Metro2033 -影を見る者- 作:きゃすたー(7mg)
純愛エッチって難しい。陵辱とかならホイホイ浮かぶのになあ……
「……なんだ?」
ゴウン、ゴウンと響くモーターの音。静かに揺れる籠の中。ひび割れたエレベーターの液晶パネルが地下13階を示している。
「僕は……確か……」
踏み出した一歩と共に思い返す。何故ここにいるのか。何故生きているのか。何故自分も知らない場所に居るのか。果たして僕はここに居ていいのか。
「アノマリー……なのか?」
これは幻覚なのだろうか。やけにはっきりとした感触がある。そう、周囲のダクトから流れてくる風から少しカビ臭いにおいだって感じられるし、頬を叩いてみても痛みがある。
見渡せばコンクリートの造りはどこかで見た覚えがある。いつだったか、そう、確か最後に僕が居た場所……そうだ、僕は確か“D6”で……!
「……歌が聞こえる」
微かに響く音は紛れも無く楽器の音だ。軽快なテンポで流れるベース、聞き慣れない言語。確かこれは英語だっただろうか……それに管楽器の音色も。少なくとも僕以外の誰かがここに居るのは確かなようだ。
確かめなければ。僕が何故ここに生きて存在しているのかを確かめなければ。
ハンドルに耳をあてて向こう側の様子を探ろうとして――突如開いた。
「入ってきなよ、アルチョム。……一体何回やるつもりなんだい?」
どく、と心臓が強く跳ねる。ばれている。それ以前にだ、顔を合わせてもいないはずの相手が何故僕の存在を知っているのか。
「大丈夫。私は心が広いから何度だって言ってあげるけど、他の人間じゃうんざりしちゃうよ? 何もしないから入っておいで。そこに居たって永遠に出られやしないんだから」
つまりここには出口は無く、ただ進むしか選択肢がないということだ。覚悟を決めていこう。
ギイギイと錆びの擦れる嫌な音をたててハンドルがまわる。ひとりでにまわって閉まっていく。扉を潜り抜けた先には酒場のカウンターがあり、その奥でグラスを磨くバーテン姿の……ラスヴェート?
「いらっしゃい。また会ったね」
「……また?」
「これで何度目だい? 物覚えが悪いね、キミ。それに……うん? むしろ覚えていないんじゃなくて、最初から知らない……?」
うんうんと唸り始めたラスヴェートをよそに周囲に目を配る。敵対的な存在は居ないらしい。奥に見える射撃場や目の前のバーカウンターは魅力的だけど、今はそれどころじゃない。
「むむむ……もしかしてここでの記憶が同期できていない? 以前の彼が世界線Aの彼で、このアルチョムが世界線Bのアルチョムなのだとしても、同位体であることには変わりないわけだし?
ここでの経験や記憶は
……まてよ……ここでの記憶の共有は要するに書き込みと取り出しで成り立ってるわけだから、同期できていないんじゃなくて“同期するための器”が無いんだとしたら……」
「アルチョム、キミさ――――体をどこに置いてきたの?」
それは――どういう――
「そのままの意味だよ。アルチョムはどこで死んだの?」
僕は? 僕が? 僕の?
