※この作品はR-18です。

とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》   作:エステル

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第9話 熱量支配《クレイジーサイコレズ》

◆ 8月15日 午後9時00分 ◆

 

 ミサカ9982号と一方通行(アクセラレータ)の戦闘が始まったころ。神奈川県にほど近い学園都市の南端。闇に溶ける多摩川の鉄橋の中心で、同じ原因に端を発する別の目的での戦闘が勃発しようとしていた。

 短髪の美少女――誰もが知る学園都市第3位の超能力者(レベル5)、常盤台の超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴。もう一人の頭以外は地味な少女は、低能力者(レベル1)の定温保存(サーマルハンド)にして、知る人ぞ知る学園都市最高のハッカー『守護神(ゴールキーパー)』の異名を持つ女、柵川中学1年・初春飾利。夏休みだというのに2人とも律儀に制服姿で、完全下校時刻を盛大に無視している。はたから見ても、2人がきゃっきゃと女子会をしているようには見えない。一触即発の火薬庫、制御下を(アウト・)離れ暴(オブ・)走する原発(コントロール)。美琴の体表面には時折強烈な光を放つスパークが迸り、初春の手にも凶悪な殺人兵器が握られている。

 

 ネットワークを通してなら、初春は美琴を圧倒しかねない。事実、初春は美琴を逃亡者の地位に追いやった。此度の舞台は、周囲80メートルは何もない多摩川のど真ん中。車も通行人も存在しない、鉄筋コンクリートとアスファルトの闘技場。誰がどう見ても、戦う前から勝敗は明らかだ。美琴が放つ電撃の槍一発で、初春飾利は地面に倒れ伏すことになるだろう。しかし――その程度初春にしても分かりきったこと。初春の勝気な表情には自信さえ伺える。のこのことやられに来た自殺志願者ならば、そんな顔をできるだろうか。つまるところ初春は、美琴と正面からぶつかり合ってなお、敗北を予期していないのだ。だからこそ美琴は、手を出さずに相手の出方を伺っている。先手必勝がどんな戦闘にも当てはまるとは限らない。何しろ初春は、書庫(バンク)に自由にアクセスできる立場にあるのだ。

 

「御坂さん、フラッシュオーバーって知ってます?」

「あぁん?」

 

 唐突に知識自慢を始める初春に、美琴は不快感全開で答えた。そんじょそこらのヤンキーならちびって逃げ出しそうな鋭い眼光。知っているわ、と目で訴えているだけなのだが。

 

「定格を越えて高速回転するモーターが、火花散らして燃えちゃうってあれでしょ。で? それが何?」 

 

 初春はぽかんと口を開け、小馬鹿にするように首をかしげる。私は何も間違ってないのに、と美琴は舌打ちをした。

 

「……あぁ、そっちじゃない方ですよ。ねぇ、御坂さん。この前、私が高位能力を使いこなせないとか言ってましたよね」

「実際、アンタ制御できてなかったじゃない」

「ふふふ……見せてあげますよ。私と佐天さんが育んだ定温保存(サーマル・ハンド)の到達点(アクト5)、熱量支配(アンダー・コントローラー)の威力をっ!」

 

 銃声、銃声銃声! 続けざまに発砲する初春。計4発。

 

 初動と同時に展開させた美琴の電磁バリア。が、衝撃はない。狙いは美琴でなく――アスファルトの地面。弾丸は美琴をあえて外すように四方に打ちこまれ――いや、外している訳じゃない。初春は闇雲に撃ってはいない。グリップを両手で保持し、照門を覗き込みながら正確にターゲッティングしている。美琴の四方を取り囲むように……というより、初春が先ほ

どまで歩いていた道筋に!

