Metro2033 -影を見る者- 作:きゃすたー(7mg)
スナイパーライフルのボルトアクションってカッコイイですよね。
やっとこさメインストーリーの流れにヴェートちゃんが乗り始めます。
ここからようやくホラーや残虐シーンなども増えるかと思います。
ゲームを再プレイ中ですが、ラストライトのDLCミッションのクシャトリヤがやっぱり楽しい。
そしてスパイダーの巣のカサカサぶりが嫌いです。
ゲーム中の敵の雑談やNPCの掛け合いなんかも楽しいものです。でもスパイダーの巣はまじ勘弁。
そういえばシャドウオブモルドールクリアしてn…
モスクワには冬が訪れている。もちろんモスクワだけに限らず、世界で天変地異の如き気候変動が起こっていることだろう。
一年を通して冬が続くようになったのがここモスクワだが、アメリカや日本、アフリカやアジアなどはどうなのだろうか。同じように冬が訪れているのだろうか。
干ばつで干からびたり、海面上昇で水底に沈んだりしているのだろうか。いずれにしても世界は破滅し、既に人が生きているのかも怪しい。
第四話 平和通り
大気は有毒なガスで汚染され、雨は放射能が混じり、人が生きていける環境などこの世界のどこに残っているというのか。それでも地下ならば、という淡い希望もある。実際にサンクトペテルブルクはモスクワメトロのように崩壊後の十年ほどは交信があったという。
モスクワのように核攻撃を想定したシェルター機能は備えてはいないと聞いたが、存外人間というものはしぶとく、そして諦めが悪いものだというのはいつの時代もそうだ。
地上でしばらくの間活動していた村落もあったそうだし、人類は地上において―ガスマスクが必須とはいえ―生きていく力を失ってしまっているわけではない。
この地上には一体どれだけの失われた技術や知識が存在しているのだろう。
もしかしたらその中にはメトロの人々を救い、地上の世界へと再び躍り出るための切欠があるのではないか。地上で見つからずとも、地上に挑み続けることで何か切欠ができるのではないかと思い、私はストーカーとなった。
だが今のメトロはどうだろう。空を知らない子供たちが大人になり、空を知る大人たちはかつてのモスクワに思いを寄せるばかりで地上へ這い出る勇気を持てないでいる。
諦め、絶望、孤独、不安。閉鎖された地下世界においてそれは致命的だ。ただでさえ長い地下生活に、人々の心は磨り減って折れそうになっているのだから。
今私の目の前に広がるモスクワの街、
かつては美しかっただろう街並みは今や全て瓦礫と無人の廃墟だ。いや、住人は居る。ミュータントどもや既に肉体を失った人影ばかりだけど。
ドライ駅へはこの通りを南へとしばらく進んだところにあるが、その道のりは険しい。大きな建物はほとんどが半壊しているか崩落し、かろうじて残っているという風体だ。
確かハンバーガーショップの支店が入っていたところにドライ駅の入り口があったのは覚えている。私があのあたりに行ったことがあるのはコムソモーリスカヤを出て地上を漁っていたとき、クラースニエ・ヴォロータ駅から出てきた共産主義者の集団から逃げ回っていたときのことだった。
スハレフスカヤ広場に逃げ込んで待ち伏せして一人ずつ息の根を止めてやったが、どうやってあの場所へとたどり着いたのかはよく覚えていない。狭い道を走り回り、住宅が立ち並ぶ路地を走っていたのは覚えているのに。
向かい側にコーヒーショップと24時間営業のコンビニがあったのでコーヒーメーカーや雑貨を持ち帰ったんだっけか。まあ挽く豆も無いし雑貨は二束三文にしかならなかったけれど。
とにかく今はドライ駅への到達が最優先だ。地下は今もハンザのトロリー装甲車が“掃除”の真っ最中で使えない。危険は承知だが、地上を歩くほうがいくらか早くたどり着けるだろう。