「死……僕の、死? 僕が死んだ? 僕は、死んだ? ……死んでいる?」
薄らと蘇ったのは崩れ落ちる基地の中でレバーを引いた瞬間の光景。動き出す赤い数字。命の危険を知って驚愕する誰か。懺悔するような悔恨を浮かべた中年の戦士。
多くの仲間が絶望に打ちひしがれ、それを見下ろしていた勝利者たちは一目散に、我先にと踵を返して走り去ろうとする。
4が刻まれる。
散っていった大勢の仲間達の姿が見えた。一列に整列し、乱れなど無い規則正しい敬礼をする彼らと彼女。
3が刻まれる。
僕を導いてくれた人。カーン、ウルマン、パヴェル、ダニーラ、ボリス、ステパン、そしてミラー大佐。
2が刻まれる。
すまない、と心で呟いた言葉は決して届かない。僕の故郷で待つ彼女の笑った顔が炎の向こうに消えていく。
1が刻まれる。
“おやすみなさい”と穏やかに、優しく語りかけてくる誰か。どこかで見たことのある、懐かしい笑顔があの子のものと重なる。
ゼロが並ぶ。
「アルチョム」
僕を呼ぶ声。あの声。1年前共にメトロを渡り歩いた少女の声が――
「アルチョム!!」
「……っ!? あ、あぁ……」
顔を上げた先にはあの少女とよく似た女の子の顔がある。不満げに頬を膨らませたところなど瓜二つだ。ラスヴェートがが身なりを整えてバーテンダーの衣装に身を包めば完全に同一人物に見えてしまうのかもしれない。
「……嫌なこと思い出させたのは謝るよ。けど、けどね! 目の前に居る人間に声をかけられてるのにずっと気づかないのはどうかと思うよ!」
「ああ……ごめん。少し参っているみたいで……!?」
ふと持ち上げた右手。本来なら手のひらが見えるはずのそこには、何も無かった。
銃を握ってきた右手が。あの子の血の温もりを感じた右手が。仲間に差し出してきた右手が。差し出された手を握り返した右手が。あのレバーを握った右手が、そこに無かった。
「ど、どうして……? 一体、なにが」
「……呼ばれているんだよ、アルチョム。キミの逝くべき場所がキミを求め、呼び声を上げているんだ。どうやら猶予はなさそうだ。私に死者を蘇らせる術は無いけれど、ほんの少しだけ苦痛を和らげるくらいはできる。
ねえアルチョム、キミは、何か後悔があるのかい?」
「後悔……」
ある。ありすぎる。
本当の父親同然に思っているはずの義父を、最後まで“父さん”と呼ぶことができなかった。あなたよりも先に逝ってしまう。
大切な想い人を残したまま僕は死んでしまった。彼女を悲しませてしまった。
ミラー大佐、あなたの大事な娘を悲しませてしまう愚かな僕をどうか許して欲しい。
カーン、あなたの娘を死に至らしめたダークワンと言う存在を、僕はやはり心のどこかでは許せていなかった。もしあの時、僕がほんの少しの勇気を振り絞って前に踏み出せていたら彼女はあのような場所で無惨な最期を遂げることはなかったのかもしれない。
全て、全て僕の罪だ。僕は自らの罪から眼を背け、敵となるもの全てを葬ってきた。ハンターの言葉を真に理解することができていなかった。その結果が、メトロの滅亡を確実なものにしてしまった。
「可能性は、あるのか」
「ん……つまり?」
「もしも、彼女が死んでいなくて……平和な2035年が訪れていたのだとしたら、僕たちはどうやって生きていたのか……そう思っただけだよ」
「……わかった、こっちに来て」
古ぼけた鋼鉄の扉。錆と腐食の目立つそれが開かれるとその先には一つの椅子が鎮座していた。黒ずんだ影が腰掛けるそれに近づいた彼女はまるで埃でも払うかのように手のひらで
「一応言っておくよ。私は最初は
何度かキミが来て試していったけど、内容はまちまちだった。それこ反吐の出るようなハッピーエンドから心の折れるものまで、千差万別。もしかするとキミが死ぬよりも辛い出来事が見えるかもしれない。
キミは……アルチョムは、束の間とはいえここでは自由なんだ。座ったっていいし座らなくたっていい。もうキミの結末は……変わらない……から……」
最後には顔を背け、俯いたままに呟くだけの彼女の頭にそっと左手を置く。
「キミは、優しい子なんだね」
「……アルチョム?」
「僕もキミのような優しい子を知っている。キミによく似た、笑顔の似合う女の子だった。僕もこれから彼女と同じ場所に往くことになるんだと思っているよ。
ありがとう……キミの心遣いは確かに受け取ったよ。もう、何も怖くない」
