Metro2033 -影を見る者- 作:きゃすたー(7mg)
お久しぶりです。一度やってみたかった。今は反省している。
十月中とか書いてあったのに大幅にオーバーしてしまってました。
アクション系の描写を充実させたいなとか思ってカンフー映画見たり、トンネルや駅の臨場感の演出を考えるためにリダックスを再プレイしてみたり、小説を部分的に読み返してみたりしてました。
ホラー系の充実のためにその手の動画を見るつもりでしたがそっちはできてません(割とホラー苦手)
あとは時々リンクスやってたり、時々UNSCの超兵士やってたり、時々騎空士やってました。
弟が買ってきて放置されてたアーマードコア・フォーアンサーを特に頑張ってます(現在積みゲー10本あり)
少々ばかりボリュームが軽めですが、ご容赦を。
過去の
11号線カホフスカヤ駅は都心部からは遠い駅だ。蛇行して走るモスクワ川の下流域に程近い、大都会の喧騒から離れた場所だった――らしい。
モスクワメトロに人々が身を寄せるようになって程なくして、かつての私は生まれた。
物心ついたときには既にメトロの管理機構は崩れ去った後で、銃を手にした屈強な兵士がトンネルを右に左にと駆け回り、そして物言わぬ骸と成り果ててこの駅へと帰ってくる。
動乱の時代の幕開け。まさにその瞬間の光景を今でも思い出す。駅の広場に設けられたステージの壇上で演説を行う父の姿を夢に見る。彼の表情は真っ黒に塗りつぶされていてわからないままだけれど、その声は紛れも無く父のものだ。
管理機構……ロシア連邦臨時政府の崩壊と共にメトロは戦火と銃声に包まれていった。絶え間なく行われる闘争は際限無しに膨れ上がり、血で血を洗う憎しみの円環に変わりゆく。
何も知らない無垢な少女であった私にとって、戦争という存在はどこか絵空事のようだった。そう、生存競争に敗れた者がどのような末路を辿るのか……このときの私は何も知らなかった。
小さなスケッチブックとペンを手に、父の仕事場である一室に押しかけたことを覚えている。ロシア語とは違う、日本語を父に教わっていたんだった。
「ねえ、マーマはいつ帰ってくるの? まだ迷子になってるの?」
「ん……そうだなぁ……リディアは――お母さんはよく道を間違える人だったからね。きっと僕達の駅がどこにあるのかわからなくなってるのかもね」
「じゃあ、あたしがマーマをさがしてくる! おっきくなったら“えき”のそとにいって、マーマをさがしてくる!」
父の膝の上に座ってクレヨンをスケッチブックに走らせながら、私は父にそう言った。
既にメトロがどのような時代を迎えていたかも知らない幼子だった私はこのとき、きっと母が戻ってきて家族三人でこの先も暮らしていけるのだということを当たり前のように感じていた。
トントントンというノックの音。扉を叩いた主に向かって父が“どうぞ”と告げると、頭を綺麗に剃り上げた、グリーンの戦闘服を着た屈強な兵士が部屋に踏み入ってきた。
「少しいいか」
「……お部屋に戻って遊んでおいで」
「……うん? もうおしごとなの?」
「そうだ。あと少しだから、先に戻ってなさい」
安心感のする父親の元を離れて部屋へと戻ろうとすると、父の部下の兵士が見送りに付き添ってくれた。それが当たり前だと思っていたし、父がどのような要職にあるのかなど当時の幼い私では気がつかなかった。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、いつしか私が十歳を迎えた頃、それは唐突に起こった。
戦争だ。2号線カシルスカヤ駅と9号線セヴァストーポリスカヤ駅を繋ぐモスクワメトロ11号カホフスカヤ線は両駅の間を行き来することを制限していなかった。通行を制限したりすることはせずに、自由な交易ができるように配慮されていた。銃器などの持ち込みに関しては厳しかったものの、それ以外はごく普通の平穏な、清貧な駅だった。