雪の積もった廃車の上に乗り、滑りそうになるのを堪えて対岸へと飛び移る。ぐらぐらと揺れる足場というのは肝が冷えるものだが、うだうだと言っていられない。
右手には平和通りから競技場へ伸びる通りが見えるが、両側の建物が崩落していて進めないのがわかる。あれが超えられればドストエフスカヤ駅にも行けるようになるのだが。今度ルート探索でもしてみようか。
「ホント、どこにでもあるよねあのハンバーガーショップって」
マーケット駅の東側出口の対岸にはスーパーが併設されていた西側出口がある。そしてそこに立派なメトロのシンボルに並んで赤い『M』の看板が錆でボロボロになりながらも主張するように並んでいる。
陥没して宙ぶらりんになった路面電車のレールを飛び石に陥没を乗り越える。
かつては美しかった公園を横目に前に進む。廃墟と化した弁当屋とコンビニ、そして小さなケーキ屋が並ぶ売店。風化して荒れ果てた店内にはいくつかのビラと、壁に貼られたウォッカのポスターが残っていて、あとはレジが荒らされたまま二十年の間放置されているだけになっている。
「いいなぁ。久々に食べたいのに」
“できたての温かい特性ボルシチ! 公園で星を見ながらあったまろう!”と書かれた弁当屋のビラを一枚取り上げる。そこには夜の公園のベンチでプラスチックの容器に入ったボルシチを食べているカップルらしき姿が映されている。だが色あせて傷み、ボロボロになった紙は手にしただけで崩れていく。
何枚か束になって保管されていたのを戸棚から見つけると、状態のいい数枚を抜き取って背嚢に入れる。今ではビラ一枚持ち帰るだけでも命がけだが、こうしたかつてのモスクワの情景を映し出したビラは欲しがる人もいる。
ケーキ屋も既に他のストーカーによって探された後らしい。彼らが手をつけなかったもの、チラシやビラを数枚探して詰め込んでいく。路肩にあった売店を探るものの、質の良いものは見つからない。
「時間か」
左腕の手首に巻かれた腕時計を見る。まだ駅を出て15分しか経っていない。
取り出した予備のフィルターをガスマスクに取り付ける。きゅっきゅっという音と共にフィルターをはめ込み、使えなくなった古いフィルターを背嚢に放り込む。
フィルターの劣化もひどいものだ。再利用できるだけマシだが、戦後二十年も使いまわされてきたせいで随分と持ちが短い。複数持ち歩いているとはいえ、状態の良いものから粗悪なものまでピンからキリまで存在している。
それでも使わなければ地上には出られないし、生きてはいられない。文句を言いたいのは山々だが、メトロの厳しい環境ではこうなるのも仕方の無いことかもしれない。
スターリン様式の古いビルや住居の立ち並ぶ通りを進んでいくと、右手にバーが一件佇んでいるのが見える。風情ある昔からの飲み屋という雰囲気で、破れた垂れ幕とポスター、割れたガラスの向こうにはバーカウンター。既におおよそ漁ったあとのようだが、気にする必要はない。人の手が入っている、ということはつまりそこは一度危険がないということが確認された後だということだ。
とはいえ時間が経てばそこはミュータントの家になっていたり、地上を徘徊するストーカーの基地となっていたりするので要注意だ。
遠目に見た限りでは不審な点は無い。安全確認ついでに何かあれば貰うか。
隆起した崖になっているところから対岸の低い川べりの場所へと飛び降りる。
ドサッと雪の上を転がって受身をとり、センサーがカリカリと不吉な音を立てるのを気にも留めず走り抜ける。段差に手をかけてよじ登ると、ようやく音が消える。
ミュータントの気配がないことを確認し医療キットを取り出して気付け薬を左肩へと打ち込む。
「ぐっ……はー…」