 着弾点を中心に、音もなく炎の霧が現れる。一呼吸おいて、一気に走り出す猛炎の道。炎の牢獄は、瞬時に美琴の360度を封鎖する。焼け付く熱風が頬の表面に吹き付ける。

 銃弾を撃ち込んだくらいでアスファルトが燃えるはずがない。それこそ、気化でもしない限り……! 美琴の脳裏を掠めるどす黒いオーラ。今夜の異様な暑さは、熱帯夜だったからじゃない。あのオーラは幻覚ではかった。

 初春はずっと攻撃の機会を伺っていたのだ。アスファルトの地面を、歩きながら熱することによってっ! 美琴の左右、鋼鉄のアーチを這い上がる炎の大蛇。ペンキに引火することで鉄橋は爆発的に炎上し、視界を赤一色に染め上げる。

 

「ア、アンタ腹黒すぎよっ!」

 

 アーチ上部の鉄骨に向け、閃光のロープを射出。磁力を全開にして飛びあがる。初手を初春に譲った美琴の選択は、ある意味で正解だった。鉄は一定の温度を越えると強磁性を失うからだ。判断が一瞬でも遅れていれば、骨まで灰にされかねなかった。

 舞い上がった美琴が見たのは、多摩川を煌々と照らす地獄の炎。イルミネーションと呼ぶにはあまりにおどろおどろしい、業火なアーチが2つ。美琴は磁力の向きを操って、上流側に体を放り投げる。一瞬とはいえ、全身を高温にさらされてしまった。今すぐに大量の水で冷やさねば、美しい肌に後遺症を残しかねない。

 

「ふっふっふ……ふふふふふふふふっ!……ふぁーはっはっはっはっはっ!」

 

 燃える欄干に立つ初春。頭から落下する美琴と目が合うと、悪魔じみた三段笑いを始める。完全に悪役側の反応。真夏の多摩川には、数十メートルからの位置エネルギーを殺しきるほどの深さはない。頭から落ちればただは済まないだろう。

 故に美琴は完璧なストリームラインを描いて水中に突っ込む。着底するわずかの間に華麗にクイックターンを決め、川底を蹴飛ばして衝撃を相殺。そのまま水面に飛びあがって顔を出した――橋の上の初春が、猛火を背に憎たらしくニヤニヤと笑い続けている。まるで地獄から湧き出た悪魔。

 

「ちぇっ……溺れちゃうかと心配しましたよ」

「生憎ね。泳ぎには自信があるの」

 

 美琴も負けじとしたり顔で口を歪ませる。先制攻撃が空振りに終わったのは初春の方なのだから。

 

「でも次で終わりですよぉー御坂さん! 絶対零度のコキュートスに封じ込めてあげますからぁあー!」

 

 欄干から飛び降りる初春。美琴はしめたとばかりに、降ってくる初春にニコニコと笑いかけ……両腕を真横に広げた。

 

「いらっしゃい初春さ~ん♪ 10億ボルトのぉ~電気風呂にねぇーッ!」

 

 水面を滑る電撃の槍。美琴の額から射出された電撃が、初春の着水予定地点にしぶきを立てて突き刺さる。ぶくぶくと泡立つ水面。円形に広がる高圧電流のヘリポート。初春の狂った笑みが消える。あんなところに飛び込んだら、感電からの水死コースは確定だ。

 

「ひ、卑怯者っ! 落下中の攻撃はマナー違反ですよっ!」

 

「どこのマナーよ!」

 

 初春は落ちながらとっさに足元の水分子を凍らせる。足場を作ろうと考えたのだろうが、絶望的に量が足りない。氷の靴を履くのが精一杯。それでも氷を纏いながら、沸騰する電気風呂に突っ込んだ。大量の気泡はあっという間に川に押し流され、飛び込みの痕跡は消失する。

 騒がしく狂っていた初春が消え、辺りは妙な静けさに包まれる。ごうごうと燃え盛る橋上の火災と下流域の流音までも、水底に引きずり込まれてしまう。

 

「……や、やり過ぎちゃったかしら」

 