この黒い影、例えるならば澱みのようとも染みのようとも言える存在は何を望んでここに座ったのだろうか。
古びた木製の椅子に腰掛けるとぎしぎしという音が生まれる。するとすぐに肩に入っていた力が抜け落ちる。だらりと落ちた腕が“もや”のように黒い霧と化していく様は恐ろしいはずだというのに、僕の心はどうしてか安堵感で満たされている。
瞼が落ちるその刹那、彼女が別れの言葉を呟いたような気がした。
「おはよう、アルチョム」
薄ぼんやりと映る木組みの天井。気だるいカラダ。起き上がることさえ億劫だと感じる脳に響くのは、甘く囁く誰かの声。耳元をくすぐる吐息にぞくりと震えそうになるのを堪えて上半身をゆっくりと傾けて隣で眠る声の主に目を向ける。
「……やあ、ヴェート」
「っど、どうかしたの? 急に昔の名前なんて……呼んじゃって」
「あ、ああ……つい……そう、つい」
懐かしい、と思うのは彼女の面影が当時のままだからだろうか。腰ほどまで伸ばした鴉の羽のような黒髪と東洋系のヒトの平均……160cmに若干満たない小柄な体躯。しかしストーカーとして、スパルタンオーダーとして鍛えられた引き締まった肉体。
年に比べて少し童顔の印象を持ちながら、纏う色香は凛々しさや艶やかさを臭わせる。力強い光が満ちる彼女の黒い瞳。今すぐに貪りたくなる小さめながらぷりんとした唇。視線を少し落とせば黄色人種にしては色白な――日の差さないメトロではごく当たり前だが――肌が僕の左腕に密着している。瑞々しく柔らかな、しっかりと張りのある二つの果実が僕の二の腕に押し当てられている。
「ゾーヤ、って呼んで」
「……ゾーヤ」
「うん……」
「ゾーヤ」
「アルチョム」
どちらともなく唇が触れる。求めるがままに奪い合う。絡め、啜り、与え、奪い、キスを繰り返す度に彼女は理性の
薄暗い部屋は一つのランプの明かりがあるだけで他には何も無い。プライバシーもクソもないメトロの居住区で男と女の情事に及ぼうものなら苦情が飛んでくることは確かだ。だがここでなら何の気兼ねもなく彼女と愉しむことができる。
「もうっ、ほんと胸ばっかり……」
「綺麗だよゾーヤ。だからむしゃぶりつきたくなるんだ」
彼女の胸に顔を埋めて感触を味わうように舌を這わせる。今では稀少になった石鹸の香りがする乳房を手で玩ぶと、彼女は切なげに足を絡めて続きをねだり始める。
ぷっくりとした突起を吸い、もう片方を指先でくりくりと弄る。すると仕返しとばかりに彼女は僕のモノの裏筋を指先でなぞり鈴口を刺激してくる。
血が廻る。下腹部へ集中する。一度出して萎びていたままだった肉棒が反り立ちはじめ、雌を貫きたいと再び主張し始める。
「寝たままじゃやりづらいね」
「ふふ、じゃあどうするの?」
意地悪そうに笑みを浮かべるゾーヤ。起き上がった僕を見る彼女は期待するように舌なめずりしてこちらに身を預けてくる。ベッドの縁に腰掛けた僕の股座に彼女を背中から抱くように座らせる。
起き上がったことで愛液と精液の混ざり合った粘液が膣から垂れ落ちて僕の肉槍を濡らす。相変わらず経産婦とは思えない締まり具合の膣口へ背面座位で宛がうと、彼女は僅かに身を震わせる。
「んっ……入って、くる……!」
「相変わらずっ……締まる……」
「……どう? 気持ちいい……かな?」
僕の肉棒をゆっくりと受け入れていく蜜壷。ぎゅっと締め付けながらも、うねるように絡みつく媚肉。吸い付くように鈴口と密着する、こりこりとした感触。
それらの刺激にじわりと絶頂に追い込まれていく中で彼女の胸を再び玩ぶ。小柄な彼女を後ろから手探りで愛撫し始めると彼女は次第に甘く蕩けた声を洩らし始める。
「あぁんっ……んっ……も、もうっ……乳首ば、かり……!」
「じゃあ、今度はこっちはどうかな?」
「んっ、いいよ、アルチョム……もっと、もっと下も弄って……」
胸の突起と割れ目の突起を同時に指先で弾くと彼女はきゅっと膣肉を収縮させて精をねだる。とんっ、とんっ、と軽いストロークで小突いて刺激を与えると、ビクッと彼女の身体が震え、同時に竿へとかかる締め付けが一際強くなる。
「くぅっ……で、出るっ……!」
「えっ……!? も、もうっ……!」
抜き放った僕の肉槍から白い粘液が迸る。全身の力が抜け落ちる虚脱感。まるで彼女に吸い取られているかのように、血の気がすぅっと引いていく。
「アルチョム……流石に早すぎじゃないかな……?」
