---イッセーの母---
教会に子供を奪い取れてからの我が家は暗かった。息子のために良かれと思って行動した結果が、私達夫婦にとっては地獄の日々の入り口だった。病院で検査をした結果、もう私は子供産めないみたいだ。亭主はイッセーだけが私達夫婦の子供だから、無理に産もうとしないでも良いといってくれている。
そんな我が家に、朗報がイリナちゃんのお父さんから連絡があった。イッセーの悪魔の因子の件は解決できそうなので、近日中にイッセーが戻ってくることになった。家の中の澱んだいた空気は徐々に清々しいものに入れ替わっていった。
もう誰にもイッセーの出生の秘密は漏らさないという、我が家の暗黙のルールができた。
---紫藤---
完敗だった。リリンにしてやられた感じだ。いつ、イッセーくんと入れ替わったんだ?迂闊にも、リリンと契約してしまった。娘の命を助けるかわりに、リリンの仲間になる契約をしてしまうなんて。
リリンは直接脳と会話をしてくる。悪魔除け結界なんかおかまいなく、どこにいようと会話ができるらしい。リリンの話では、イッセーくんが生きたいように生きるためのフォローをする組織の仲間に、私は入ったようだ。とりあえず、私を含めて、イリナもグリゼルダさんも今迄通りの生活をしてよいと。但し、イッセーくんが欲しい物、情報があるときは奪取に協力し、イッセーくんの身が危ないときには守るのだそうだ。
リリンとの契約、もっと禍々しい内容を予想していたのだが、なんかなぁ。でも、この先、イッセーくんしだいで、世界は平和なのか破滅に向かうのかが決まると思うと、ドキドキする。リリンもそのドキドキ感が新鮮なんだろう。やりたいことがなく生きる屍と呼ばれていたような悪魔だ。刺激を求めたい気持ちはわからないでもない。
あぁ、リリンと同じような思考になっている自分が恨めしい。
---イッセーの母---
私達の子供、イッセーが我が家に帰ってきた。空港で見た笑顔がそのままのイッセーだ。ただ、空港で見た時のイッセーと違って、黒い髪の女の子のお友達を連れてきた。
「この子、オーフィスっていうんだ。僕はオーくんって呼んでいるんだ。この子も一緒に暮らしてもいいよね?お母さん」
「オーフィスちゃんの親御さんが心配されるわよ」
なにか、人間でない気もするけど…
「オーくんはドラゴンだから、親がいないんだ。一人で寂しいだろうから、一緒に暮らしたいの!いいでしょ?お母さん」
拒否するとイッセーが、どこかに行ってしまいそうな気がするので、了承してしまった。亭主と相談しないとダメなのに…
帰宅した亭主に相談したら、イッセーのやりたいようにさせようと。人の道からはずれない限りはね。
---イッセー---
オーくんと生活することになったけど、この家ではアレコレできないよな。お父さんとお母さんに心配はかけられないから。オーくんの産まれた場所、次元の狭間という場所らしいんだけど、そこに秘密基地をつくりたいって、リゼおじさんにお願いしたら、OKだって。いつできるのか楽しみだ。
オーくんは基本無口だけど、家族で食べる食事の時間になると、うれしそうな顔になる。食事もおいしいし、食卓を覆うオーラが暖かくて心地良いんだって。
小学校に入ると、オーくんとお外で遊ぶ機会が増えた。近くにある鎮守の森が良い遊び場になっている。そこで、オーくんからドラゴンの力の使い方をならったり、組み手をしたりして時間を過ごしている。
あるとき、突然声をかけられた。
「ねぇ、一緒にあそぼ~!」
声のする方を見ると、僕より大きな黒髪の女の子がいた。
「うん、いいよ」
「私は朱乃、あなたたちのお名前は?」
「僕はイッセー、この子はオーフィス。よろしくお願いします」
朱乃ちゃんと握手した。柔らかい手だなぁ。って思ったら、オーくんのケリが入った。あっ、心を読まれた…読まれない練習もしないとなぁ。
それから、三人で、かくれんぼをしたり、おにごっこをしたり、あやとりを習ったりして、時間が楽しく過ぎていく。
それから毎日、三人で遊ぶことが増えた。泥んこ遊びをしたら、みんなドロまみれに…どうしようって思ったら、ここから近い朱乃ちゃんの家でお風呂に入ることになった。朱乃ちゃんママにおやつをごちそうになってから、三人でお風呂に入った。