 美琴は電撃を止め、初春の落ちた水面を伺う。中々浮いてこない。この辺りの水深は深くないが、それでも初春程度の子供なら全身を沈められる。揺れる炎がチラチラと水面を照らす。しかし薄暗く濁っている川は水中の物体を完全に隠してしまっている。

 

「……えーっと、う、初春さぁ~ん? ……生きてるわよねぇ?」

 

 殺すつもりはなかったの。正当防衛でしかたなくよ、と美琴は自分に言い聞かせる。本当に殺すつもりはなかったのだ。美琴はもう一度初春の落ちた場所に目を凝らす。初めから何もなかったみたいに、静かに川は流れていた。

 

(う……嘘でしょ……死んでないわよね!?)

 

 人間は簡単に死ぬ。今さらになってその事実が実感となる。一体、どんな顔をして佐天に会えばよいのか。洪水のように溢れだす切迫した感情。全身に冷たい感触――川が氷水のように冷たくなったかのように。

 いや……おかしい。流れを遡る様に水温が下がっていく。橋を挟んで南側の水面に、リング状の流氷が浮かんでいる。中心には花。こんな大きな川の中心に、水生植物が生息できるのだろうか。美琴は頭を振る。あんなものさっきまでは無かったはずだ。花はぐんぐんと成長し……数秒後には人間の顔のようなものが水面に突き出てきた。人面花……なんて笑っている場合じゃない。あれは初春だ。生きている……というか、やっぱり死ねばよかったと思うほど憎たらしい表情でニヤついている。

 

「みぃ~さ~か~さ~ん。純粋な水は電気を通さないって知ってましたぁ~? 死ぬのはあなたですよ、電撃使い(エレクトロマスター)ァァァア!」

 

 初春は首から下に氷の幕を張って難を逃れ、氷を浮き輪代わりに浮上したのだ。加えて川ごと美琴を凍殺しようとしているようだが……目論見が実現することはないだろう。推進力がないため、どんどん下流に流されているからだ。威勢よく叫んでいるわりに、その叫び声は徐々に小さくなっているではないか。美琴から失笑が漏れる。初春もそれに気が付いて、花先まで紅潮させた。

 

「そのまま東京湾まで川下りを満喫してなさい。私は先に岸に上がってるから」

 

 美琴は初春の周囲へ電撃の槍を飛ばしながら、河川敷に向かってクロールで泳ぎ始めた。

 

 初春は唸り声をあげながら指を咥えて観察するしかない。水に触れたら今度こそ感電してしまう。美琴が時折振り返って、意地悪い嘲笑を投げつけてくる。

 電撃の射程からようやく逃れ、初春は流れ着いた対岸の河川敷に這い上がった。制服に貼りついた氷が小気味よい音を立てて砕け散る。氷を払いながら、初春は川の向こうに目を凝らした。鉄橋の北側に、小指の先ほどの人影が見える。恋敵(怨敵)、御坂美琴の姿。超電磁砲もこの距離まで飛ばせまい。ともあれ難を逃れた初春は一息つく。

 同時に、こちらからの攻撃手段が無くなってしまう。初春の計算では、初撃で再起不能に追い込めるはずだったのだ。美琴に電撃を撃たせようと散々挑発していたのが無駄に終わってしまった。

 

「あの性悪超電磁砲(レールガン)……一度痛い目にあわせないと気が済みません……ですが!」

 

 初春の目的は別に御坂美琴を倒すことではないのだ。痛めつけてやりたい気持ちは山々だったが、初春には優先すべき事項がある。対岸の様子を伺いつつ、PDAからアンチスキルの監視衛星に不正ログイン。鉄橋付近の衛星画像データを過去へと遡って、美琴の足取りを追う。ビルからビルへと能力で飛びながらやって来たらしい。美琴らしい派手で目立ちたがり屋なパフォーマンスだ、と初春は含み笑う。そのおかげで衛星にもばっちりと映っている。最後まで遡った先にあるのは……第3学区のシティ・ホテル。表情の見えない対岸の女に向かって、パチンと指を鳴らした。黄泉川の番号へ掛ける。黒子は当てにならない。あの様子だと、最悪、佐天を美琴に引き渡しかねない。呼び出し音は一度だけ、相手はすぐ電話を取った。

