戦線離脱
---イッセー・ルシファー---
長い長い遠征から帰還した。やっと、自分の生まれ育った世界に戻って来られた。任務を果たせず、戦力外通告を受けての帰還だ。最凶の悪魔…聞いてあきれる。俺は師匠と思える者すら護れなかった。
「おかえり…なさい」
俺の最愛な者が声を掛けてくれた。でも、俺のオーラ…心が叩き折られたオーラを感じ取ったのか。言葉少なめで、迎え入れてくれた。
「どうしたの?何かあったの?ねぇ!」
俺に抱きつき、俺を揺さぶるリアス。
「木場さんを護れなかった。俺の足手纏いになるって、切腹してしまったんだ…」
堪えていた涙が、堰を切ったように流れ出しきた。
「そんな…ねぇ、イッセー君は?」
俺の任務、俺の弟分のイッセーのガードであった。でも…
「俺が戦力外通告を受けて離脱した後、死んだよ…」
「え…」
絶句したリアス。
「敵の手に墜ちて、団長の手で始末されたそうだ。団長の愛したメイビス様を、イッセーは食い殺したそうだ」
修羅場の戦場であっただろう。団長の片腕として、団長を支えてきたメイビス様を、団長の愛弟子であるイッセーが食い殺したんだから。俺がその場にいれば、防げたかもしれない。悔やんでも悔やみ切れない。
俺の去った後の戦場で、ヴァーリ、百代、鳴神、あの世界のリアス、ソーナ、団長とソーナの子供、誠、一香など、多くの仲間が死んだそうだ。俺は何の為に行ったんだ!
「イッセー…」
リアスは俺を包み込むように抱き締めてくれた。心が少し和む。行かなきゃ良かった。天狗になっていた俺は、自信満々で団長の隠し玉として参戦したはずなのだが…
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帰ってきてからの俺は、リアス以外興味が持てなかった。リアスだけいればいい、そんな感じだ。心はここにあらず、じゃ、どこにあるんだと訊かれても、俺にもわからない。
「イッセーたん…」
リゼおじさんが毎日来てくれる。ありがたいと思う。だけど…
あの光景が記憶の中で俺を苦しめていた。木場さんを背負い敗走する光景。天使、堕天使、悪魔に制空権を取られ、地面をネズミのようにチョロチョロと逃げ回るだけの俺。
俺のジャマになると、気に病んでいた木場さん。それなのに…木場さんの気持ちを良く知っていたはずだなのに、俺はあの人の切腹すら防げなかった。
後で聞いたのだが、イッセーは敵の手に墜ちかけた百代を殺したそうだ。百代の意識のあるうちに、完全に敵になる前に…ヴァーリはイッセーを護り切ったそうだ。その代償は大きく、精も根も尽き果たし、安全な場所にイッセーを送り届けた後、旅立ったそうだ。
俺は何をやっていたんだぁぁぁぁ~!
それぞれの役目を果たしている者がいる。命に代えても為し得るを地で行く生き様だ。それなのに…
「あんまり、自分を責めないで…イッセーは救世主では無いんだから。私のヒーローであればいい。違うなぁ…私だけのヒーローであればいいんだよ」
リアスは俺を抱き締め、頬を重ねて来た。リアスの心温かいオーラが俺を包んでいく。
「俺はどうすればいいと思う?」
「結婚してください!」
えっ?この局面でプロポーズか?