「……ああ、どうにも……思ったより疲れてるのかも」
むぅ、と膨れっ面の彼女は自身の股座を白く染めた僕のモノを手で扱き始めると、もっともっととねだるようにキスをしてくる。お互いに向かい合うようにすると、彼女は堅さを若干失った僕の肉棒を自らの蜜壷へと導いていく。
「んっ……こうやって……はぁぁ……ちゃんと中で出さなきゃ、赤ちゃんを産めないじゃない」
疲労感に苛まれる僕とは正反対にゾーヤは元気らしい。彼女の淫肉が絡みつくたび、奔流とも言えない精が吐き出されていく。
まるで搾り取るように……果実が搾り機でその蜜を搾り取られるのと同じような気分だ。けれどゾーヤはその
「ゾーヤ、そんなに二人目が欲しいのかい? ついこの間ソフィアが生まれたばかりだろう? ……身体を壊しかねないんだから、もう少し抑えたほうがいいよ」
「……それは、わかってるけど……でも、どうしても二人目が欲しいんだ。
男の子が一人と女の子が一人、アルチョムが居て私が居て……そんな戦争前には当たり前だった家庭が欲しいんだ」
「……わかったよ。でも、無理はしないでくれ。君が居なきゃ……ソフィアも僕も悲しむんだから。愛した人を失うなんて、僕は嫌だよ」
「アルチョム……ありがとう……」
身体が解け落ちるような浮遊感。しかし恐怖は――感じない。ただ彼女の――息遣い――と腕に抱かれ――て世界が――閉じてい――く。安――が手招――し――る。
願うことなら――――彼女に、平穏な……幸せ……な………。
ヒト型をとっていただけの黒いモヤはドライアイスの煙が流れるようにメトロへと落ちて溶けていった。アルチョム、だったものがカタチを失ってメトロへと戻っていく。
書斎の中央に佇む古ぼけた木製の椅子に微かに残った黒いモヤを手で振り払う。
「……いい夢は見れたかい?」
答える者は居ない。もう、どこにも居ない。彼はメトロの闇へと還って行った。
「何もっ……何もっ……! できなかった……っ……!」
目の前にあるはずの書斎がぼやける。次元が揺らいでいるわけでもないのに。
鼻を啜る音が聞こえる。私以外に誰も居るはずがないのに。
「――私も、泣けるんだ」
私は、私が作られた存在だと知っている。そうあるように設定された。
私は、たまにカミサマが放り込む誰かを持て成す存在だと知っている。そうするように定められているから。
感情も、意志も、こうして今何をどう感じているのかさえ、カミサマの気まぐれ一つでしかないと知っている――そう、知っていると思っているこの考えさえカミサマの気分次第でしかない。
けれど、今はただ私に感情を持たせてくれたことを感謝しよう。……数瞬後には感情など消されているのかもしれないが。ともするとこの思考や感情さえも――
――――ジリリリリリリ!
どくん、と胸が高鳴る。あの電話が鳴るということはつまり、カミサマからの電話だということ。
バーカウンターに戻った先にあったのはひとつの黒い電話。ダイヤル式のごつごつした体躯と大きな受話器の、古ぼけた電話だ。
「……もしもし。はい……はい……ええ、恙無く。え? 新しいヒトが増える?
やったぁ! で、で!? 今度はどこのお客さんが――は? たった一人増えるだけ?
――ッ!? い、いえいえ滅相もございません! 誠心誠意お勤め致しますとも! え、ええ、も、もも、もちろんですっ!」
カミサマにはあんなこと言われたけどお客さんが増えるというのは喜ばしいことだ! ああ、実に喜ばしい! この寂れたバーも少しは賑わうことだろう。
そうと決まれば笑顔だ! 笑顔の練習だ! 愛嬌たっぷりの美少女バーテンダーを志す私の全力をお見せしなければ!
「ぶいっ!」
アイドルにだって引けを取らない満点の笑顔をお届けします!
あれ? なんか黒いモヤが出てる。あっちいけ、シッシッ! どこの誰か知らないけど、次は新しいお客さんが来るんだから邪魔しないでよね。
――ああ、次のお客さんが待ち遠しい。
人物紹介
管理人さん
・管理人はあくまで管理人さんです。
・ここを訪れるアルチョムたちの会話相手という以上の意義は持ち合わせていない。
・人間のようだけど機械めいた切替えの速さがウリ。
・自分はカミサマの人形でしかないと認識させられている。実際訪問者と会話させるためだけに居るようなもの。
・実はメトロに放り込まれて野盗にブチ犯されるルートも考えた(けど長くなりそうなので没に)