 

「はぁい、こちら御坂美琴ちゃんですけど、どちら様かしらーん?」

 

「ファック・ユー……」

 

 初春は中指を立てて吐き捨てる。相手は学園都市最高の電撃使い(エレクトロマスター)。初春がどれほど有能なハッカーだろうが、電磁波が敵の支配下にあれば元も子もない。有線回線を探すしかない、と初春は早歩きで堤防を目指す。この付近の支部に駆け込んでもいい。あるいは、奴の制御下から離れさえすれば携帯も通じるだろう。

 

「佐天さんの居場所はもう分ってます。無駄な抵抗はやめて、大人しくに自首することですね」

 

 呼吸を乱さないように、冷たく言い放つ初春。が――美琴の目は節穴ではない。川から離れようとする初春の行動を注視していた。

 

「アンタが私から逃げられたらね」

「ここまで500メートルはありますよ。追いつけますかねえ、御坂さん?」

「たった500メートル、1秒あれば十分っ!」

 

 2本の橋脚に伸びる細い電流。初春に叩きつけられる急迫の現実。磁力で飛びあがった美琴は、フルスピードで水面を滑走していた。ハッタリではない、1秒後には本当に横断が終わる。初春の足では全力疾走でも河川敷を脱することすらかなわない。

 

「付け焼き刃の大能力者(レベル4)が学園都市第3位に挑もうだなんて……身の程知らずな傲慢はどちらか、教えてあげるわっ!」

 

 炎の橋を潜り抜け、水飛沫を上げながら高速接近する美琴。

 

 逃亡が不可能なら迎え撃つしかない。身を翻す初春。空中から放たれた露払いの稲妻。光の緒は、歪に空気を焼きながら眼前に迫る。

 

「付け焼刃だって当たれば死ぬんですよ?」

 

 初春はハエを振り払うように空気を薙いだ。急速加熱された空気が爆発的に膨張する。電撃の槍は燃え上がった筋にぶち当たり、見当違いの方向に雲散。着地と同時に放たれる第二撃は、掬い上げられるように夜空に撃ち上がる。土埃を巻き上げながらのスライディング中に休みなく放った3発目も、初春を逸れて土手を焼く。角度を変えて同時に放った3本の電撃すら、初春はあっさりと叩き落とす。

 立ち込める白煙と空気の焦げるキナ臭いにおい。帯電した空気がピリピリと肌を刺激する。初春は薄れゆく光の骨組みの後ろで、今にも笑いだしそうに頬を震わせる、美琴は感心したように初春を睨みつけた。

 

「へぇ……プラズマで避雷針を作ってるわけ。意外と面倒な能力ね」

「うふふふふっ……私に電気を通したいなら、直接愛撫(おさわり)しなきゃダメですよぉ? と言ってもぉ……そんなお痛をする処女(こ)わぁ、火炙りの刑にしちゃいますけどぉ」

 

 クスクスと妖艶に笑う初春。初めての実戦で極度に興奮したのか、発情したように熱っぽい目つきを美琴に向ける。

 

 美琴は、上条との戦いを思い返す。されど、原理不明の幻想殺し(イマジン・ブレイカー)と比較すれば、初春のやっていることなど子供だましに過ぎない。この程度で勝ったつもりなら、初春の敗北は目前。丁度この辺りだったかしら、と美琴は土を蹴る。上条にはあっさり破られた次の手は、初春にはどうしようもないはずだ。

 

「電撃使い(エレクトロマスター)にはね……こういうこともできるのよ」

 