通行が
それを羨んだのかはたまた危険視したのか、カホフスカヤが中立駅として2号線と9号線の間に立ちふさがることが邪魔になったのか、愛する故郷の駅は戦火に包まれた。
今となってはどちらが先に仕掛けたのかすらわからない。その戦火から逃れ、辿り着いた先が地底のヴェニス――私が売り払われた駅だった。
第二十七話 追想――Ρассвет
地底のヴェニス、そう呼ばれる駅に私は売り払われた。
愛した父を失い、故郷の駅を失い、手元に残ったのは一丁のリボルバーだけ。ハンターという名のレンジャーにトンネルで命を救われた際に預けられた、幼い頃の私の手には不釣合いな、黒い光沢を備えた大きな銃身のそれだけだ。
もっとも、その銃はヴェニスを支配するマフィアのボスのお気に入りとして取り上げられてしまっていたのだが。
「おい、ガキ」
息も絶え絶えの私を呼びつける中年の男。しかしその声に応えてやる義理はない、と私は頑なに拒み続けた。自分の未来に希望があることを信じて気丈に振舞ってきた。
「チッ、こいつちっとも言うことを聞きやしないぜ」
「ああ……この分じゃ客引きにも使えねえな」
ベッドの上で横たわる私に向かって、筋骨隆々の裸体を晒した男たちはそう言って吐き捨てる。もう何度も聞かされた言葉だ。
幾度となく犯しても尚折れない私の様子に、既に彼らも痺れを切らし始めている。それもそうだろう、何せ半年をかけても幼子の心一つへし折ることができないのだから。
数人の男が取り囲んで犯し続けたときにも、暴力を振るわれたときにも、眉間に銃を突きつけられたときだってそうだった。私は決して折れたりはしなかったし、彼らが大枚叩いて買い取った私を簡単に殺すことはそうはないと踏んでいたからだ。
アジア系――とりわけ年若い女性はその手の需要が高い、らしい。私を売り飛ばした男の言だったが、希少価値だとかなんとかとつけられて高値で競り落とされたことを覚えている。そしてその日のうちに赤い血の花が散ったことも。
モスクワメトロの秩序は既に崩壊し、麻薬のような薬物はもちろんとして売春や人身売買などが盛んに行われていた。そうしなければ生きていけないのだから。そしてそれですら食べていけなくなった者達は他者から奪うようになり、それらが寄り集まって野盗の集団を作り上げる。ヴェニスという
仲間を守るために他者から奪い、分け与えることで生き延びる方法。もちろんそれだけが理由で盗賊となる者ばかりではない。欲望を満たすため、駅を追われたため、盗人に身をやつす者は少なくなかった。
故に駅の内外問わず無法者がのさばっているのは当然で、例え十代になったばかりの
この駅では女という生き物は二種類に分けられる。元から住んでいる者と、売春宿などで春を売る外からやってきた者だ。そして私は後者に属していた。売春宿で裏方仕事をしながら時折訪れる客――未熟な
「最初は威勢よく暴れてたが、最近じゃロクに泣き叫びやしないしなぁ。これじゃ只のオナホールと変わらないぞ」
「そんな跳ねっ返りが好きなやつも居たっけ。泣き叫ぶガキを無理矢理犯して踏みにじるのが趣味なオッサンも居たが……まあ随分しおらしくなってもう興味ないんだとさ。この分じゃ稼ぎは減る一方だ。
こいつは頭が回るやつさ。どういう反応をすれば客が喜ぶのか――よく見てやがる。理解した上でこうやって無愛想に振舞ってやがるんだ、健気だなあ」
「……ッ……!」
ずぶ、と男が私の幼い膣を抉るように肉棒を打ちつける。
ビリ、と走る快楽の電気信号。思わず声を上げそうになるのを抑えて歯を食いしばる。
「ああ、カワイイなぁ……確か
「……んっ! ……っ!」
