※この作品はR-18です。

Metro2033 -影を見る者-   作:きゃすたー(7mg)

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あけましておめでとうございます(遅

遅くなって申し訳ありません。グラブルとかHALO5とかいろいろ浮気してました!ごめんなさい!許してください!なんでもしますから!


第二十一話 追う者

「……居るね。何かが、確かに居る」

 

 連絡通路を抜けて出たトンネルは先ほど私たちが駆け抜けたトンネルより、一層かび臭く、そして濃密な獣のニオイが漂っている。

 足元に転がるラーカーとノサリスの死体に躓かないようにしながら、周囲を警戒して進んでいく。同じように転がっている数人の帝国兵士の死体。その懐をまさぐり、いくつかの使える銃弾が入ったマガジンと数発の軍用5.45mm小銃弾(カネ)を手に取り、弾の状態をライトで照らして確認する。

 軍用弾は比べるべくもないが、汎用弾はそれなりの質ではあるらしい。第四帝国の鋳造であるとはいえ弾は弾だ。この先に待ち受けるだろうヤツらに返礼してやるにはちょうど良い。

 

「ノサリスが8、ラーカーが13、そしてファシストが4か。死体の硬直具合もそれほどではないし、傷口も血も真新しいし乾いていない。さっきの一団のヤツらかな?」

 

 赤く染まったバラクラバ。それを被った男は恐怖のあまりに目を見開き、自身を待ち受ける結末を受け入れられなかったのだろうか、その右手はリボルバーをしっかりと握り締めて事切れている。

 その彼の視線の先には食いちぎられた兵士とそれに覆いかぶさるように死に絶えたノサリスの姿がある。食事中だっただろうノサリスの頭蓋は44口径弾によって撃ち抜かれていて、口には獲物の腹から引きずり出されたはらわたがぶら下がっている。

 転がった大量の空薬莢とノサリスと、帝国の兵士たち。彼らの遺体は車両が通れる程度のこの狭いトンネルにひしめき合っている。

 

「俺も同意見だな。レールカーのエンジンもまだ温かい。ほんの数十分前には動いていたようだ……よし、こいつで進むとしよう。物音でノサリスかラーカーが気づくかもしれんが、このまま歩いたところでどのみち出くわす相手だ。ならいっそのこと一気に突っ切るとしよう」

 

 ひとしきり懐を漁って見つけたものの中から、使えそうな銃弾をパヴェルに手渡す。いくつかのAKのマガジンとバスタード(バカマシンガン)用の保弾板。そして数本のグレネード。

 

「……おっと、いいものみっけ!」

 

 ガスマスクの上からでも使用できるNVGを拾い上げ、電源を確かめる。キュイン、と音を立てて目覚めたゴーグルを覗き込む。視界は安定しているし、解像度も十分だ。

 

「アルチョム、ナイトヴィジョンゴーグルを見つけたよ。ちょっと旧式のだけど、十分実用できるから使うといいよ」

 

 しかしアルチョムの手はAK74を手にしたままだ。私を見る彼の表情は非常に険しく、到って普通の青年の顔は不快感に歪んでいる。

 

「ヴェート……あの時も思ったことだけれど、死体漁りをする必要は無いんじゃないかな? 別に銃弾が不足しているわけでもないし、それは確かにNVGは有用かもしれないけれど、死体から剥ぎ取るなんて――」

「アルチョム。地上で生きるために最低限必要なものは?」

「……銃とガスマスクとフィルター」

「そう、銃とガスマスク、そしてフィルターだね。だけどフィルターっていうのは再利用しすぎて随分と使える時間が短い。頻繁に交換しなきゃいけないし、いくつも持ち運ばなければいけない。

 だけどもしフィルターが切れてしまったとき、予期せぬ事態で使えなくなったとき、アルチョムはどうする?」

「それは――わからない……」

「昔のことだけれど、私は凍りついた死者の被っていたガスマスクからフィルターを抜き取って使ったことがあるよ。

 アルチョムは経験したことがあるかい? 空気は肺を満たしているのに毒素のせいで酸素を取り込めず、眩暈と頭痛と吐き気を催す瘴気に蝕まれながら、陸に打ち上げられた魚みたいに口をパクパクさせて、目の前に見える一個のフィルターを目指して這いずって生き延びたことがね」

「………………だから、死体から奪うのか?」

「そうだね。確かに死者から物資を回収しなくたってトンネルを進んでいけるかもしれない。だけどもしそのヘッドランプが壊れたらどうする? 先行きの見えないトンネルをライター一本で進むかい?

