「もしも、もしも俺が死んだら泣いてくれる?」
そんな事言うのは、女々しいと思っていた。
「そんなとこいないで、早くこっちにおいで 。」
俺は、ビルの屋上で今にも飛び降りようとしている犯人に出来るだけ身を乗り出し手を伸ばしていた。
銀行強盗犯を、このビルに追い詰めた所までは良かった。まさか、金が手に入らなくて自殺しようと考えているなんて思いもしなかった。
給料日の今日、俺は非番で銀時と食事する為お金を下ろしに行った。いつもは、ATMなんだが午前中に機械トラブルで動かなくなり、窓口で下ろす羽目になった。
酷い混み具合で、銀時に“遅れる”と連絡しようとした時、強盗が押し入った。
いつも、遅れると頬を膨らませご機嫌な斜めになるもんだから(それはそれで、可愛いんだけど…)強盗に身分を明かした。
強盗は、終始驚いた顔をして武器を持っていなかったのか逃げた。で、冒頭に戻る訳なんだが………銀時との約束の時間はとっくの昔に過ぎていた。怒っているんだろうなぁと思いながら、手を伸ばした瞬間。
背中に、激痛が走った。振り向くと、覆面の男(たぶん、男だと思う)が血の付いたナイフを両手で持ち震えていた。刺されたんだと理解できた。笑える犯人が、二人居たなんて気付かなかった。デートに、浮き足立っていたのかもしれない。
途端に、寒気がした。血の気が引く………そんな感じだった。
「あぁ~、アイツ忘れてんのかなぁ?」
空を仰ぎ、呟く。1週間前に飲みに行った居酒屋で土方と出逢い、今度の非番の日にデートすることになった。
そして、当日。いつもの公園で待っている、1時の待ち合わせ……今は1時半。アイツが遅れるのはいつもの事だけど、連絡がないのは始めてで……アイツがくれた携帯を見ながら待っていると、外が騒がしくなった。
パトカーや消防・救急車まで……銀行の方に行ってる。なんかあったのかなぁ?他人事みたいに思っていると、携帯が鳴った。着信は、土方。まぁ、土方しか入ってないんだけど……。
「旦那。落ち着いて聞いてください。副長が、刺されました。」
土方ではない声、誰だかわかるのに時間がかかった。ジミー君か……何て言ってるんだろう。わからない。“さされた”?何に?蚊かなにか?
理解できずに、涙が出た。
気が付くと、病室にいた。どうやって、ここに来たんだろう?俺以外は、廊下に出てなにやら話してる。
目の前には、土方が寝ていて規則正しい機械音だけが部屋中に鳴り響いていた。
強盗に、刺された。とジミーから聞いた。銀行に行って強盗犯に出くわして追い掛け、ビルの屋上でもう一人の強盗犯に刺されたと……。
いつもなら、こんなヘマしないのに。なんで……目醒ましてよ。
事件から3ヶ月。土方が、目を醒ました。
俺は、慌てて病院へ走った。慌てて居たので、靴もチグハグで走りにくくて靴を脱ぎ裸足で病室へ入った。
「どちら様ですか?」
息を切らした俺に、土方の姿をした者はそう言った。
医者の話では、一過性の記憶喪失らしい。物の名前や自分の名前他のやつらの事は覚えているけど、俺の事だけ綺麗サッパリ忘れてた。俺って、土方にとってそんな程度の存在だったんだ。涙が、止まらなかった。
土方が、目を醒ましてから1年が立った。未だに俺の事は忘れたまま、土方は何事もなかったように
俺との関係は、単なる知り合い。付き合う前に戻ってる。また、土方が俺に恋に堕ちることはあるのかなぁ?
そんな時、土方が死んだ。とジミーから連絡があった。
土方を、約1年前に刺した犯人が動揺のあまり覆面を脱いで顔を見られたから確実に殺さないと、と思ったらしい。
約1年前、あの時の強盗犯は捕まらずに逃げ続けていた。土方が、助けようとした強盗犯は自殺したけど……。
線香の香りで、現実に引き戻された。俺の事、思い出さなくても土方の側に居れれば良かったのに、もう側に居ないなんて……。
重い足取りで、やって来たのは土方のお墓。今日、土方の骨をお墓に入れなくちゃいけない。もう、会えなくなるなんて受け止められない。だからね、俺も逝くことにしたんだ、
俺は、手首を切った。
完