 胸を鷲掴むかのように開く右手。地面から湧き上がってくる暗黒の塊――砂鉄だ。河川敷に埋まる砂鉄が、美琴の磁力に導かれて圧縮されてゆく。美琴の右手に現れる漆黒の剣。刃を磨き上げるように砂鉄を纏い、空気を震わせながら刀身を組み終える。美琴は出来上がった剣の切っ先で、手近にあった平たい石をなぞる。豆腐を切るようにすっと2つに分かれ、ボロボロの断面を晒した。

 

「砂鉄が振動してチェーンソーみたいになってるから、触れるとちょーっと血が出たりするかもね」

 

 初春は美琴のデモンストレーションを見ても、眉一つ動かさない。書庫(バンク)のデータから把握済なのだろう。

 

「ずるいですよ御坂さん。一人だけ武器を使うだなんて」

「アンタこそ拳銃持ってんでしょうが!」

「拳銃? ふふっ……これはただの遠距離着火装置ですよ。さて、御坂さんが武器を使うなら、私も遠慮はいりませんよね。実は……剣なら私も持ってるんです」

 

 初春は両手をそれぞれ頭上で交差させ、重い扉を開くように力いっぱい引いた。まるで空間にある武器庫から獲物を引っ張り出すかのように。けれど、初春の手には何もない。そんな魔法みたいなことが出来るはずが……いや、初春が動かした軌跡に沿って、猛烈な光と吹雪が発生している。激しい温度差が巻き起こす暴風が初春の姿を隠す。

 ――嵐が止んだ時、初春は確かに剣を持っていた。燃え盛るピンク色のライト・セーバーと、凍てつく白い剣。ここまで来れば、よくある普通の剣と魔法のファンタジーRPGの世界。発達した科学は魔術と見分けがつかないのだ!

 

「窒素のプラズマと固体ですよ。驚いちゃいました? 雷属性オンリーの御坂さんと違って、私は炎と氷のダブル属性持ちなんです」

 

「ふーん、アンタは花属性だと思ってたわ」

 

「…………」

 

 気温が氷点下まで落ちた気がした。初春の瞳が色を失い、ガラス玉みたいに冷たくなった。太陽さえ凍り付く殺意に美琴は戦慄する。目の前の人物が、姿だけ同じ別の生き物にすり替わったような異質な感覚。生き物――ならばまだいい。あれはナンだ?

 

「我はアナスタシスの証人。主よ、我に祝福を与えたまえ。み言葉はお花、お花は白百合。身を貫きて咲き誇るの純潔の秘跡(しるし)よ、今聖根となり汝が敵を浄化せん……」

 

 ぶつぶつと意味不明の呪詛を呟きながら、初春は白い剣を左で逆手に持ち、プラズマ・セーバーをメインに構える。

 

「死んでもらいます」

 

 素人丸出しの構えで闇雲に突っ込んでくる初春。振り降ろすのはプラズマの剣。剣戟は成立しない。美琴は砂鉄の剣をおとりに、ひらりひらりと切っ先を交わす。チャンバラというより、闘牛士(マタドール)が牛を裁く姿そのもの。真っ直ぐ突っ込んでくる初春は、美琴の反射神経に翻弄される。

 両方がプラズマなら、美琴ももう少し苦戦したかもしれない。美琴とて剣道の経験もなければ剣術の心得もなく、剣の振りも足さばきも素人そのもの。重心移動が大きすぎるために体は隙だらけ。純粋な白兵戦において、初春と美琴の実力差は見た目ほど大きくはない。レーダーによる空間把握と類まれな運動神経、さらに初春が左手を遊ばせていることにより、一方的な展開に持ち込めているだけだ。

 初春は大振りを繰り返し、そのたびに息を切らす。疲労の中に溶け出していく殺意。危険な凶器を振り回していても、当たらなければオモチャ同然。くだらない見栄を張るから負けるのだ。こんな見栄っ張りにはもっとプライドを擽ってやればいい、と美琴はほくそ笑む。

 