「私がイッセーを守る。だから、結婚してください!」
リアスは俺を真っ直ぐな視線で見据えている。彼女の意志の強さを感じる。あんなに弱々しいリアスが、俺よりも逞しく見える。
「最弱な悪魔だけど、いいのか?」
「イッセーしか見ていない。だから、結婚してください。イッセーが何者でもいい。イッセーはイッセーでいいんだよ。だから、私のイッセーでいて欲しいんだよ~!」
リアスの見えている範囲は狭いようだ。俺しか見えていないなんて…俺はリアスだけを護ればいいのかな?ねぇ、団長…
団長から返答は無かった。見捨てられたのか…
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人間界でリアスと挙式をあげた。俺の両親、俺の友人の前で行いたかったから。リゼおじさん達も参列してくれた。みんな祝福してくれた。一人を除いて…
「ねぇ、いいの?そんなんで!」
式の後、ソーナに詰め寄られた。あたふたするリアス。
「ソーナ、彼は病気なのよ。だから、許してあげて」
「病気?単なる臆病なだけよ。ねぇ、団長の気持ちを考えたことある?」
団長の気持ち?そんな余裕は俺には無い…
「イッセー君には知らせなかったけど…団長の娘さんが亡くなったの」
「シルキーか?」
「違うわ!末の娘さんよ。名前は…そうそう、ガイラちゃん」
知らない名前だ。隠し子かな?
「現在の案件…リスタートしたイッセー君のヴァーリを助ける為に、彼女は自分の魂を捧げたそうよ!」
リスタート?聞いていない。あの世界はダメだったのか…団長が40億年も掛けて見守ってきたのに…うん?自分の魂を捧げた?それって…
「魂はロストしたそうよ。もう2度と転生は出来無い。団長は…シュウさんは…娘さん殺しまでしてしまった…」
突然、ソーナが泣き崩れた。リアスが急いでソーナを抱き締める。
「ソーナ…ごめんね。でも、イッセーを責めないで…彼も苦しんでいるんだから」
「苦しむ?何に苦しむの?ねぇ、リアス…苦しんでいる者が結婚なんかするの?あなたは、彼に逃げ道を与えただけよ!シュウさんは逃げなかった。今度こそ、リスタートしない世界にするって…娘さんの厚意を無には出来無いって…」
そうだった。ソーナは団長に惚れていた。団長からはやんわりと拒否されたんだ。この世界をソーナに託したいから。ソーナも団長の世界のソーナさんのように、団長のいる最前線に戦士を送ることを夢みていた。
俺はリアスに逃げ込んだ。リアスの厚意に逃げ込んだ。幸せな家庭に逃げ込んだ。逃げるだけの人生…このままでは、このままずっと…
「シュウさんは、あの世界のイッセー君を二人も殺しているのよ」
二人?アイツと未来のアイツか…自分の娘と愛弟子を手に掛けたのか…団長…
「何?その不抜けたツラは?いいわ、そうやって、逃げ回ればいいのよ。では、ごきげんよう!」
怒りを纏ったソーナが帰って行った。リアスはソーナに掛ける言葉が見付からなかったのか、言葉を投げかけることすらしていない。
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冥界での暮らし。ただ、ぼぉ~っとしている。夜、リアスと添い寝する以外は…いいのか?こんな人生で…
「ソーナから伝言よ。木場さんが現場に復帰したそうよ」
木場さんが…折れた心は治ったのか。ソーナの元には、本拠から現状報告が定期的に届くそうだ。団長の世界のアウロス学園とソーナの設立した学校は、姉妹学校って関係であり、そのツテで報告が届くそうだ。
「俺には復帰の話が来ないな…」
「イッセーはこの世界で、余生を過ごせば良いんだよ」
いいのか?本当にそれで…
「本当にそれでいいのか?」
懐かしい声に問われた。
「お前はリアスを護れるのか?」
「おい!やめろぉぉぉぉ~!」
声の主へ叫んだ。アイツの腕の中には悶えているリアスがいた。
「何のマネだ?」
「僕のコレクションに加えようかなって。健気なリアスは珍しいからな」
目の前に、最凶最悪の化け物がいた。
「俺の嫁だ!返せ!」
コトン!