 そのライターだってオイルがきれればただの筒さ。私が今ここで死体を漁ってでも装備を整えるのは少しでも生き延びる確率を上げるためだよアルチョム。君は何としてでもポリス駅に行かなきゃならない。例え何を犠牲にしてでもだよ。その為の手は尽くすつもりだから」

「……わかったよ。使わせてもらう」

 

 どうしても納得できないという風ではあるが、一応の理解は頂けた様だ。やはりまだアルチョムの意識はただの一般人のそれか、駅で見張りをするレンジャーに近いものらしい。地上と地下を駆け巡るオーダーやストーカーが備えるような、生き延びるための心構えというものはまだ備わっていないように見える。

 

「よし、エンジンは大丈夫だ。燃料は少し心もとないが」

「無いよりマシだね。さっさと抜けてしまおうよ。……随分獣臭いんだよ、このトンネル」

「言われてみれば確かに、ヴェートが言うように……臭うね」

「それでも地上に比べれば呼吸できるだけマシだろうな」

 

 腐臭や硫黄の刺激臭でないだけマシではあるけれど、こうも臭いのでは敵わない。おそらくノサリスかラーカーの住処にされていたのだろう。ヤツらの糞はひどい臭いを放つので分かりやすい。そして新鮮な糞があるということは――まだヤツらはどこかに潜んでいるということだろう。

 とはいえそれは承知の上だ。メトロに住む限り――――否、地球に住まう限りはミュータントとは切っても切れない腐れ縁だろう。

 暖かな黄色い光を放つランプ。ぼうっと浮かび上がったトロッコは古びてボロボロで、あちらこちらに錆が浮かんでいる。それでもこれがあれば負傷者一人を連れて歩くよりかは格段に早く到着できるだろう。

 

「さあて、中折れ帽を被った考古学者よろしく颯爽と走り抜けるとしよう」

「いいねえ、ポリス駅に着いたら上映会でもやりたいよね。お酒を飲みながら個室でゆったり休みたいなあ……」

「僕は本を片手にお酒が飲めれば十分だよ」

「はっはっは……ミラー大佐から勲章を贈られたときにでも頼んでみるんだな」

 

 ゴトン、と動き出すトロッコ。トコトコと単気筒のエンジンが小気味良く音を響かせ、トロッコを前に前に押し出していく。

 先に見えるトンネルは相変わらずの暗闇ばかり。そしてその暗闇を押し退けるランプの淡い黄色の明かりと、闇を切り裂くヘッドランプの青白い光が進む先を照らす。

 頭の上を掠める障害物。迂闊に頭を出せば突き出したパイプや木材が私たちの顔を潰してしまうだろう。地上から伸びてきただろう木の根や鉄くずまでもが私たちの行く手を遮ろうとしている。

 

「……うっ……げほっ、げほっ」

「ヴェート! 大丈夫かい?」

「あっ、ああ……少し、ふらつくだけ……」

 

 込み上げる嘔吐感。胃の中のものなど最早空に等しいというのに、それとはまったく違う何かが込み上げてくる。

 座り込んだ二人の表情がぼやける。こちらを見ているはずなのに、目の前の手が届く場所に彼等は居るはずなのに、霞がかかったようにぼんやりとしか見えない。

 

「はぁー……はぁーっ……」

「おい、少し横になっていろヴェート」

「……わ、わかったよ……」

 

 ひんやりとしたトンネル。だけど身体は熱を帯びたままだ。なんだかおかしいというのはわかる。息も荒いし、思考が定まらない。

 一まとめにして戦闘服に押し込んでいた髪を外へ投げ出す。べったりと汗が伝う背中から引っこ抜かれた自慢の黒髪ごと、背嚢を枕代わりにしてトロッコの上で身を投げ出す。

 