ぐにゃりと歪むように視界がブレるものの、目頭がすっきりするような感覚と共に視界が正常さを取り戻す。今しがた使ったものは民生品のものだが、軍用のものはさらに強力で、多少の出血や傷はすぐに収まるほどのものだ。活性化がどうの自己治癒能力がなんだのという理屈を聞かされたが、専門的すぎる内容だったのは覚えている。
こういう気付け薬は一種の興奮剤・鎮静剤にもその成分が使われている。打ち込んだ後の快楽性故に民生品は使用者が後を絶たないほどだ。
「あー…あはぁ……き、くぅ…」
そんな私もその一人だ。きっと今頃私はマスクの下でだらしないメスの顔を晒していることだろう。それを見られる恐れが無いというのは非常に喜ばしいことだ。
この快楽はほんの3秒ほどしか続かない。きっと開発者は『こんなのが何秒も続けば問題だ』と考えて抑えたつもりかもしれないが、一瞬で過ぎ去る幸福感がむしろ中毒を煽るのだろう。
そっと足を忍ばせて店の入り口の壁に身を寄せる。手持ちの小さな鏡で室内を見ると荒れ果てた店内は誰が片付けたのか砕けた酒瓶の破片が一箇所にまとめられていて、四角いテーブルは防壁代わりに転がされて、いくつかの錆びた薬莢が転がっている。テーブルも銃弾の痕が生々しく残っていて、激しい銃撃戦が起こったことが想像できる。
意を決して踏み込む。既にドアのない入り口を抜け、上階へ通じる階段を警戒しながら静かに薄汚れたベルベットの床に足を置くと、罠や生き物の痕跡に意識を向ける。
カラシニコフを背中に回し、リボルバーショットガン、シャンブラーを手に取る。ストックを右肩に当てて左手で銃身を保持し、トリガーにかけた指をいつでも引けるようにする。
バーの中におかしな点は無い。所々にミュータントどものクソが落ちている程度で、酒瓶やめぼしいものはおそらく他のストーカーが漁ったあとらしい。
「グオオオォォッ!」
「なっ!? グッ、この! ……どけっ!」
カウンターの奥から身を出した大きな影。その牙がシャンブラーに突き刺さる。
そのまま私に圧し掛かる巨体。まばらに毛が生えた巨大な狼のようなミュータント。
魚のようなきょろりとした目とブルドッグのようなたるんだ顔と、その口から覗く鋭い牙。
間近に迫るそいつの腹を蹴り上げるものの、私の手にもつシャンブラーを振りほどいて私の首に牙を突き立てんと迫る。
「ガウッ! ガアッ!」
べたべたと涎がマスクを濡らす。気色の悪いミュータントどもめ、そう簡単に私を食えると思うな! 人間のしぶとさは伊達じゃないんだよ!
「おらぁっ!」
狼のようなミュータントの顎に向けて咄嗟に抜いたナイフで突き上げる。ずるり肉を裂いて食い込む感触と共にぽたぽたと血がマスクに流れ落ちる。
痛みにのた打ち回るミュータントを蹴り飛ばしてどけると、息も絶え絶えの様子になっているがまだ生きていることを悟る。
「ガッ…ガフッ……ウゥゥ…」
「しぶといんだ…よっ!」
「ウゥッ……グ…」
ミュータントの脳天に、逆手に持ち替えたナイフを打ち込む。うめき声と小さな痙攣を起こして、その狼は事切れる。見開かれた目は知性の無いミュータントどもも人間も変わらない。死の恐怖に怯えた目だ。
「ハウラーが一体だけ……そんなわきゃあないんだけど」
ガスマスクとナイフについた血をふき取り、店の外を注視する。敵は、来ないらしい。
このデキの悪い不細工なミュータントは地上における人間にとって鬱陶しいことこの上ない相手だ。
一般的にはウォッチメン、又はハウラーと呼ばれるが、こいつらはかつての狼のように遠吠えで周囲の仲間を呼び寄せる厄介な相手だ。一度でも見つかれば遠吠えで仲間を呼ばれ、それは周辺のハウラーにも伝播して更に広範囲から呼び寄せる。