「いいよなぁ、この気丈さ……俺はもう少し楽しみたいんだけどな。あと三日しかないんだ、今のうちに楽しめるだけ楽しませてもらうか!」
耳元で男が囁く。荒い鼻息を上げて腰を振り、私のナカを抉るように突き上げてくる。
幼い膣は男の剛直を飲み込みきれず、入っているのは先端部から半ばにかけてのほんの僅かな部分だけでしかない。それだけで私の最奥は大人の牡に蹂躙されてしまっていた。ナカに残っていた子種は逃げ場を失い、幼くして垂れる愛液と混ざり合い、男の抽送と共に外へと溢れ出る。
ぬちっ、にちゃっ、と粘りを帯びた水音。パンパンと打ち付けられる度に思わず漏れそうになる喘ぎ声を噛み殺して男から目線をそらす。
男は私の平坦な胸を撫でながら愛おしそうに、しかし容赦なく腰を打ち付けて快楽を貪る。抱き締めれば折れてしまいそうなひ弱な少女の肉体を開拓していく快感に男は息を荒げて私に囁く。
「なあ、なあ、お前……俺のところに来ないか? 俺が、飼ってあげるよ。ぶったりしないし、ちゃんとした服だって買ってあげるからさ! なあ、なあ……いいだろう? 俺が君をずっとずぅっと飼ってやるからさ!」
快楽に震える彼の声。こちらを見る青い瞳はぎらぎらと、まるで獲物を見つけたノサリスのようなケダモノにも似た鋭い眼光を放っていた。
「ひっ……ゃ……やだっ」
微かに、声が出た。出してしまった。その途端に男は顔に喜色を浮かべて私の手を押さえ込み、圧し掛かるようにして身体を密着させてきた。
「ほうらどうしたんだ! 演技がなっちゃいないぞ!」
「ぅっ、んっ、やだっ……やだ、やめて……!」
「そうだよそれだ。そうやって泣き叫んでくれなきゃ気持ちよくなれないじゃないか!」
泣き叫べば泣き叫ぶだけ、彼等は喜んで私を犯す。知っていたからこそ私は決して声を上げぬように努め、快楽に押し流されそうになる理性を必死で留めてきた。
彼らが感じるものは何なのだろうか。私のような少女を犯して何が楽しいのか。禁忌を犯す背徳感がたまらないのだろうか。それとも虐げられるヒトを見て愉悦に浸るサディストの気質であるためなのか。
それを理解したのはこの時よりもずっと後になってのことだったが、私はただ一つのこと、泣き叫べば彼らを喜ばせるだけだとこの時既に知っていた。
「ふぅっ……! ああ、やっぱこうでなきゃなあ……へへへ」
「ぅぅ……ま、また……出てる……」
男の肉棒がぐりぐりと奥を擦りながら精液を吐き出していく。どくんどくんと脈打つ感触がもたらすものは恐怖と快楽。
好きでもない男の種で孕ませられる恐怖感と、牝としての悦びを貪るような恍惚感がぐちゃぐちゃに混ざって押し寄せてくる。
ぐにゃり、と私を犯していた男の顔が歪む。
ああ、そうだ。これは夢だ。懐かしい。今の私よりも前の私が受けてきた、痛みと共に刻まれた記憶を遡っているんだ。
仄暗い電車の中、寝台に改造されたシートの上で眠りから醒める。渦を巻くように歪んでいた視界が戻ったとき、そこにあるのは一人の少女の寝顔だった。
二人で一つの寝床。その対面には毛布を被った誰か――いや、イリーナとリーリヤの姉妹が静かな寝息を立てて眠りについていた。
カラン、カランと鐘の音が反響する。午後六時を知らせる音だ。あと一時間もすれば、私達を買った男の前で股座を開かなければいけなくなる。
故郷のカホフスカヤを出て、ヴェニスへと売られ、そしてまたキタイ・ゴーロドへと売り飛ばされて……もう長くなる。
服従を強いられ、抵抗する意思を折られ、ただただ無力を嘆きながら四人で身を寄せ合って支えあうことで生き延びてきた。
薄っぺらだった胸も膨らみ、背は大人の女性より少し低いくらいにまでなった。そしてなにより違うのは…………丸く、大きく、そして重みを感じさせる下腹部。
