「でね、おかしいんだ。お母さんがね。お魚くわえたドラ猫追っかけて……」
緒方先生との一局はヒカルに想像以上の収穫をもたらした。良い意味でも悪い意味でも。
良かったことは、佐為として最後まで碁を打てたこと。気力を根こそぎ持っていかれたが、自分は出来ると確信させてくれた。
悪いことは前途が多難だと思い知らされたこと。
「って、ねぇ、さっきから聞いてる?ヒカル」
佐為として緒方と打ったそれは、酷い碁だった。藤原佐為の出来の悪い模造品、いや、それ以下か。
考えてみれば当然の帰結だ。佐為になりきったとてそれでヒカルの棋力が上がるわけではないのだ。
佐為を作る。それはヒカルが佐為と同等、もしくは高みにいなければ出来ないことだ。
ヒカルというハードで佐為というソフトを起動させる。読み込んだだけ御の字、最後まで止まらなかったのは奇跡。その性能をいかんなく発揮させるにはいかほどのキャパが必要なのか想像も出来ない。
「超えてやる」
佐為を超えた先に佐為がいる。そこで初めてまともに碁が打てるのだ。
「ヒカル……?」
覚悟が必要だ。
「帰り道こっちだよヒカル!」
藤原佐為が宿っていた碁盤は無くなっていた。じいちゃんが碁盤を預けたお寺でたまたま行われていたフリーマーケットに紛れ込んで売られてしまったと言う。
そんな偶然があるのか。神様が邪魔をしたとしか思えない。
「ちょっとぉ……」
神様は敵なのだ。
だったら、俺は神を倒す。藤原佐為が目指していた神の一手……神殺しの一手を極めてみせる。
その為には今まで以上に碁の勉強をしなければならない。
「ヒカルってばぁ~」
「……ああ、ごめん、図書館行って本借りてくる。あかりも来るか?」
「うん、行くけど……ヒカルが図書館?どんな本読むの?」
「囲碁の本、俺、囲碁始めたんだ。そうだ、あかりも囲碁やらないか?」
「えぇ~!?囲碁っておじいちゃんがやるものでしょ?それにヒカル、サッカーは?もう飽きちゃったの?」
「サッカーだとあかりと一緒に出来ねーじゃん。だからさ、一緒に囲碁やらないか?」
「え、えぇ~!!も、もうっ、ヒカルって本当にずるい!!そんな言い方されたら私が断れないの知ってるでしょ、もお~」
「はははっ、じゃあ俺が囲碁教えてやるから、ご褒美はエッチなことな!」
「……えぇ、と、それっていつもとどう違うのヒカル?」
「うーん、じゃあ、生でやらせてくれよ」
「それはダメだよ、赤ちゃん出来ちゃう!」
「今日は危ない日なの?」
「知らないよ、そんなの~」
「ほんとに?」
「……今日は大丈夫な日だけど……もぉ~、特別だよ!ヒカルっていっつも強引なんだから」
「はは、じゃあ、早く行こうぜ!図書館行って、その後俺んちで囲碁したら、エッチだ」
「はいはい」
ヒカルの様子がおかしい。
あかりはそれが心配で心配で仕方なかった。
幼稚園の頃からの幼馴染。無鉄砲で天真爛漫なヒカル。引っ込み思案な私はいつだってそんなヒカルに引っ張られながら一緒に過ごしてきた。
初めてのエッチだってヒカルから。興味を持つと、やらずにはいられないヒカル。
精通したらすぐに私のことを求めてきた。保健の授業で習っていたから簡単だと思って始めたセックスはなかなか上手くいかなくて。
泣きそうになる私を励ました後に、ヒカルは部屋を出て行った。
どういうことかと思っていたら隣の部屋にいたお姉ちゃんを捕まえてきて、セックスの仕方を教えてと頼むのだからヒカルの無鉄砲さとバカさに頭を抱えたくなった。
でも結局それで上手くいくのだからヒカルには才能があるのだろう。
処女だったお姉ちゃんにゴムを付けろと怒られながらも、最後はお姉ちゃんまで食べてしまったヒカルには天性の人たらしとしての素質があるのかもしれない。