一匹に見つかれば数匹から十数匹に囲まれることを覚悟しなければならない。地上を少数か単独で行動するストーカーやレンジャーにとっては必然的に一対多の状況に持ち込まれてしまう、面倒なことこの上ない厄介なミュータントだ。
その上こいつらは群れ単位で移動する。数十匹以上の大群がモスクワの廃墟を闊歩するのだから、その光景は圧巻であると同時に絶望的だ。
余裕があればこいつらの腹を掻っ捌いて胃の中のモノを調べることもできるのだが、今は時間がない。漁るだけ漁ってトンズラとしよう。
「………なるほど、ガキか」
覗き見たカウンターの中ではキーキーと泣き喚く、毛の無い肌色をしたハウラーの子供が肉を貪っている。どこの誰のものかは知らないが、血の乾いたジャケットや真っ白を通り越して茶色に劣化した頭蓋骨、食いかけの右腕と真新しい人間の目玉が残った死体に、その子供たちが群がっている。
くちゃくちゃと真新しい肉を食いちぎる子供はこちらに気づいてもおらず、ただひたすらに目の前の肉を貪り食っている。
「“ゴミ掃除”だ」
黄色い液体の入った筒をそのハウラーのガキに向かって叩きつけるように投げる。
バリン! と音を立てて割れた筒から液体が飛び散ると同時に真っ赤な炎が上がり、ハウラーの子供も死体も巻き込んで燃え上がる。
「ギィィッ!」
逃げ延びた一匹が駆け出し、外へと出ようとする。
「ギッ!?」
カラシニコフからパシュン、という静かな音が鳴るとそのハウラーの子はもんどりうって転げ、壁に身をぶつけて動かなくなる。撃ち抜いた場所には弾痕を中心に広がった汚い血の花が小さく咲き、このクソッタレが将来噛み殺すはずだったろう人が一人減ったのだという実感が押し寄せる。
パチパチと燃えるカウンターの中はいい具合に死体もハウラーの子供も黒焦げに焼けている。ただこの臭いはかなわない。さっさと出るべきだろう。
すっ、と音も立てずに入り口の壁に背中を預けて顔を覗かせる。右よし、左よし。上空もよし。幸いにデーモンも飛んでいない。
「……人影?」
対岸の崩落したマンションの三階部分。何か人のようなものが見える。吹雪と影になっていて見えづらいものの、手足と頭があるのがわかる。いつものように見ている“人影”とは違う、実体を持った誰かであるというのは確かだ。
人間、だとしたらこちらの位置はよく見えているはず。同じストーカーなら何らかのアクションがあってもおかしくはない。なのに合図すらも無い。
「………変だ」
なんだ、この変な感触は。アノマリーでもないし“人影”が周囲を取り巻いているでもない、だが何かが確実におかしい。
額を汗が伝う。流れた汗が鼻を伝い、マスクの顎のところで止まる。おかしい。おかしい。これは何か、とてつもない嫌な予感がする。
「……う…はぁ……はぁっ…フーッ…」
おかしい。フィルターはまだ換えたばかりのはずだ。息切れするなんておかしい。そうだ、現にまだ五分ほどしか経ってない。
左手の時計だってそうだ。何も変わらない。たった五分しか針は進んでいない。
「……!?」
何かの気配に気づいてカラシニコフを咄嗟に構え、サイトで狙うこともなく引き金を引く、ことができない。
「……ぁ…ぅ…」
すらりとした黒い四肢。全ての光を飲み食らうような黒い瞳。見上げるほどの長身。長い手がゆっくりと緩慢な動作で私の頭を掴む。
どろどろとした何かが内側からあふれ出す。なんだ、何なんだこれは!?
逃げろ逃げろ逃げろ! こんなものを相手にしていいわけがない!
「―――済、―生――、――は」
「あっ、がっ、ぅ…あっ…」
ぐちゃ、ぐちゅ、ぎちっ、と視界が歪み途切れ散り散りに乱れる。別々の写真を連続して流されるようなフラッシュバックが走る。
ハンター、カーン、ブルボン、グリゴリー、ツェツィーリアさん。そして私を犯している誰か。
痛い痛い痛い痛い痛い!!