朱乃ちゃんの背中には綺麗で柔らかい黒い翼があった。頬ずりすると気持ちが良い。オーくんにはおへそがなかった。オーくん曰く、服の下がどうなっているか知らなかったそうで、朱乃ちゃんの身体を舐めるように見ていた。
「オーくんって、人間でないの?」
僕の身体を洗いながら朱乃ちゃんがきいてきた。
「オーくんはドラゴンなんだ。でもドラゴンの姿だと目立つから人化して人の姿になっているんだ。僕は人型ドラゴンみたいだよ」
「すごい!ドラゴンなんだ、二人とも。私はねぇ人間と堕天使のハーフなんだ」
「朱乃ちゃんの黒い翼、僕はすごい好きだよ。いいなぁ、つばさ」
「ありがとう!」
オーくんは朱乃ちゃんの身体をコピーしたみたいだ。あっ、おへそもできているし、乳首もある。股の部分も平らでなくて、おちんちんの入る穴ができている。いままで、お人形さんみたいな身体だったものなぁ。
お風呂から出て、オーくんと僕で、朱乃ちゃんの翼の水分をタオルで拭き取っていく。そんな僕達三人を朱乃ちゃんママは暖かい目で見守ってくれている。また、遊びに来よう。
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リゼおじさんから、秘密基地が出来たってお知らせが来た。行き方は、もらった魔法陣に魔力を注ぐか、オーくんに連れて行ってもらうようにって。さっそく、オーくんと秘密基地にゴー!
見た目は西洋のお城だけど、中は和式住宅だ。西洋のお城の中なんかみたことないものなぁ。大きくなったら、ここを拠点に仲間を集めて冒険したいなぁ。
そうだ、朱乃ちゃんを連れて来よう。オーくんに鎮守の森に転移してもらった。
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その日の森は、いつもと違うオーラが支配していた。なにかイヤな感じがする。オーくんもなにかを感じて身構えている。
「イッセー 朱乃の家」
そうだね。いってみよう。気になるから…玄関は壊されていた。なんで?家の中から、朱乃ちゃんママの声がする。
「朱乃!逃げなさい!早く…」
僕とオーくんは迷わず、声のした方へ向かった。黒いマスクをして黒い服をきた者が多数、朱乃ちゃんママに斬りかかっていた…
「おまぇら~、ふざけんなぁ~!」
僕は僕でなくなっていた。目の前でとってもまぶしい光を見た気がしたまま意識が遠のいていく。
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意識が戻ると、秘密基地のベッドにいた。オーくんとリゼおじさんが心配そうに、僕を見ていた。そうだ、朱乃ちゃんママは?
「ねぇ、リゼおじさん。朱乃ちゃんママは?」
「あっ、イッセーたんが抱きしめていた女?死んでいたけど、生き返らしておいたよ。あのままではイッセーたんが暴発しちゃうからねぇ」
暴発?隣のベッドに朱乃ちゃんママは寝ていた。
「黒ずくめの一団は、イッセーたんの暴発で、みんな死んでいたよ。あんなにすごい力があるなんてすごいなぁ、イッセーたんは。」
「ねぇ、怪我を治す能力と、生き返らす能力がほしい」
リゼおじさんに希望をいう。おじさんは頷いて、
「イッセーたんのほしいモノは必ずあげるから、ここに書いてある魔法を使えるようになってちょ」
分厚い本をくれた。
「しばらくはオーフィスをここに置いていってねぇ。あの女の世話できる者がいないと困るでしょ?イッセーたんはおうちに帰るんだよ。両親を心配させないって約束したんだからねぇ」
僕はリゼおじさんに連れられて帰宅した。
---バラキエル---
俺の家でものすごいエネルギーが観測されて、急いで帰宅すると…家のあった場所は地面が大きくえぐられていた。隕石が衝突したような感じだ。隕石?そんなものは観測していない。一体、なにが起きたのだ。
次の日も現場に行った。昨日、周辺を捜索したが朱璃も朱乃も見つからなかった。痕跡はあった。朱乃の鼻緒の切れた草履が少し遠くの草藪で見つかった。何者かの襲われて、朱乃だけ逃げたのだ。
ふと、背中に視線を感じた。振り向くと、朱乃と同じくらいの歳の子供がいた。もしかして、朱乃の友達か?