「アルチョム、念のためだがこいつを飲ませてやってくれ」

「これは……ビタミン剤ですか?」

「正確に言えば滋養強壮剤だな。聞けば二日ほどもヤツらに抑留されていたんだろ? 碌に食事も与えられていないままだってことはすぐにわかる」

 

 頭が痛む。ずきずきとした、まるで殴られたような。煙草の吸いすぎで陥ったようなあの鈍い痛みが走る。

 

「――ぁ、あ……ぅ……」

 

 ざあ、と水の流れるような音。打ち寄せた波が引いていくように――

 

「……な、んだ……?」

 

 世界が、白く染まる――

 

第二十一話 追う者

 

 ブブーッ! という警告音と共に、古ぼけた一台のセダンが急ブレーキをかけて停止する。

 「ど真ん中で突っ立ってんじゃネェ!」と怒鳴り散らす、白髪交じりの髭もじゃオヤジに中指を突きたてて歩道へと足を向ける。

 営業中のコンビニで煙草――日本製のピーセスなる銘柄――とライターと携帯灰皿を買い、車が通らないことを確認して通りの向こう側の公園へと一気に駆け出す。

 

 公園から見上げる空は朝焼けで赤く染まり、流れる雲は黒い影を帯びて西へと消えていく。その吹き抜けていく風は涼やかに、しかしじめっとした湿度を帯びて私の髪を揺らして過ぎる。街頭の光と夜明けの明るさで薄ぼんやりとした公園は静かに、しかし確かにモスクワの街が目覚める前兆を示している。

 ポータブルプレイヤーで音楽を聴きながらジョギングをする夫婦。新聞を片手にホットコーヒーを飲むビジネスマンらしい壮年の男性。カラテか中国のケンポーか、武術の型を繰り返す青年たち。彼らの姿を眺めながら、片隅のベンチに腰掛けて買ったばかりの煙草のラッピングをはがしていく。

 

 カチッと小さな希望(ひ)を灯したライター。深い藍色のパッケージから抜き取った一本の煙草へと炎が宿る。酸素を吸い込んで赤々と輝く煙草を人差し指と親指でつまんで口元から離すと、深く息を吸って大きく吐き出す。

 

 ゆらり、と紫煙が明けの空へと立ち昇って、解けていく。

 

「なんだろ、これ」

 

 そりゃあそうだ。なんだこれは。

 

「キリル文字。広告や会話もロシア語だし」

 

 何だ。一体何が起きた? 私たちは地下鉄の路線をレールカーで移動していたはずだ。2033年、世界が滅んだ日から20年も経っている。地上は放射能汚染と毒性のガスで、既に人の住める大地ではない。

 だというのに、何故私はロシアの街中で、夜明けの空なんて見上げているんだ?

 

「…………これも、アノマリー……なのかな」

 

 アノマリー。新世界の超常現象の総称。時に人の命を奪う、予測可能で回避不可能の恐ろしい現象。

 それが時に平和な時代のロシア――ここモスクワメトロの地上――の街並みを映し出すというのはカーンから聞いた話だ。

 とはいえ何故、どうして、このごくごく最近発見されたであろうトンネルで発生したのだろう。

 

「――ん?」

 

 空に一条の光が伸びる。煙のような尾を引いて、真っ直ぐ真っ直ぐ空に向かっていく。朝もやの立つ公園に居る誰もが、それを見て顔を引きつらせている。

 ジョギングをしていた夫婦も、ビジネスマンらしき男も、武術の道を往く青年達も、皆一様に空を見上げ、悲壮な声を上げて、神に祈る。

 

「いや、まさか――」

 

 夜明けの空を切り裂く光。それに続いていくつもの光が空に昇る。同じように尾を引いて、飛び立っていく閃光。

 

「警報!?」

 