怖い怖い怖い怖い怖い!!
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!
全て全て全て全て総て!!
敵だ! 敵を!! 敵ならっ!!
「すべて―――殺せェッ!」
白刃が煌く。必死に振りぬいたナイフの軌跡が走った先に、黒い何かは、居ない。
「はっ、はっ…はぁ……はぁっ…」
ガスマスクから吐き出される白い吐息。霧散するその先にあの黒いヒトガタは無い。入り口を出て左右を見渡してみても、影も形も無い。
「………なん、だったんだ…」
何かノイズのようなものが走ったのは覚えている。だがその次の瞬間には脳を焼くような痛みが駆け巡った。内側から何かが私を支配しようと浮かび上がって、ほんの僅かな間だけだったが確かに私はその“黒い”感情に身を委ねた。
ただの幻覚? そんなわけがない。あれは確かに実体があった。
アノマリーによるフラッシュバック? ありえない。もしもフラッシュバックならこの近辺の“人影”の多くが記憶しているのはかつてのモスクワの姿だ。このような廃墟で謎のミュータントに襲われるなど、死んだストーカー一人の思念にしては強烈すぎる。
なら、あれは一体何だ? ヒトのような手足を持ち、ヒトのような頭部をもち、全身真っ黒のアイツは一体何者だっていうんだ!?
「ウオオオォォォーンッ!」
「…っ!? 見つかった!?」
「……オオォォン…」
「ウオオォォンッ!」
「畜生っ…そこらじゅうに居るか…」
次々と遠吠えが上がる中、ごそごそと取り出したクレイモアを腰にいくつか提げる。シャンブラーが使えるのを確認すると、カラシニコフを手に一気に走り出す。積雪に足を取られないように気をつけて、しかし全速力で走る。
陥没した地面を飛び越え、瓦礫をよじ登りそのまま崩れたマンションの廊下へと駆け込み、窓枠に足をかけて対面の別のマンションの窓へとダイブする。
「見えた…!」
時計のついたかつてはガラス張りだったろう建物。その片隅に小さく『M』の文字が描かれている。あの場所へたどり着ければ…!
崩落していない階段を駆け下り、崩れて斜面のようになっているところから通りに降りて交差点を目指す。
「ウオォォーン!」
「チッ……邪魔するなって!」
雪の積もった瓦礫を悠々と飛び越えて、私を阻むようにハウラーが姿を現す。いきり立ったような咆哮を上げて、迫るそれらの脳天に5.45mm弾を見舞う。サイトを覗き、三点でのバースト射撃。弾道を少し修正し、更に二度トリガーを引く。
パパパッ、パパパッ、とサプレッサーの小気味良い発射音と共に曳光弾がハウラーを貫く。2体、3体とその巨体が地に崩れ落ちるものの、最期の一体が私に飛び掛る。
「そらっ!」
「ギャウッ!」
ドオンッ! それまでのハウラーの咆哮を打ち破るようにシャンブラーが吼える。
飛びつこうと跳躍したハウラーの額に、ロングバレルから撃ち出された散弾が寸分違わず突き刺さる。
「12ゲージの鉛弾のお味はどうだい!?」
「ウゥゥ…! グゥアアアッ!」
「おかわりどうぞ!」
路地から私に飛び掛るハウラーに散弾を食らわせると、空中でバランスを崩したハウラーを横っ飛びで避ける。完全に息の根を止めるまでは気を抜けない。
「グッ…ゥウゥゥッ!」
「やっぱしぶといなあこいつら」
足を撃ち抜かれてじたばたと雪の上で足掻くミュータントにナイフを突き立てる。ミュータントに関する知識は私も叩き込まれてきた。どこに動脈が通っているのか。腹のどのあたりに臓器があり、致命に足る傷を与えることができるか。どのように巣を作るのか。群れの大きさはおよそどれほどなのか。様々な知識を熟練のストーカーたちから教わってきた。
胃の中を調べればミュータントが何を食ってきたのかがわかる。ヒトの骨、肉、時には足や腕を丸呑みだったり、幼い赤子だったり――
………余計な思考だ。考えないほうがいい。
医療キットを取り出し、アンプルを再び打ち込む。
「くっ…はぁっ…ふぁっ……」
ふわっとして体から一瞬だけ力が抜ける。びく、と身震いするほどの強烈な快感。思わず股が緩みそうになるのを堪えると、すぐに強烈な爽快感が目の奥を走り抜ける。
あと少しだ。あと少しでたどり着ける!
