Metro2033 -影を見る者- 作:きゃすたー(7mg)
ちゃんと読んでおいてください。
モスクワメトロ乗換え口・注意事項等
「……ここは?」
ゴウン、ゴウンと響くモーターの音。静かに揺れる籠の中。点滅している数字は既に地下十階を越えて十三階に辿り着いていた。
ガコン、と急停止したエレベーターを出た小部屋にはハンドル式の密閉扉が二つ、右と左に分かれて鎮座しているだけだ。
「……どこなんだ? それにエレベーターが生きていて空調まで効いている。その上電灯だって明るい」
コンクリートの壁には地下十三階を示すマークが大げさなくらいに大きく描かれているだけで、他には何も無い。後ろを振り向いてエレベーターを呼ぶものの、パネルを押しても赤いランプが点滅するだけで何も起こらない。
「アノマリー……なのか?」
これは幻覚なのだろうか。やけにはっきりとした感触がある。少しカビ臭いにおいだって感じられるし、頬を叩いてみても痛みがある。
「……歌が聞こえる」
微かに響く音は紛れも無く楽器の音だ。軽快なテンポで流れるベース、聞き慣れない言語。確かこれは英語だっただろうか……それに管楽器の音色も。少なくとも僕以外の誰かがここに居るのは確かなようだ。
ハンドルに耳をあてて向こう側の様子を探る。音が流れてくるだけで他の物音などはない。遠くから聞こえてくる感じはしない。それほど大きくない部屋だろう。
「入ってきなよ、アルチョム」
どく、と心臓が強く跳ねる。ばれている。それ以前にだ、顔を合わせてもいないはずの相手が何故僕の存在を知っているのか。
「大丈夫。何もしないから入っておいで。そこに居たって永遠に出られやしないんだから」
つまりここには出口は無く、ただ進むしか選択肢がないということだ。覚悟を決めていこう。
ギイギイと錆びの擦れる嫌な音をたててハンドルがまわる。ひとりでにまわる。完全に開けた先には酒場のカウンターがあり、その奥でグラスを磨くバーテン姿の……ラスヴェート?
「いらっしゃい。また会ったね」
「ラスヴェート……ここは、この場所は、何なんだい?」
「うーん……EW&Fはやっぱり“September”だね。アルチョムもそう思う?」
「……はぐらかさないでくれ」
「ああ、ラテン系にしてみる? それともちょっとオシャレにエレクトロスウィングとか?」
ニコニコと愛嬌のある笑顔を振り撒きながら、少女は長めのウルフカットに整えた黒髪を揺らし、磨いていたグラスを棚に仕舞う。
カウンターから姿を現した彼女は黒のややぴっちりとしたパンツにまっさらのシャツ、その上にパンツと同色のベストを着込み、首元には真紅の蝶ネクタイ。どこか普段の彼女とはとても似つかわしくないその格好が僕に微かな違和感となって襲い掛かる。そしてその腰には一丁のリボルバーが収まったガンベルトが巻かれている。
薄汚れた廃墟をとりあえず掃除して使えるようにしたという程度の小部屋、と思っていたが左手にはなんと射撃場がずらりと並んでいる。その片隅に設けられたジュークボックスを弄る彼女に尋ねる。
「キミは、だれだ」
「……ふふっ」
彼女は不敵な笑みをこちらに向ける。そのまま無言でカウンターの中へと入ると、ショットグラスを取り出し――
「あ」
落とした。
パリン、と気持ちのいい音を立てて砕けたグラスを見た彼女はどこかわたわたとした表情で新たなグラスを取り出してウォッカを注いで差し出す。
「――私が何者か、だったね」
「随分無理矢理だね」
「うるさい」
傷口を抉るような反撃にむすっと不貞腐れた彼女はやはりラスヴェートそのものなのではないかと思う。このちょっと背伸びして頑張っている感じは彼女そのものだ。
「とりあえず仕切りなおして……ようこそ、“この世ならざる地”へ」
「おまけにメルヘンだ」
「うるさーい! ここはそういう場所で! そういう名前なの! わかったらさっさと飲んで人の話を聞く!」
「わかった、わかったよヴェート!」
“ぷんすか!”と怒る彼女の様子は普段のラスヴェートのものとは程遠い。まるで子どものような、いや彼女はまだ十分に若い女なのだけれど、見た目以上に若く、幼い印象さえ受ける。
「それと、私はラスヴェートじゃない」
「……どう見たって君はラスヴェートだよ」
「とりあえず説明するけどいい? ここはこの世界のどこにも存在していない場所で、私はここの管理人とか案内役を任されている。君のよく知る人物に似ているのは……まあきっと
「神様?」
「そ、
「誰も君の首を飛ばすことを望んでない。グラスはまあ、ご愁傷様としか」
どうやら管理人というのは随分と世知辛い仕事らしい。グラス代さえも天引きとは、創造主という者は何か恨みでもあるのだろうか。
「と、まあ要するにここは君の居た世界とはかけ離れた場所ってこと。簡単な話としてはゲームクリアの
ここではいろんなものが手に入る。望めばそれこそ異世界でハーレムを築くことも、平行世界に渡ることさえもできる…………かもしれない」
「僕はハーレムを作る気も異世界に飛び込む気も無いんだけど」
「そう? じゃあアルチョムは何がご所望なのかな? 君はここでは
知りたいことがあれば私に尋ねてくれれば資料を提供できるし、映画鑑賞がしたければしてもいい。私を殺すつもりなら殺してもいい。まあ無理だけどね」
僕が望むもの。気になるものといえば彼女だ。
「知りたい? 知りたい? ねえ、気になる
「その顔、すごく苛立つね」
「でしょう? だからやってる。ねえ、どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ちなの? ねぇ!」
ニヤニヤと、しかしながら
「まあ、ここは所謂“平行世界の隙間”ってやつだから~……君が望めばいろんなものが手に入る。と、いうわけであちらをご覧になりやがれください!」
ビシィッと効果音を伴うような勢いで彼女が指差したのは射撃場の奥に佇む二つの鋼鉄の扉だ。
「右側はムービー鑑賞……みたいな何か。追体験っていうか
「鑑賞、ねえ」
「まあまあ! ものは試しだよアルチョム! 当店開業後初のお客様なんだからどうぞどうぞ! まあ君の世界以外どこにも繋がってないんだけど」
ずいずいと背中を押す彼女は木製の古ぼけた扉のドアノブに手をかけ扉を開く。
「さて、ここでたくさんの
ここから先には、あくまで有り得た可能性のあるものが書かれている。時にはひどい内容のものからまったくエロくないなんてことのない普通の終わりまで、いろいろだ。そこで注意点がいくつか。
1.あくまで本筋のストーリーと直接の関係性のあるものではないということ。
2.特に猟奇的・暴力的・反道徳的な表現が出てくるので、現実と空想の区別がきっちりつけられる成人の方のみに閲覧していただきたいということ。現実に行っちゃダメですよ。
3.胸糞悪い展開なんかも出てきます。
「いや、なんなんだいそのフロムの罠って――」
「それじゃ、一名様ご案内ー!」
どん、と背中を突き出された先には光が広がって――