俺の目の前に、リアスのしていた結婚指輪が落ちて来た。
「実力行使してみろよ!ヘタレがっ!」
目の前で、リアスの服が剥がされていく。ふざけるな!リアスだけは護る。俺に残された最後の道であるから。
『ドラゴンブレカー』
俺の内にあるドラゴンの本能を活性化していく。
「お前は学習能力が無いのか?ドラゴンマスターに対して、ドラゴン?有り得ない」
あっ!俺は身動き出来なくなっていた。しまった…目の前では全裸にされたリアスを鑑賞している化け物。
「ほぉ~未使用に近いのか。調教のしがいがあるな♪」
させるかよっ!
『デビルブレイカー』
悪魔としての能力を活性化していく。
「なぁ、聖なるアレを突っ込むと、リアスはどうなるかな?」
あっ!そうだった…俺に勝ち目は無い。目の前の化け物は、聖属性のドラゴンマスターであり、悪魔とドラゴンのハーフ属性の俺では、何も出来無いんだった。くそっ!
「じゃ、貰って行くよ。反撃もないようだし」
リアスと共に消えた化け物。どうすれば良いんだ?
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「どうしたの?」
窮地に陥った俺は、ソーナの元を訪ねた。状況を彼女に話したのだが。
「はぁい?リアスなら、いるけど…」
奥でリアスが寝ている。これは一体?
「少しは骨が有りそうね。言うのを忘れたけど、シュウさんは、他人のリアスに興味は無いわよ。養女の莉愛って子の姪っ子を引き取ったそうだから」
養女の莉愛?って…クリスさんの義理の妹の?で、姪っ子…クリスさんの娘さん?
「引き取った子の名前は、リアス・グレモリーよ」
うっ!嵌められた…
「後ねぇ、養女が増えすぎて、夜這い、朝駆けも出来無いみたいだよ。せっかく来て暮れたのに、私に何もしてくれないんだもの。失礼しちゃうでしょ?こんな良い女を前にして、娘達に甘えまくられているんだよ」
何をしているんだ、あの人は…
「その、あの人から伝言よ!まだ働く意志があるなら、パシリとして雇うってよ」
メンバー復帰では無く、雇用なのか…
「どうするの?」
「雇って貰いたい。仕事をしないと…」
「じゃ、私の学校で学んで、推薦枠に入りなさい。メンバーにって推薦をしてあげるわよ」
これって、団長の計略か…俺の闘争心をくすぐる…
「正解だよ、イッセー君♪シュウさんはこの世界を見捨てない」
って、ソーナの腹が少しデカイような…
「うん?やっと気づいたの?お守りを使っちゃったよ♪でね、リアスに産後手伝って貰うの♪名前は彼の死んだ娘さんの名前、シイラにしようかなって♪」
とっても嬉しそうなソーナ。指には指輪が…
「あぁ、この指輪?亡くなった妻の形見だけど、ってくれたのよ。誰かに持っていた欲しいって…とても大切な女性だったって」
メイビス様か…団長の片腕だった…
「そうそう、メイビスさんって人のだって。その人はどういう人なの?」
俺の知っているメイビス様のことを、ソーナに話した。
「元聖書の神…シュウさんの片腕…なんで、亡くなったの…」
浮かれ気分が吹き飛んだソーナ。神妙な表情になっていく。
「ダークドラゴンになったイッセーに喰われたそうだ」
「そうなんだ…ねぇ、イッセー君。産まれた子の養育を頼めるかな?」
「俺は子育て経験無いぞ」
「私の子供を一人前の戦士にして、それで、あの人の元に届けて欲しいの。亡くなった娘さんの代わりになれないと思うけど、でも…」
言いたいことは分かる。団長は子供が好きであるから。子供達の未来を守りきると決めているから。忘れていた。そうだ、団長はボロボロになっても、護り抜くって気持ちを失わないんだった。俺なんかよりも、ボロボロになっているはずだ。それでも、今も最前線で、走り続けているはずだ。俺は為すべき事に気が付いた。
「ソーナ、まず俺のリハビリしてくれ♪」