子を孕んだ、という事実に気づいたとき……あの時の“私”には確かな、しかし見た目の上ではわからない亀裂が入ったのだ。
はした金で使われるだけの道具のような日々。生きている実感の無い空虚な日常。ただひたすらに男に媚び、股を開き、無理矢理押し付けられる快楽と欲望を受け止めて一日が終わる。自ら命を絶つという選択さえもできないままに、日々が過ぎた。何もしなかった――その結果が
父親の顔などわかるわけもなく、まして子を育てる知識さえも無い少女であったあの日の“私”は、妊娠という現実を理解できないながらも必死に母親として生きていた。ただお腹の子を守ろうとする母親としての本能によるものだったのか、私はみっともなく生き足掻いたのだ。
少しでも自らの稼ぎを増やすために、今までよりも更に多くの男の逸物に奉仕し、必要とあれば身重の身体さえ差し出して日銭を得る。実入りの少ない場所で働かされながらも折れずにいたのはこのため。全て、全ては生まれてくる子のため。そのはずだった。
いつもどおりに日銭を稼ぎ、そこから先を求めてきた男の相手をしていた。騎乗位で腰を振っていて、何かが弾けた――その次の瞬間には身体を裂くような痛みが駆け抜けた。
私は、その先をよく覚えていない。気がつけば全てが終わっていた。そこに居たはずのわが子はおらず、軽くなった自らの身体を襲う喪失感に包まれているだけ。
この手で抱き締めることさえできないままあの子を取り上げられてしまった私に残ったのは、たった一つの絶望だけだった。
そんなとき不意に目に留まったのがリボルバーの収まったガンベルトだった。装飾が何一つ無い革製の黒いシンプルなガンベルトとそこに収まった一丁のリボルバー。そしてそのベルトを着けた男に私の視線は釘付けになった。
“ガンスミス”のあだ名を持つ小さなバーの店主。自らの小さな店を守るためにキタイ・ゴーロド駅のマフィアの一角をその拳銃一丁で崩してみせた男。捉われず、阻まれず、自らの意志と望む在り方を貫き通す……
彼はおそらく駅の権力者からすればとんでもない“
この荒れ果てた世界に実力一つで自らを固持し続けている存在が目の前を通り過ぎていったのだ。
力があれば、銃があれば、権力があれば――この際選り好みはしないからどれでもいい。私には力が必要だった。自分だけのためじゃなく、共に薄暗い闇の中に生きる妹たちを救い、自由を掴むための力が欲しいと願った。憧れた。
彼に縋ったことは、間違いではない。私はそうやって自らの望むものを手に入れるための手段を身に付けたのだから。
「……ん……」
虚ろな夢が消えていく。微かに残った“私達”の記憶の残滓。あのトンネルで壊れてしまった“私”が記憶していた光景が霧散していく。
薄ぼんやりと浮かんだのは彼の寝顔。眉間に皺をよせ、時折魘されながら呟く。
「……今日は一段と濃いね」
ベッドから身を起こして視線をやった先に居たのは一人の少女。真っ白の長いワンピースを纏った黒髪の少女。黒真珠のような瞳と少し黄土色を感じさせる肌を持つ、死んだはずの少女。
死者の姿が蘇っている。私達が居るこのドブルィニンスカヤ駅のすぐ近くのどこかで強力なアノマリーが発生しているらしい。どうせそんな場所は一箇所しか無いのだけど。
くすり、と小さな笑みを零した少女は深淵の闇に溶けていくように消えうせる。それと同時に薄暗さが和らぎ、全身を押し潰すような重みが不意に消失する。背筋にぞっとするような悪寒を残したままに。
あれは、先ほどのアノマリーは“たやすいことではない”ものだ。実害など何も無く、ただそこに
幻覚を見せる、幻視痛を覚えるなどの事態があればどれだけ気が楽だろうか。少なくともそこから情報を、彼らが何を叫んでいたのかが断片的にでも感じ取れる。だが彼女は何かをすることもなく、ただ“笑って”消えていっただけだ。
