初めは、ただの違和感だった。
「根鳥と約束しているのだ」
幼馴染が、自分以外の男性と親しくしている姿は、約束なんてしているのは初めて見た。それが始まり。
§
次は……なんだっただろう。食堂で彼と一緒に食事をしているのを見かけたのだったか。はたまた彼の部屋に入る彼女を見た時だったか。
「たまたま一緒になっただけだ」
その時も彼女はむすっとした顔をしていた。
「せ、先生から言われて渡すものがあっただけだ」
そんな言葉を、言っていた。そしてそれは、彼女だけではなかった。
「い、一夏さん。これは……その」
「セシリアにイギリスのIS事情なんかをな、ちょっと聞いていただけだ」
彼が絡むと、皆どこか不自然な態度をとるように感じた。
「なんでもないわよ! ないったら!」
「い、一夏には関係ないよ。これは僕と根鳥の間のことだから」
「よ、嫁。わ、私は潔白だーーっ!!」
不思議な奴だと思った。どこか感情を掴めなくて。
「俺はISに関わるつもりはない。どこかの大学に進学して、受講する以外の空いた時間で、バイト感覚で研究に参加して賃金を貰うくらいかな」
その態度も自分とは真逆で。学園生活に対して彼はいつも消極的だった。
卒業が決まって、彼は入学時の宣言通り大学に通うという話だった。ただ……。
「学園を卒業すると同時に結婚するつもりだよ」
それは入学時の自己紹介とは違うことだった。相手が誰なのか、聞いても教えてくれなかった。彼曰く「言っても信じてもらえないから」とのこと。そうして、それを聞くはめになった。
§
「…………………………………………は?」
「だ、だから、だな。結婚、することになった。根鳥と、だ」
最初は何を言っているのかわからなかった。結婚? 誰が? 根鳥? そういえば彼は確かに言っていた。学園卒業と同時に結婚すると。相手は言っても信じてもらえないと。だからって……。
「ど、どういうことだよ千冬姉! ね、根鳥と結婚!? なんで、そんな!!」
いきり立った。自分にだって常識というものはある。自分のそれには姉が学生と結婚するということは含まれていない。そんなことをする人じゃないのだ。少なくとも自分の中では。
「……あいつに求婚されたのだ。自分と一緒になってくれないかと。ちゃんと全員養ってみせるから、と」
「きゅ、求婚!? ってなんだよ!? ……………………ぜん、いん?」
その言葉に姉はこれ以上ないというほどに眉根を寄せて、声も腹の底から搾り出すようにして発言した。
「あー、だな。えー、うん。まあ、なんだ。書類上結婚するのは私一人だが、他にも奴と結婚する女子がいるのだ。事実婚というやつだな。それも複数」
言っている意味がわからなかった。
「ど、どういうことだよ」
限界を突破した。姉が結婚するだけでも認識外の出来事なのだ。更にその相手が
あの根鳥で、そいつが他にも結婚する女子がいる………………? ?! ? !? はぁ!?
姉は言った。ついてくればわかる、と。その言葉に導かれるままについて行った。精神が許容量を突破してものを考えられなかったということと、そんなふざけた話の対象である根鳥を許せないと思ったからだ。会わなければ、と。そして……。それを、見た。
「あ、はぁ……いち、か?」
「な、なんだよこれ…………なんなんだよ」
まず最初に目に入ったのは箒。幼馴染の彼女はいやでも目立つ。そして後方にはセシリア、鈴、ラウラがいた。何故? ここにいる? ここにいるのは根鳥と結婚するとかいうふざけた女子のはずだった。だが何故そこに自分がよく知る相手ばかりいるのだ?
自分にそういう知識が乏かったことは自覚している。しかし、まさか、そんな。
「織斑、来たか……さぁ、箒。挨拶しな。心と話の準備はたっぷりさせただろ」
「あい、さつ……い、いちか。わ、わたしは、な……おまえがすきだったんだ」
初め、言われた意味が理解できなかった。
「いや? だからな? 箒は織斑のことが男性として、異性として、恋愛対象として好きだった、って言っているんだよ。箒がちゃんと一世一代の告白をしているんだから意味を理解してやれよ」
なにを、何を言っているんだ? こいつは? 箒が自分を好きだったって? じゃあそれはなんなんだ? 何で根鳥と××がってるんだ?
