。お肌に悪いんじゃないの? もう少し素の部分を見せた方が男ウケいいわよ。
「すみません……」
内心で無駄に気遣いながら、ぶつかったことは素直に謝る。うーん、女の子かあ。やっぱりあんまり食指動かないかな。ケバいのは別に構わないけれど、何故だかそれ以上に美味しそうに思えない。何かしら、これ。……
「ったぁ~、ちょっと気をつけなさいよ!」
「どした、ユリコぉ」
間延びした声が女の子の後ろから飛んでくる。ん、彼氏かしら。というか、謝った後に気をつけなさいよと言われると、次の言葉に困るんですけど……。とりあえずヘコヘコしてればいいよね。ここら辺、ヒトとしてのプライドが全くないあたり、やはり淫魔な私である。
ユリコと呼ばれたケバい彼女に見合う、結構なチャラ男が現れる。来るなり彼女の心配もせずに私を厭らしい目で見つめてくるので、二人は気は合っても仲が良いのか分からないわね。
「コイツぶつかっちゃった? いやーごめんね!」
「ちょっと、ソイツがあたしにぶつかって来たんだけど!?」
ああもう滅茶苦茶じゃない。この男が下心満載で私を気に掛けるもんだからユリコちゃんすごいキレちゃってるわよ。それにしても、この彼氏さんも、ユリコと同じ臭いがする。何なのかしら、これ。大抵の男の匂いは私にとって興奮材料でしかないはずなのに。
「っひゃ!」
「おいおいユリコ、何してんだよ?」
「っさいわね、慰謝料払ってもらうのよ、イシャリョー!」
ふむむと唸っていると、ユリコに胸倉を掴まれた。胸当て部分が片側外れてぺろりとめくれ上がる。すかさず覗き込もうとする彼氏さんだが、恋人に睨まれて一歩後ずさった。
「あの、私、お金なんて持ってないです」
「はあ?」
事実無一文なのでそう言うしかないのだけど。なんだかこの二人は
胸倉を掴んだまま凄んで見せるユリコに、みょんみょんと魔力を飛ばして思考を読んでみると、そのほとんどが嫉妬で埋まっていた。ああ、彼氏さん浮気が多いのね。それはあなたの束縛が強すぎるからだと思うけど。その結果今も私に絡んでいるわけだし。え、じゃあこの男が彼女さんを庇っていたらこんな面倒なことになってなかったんじゃん。
「すいません……でも、ほら」
「……ちっ」
「お前中学生に絡むなよなー。ごめんねえ?」
あああもう黙ってなさいよアンタぁ! 財布も何も持ってないのをアピールして落ち着かせようとしてたのに、アンタのせいでまた燃え上がってんじゃないのよ! しかも止めるなら止めるで胸倉掴んでる手をどうにかしなさいっての。口だけ男か。
「っこの……! こっち来なさい。アキラ、あんたも来んのよ!」
「ちょ、あのっ?」
「え~、どこいくんだよ?」
アキラと呼ばれた男は結局引きずられる私を眺めるだけで止めなかった。マジ使えない。キレやすい若者代表になれそうなユリコは、ずんずんと進んで人気の無い路地まで私を引っ張って行った。やれやれ。
* * *
私の胸ぐらを投げ捨てるようにして開放して、ユリコは仁王立ちで私の前に立ちはだかった。壁に打ち付けられてケホ、と軽く咳き込んでみせるも、彼女の怒りはもう簡単には落ち着かないようだ。
「脱げ」
「え、えっ?」
「っちょぉ~、ユリコそれヤバくね?」
眉間にしわを寄せて一言ぼそりと呟くユリコ。アキラも一応言葉だけでは止めているが、目がね、もうね。期待しすぎて垂れまくっちゃってるわ。しかしまあ、別に脱いでも良いけど、あんまりヤる気は起きないのよねえ。また軽くみょんみょんしてみると、ユリコは私の裸体を撮ってどこぞの変態に売りつけるらしい。はーん、そういう稼ぎ方もあるんだ。