セックスもあっという間に上手くなって、私はいつもいかされまくるようになってしまった。
お姉ちゃんもヒカルとのセックスにはまっているみたいだし、私は複雑な気持ちになってしまった。
そんな、ヒカルの様子がおかしくなったのはヒカルのおじいちゃんちのお蔵でセックスした後から。
お蔵でのセックスはいつもより激しくて気持ち良いものだったのだけれど、事後にヒカルが意識を失ってしまったのだ。
病院で検査したけれど、異常はなかったそう。安心したのだけれど、ヒカルの様子が一変してしまったのだ。何かに悩んでいるように考え込むことが多くなった。真剣な表情が増えて、笑顔がちょっと少なくなった。
私のことを何だか、子供扱いしてくるような気がする。
でも、優しくなった。
そのことをお姉ちゃんに相談したら、大人になったんじゃないのと一言で答えられてしまった。
そうなのかもしれない。子供っぽいところが抜けて大人になる。
今のヒカルは正にそれなのだろう。
格好いいと思う。まだ背は私の方が大きいけれど、それでもヒカルは成長したのだろう。
お姉ちゃんに惚れ直したかとからかわれた時、私は顔を真っ赤にするしかなかった。そういうことなのだろう。
その後、お姉ちゃんにありがとうと言うと、じゃあ、お礼に今度3人でセックスねと言われた。
何とも言えない気分になった。
「ぁぁあんんっんぁぁ……ま、待ってヒカル、私もういっちゃう!おかしくなっちゃうよぉ」
裸にされ、全身をヒカルに舐めまわされる。かれこれ1時間以上、ヒカルは私の身体を弄り続けている。
私はもう息も絶え絶えだ。苦しい感覚とむずむずする感覚が積み重なって弾けたがっている。
弾けそうになる度にヒカルは手を止め、私のことを抱きしめながら優しく頭を撫でてくる。
水を口移しで飲まされる。乾いた喉に甘露が染み渡る。口移しはそのまま、激しいディープキスになる。私はヒカルの舌を懸命に追い続ける。
「んっちゅっ……ちゅぱちゅぱ、んふぁ……れろっれおっ、んんんんん」
またベッドに寝かされ、ヒカルは私の身体を弄ぶ。
ヒカルの小さくて暖かい手が忙しなく蠢く。右手でクリトリスと小陰唇を同時に愛撫され、左手は胸と乳首を優しく撫でてくる。
「ぷはぁっ、はぁ、はぁ、はぁ…………あっっ、あんんん、はぁぁ!お願い、もうダメぇ、あああっんんん、んんんん」
そしてまた、キスをされる。口内をヒカルの舌が縦横無尽に嘗め尽くす。私も一生懸命にヒカルの舌を追って、絡めるように合わせる。
気持ちいい。ぴちゃぴちゃと唾液の交わる音が興奮を高める。
「ちゅっ!ぴちゃっ!ンん、んんぁん……ふぁふうぅ、ぴちゃぴっちゃ……じゅぶ、ぶちゅううん、ああぁ……はぁ、ぁぁぁぁんごきゅん」
ヒカルの唾液が私の口に送られてきた。私はそれを必死に飲み込む。
美味しい。気持ちいい。
離れていく口を追いかけてしまう。ヒカルは笑いながら問いかけてくる。
「気持ちいい?」
頷く。気持ち良すぎる。もう頭がおかしくなりそう。早く膣に入れて欲しい。凄すぎる愛撫。狂いそうなほど感じているのにいかせてくれない。
「よく我慢したね、じゃあ、そろそろ生で挿入るね。」
向かい合わせでヒカルの上に座るように挿入される。口内を食べられるような激しいキスをされながらペニスが私の膣に侵入してくる。
ゆするように私の感じる箇所を擦ってくるヒカルのペニス、ヒーターで温められた部屋は暑いくらいで、私は汗みずくになって感じまくる。
「あぁぁぁっ!! あぁ、あんっ、もうだめ、好きぃ、ヒカル好きだよぉ」
思いっきりヒカルに抱きつく。背中に爪を立ててしまう。これは私のだと強い想いが溢れてくる。
ああ、何もかもわからなくなる。