 ビーッ! ビーッ! という警告音と同時に、周囲の人々はふと気づいたかと思えば一目散に、我先にと逃げ惑う。公園のすぐ隣に立つ避難所――モスクワメトロへと向かって。

 

「……ぁ……あぁ……!」

 

 足が震える。じっとりと背中に冷や汗が伝う。時の流れさえも緩やかになったように、スローモーションの世界が流れる。

 弾道弾迎撃ミサイル(ABM)が飛び交い瞬く夜明けの空。いくつもの星々の光さえ打ち消す二つ目の太陽が、燦々と、毒々しい輝きを放ち始める。

 

 影以外の全てが熱によって焼き尽くされ――

 

 大地を揺さぶる核熱の咆哮によって街は砕かれ―

 

 平穏な夜明けを迎えようとしていたモスクワの空が、いくつものキノコ雲によって覆い隠されていく。数多の人々の未来さえも飲み込んで。

 

「……これが、世界の……終わり、か……」

 

 光波と熱波と衝撃波の過ぎ去ったモスクワは、何もかも見違えるほどに変わり果てている。

 光の当たる場所に居た人間は近くの崩れた建物に自らの影だけを刻んで、もうどこにも存在していない。今にも動き出しそうな影だけが、ここで一人の人間が死を迎えたことを示している。

 公園の木々は当然のように薙ぎ払われて更地となり、衝撃で吹き飛んだ車や瓦礫に押し潰された死体が転がっているだけ。

 かろうじて生きている人間も、もはや風前の灯だ。風が吹けば消えるような命の火。それでも、人は最期まで諦めない。這い蹲ってでも前に進む。そして力なく瓦礫の街に倒れていく。

 生きた人間は、もうどこにも居ない。――唯一、モスクワメトロを除いて。

 

 そうして見上げた空に、ロシアの首都モスクワの夜明けの空に、また幾度目かの太陽が生まれる。

 

 

「―――ス、――体――から―――き――――ぞ!」

 

「ク――! ――ろ! ヴェート!」

 

 

 声が聞こえる。最近聞きなれてきた声と、昔から知る人の声が聞こえる。

 薄ぼんやりと視界が開けてくる。せわしなくリボルバーを撃つ戦友。飛びかかってくる怪物を蹴り落とす友人。二人の表情は同じだ。

 「こんなところで死んでたまるか」という感情。眉間に皺をよせ、歯を食いしばり、迫り来る怪物に汎用弾(ありふれた死)を見舞う彼ら。

 

「ヴェート! しっかり……くそっ! 邪魔するな!」

 

 私を見下ろすようにしているアルチョムに襲い掛かる化け物。大きく口を開き、アルチョムの喉を食い破らんとノサリスが鈍重そうな見た目からは想像もできない機敏な動きで飛び掛るも、アルチョムはノサリスの腹に蹴りを見舞ってレールカーから振り落とす。

 

「アルチョムッ! 後ろだ!」

「なにっ!?」

「クッ――!」

 

 不味い、と思考するよりも先に動いた右手には相棒が握られている。いつの間に太腿のホルスターから引き抜いたのか。

 銀色の重厚な身体は私の手に従って澱みなくノサリスの額に狙いを定め、引き金を引くと同時に咆哮を伴った死を怪物に見舞う。

 

「ギイッ!?」

 

 ドンッと銃身を跳ね上げる衝撃と共に放たれた44口径の弾丸が化け物の喉を食い破る。ガタガタと揺れながら走り続けるレールカーの真ん中で息絶えたノサリスから流れ出た赤い血が木製の床を染めていく。

 

「た、助かった……!」

「これ、は……どうなって……?」

「見ての通りだよヴェート! ノサリスに追われるわ第四帝国のヤツらが路線を封鎖してるわ、オマケにレールカーはどこだかもわからない路線に入り込むわでもう散々だ!」

「どこだかわからない、路線」

「そうだ。我々ポリスの発見した路線図にもこんな横道は記載されていなかった。……地獄の底へ通じてなけりゃあいいんだが」

 

 なんてこった。それはつまり、私たちはこの広大な地下の迷宮で迷子になってしまったこということじゃないか。

 しかもただの路線なんかじゃなく、発見されて間もない未開の線路の、更に未踏破の区画へと踏み込んでしまったのか。

 

 とにかく、立たなければ。立ち上がれないまま、抗うことさえできないまま終わるなんて絶対にイヤだ!