私もやってみようかしら? この国では先立つ物はなんと言ってもお金らしいし。当初は必要無いと思っていたけど、いろいろ試そうと思うとやっぱり必要になってくるのよね。携帯も買おうとしたんだけど、住所とか無くってそっちは諦めた。
「早くしなさいよ!」
「ひぅ……」
思案していると、躊躇していると思われたのかユリコに怒鳴られた。その横でアキラはニヨニヨと汚い笑みを浮かべている。コイツ……。
観念した
「ヒュー♪」
「あの、これでいいですか……」
もはや劣情を隠しもしないアキラを無視してユリコに話しかける。胸と股を庇うような姿勢で立っていると、自画自賛になるけどめちゃめちゃ可愛いんじゃないかしら? 庇護欲を誘うっていうかさ。
庇っている部分を覆う下着も、私お手製の物である。無一文なので当然だけど、下着を買うお金もないしね。こだわって作ったんだから。白い生地にピンクの縁の綿のパンツ。それに合わせた色のちょっぴりレースをあしらった可愛らしいブラ。ちょっと子供っぽいけど、今の世の中求められているのはソレなのよ! 子どもは子どもらしく! まあ最も欲情する物として精製されたのがコレなのだから、世も末かしらね。
「ガキっぽいわねぇ……。ま、いいわ、それも脱ぎなさい」
「そ、そんな……」
あなたには分からないでしょうけどね! 別に悔しくなんてないんだからね! ぎりりと歯噛みしながら、あ、いや怯えて震えながらも下着に手をかける。なんか普通の女子中学生じゃここらへんで逃げ出すんじゃないかとも思うけれど、若干ヤケになっている感じもする。
「う、うぅ」
「…………っ」
「ハッ」
呻いて身体を縮こませる私を、アキラは喉を鳴らして眺め、ユリコは鼻を鳴らして携帯で写真を撮っていた。いやー自分で言うのもなんだけど高く売れるんじゃないかしら? 今のところこの二人は逃がすつもりでいるし、流出した写真から私を探して援交ないし脅して関係を持とうとする男が現れるかもしれない。さながら川に魚を放流するような気持ちで写真を撮られていった。
「アキラぁ、そいつの腕持ってな」
「へへ、悪いね……」
「やだぁ、やめてえっ!」
なんなのかしら、この臭い。不思議なくらい不快だわ。後ろから羽交い絞めのごとく私の腕を取り、胸も股も隠せないようにされる。アキラは写真に写らないように首を引っこめてはいるが、その汚い吐息が背中の素肌に当たってなんとも気持ちが悪かった。
「や、やあ……もう、許してください……」
「フンッ、アキラ、んなに立てやがって。そんなにコイツがいいんならヤっちゃえば?」
「は? いいのかよ」
「ひっ!? やめ、やめてください!」
うん? 何を言い出すのかしらユリコは。どうにも束縛が強い彼女としか思ってなかったけれど、どういう心算なのか。ユリコの言葉に何の疑いもなく上機嫌でズボンを下ろし始めているアキラを置いといて、目の前の彼女にまた魔力を飛ばす。
『この前性病なっちゃったし、アキラにも
ああ、そういう……。二人から妙な臭いがしていたのにも合点がいった。元から本能で忌諱してはいたけれど、実際に会うのは初めてだからね。不快に思って食指も動かなかったのはそれが原因か。
というかユリコ、あんた束縛しといて自分も浮気してるのかい。まあ性病ったって全部が全部性行為が原因じゃないけど、心を読める私にはお見通しなんだからね。
「はあーあ、性病かあ」
「は、はっ?」
「何よ、あんた……」
ため息をついて怯えた姿勢から直立になる私に、二人して警戒し始めた。そりゃそうか、さっきまでの私は真面目で気弱そうな、そうそう、委員長してそうな(笑)可愛い中学生だものね。しかしもう逃げるつもりも、逃がすつもりもなくなってしまった。写真の流出は面白そうではあったけれど、こんな性病に侵された女の繋がりに期待もできそうにない。