ゴムをしていないヒカルのペニスは私の膣壁をこれでもかと擦ってくる。
私はヒカルの細い肢体を一生懸命抱き寄せる。汗で濡れた私とヒカルの身体は一体になったようにくっついて、その温もりは私を安心させる。
「いっていいよ、あかり」
ヒカルの優しい声。もう限界まで高められている私はヒカルのなすがままだ。
ヒカルは私を持ち上げて優しくベットに横たえる。そして正常位で激しく私を責め立てる。
「あっ!あっ!ひぃんんあ……んあぁああ」
ヒカルの大きなペニスが私の膣の奥を何度もついてくる。気持ちよさと、痛いようなむず痒さがどんどん溢れてくる。
コンドームをしていないヒカルのペニスはいつもより、はっきりと私の膣壁を擦りあげていく。膣奥を突かれると痛みが走る。そして、その痛みが気持ちよさと合わさって爆発する。
大きな、大きな絶頂が近づいているのがわかる。息が出来ない。苦しい。気持ちいい。
「ああっ、だいしゅき、ああん、すきなの、ヒカル、ヒカル……あっ!あっ!あああんぁあああああああああああ!!」
「……俺も大好きだよあかり……膣内に射精すよ?」
ヒカルも気持ちよくなってくれただろうか。ヒカルの余裕の態度が少し不安になる。
ヒカルが激しく私の膣を責め立てる。子宮を温かい何かが満たしてくる。それはヒカルの精液だろう。とても幸せな気分になる。もう私は何が何だかわからなくなる。
それでも最後はヒカルを感じたくなる。
「ヒカルぅ、キス」
抱きつくようにヒカルが私に覆いかぶさってきて優しいキスをしてくれる。
ふわふわとした微睡みの中で極上の幸せを感じながら私は意識を手放した。
「あっ、そうだヒカル!お姉ちゃんの学校で創立祭があるんだって、これお姉ちゃんからもらったの、行こ!」
「お~、たこ焼きかぁ、いいじゃん!」
「えへへ、じゃあ、日曜10時にヒカルのうちに迎えに来るね!」
「おお、楽しみにしてるよ!後、しおりさんにお礼言っといてな!」
よかった、ヒカルと一緒にお祭りに行ける。デートだよね、これ。
「あかり、もう遅いから送ってくよ」
「ええっ、いいよ、うち、近いし、大丈夫だよ」
「まぁ、いいじゃん、それにちょっとでもあかりと一緒に居たいっていうのもあるしさ」
そう言って、照れたように笑うヒカルに私は何も言えなくなる。ヒカル、大人になりすぎだよ。しかも、すっごい格好いいし。
今日はヒカルに囲碁を教えてもらえて楽しかった。さらにはデートの約束も出来たしいい日だった。
ヒカルは確かに変わった。どうしてここまで変わったのかわからないのは不安だけど、この変わりようはすごくいい。惚れ直した。
ヒカルを他の女子に取られないように私ももっともっと成長しなくちゃって強く思う。
明日から頑張ろう。
図書館から借りてきた本因坊秀策全集を広げ、マグネット碁盤にぱちりぱちりと一手ずつ置いていく。
佐為の碁はバランスが凄まじい。どの局も大局を俯瞰し、流麗な打ち回しを簡単にやってのけている。
これは相手の手を読み、それを咎めるのではなく合わせる技術が素晴らしいのだ。全てを力で捻じ伏せ支配すれば負けない。だが、それは不可能だ。
佐為はその不可能を相手の力を利用することで可能にしている。美しい碁だ。誰もがそこに打つのが最善と思う一手を打つ。
あまりに難しいことを平然とやってのけるのは天才のなせる業か。
一手一手、置いていく。
世界が黒と白の二つのみになる。ここが神様の領域。どうすればたどり着ける。
一手一手、置いていく。
途端に吐き気を覚える。耐えられない眩暈が襲ってくる。
自分ならこう打つと、別の選択肢を考えた瞬間の出来事。ああ、本当に進藤ヒカルとしては碁を打てないのだと実感する。そして意識を手放した。