ちら、と見た時計の針は既にフィルターの平均持続時間を越えた数字を指している。新しいフィルターに交換し、一度息を整えてシャンブラーに“赤い”ショットシェルを装填する。
「詰めだ……しくじるなよヴェート…」
目標はハンバーガー屋の手前にある地下鉄の入り口ではなく、交差点の少し手前にある地下通路への入り口だ。そのダクトがドライ駅への正真正銘の入り口だ。
大柄なミュータントであるノサリスやハウラーでは侵入できない狭いダクトだが、人間のサイズならどうにか入り込める。……とはいえラーカーに出くわしたくはないし、後を付けられたくもない。
「っく……デーモン!」
バサッバサッと力強い羽ばたきと共に、怪鳥が姿を現す。まるでファンタジー世界のワイバーンか何かかと思うゴツゴツとした灰色の皮膚に巨大な体躯。コウモリのような羽で空を舞い、地上を見下ろすその姿がまるで悪魔のようであることから、デーモンとストーカーやレンジャーたちは名づけている。
どすん、と地に降り立った悪魔はなんとも間の悪いことに私が目指している地下道への入り口の前で居座ってしまう。生半可な銃撃ではあの硬質の皮膚は貫けないし、かといってあれを回避して進入するのは不可能だ。
「ハウラーの次はデーモン……ツイてないなあ」
アノマリーに飲まれかけてブルボンに犯されて、謎のミュータントに襲われてハウラーに見つかって……ほんとにこの2、3日は運が悪い。いくら地上とはいっても、私がこうも簡単に何度もミュータントに追い回されることは無かったのに!
せめてこの手にバルブかプリーブドのような狙撃銃があればとは思うが、無いものねだりもよくない。
仕方がない。戦車に突貫するような無謀だけれど、やってみるしかない。
幸いにも隆起した路面が影になって近づくくらいはできそうだ。足音を出さないように静かに、しかしできるだけ軽快に走りぬけ、隆起した路面を這って登る。
デーモンは背を向けている。やるなら今だ。
伏せた姿勢のままで導火線の先端に視線を移し、意識を集中させる。
イメージが固まると同時にチリッという小さな音が走り、導火線に火がついたのを確認すると、すばやく的確にデーモンの背中にめがけて付着グレネードを投げつける。
「グオオアアッ! ガアッ! ゴガアアァァッ!」
背中に当たった何かに気づいたデーモンは不快感からかばたばたと羽をばたつかせ、その不快感を取り去ろうとする。だがもう遅い。一度くっついたそのグレネードはもう―
ドゴンッ、と鈍い爆発音と共に肉片が飛び散る。背中の弱い部分にくっついたグレネードがデーモンの羽と背中を丸ごと吹き飛ばす。デーモンが抉れた背中を空に向けて前のめりに倒れるのを確認し、地下道へと駆け抜ける。
動きそうな気配は無い。ヘッドランプを灯して一部が崩れた地下道へと踏み入れるや、暗闇でギロリと光る二つの目と視線が合う。
カラシニコフを手放し即座にシャンブラーを手に取る。レーザーサイトを頼りに腰だめで狙いを定め、目前に迫ったそれに向かって引き金を引く。
「あっためてあげるよっ!」
赤いショットシェルの信管をハンマーが叩く。ハウラーを吹き飛ばしたときと同じ咆哮がシャンブラーから、文字通り“火を伴って”放たれる。
「…ウゥ……グゥッ…」
地下世界の人間の天敵、ノサリスが炎を纏って転げまわる。
肌色をした四速歩行のミュータントだが、獲物に攻撃する際には生意気にも二足歩行で攻撃を仕掛けてくる。おまけに軽やかなステップで上下左右に逃げ回るクソッタレだ。