別に淫魔にとって性病が毒だとかそういう話ではないのだけど。不快なだけだ。そう、ただただ不快なのだ。ヒトがヒトにとって害を為さない疫病にも関わらず家畜を処分するように、私も性病に侵されたヒトは本能が食べたくないと忌諱するのだ。何故かは分からない。淫魔は性病になどならないし、感染もしない。それでも嫌なものは嫌なのだから、理由は無くてもいいのかもしれない。
「……どうしよ」
ぼそりと呟く。逃がすつもりはないと思ったけれど、吸精するのも嫌だし。かといってただ殺すと面倒なことになるかしら。私の姿も見られているかもしれないし。さてどうしたものか。
「なに、キミ性病なの? うへー、マジかよ」
アキラがちょっと引き気味で私を見ている。私じゃなくてあんたよアンタ。引いてる癖に股間はおっ立ってる男を蔑んだ目で見やる。あ、いいコト思いついた。
「あなたたちはここで、死ぬまでヤリ狂ってなさい」
「は? ――――!?」
「なんっ!?」
淫魔のフェロモンを最大濃度で生成し、振りまく。普通の人間には抵抗することもかなわないソレは、目から、鼻から、皮膚から体内に侵入し、脳を溶かして強制的に発情させる。
即座に見境の無くなったアキラから離れユリコの後ろに隠れると、二人は荒い吐息のみで会話もせずにセックスを始めた。目は血走って涎を振りまいて一心不乱に腰を振り続けている。うわあ、意図的に最大濃度を使ったのは初めてだけど、こんな風に狂っちゃうのね。アキラの肉棒は1,5倍くらいに膨れ上がってるし、ユリコは脱水症状になりそうなくらい膣から愛液を垂らす、というか噴射と言っていいレベルで垂れ流している。むしろこれを受けて最期まで正気(?)で居たユウトって何者だったのかしら?
ユリコが落とした携帯電話をくしゃりと握りつぶして、彼らの情事を見守り続けた。どれくらい保つのか近くで見ていたかったけれど、獣のような声を上げて情事に耽っているのですぐに誰かが気付いて近づいてくるだろう。
地に落ちて汚れてしまった制服を作り直してから、真上に飛び上って路地裏に面していた建物の屋上に移る。あら、もうヒトが来たみたい。
「おおオッ! ごぉおおお!」
「アがっ、が、あああアアアア!」
うわー、これはひどい。時が過ぎるごとに彼らのまぐわいは勢いを増している。周りに集まりだしたヒトたちも、異常な雰囲気に止めることもせずに距離を保って眺めつづけていた。あ、動画撮ってるヒトもいるわね。ユリコ、どうやら流出するのはあなたの痴態みたいよ。
だいたい30分くらいか。短い時間だったがその間に射精しつくしたアキラは吸精されたほどではないがやつれてしまっている。ユリコはユリコで、普通のヒトの女では受け止めきれない精液がお腹を膨らませ、入りきらなかったモノがごぼごぼと音を立てて溢れ出ていた。
事切れて倒れ伏した二人に、周りで様子を伺っていた人間たちも慌てて駆け寄って行った。救急に電話しているヒトもいるけれど、もう助からないわよ。ま、例え解剖されたとしても脳が溶けかかっている以外に妙な点は見つからないだろうし、強い麻薬を摂取したとでも診断が下るでしょう。
遠くからサイレンの音が聞こえてくるのを背に、私はその場を後にした。
淫魔のフェロモンで狂ったとはいえ、あれだけ強烈な性行為を目にして私のお腹もきゅうきゅうと精を欲していたのだ。今度は健康で美味しそうなヒトと出会えるといいのだけれど。
次も少し冗長になりますが、もう少し気軽なエロのために。