こちらを嘲っているのか……あるいは狡猾な何かが顔を覗かせただけなのか……少なくとも想像して備えるということくらいしか私達にできることはない。
「――長い夜になりそう」
もう一つのランタンに明かりを灯し、少しでも闇を祓う。ほんの僅かでも私達の領域を広げることこそが、暗闇での私達の命を守る手段なのだ。
「…………やあ、おはよう」
「おはよう。夢見がよかったようでなによりだよ」
結局二時間以上も眠れないままに朝が来た。すぅ、と引いていく闇の気配を感じた直後に午前六時のベルがドブルイニンスカヤに鳴り響いた。
すっかり安心して眠りこけていたアルチョムも目を覚まし、煙草を一本吸い終えてからラフなシャツと年代物のジーンズを着て宿舎を出た。
戻ってきたときにはその両手に私達の戦闘服が入った箱を提げ、肩からは見慣れない銃を一丁スリングで提げていた。
「……今度は何を買ったの?」
「この間の地上戦でシャンブラーを失くしたんだ。その代わりにと思って」
じっくりとそれを見た私は「まさか」という言葉が口をついて出してしまう。
サドルを再利用した
「まさか自転車部品の再利用がここまで行き着いているとはね。開発者はよほどの変態と見える。……面妖な……!」
銃身であるパイプの稼動には自転車のギアが組み合わされてトリガーと連動している。トリガーを引けば銃弾が発射され、自動的に次のカートリッジが装填されているパイプが回ってくる仕組みだ。しかもカートリッジを装填するパイプは増設されて八連装式に。ついでといわんばかりにベルまでつけられている。……おまけにちょっといじれば二発同時射撃まで可能だと…?
「これってどこの商人から買った?」
「え? アーモリーから来た商人が『試作品でよければ安く譲る』って言って売ってくれたんだ」
「…………こんな
「おーい、準備はできたか?」
アルカージーがスリングで銃を提げた姿でドアを開けて入ってくる。紺色の防弾ベストに関節部を守るプロテクターを付けた戦士の姿だ。頭には鉄製のヘルメットを被り、大腿につけられたリボルバー用のホルスターには黒塗りのリボルバーが収まっている。
「おはようアルカージー。私はもう少しかかるからちょっと待ってて」
「……あー、ああ、おはようさん二人とも」
「なに? アルカージー、女の下着姿で恥ずかしがる年でもないでしょ?」
「いや、てっきり二人の時間を邪魔してしまったかと思ったんだが……」
……どうしてそう見えたのだろう。別に特別な関係というほどでも無いような気がするのだけど。
戦士は戦士だ。戦場では男だろうが女だろうが死ぬときには死ぬ。まして私は末席とはいえスパルタンオーダーという軍隊に属している人間だ。男と同じテントで眠るなど日常だったし、トイレだってそうだ。
どこの誰があの女とヤッたとかくらいはいつもの話だし(というかその女の一部は私なのだが)、私だって抱かれたい男を選別するくらいはする。ごく少数の女のオーダーであるアンナとは、“あの男のはビーンズみたいだ”とか“根性無しの堪え性無しだ”とかオーダーの男に評価付けまでしていたくらいだ。
聞いた話ではその“成績表”でいい評価をつけられなかった男がアンナに(軍に於いての“教育的”の意味で)扱かれたらしい、というのをウルマンから聞いたことがあったが。
「無いね。私は軍人でアルチョムは旅人だよ。そもそも会ってまだ一週間にもなってないのに」
「……そうだね。うん、僕たちはそういう関係じゃ、ないね」
残念がらないでおくれアルチョム。きっと君にはもっとステキな人が居るはずだ。私では君に似合わないんだ。いささか私は――死臭が強すぎる。
キタイ・ゴーロドから逃げ出した先のトンネルで“私”は一度死んだのだ。限りなく死者に近い存在になってしまった“私”は今の私に全てを明け渡して消えていった。そして今の私もまた第四帝国の収容所で死の淵に突き落とされて、しかし仲間達にどうにか引っ張りあげられて命を繋いだ。