「おまえが……おまえのことがすきだった……ずっと、こどものころから。でも……な、いまのわたしは根鳥のモノなんだ。根鳥はさいしょ、わたしをれいぷするっておどしてきたんだ。こわかった、すごく。でも……な、根鳥はやさしいんだ。やさしくしたら、やさしくしてくれたんだ。いっぱい、いっぱい。わかるか? いちか。根鳥は”わたしに”やさしいんだ。”だれにでも”やさしいおまえとはちがうんだ。いまも、わたしをあいしてくれているんだ」
箒が言葉を喋る。ベッドに腰掛けた彼、その上に乗ってこちらを見ながら。△△△が丸見えだ。
「ああ、愛しているぞ、箒……ん」
言って、キスをする。好きだと言った奴の目の前で。
「わたしも……あいしてる。根鳥ぃ……」
「わたくし達も、同じなのです。最初は乱暴されて、でも徐々に……愛されました」
「あ、あたしは、あたしは違うわよ! でもできちゃったから……」
「私も、だ。すまない一夏。だがお前は私を愛してくれなかった。何度も忍び込んだのに。でも根鳥は違う。何もしなくてもしてくれたのだ。優しく、愛してくれたのだ。だから結婚することにした」
そこで、今まで部屋の隅で黙ってみていた姉が前に出た。
「……まあ、私も同じだ。お前に言えない事情で体を重ねた。その後、段々といまの関係になっていったんだ。実は、結婚にも一悶着あったんだ。篠ノ之は生徒だし、関係も一番長く深かったので、篠ノ之にしてもらおうと思ったのだがな、生徒達で話し合って私が結婚することになったのだ」
そう言いながら姉は彼の元へと歩く。
「俺も箒と千冬さんで結婚相手を迷ったんだ。でも皆で話し合いというか密談をされて、千冬さんに決まった。だからその分今まで以上に皆を、特に箒を愛してやることにしたんだ。だから今も……な?」
彼が箒にキスをする。幼馴染のキスシーン。
「根鳥……もっと、して……わたしを、あいしてくれ」
「ああ、何度だってしてやるさ。俺は箒を愛しているから」
やめろ。
「ん……ちゅ」
やめろ。やめろ。
「ん……あぁん。い、いぃ……もっと……もっとぉ」
やめろ。やめろ。やめろ。
「すきだ……根鳥」
やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
「根鳥さん、わたくしにも……」
「あたしは、べ、別に……」
「わ、私もだ」
「一夏の見ている前だが……私ももう限界だ。してくれ」
俺は、その場から、逃げ出した。
§
あとから考えれば、どうして逃げる前に一発でも殴ってやらなかったのだろう、と思う。幼馴染に、友人に、姉に、あんなことをしたあいつを。だが自分はあの異常な状況に居続けることができなかった。薄ら寒い異常さに、泣き叫ぶ子供のように逃げ出した。
「一夏君どうしたの?」
恋人が聞いてくる。
「いや……なんでもないよ」
恋人。あの学園でできた大切な恋人だ。だが彼女を見るたびに思う。
(俺、どうしてこの子を好きになったんだっけ?)
理由。それがどうしても思い出せない。
(俺、どうして……)
煩悶する。その時の俺はまだ気づいていなかった。これから先、死ぬまでの間、文字通り生きている間ずっと、その違和感を抱えて生きていくことを。
「なぁ、結婚しようか」
そして俺は何度も思い出す。あの異常な部屋で、自分を好きと言ってくれた幼馴染のことを。あいつと××がっていた肉体を。愛おしそうにあいつにキスをする彼女の顔を。
――それが、自分でも気づかないうちに、始まる前から終わっていた、織斑 一夏の初恋だった――
彼の処遇についてはかなり悩みました。部屋でしているのが箒ではなく千冬の方で、姉の××シーンを見ちゃってEDになり、彼女からそれが原因で別れをつげられ、それから先女子と付き合えなくなり勃たなくなる。という酷い展開も構想にあったのですが、そこまで原作主人公に酷い扱いをしなくても、と思いこちらのパターンにしました。扱いがBなのは曲がりなりにも好きな相手がいて結婚もできたんだからいいじゃないか。という意味でBにしました。
部屋にシャルがいないのは、このSSでは一夏に惚れておらず寝取り相手じゃないからです。