 

「グッ……ううぅぅっ……」

 

 吐き気が込み上げる。息が上がる。それでも、それでも立ち上がらないことには先に進むことなどできやしない!

 震える指先で掴んだアンプルのカバーを外し、自らのわき腹へと突き刺す。

 

「カッ、ハァッ!」

 

 ぞわぞわとした感覚、その次に襲い来る強烈な爽快感が駆け抜けて過ぎ去る。揺らぎ続けていた視界がはっきりと、正面の現実を捉える。

 

「ヴェート」

「大丈夫、やるよ」

 

 天井を伸びるパイプがキィ、キィと金切り声を上げる中で、正面から襲い来るノサリスに向けてカラシニコフ2013を構える。

 過ぎ去っていく朽ちた信号機。錆び果てて進行方向さえ分からない標識。歪んだレールで揺れるトロッコ。漆黒の闇の中に灯ったランプだけが頼りの世界。

 

「失せろ、ノサリス共!」

 

 銃弾の雨がノサリスを貫き、物言わぬ亡骸に変える。一体二体、さらに積み重ねてもまだ襲撃が収まる気配は来ない。

 

「……しぶとい……!」

「――ヴェート、あれは!?」

「不味い……!」

 

 薄ぼんやりと照らし出されたコンクリートの側壁。そこのパイプの一つに括りつけられるように佇んでいた木製の板をアルチョムが指差す。

 板だけなら、別に何の問題もない。だがあの板に描かれた、あの絵は――!

 

「……パヴェル。腹は、決まってる?」

「どうした、いきなり?」

「絵が、ドクロの絵が、描いてあった」

 

 その一言を聞いた瞬間に、パヴェルが今までの落ち着いた、理知的な顔を歪めて舌打ちする。

 

「クソッ! よりによって、こんなときに――!」

「あれは、あのドクロの絵は……どういう意味なんだい?」

「アルチョム、あれはね、まさしく“立ち入れば死ぬぞ”って意味さ。……ああ、この先はまさに、地獄の底ってわけだよ。出し惜しみなんてしちゃだめだ。生きて抜け出ることだけを考えるんだ、アルチョム!」

 

 ごくり、と息を呑んだアルチョムは閉口する。確かめるようにグリップにかけた右手を開いて握ってと繰り返し、どうにか心を冷静にしようと努めている。

 何者が設置したかはわからない。だけどあんなものが存在しているということはつまり、この先は命がいくつあっても足りない危険地帯ということだ。

 おそらくあれを設置した者ももう既に、彼らのエサになってしまっていることだろう。

 

 ぱたりとやんだノサリスの襲撃。トコトコとエンジン音を響かせるだけで、静かに進むレールカー。ヘッドランプの照らし出す先にはただただ闇のトンネルが続いていくだけだ。

 今の我々はまさにメトロに巣食う化け物の喉を通って、胃の中へと飛び込んだも同然だ。

 

「車両基地……」

「ウワサは真実だった、ってわけか……こんな形で訪れるのは二度と御免被るけどね」

 

 前方を照らしていたヘッドランプの明かりが、開けた闇の帳に吸い込まれていく。いくつも連なる錆びて朽ち果てた車両の列。その中を進む一台のレールカー。ゴト、ゴト、と“ナニカ”が動く気配と音がただただ焦りを助長する。

 おまけに、近い。この閉鎖されたメトロのトンネル内だ。古き世界は既に死に、死者も生者も紙一重。そんな世界に起こる現象といえばあいつらだ。アノマリーがすぐ近くにまで迫っている。――まるで私たちを追いかけるように、すぐ背中にまで来ている!