「君がイッセーくんかい?朱乃のお友達の」
警戒している子供。もしかすると昨日一緒に巻き込まれたのか?
「おじさんはだれ?」
「俺は、バラキエル。朱乃の父親だ」
「堕天使?」
「そうだよ」
俺は黒い翼を展開した。翼が目に入るや、その子は俺に抱きついてきた。
「ごめんなさい。朱乃ちゃんを助けられなかったよ。ごめんなさい」
彼は大粒の涙をボロボロ流していた。そうか、やはり昨日、朱乃と一緒に遭遇してしまったんだな。俺は彼を優しく抱きしめてあげることしかできなかった。どう、言葉をかけていいのかが、わからない。
「おばさんは一度死んじゃった。生き返らせたけど、この世界で暮らせないって。ごめんなさい、おじさん!」
え?朱璃は死んで生き返った?どこの世界にいるのだ?
「なぁ、朱璃は生きているのか?朱璃というのは、朱乃の母親だ」
「うぇ~ん…おばさんは生きているよ。まだ意識が戻らないけど」
「どこにいるのだ?」
「僕の秘密基地…」
「秘密基地?どこにあるのだ?」
「次元の狭間…」
あ?次元の狭間だと…こいつは人間ではないのか?そういえば、朱乃のお友達って…たしか、ドラゴンだぁ!
「なぁ、俺もそこに行きたいんだけど」
「僕達の仲間にならないと行けないよ。そういうルールだから」
「君達の仲間?」
子供の遊び仲間かな?そんなによく考えもせず、返事をした。後で、後悔することになるとは、その時は微塵も思わなかった。
「いいよ。君達の仲間になる。だから、朱璃に会わせてくれ!」
突然、おれはどこかに転移した。目の前に、銀髪の男がいた。
「ようこそ、イッセーたん親衛隊に入隊ありがとね」
いっせーたんしんえいたい?
「堕天使バラキエルよ、汝の願い、『朱璃に会いたい』を叶える。その対価は『イッセーたん親衛隊への入隊』だ。汝バラキエルと我リリンの間の契約は成立した」
リリン?契約?…おい、リリンって…
「悪魔の契約は絶対だからな。堕天使であろうと例外は認めない。ふふふ」
「おい、悪魔の契約だと?お前は誰だ?」
「僕ちゃんは、イッセーたん親衛隊の隊長のリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。以後、イッセーたんの意に沿うように生きなさい。ははは」
俺は再度、転移させられた。目の前には朱璃が寝ていた。
「おばさん、まだ起きないよ」
「なぁ、君もリゼヴィムと契約したのか?」
彼は不思議そうに俺の顔を見ている。
「契約って、なぁに?リゼおじさんは僕の夢を叶えてくれるドラ●もんみたいな人だよ」
リリンが仕えているのは、この少年なのか…なんで、リリンともあろう者がこんな少年に仕えているのだ?
「あっ、リゼおじさんとの契約を破ると、大変らしいよ。僕達との関係を仲間以外に言っちゃダメだからね」
少年の目つきに恐怖を感じた。この子は一体何者なんだ?俺の脳に直接、リリンが話しかけてきた。
「バラキエルよ。堕天使本部に隠し持っている神器を、全部ぬすんで来い。そして、僕ちゃんのイッセーたんに捧げなさいねぇ~♪」
なんてヤツと契約しちまったんだ、俺。脳裏に事故現場の大きなクレーターが浮かぶ。まさか、この子の力であぁなったのかぁ。さらなる恐怖を少年から感じる。こいつ、暴走したら、世界は破滅するぞ…彼を暴走させないためにリリンは動いているのか?ってことはリリン以上の力があるのか…それもドラゴンで…最悪じゃないか。
「注意事項なんだけど、朱璃おばさんをこの家から連れ出すと、死んじゃうからね。まだ、完全な蘇生術を身につけていないんだ。ごめんなさい」
蘇生術を持っているのか?朱乃は?ここにいないってことは、生きているってことか?
「朱乃は?」
「朱乃ちゃんは、どこにいるのかはわからない。もっと仲間を増やさないと、情報が集まらないよね」
そして突然、俺は転移されて、事故現場に一人たたずんでいた。