壁を伝って接近してきたり、そこかしこの障害物を己の足場のように駆け回る鬱陶しい連中。非常に攻撃的で、こいつらのせいで小さな駅が一つ滅ぶことだってある。
大型犬のような見かけで機敏に走り、鋭い爪を用いてサルのように器用に攻撃を仕掛けてくる。まさに地下に適応したミュータントと言っても過言ではない。
どうやら一体だけだったらしく、後続は現れない。
廃墟になった美術館ともいえるモスクワメトロの通路を少し進むと完全に閉ざされたエアロックが現れる。だが私の進路はそちらではない。
エアロックへと続くエスカレーターの傍にあるダクトを開けて入り込む。もちろんダクトの入り口の足元にはクレイモアをお土産にセット済みだ。蜘蛛の巣を焼き払い、ネズミを追い払いながらごそごそと匍匐してしばらく進むと、駅のホームの上階へと出る。そこから地下へと続くダクトへと入り込むと、複数の人間の笑い声が聞こえてくる。
「へへっ、いいもんみつけたぜ」
「お前……正気か? 腹ァ壊しても知らねェぞ」
「よっしゃ! 俺の勝ちだ! さあカネ払えよ」
ダクトからホームを見下ろしてみれば、何人かの男がネズミを走らせるレースに興じている。少々の物音は大音量の音楽と騒がしい声でかき消されるし、灯りも中央のホーム以外はランタンやランプ、ロウソクなどばかりで暗い。
こいつらが例の野盗どもか。遠目に見る限りでは装備はそこらへんの商人のものと大差無い。というより商人から奪っているのだから当然か。
水平二連式のソードオフショットガン、デュプレット。簡易製造のサブマシンガン、バスタードことバカマシンガン。そしてぽつんと浮いたシャンブラー持ちの野盗。
装備は二線級というより、護身用として使うことのほうが多いものばかりだ。リボルバーを延長ストックとロングバレルに変えたマニアックなヤツも居るが、装備は基本的に商人や旅人から奪ったものが主らしい。お陰でアタッチメントは豊富なようだ。
人数も比較的多い。ざっと見ただけで10人と少し。見えない部分となればさらに多いだろう。とはいえこちらは戦闘のプロだ。暗殺から狙撃まで一通り叩き込まれている。
暗闇も多いし敵の注意力も散漫で、オマケに音楽まで流している始末だ。騒いで歌ってと嬉しいのはわかるが、潜入している人間からすれば絶好の暗殺日和だ。
以前に見つけたホームへ降りられそうな出入り口の目印を確認すると、そのまま進んで元の空き部屋へと戻る。
幸いにもこの空き部屋は野盗にも見つかっていないらしい。今のうちに小さなランプを取り出して灯りをつけ、外から私が通ってきたダクトにはトラップを設置しておく。
ヒモに引っかかれば空き缶が鳴るという程度のものだが、何者かの接近を知るには十分だ。
どうにも疲れた。ブルボンもカーンも居なさそうだし、少しだけ眠ろう。うとうとするだけでも、精神的な疲労はいくらか和らぐ。
張り詰めた緊張感から脳が解き放たれ、全身の力が抜けていく。膝を抱え、背中を壁に預けると意識はまどろみの中へと落ちていく。
右手で握り締めたカラシニコフの感触だけが、やけにくっきりと残ったままに。
最近再プレイしたゲームの思い出:「殺せ、ロシア人だ(迫真)」
仕事を放り出して一ヶ月くらい北海道をバイクで放浪したいです。
きっと北の大地の大自然が私を癒してくれるはず。
シベリア鉄道で旅行したいです。ロシア語できないけど。
いろいろと試行錯誤しながらなので、誤字脱字のご指摘や感想などお待ちしております。