「なかなか面白い技持ってるじゃない、初春さん。ちょっと前まで何の力もないレベル1の低能力者だったとは思えないわ」

「はぁ……はぁっ……み、御坂さんは……やっぱり私達を見下してたんですね……」

「事実を言っただけじゃない。僻んでんじゃないわよ。さぁて、佐天さんにすがってそんな力を得た所で、本物の超能力者(レベル5)に勝てるかしら?」

「私はっ……佐天さんに力を貰ったんじゃない……はぁはぁ……この力は私とっ……佐天さんの愛の結晶! 佐天さんへの、愛そのものなんです!」

 

「へぇ、私には愛を持て余してるように見えるけどね」

 

 美琴はこれ見よがしに左手に視線を注ぐ。初春にとって能力を馬鹿にされることは、佐天への気持ちを侮辱されたに等しい。挑発だと分っていながら引き下がれない。

 

「はぁはぁ……御坂さんは、孤独なる永遠の熱的死(エターナル・フォース・ブリザード)がお望みのようですねぇーっ!」 

 

 軸足で踏ん張ると同時に、左から振り抜かれる氷の剣。狙い通り。中段に構える美琴は、払いあげるように刃をなぞる。一撃で砕け散る固体窒素の刃。勢い任せで振った為、初春の体は大きくぐらつく。プラズマを引き戻す時間は与えない。右手目がけて振り下ろされる致命的な払い小手。避けるすべはない。終わりだ――!

 

「ふっ……」

 

 瞬間、初春の右手が煌々と輝き、光の腕が一瞬にして砂鉄を蒸発させる。初春の手に剣はない。踏み込みの勢いで顔が接近する2人。唇の届く至近距離で見つめ合う。初春の勝ち誇った歓喜の笑み。

 

「御坂さんがこういうの大好きなの、知ってましたから♡」

 

 耳元をくすぐる卑猥な囁き。性的な対象に向けた蠱惑的な誘惑。まるで性癖を見透かされているような、トロンとした目。切り取られた時間の中で、少女達は激しく交霊する。互いを思いやるための最上級のコミュニケーションがセックスだとすれば、全身全霊で互いを知ろうと努める戦いもまた、高度に性的な行為なのだ!

 

「なにを……」

「剣道プレイはお仕舞ですよ♪」

 

 突き上げられるのは、初春渾身のフィスト・ファック! 美琴の鳩尾に向けて、巨大すぎる男根が迫る! 包み込むのは数千度のプラズマ・コンドーム。美琴は戦いの中で、重大な事実を忘却していた。初春は自身の身体能力が劣っていること嫌というほど自覚しているのだ。そんな彼女が近接戦闘で勝てるなどと、思い上がるだろうか。

 

 されど――御坂美琴は歴戦の兵。つい先月大能力者(レベル4)になった初春とは、潜って来た修羅場の数が違う。この絶望的状況下で美琴には、逆転の方程式が見えている――!

 

「アンタが出来ることはねぇ……あたしにだって出来んのよっ!」

 

 腹から炸裂する電流の渦。勝ち誇る初春の顔から血の気が失せる。そう、流体プラズマは伝導体。すなわち、ローレンツ力が働くのだ。自分がプラズマで電流を逸らしたように……電流でプラズマを逸らすことができる……。初春は致命的な過ちに気付き苦虫を噛み潰す。誰を相手にしているのか今一度考えるべきだった。つまりプラズマは――

 

 

 超電磁砲(レールガン)の砲弾として利用できるのだッ!