私の日常はいつだって死者がつきまとう。アノマリーが這い寄って来る。トンネルの闇が私を取り巻いて手放そうとしない。私だけしか、彼らの隣にいられないから。
セルプホフスカヤ駅は9号線のチミリャゼフスカヤ線に属する駅だ。そして環状線ドブルイニンスカヤ駅と隣接している。ここでも当然のように検問が駅の間に設けられていて、ハンザ側であるドブルイニンスカヤに入るには入国審査が必要になる。
そしてそれは“出国”の場合にもそうだ。不正な持ち出し品などが無いかをしっかりとチェックされる。ハンザ内から盗品や危険物が盗まれていないかを入念に確認されるのだ。
譲ってもらった余り物の背嚢に、出国の審査で出した品々を詰めなおして背負い込む。非常食、スキットル、簡易テント、予備の弾薬だけになった背嚢は軽い。普段ストーカーとして活動する際のそれよりも遥かに身軽だ。
アルチョムが回収してきたメトロ内の地図に地上の航空写真なんかは希少価値の高い代物だ。コレの利用価値を知っているストーカーならば三百発積んでもいいと言いだすほどの価値がある。
アルチョムは私やパヴェルとはぐれたあとに、トロッコに残っていた背嚢の中身をいくつか回収したらしい。軍用弾を持ち帰ってくれたことに感謝しよう。コレがなければ私はしばらくブルボンのように素寒貧で過ごさなければいけなくなるところだった。
下着や知人の
僅かに開け放たれたエアロックから暗黒の世界に一歩を踏み出す。ひんやりとした空気。覆い隠すように圧し掛かる暗闇。息苦しさを感じるトンネルに警戒心を働かせる。
ぐるぐると回る警告灯の光が消えるとそこは一面の黒い景色だ。しるべとなる光は無く、自らの手にある僅かな光源を頼りに歩いていくしかない。恐怖心がにじみ出るように脳裏を埋め尽くしていく中で芽生えたのはかすかな
終着点――ポリス駅がすぐ近くのところにまで私達はやってきたのだという事実だ。
「あと少しだね」
「……長かったような短かったような、不思議な気分だよ。でもあとほんの一駅を超えれば……」
「うん、そこがポリス駅だ。この先の路線はポリス駅の管理下になってる。途中のポリャンカ駅だけが難関だけどね」
「ミュータントが出るのかい?」
「いや、ミュータントは居ない。人っ子一人いやしない無人駅だよ」
「ならなんでまた難関だと?」
「うーん……どう言えばいいんだろう……? そう……あの噂話……“運命の河”のような……いや、違うかな……?」
どうにも上手く言葉にすることができない。過去を顧みるというのとも違い、未来を見据えるという表現も相応しくない。今現在の自らが曝け出されるような……ヒト本来の脆く弱く儚い魂そのままになってしまうというべきか。
「ごめん、曖昧な表現になっちゃうけど……“今までの総括”のようなものなのかも?」
「あー、よくわからない何かだっていうのはわかった」
「アレにハマれば嫌でも理解できると思うよ。ハマらないに越したことは無いんだけどね。……一応タイミングを見計らって抜けることにするよ。おそらく、今のアルチョムならある程度は耐えられるはず。
だから命の心配まではする事態にはならない――――はずだよ」
ただ一つ明確なのは、運命はトンネルのみぞ知る、ということだ。
区切りのいいところで切り上げようとしたら文字数が減ったり、本来入れる予定だったシーンも「あれ、これ次話以降でよくね?」とか思って削除したら一万字下回ってて若干びっくりしたり。
メトロ再プレイすると駅の住人の会話で思わぬ噂話なんかも聞けるので楽しいです。
ゆっくり一駅一駅で住人の会話とかを聞きながらプレイ中。ただ時間がかかるからなかなか進まない(´・ω・`)