 

「正面!」

「うおおっ!」

「ヴェート、アルチョム! 後方から三体! 左の車列の隙間からもだ!」

 

 アルチョムの銃撃を皮切りに、ノサリスが地下鉄の車窓から、天井から、レールとの隙間から押し寄せる。クソッ! 想像通りにノサリスの巣じゃあないか!

 

「ぐっ……うぅっ!?」

「あ、頭が……!」

「二人とも! くそっ、アイツか!」

 

 キィン、という金属の擦れるような音。それを聞いた瞬間に視界が歪み、言い知れぬ不快感が全身を包み込む。

 ドンッドンッとアルチョムがリボルバーを見舞うと、不快な音が消え、金縛りのように動かせなかった身体に自由が戻る。

 

「二人とも、あいつだ! あの色白のノサリスだ!」

「舐めた真似してくれるよねぇ……!」

「ああ……派手に暴れてやるよ! 持っていけクソッタレども!」

 

 三人で肩を寄せ合い背中を合わせ、ゴトゴトと進むレールカーの上からあたり一面に銃弾の雨を降らせていく。時折混ざるグレネードの炸裂音と飛び散った肉片にも気を留めず、ただひたすらに敵を寄せ付けないように引き金を引き続ける。

 アルチョムが指摘したノサリス――おそらくは亜種か新種だろう――を優先的に、その次にこちらに近づいてくるノサリスに向けて5.45mm弾を撃ち込んでいく。

 

 暗闇の中に響く銃撃音とノサリスの発する不快な音波が車両基地のBGMと化していく。ちら、と横目に彼を見ると、彼も首を横に振る。あれだけあった残弾は既に心もとない。いざとなれば軍用弾だろうが――

 

「アルチョム!」

「ヴェート!」

 

 一瞬の交錯。突き出したデザートイーグルと、彼の手に握られたリボルバーが唸りを上げる。

 

「ギギッ!」

「ギシャアッ!」

 

 放たれた銃弾はお互いの背後に迫った脅威を正確に射止めていた。自身の背後に転がったノサリスの死骸を見て冷や汗が一足遅れでやってくる。

 やはり、ここは危険だ。早く、早く抜け出さなければ! モタモタしていたらアノマリーに飲まれてしまう。それだけは避けないと!

 

「まずい! アルチョムゥゥッ!」

「パヴェルッ!?」

「クッ、こ、のぉっ!」

 

 みぢっ。肉を裂く、嫌な音が耳に届く。アルデョムの首を狙った化け物の牙は咄嗟に突き出されたパヴェルの肩に食い込み、喰らいついたまま離そうともしない。

 

「チッ」

 

 好機と見たのか、ノサリスが一斉にパヴェルに向けてその身を翻す。纏わり付く化け物をナイフで突き殺し引き剥がす。

 

「無事かいパヴェル!」

「ああ、なんとかな!」

「そりゃよかっ――!?」

 

 どすん、と、体に何かがぶつかる。私の肩を何かが掴んで引っ張っている。それは戦友の手でも、最近出会った青年のものでもなんでもなく――

 

「ゴアアァァァァッ!」

 

 人間の敵、ミュータントの、鉤爪のついた、強靭な腕。

 

「ヴェートッ!」

 

 レールカーから身を乗り出し、死に物狂いの形相で差し伸べれた手。その手がほんの僅かに触れる――――それだけ。

 

「あっ……カッ……!」

 

 どすんっ! 強かに打ち付けた後頭部に痛みが走る。閃光の走る闇の中で見開いた先には、差し伸べられた手があるだけ。

 ゴトゴトと無常に進んでいくレールカーから身を乗り出したアルチョムの姿が、やけに遠く、おぼろげなもののように闇に消えて行く。




インフルエンザって辛いですね(←A型B型両方かかった)

年末年始はいろんなゲームに浮気してました。すみませんでした。
しかしまあグラブルはエロ……可愛い子がいっぱいですなあぐへへ。
個人的にはナルメアお姉ちゃんとカリおっさん推しです。あとベアトリクスちゃんのポンコツぶりが好きです。初登場がアレとかインパクト強すぎてもうね。

自分はくっころが本当に好きなんだなって改めて認識できた気分です。
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