 

 

「受けて見なさい、荷電粒子弾頭超電磁砲(プラズマ・レールガン)の接触射撃をッ!」

 

「わ、私のプラズマをっ!?」 

 

 瞬間――時が断絶する。光の残像が、夜空を流星のように伸びていた。遅れて、直撃する雷鳴。地獄の底まで撃ち貫いた裁きの雷。体中の細胞が震え、空気の波打ちさえはっきりと見える。全てが一コマの中で同時多発的に凝縮される。宙を舞う初春は、ただ絶望に目を見開き……闇に輝く敗北を目に焼き付ける。

 

 敗北……と初春は反芻する。敗北したというのか。

 まだだ――初春はまだ生きている。プラズマの直撃を食らってなお、初春は生きている。失いかけた気力が沸騰する。当然だ。そのプラズマを纏って殴りかかったのは自分自身ではないか。たかだが数千度のプラズマ、熱量支配(アンダー・コントローラー)の下では水鉄砲に等しい。衝撃こそまともに食らったが、せいぜい数センチしか加速していないはずだ。その程度の衝撃で……敗北などありえない。これは御坂美琴の小賢しい策略。派手で大袈裟な攻撃を見せつけ、初春の戦意を砕こうとしているだけ……!

 全神経を思考に集中していた初春は、勢いに任せて地面を転がる。川に落ちる一歩手前で、初春の体は静止。月を見つめたまま、肉体の損傷を確認する。――なんでもない、掠り傷だ。まだ戦える。ダメージは残っていない。初春はゆらゆらと這い起きる。まだ終わっていない、終わらせてたまるものかと。おぼつかない足取りだが、両足で河川敷を踏みしめ、唇を噛み締める。美琴の悔しがる顔ばせを笑い飛ばし、こう言い放つ――

 

「ふっ……その程度ですか?」

 

 満身創痍のくせに、初春はへらへらと美琴を嘲笑った。どこまで諦めの悪い性悪女なのだ。

 

「強がるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 美琴は腹の底から絶叫する。超電磁砲のクリーンヒットを食らってなお諦めない。そんな奴が存在していいのだろうか――否。もう許してはおけない。超能力者(レベル5)のプライドと、超電磁砲(レールガン)の名にかけて。美琴は遂に決断する。切り札を撃つ決断を! 上条当麻にさえ放てなかった一撃を、美琴は初春の心臓に向ける――!

 

「強がってなどいません」

 

 対する初春は、美琴の決意を受け唐突に太極拳を始める。巨大な岩石を転がすように、両手で空間を掻きまわす。残像が光の粒となり、やがては確かな輝きへと変貌する。初春を中心に発生する光の上昇気流。全身の毛が逆立ち、花が光を放ちながら虚空に舞い踊る。火災旋風――初春は温度操作だけで気流を自らの制御下に置いている。これが守護神(ゴールキーパー)の頭脳、熱量支配(アンダー・コントローラー)の所以とでも言いたげに。巧妙に計算された光の竜巻は、初春の両手が導く空間へと収束を開始する。まるでプラズマの鏡面。暴力的な光の渦が、厚い防壁となり地響きを立てる。

 

「括目せよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 コインが宙に舞い上がる。あらゆる障害を撃ち砕いて来た美琴の超電磁砲。美琴は自分が何のために戦っているのか、それすら分からない。それを探すために戦っている――なんて答えは中二病すぎる、不適当だ。初春は確かにその答えを握っている――! ゆえに美琴と初春の戦闘は、戦いという名の尋問――、お互いの目的とプライドを懸けた、命がけの取り調べ。

 

「これが私の超電磁砲(真の力)だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 超能力――それはまさに意思の具現化。妄想は現象に昇華し、力として地上に現出する。世界を揺るがす光の砲撃。弾頭はコイン、砲声は雷鳴、撃鉄は意志。瞬時に音速の3倍に加速するコインは、河川敷を抉り取り、軌跡をプラズマ化させながら光の中心へとぶち当たる。

 

 終末を告げる御使いの雷鳴。夜を切り裂く裁きの炎。2つの光は渾然一体となり、巨大なエネルギーの嵐が波紋となって放射される。視覚はもはや意味を持たない。白い爆風が世界の全てを染め上げた。空と地面を揺るがす爆風と衝撃波。圧縮された空気の鉄槌が美琴を叩きつける。

 

 それでも光は役目を終える……初春飾利は跡形もなく――消し飛んではいない。爆心地に立ち、何が楽しいのかクスクス笑い続けている。この程度で死ぬわけがない、いや死んでもらっては困る、と美琴も笑う。戦いの中で2人の間には、信頼感と呼ぶべき感情すら芽生えていた。

 

「超電磁砲を防いだのね……やるじゃない初春さん」

 

 美琴はようやく、初春の力を素直に称賛する。この女はもう後輩(友達)ではない――美琴的に言えば、強敵(馬鹿)と呼ぶべき人間へと成長したのだ。

 

「ふ……ふふふっ……や、やってみるものですね。アメリカ軍が開発してた衝撃波減衰バリア(プラズマ・フィールド)ですよ! プラズマの高温でコインは雲散、爆風も空気中の超高温区域にぶつかって消えちゃいました」

 

 けれども、初春は違う。初春にとって戦いとは目的達成のために用いる手段に過ぎない。頭にお花を戴く腹黒メルヘン少女に、河川敷で殴り合って育む友情など分かるわけがないのだ。

 

「あれあれ? 御坂さん、もしかして打つ手なしってやつですか? まさか私みたいな低学歴の低能力者が、選ばれたお嬢様の超電磁砲(必殺技)に対処できるわけがない……そんな風に思っちゃってたんですかねぇ」

 

 せっかく盛り上がった美琴の気分を土足で踏みにじる初春。隙を突けば超電磁砲で吹っ飛ばすことは難しくないだろう。ただし、その場合確実に殺す羽目になる。情報を握る初春を殺すのも惜しいし、佐天を放置してきた手前、殺してきたとなればとても顔向けができない。不本意ながら、超電磁砲以外で初春を倒す光景は、今の美琴には思い描けないのだ。

 

 初春は一向に降伏する気を見せない。その上佐天の居場所はバレている。極めつけに、あまりにも派手に戦いすぎた。消防車と警備員(アンチスキル)がやってくるのは時間の問題だろう。しかし、逃げるわけにはいかない。美琴が取り得る選択肢は限定されているとはいえ、無くなった訳ではない。百合幻想(イマジン・サポーター)の効力が切れるまで戦い続けるか、あるいは――

 

「はいはい。もういいわよ、私の負けで。逮捕するならしなさいな」

 

 美琴は両手をあげて頭の上で組み、ゆっくりと跪いた。膝小僧にまだ温かい土の感触。

 突然素直になった美琴に、初春は距離をとったまま訝し気な目を向ける。

 

「最初からそう言えばいいんですよ。アンチスキルが来るまでそこを一歩も動かないでください!」

 

 初春はスカートから携帯を出して……思い直したようにポケットに戻す。

 

「電波妨害ならしてないわよ」と美琴は言った。

「通話してる間に超電磁砲で殺すつもりですね。その手には乗りませんよ」

「もうあたしは(・ ・ ・ ・ )戦う気はないわ」

 

 それでも初春は動かない、じっと美琴を見つめる。美琴はちらりと対岸に視線を送り、意味ありげに小さく頷く。初春はつられて振り返ろうとして……ぷいと向き戻る。まるで猜疑心の権化だ。さっきまで殺し合っていたのだから無理もないのだが。

 

「ふふ……待っていればアンチスキルは来ますよ」

 

「アンタにも都合悪いんじゃない? 私、初春さんに唆されたって喋っちゃうかもよ」

 

「ご心配ありがとうございます。私に繋がる証拠は全部消してきましたので♪」

 

 初春は、初春のそよ風のような最高の笑顔で言い放つ。もう一発くれてやろうか、と美琴は目を細める。

 

「ねぇ初春さん……あなた、どうしてこんなことするのよ」

「どうしてもこうしてもありません。御坂さんが悪いことするのが悪いんです」

 

「だからそれは……てゆーか、あなたも神様の頭脳(SYSTEM)とやらに御執心な訳?」

 

「シッ……レベル6(SYSTEM)? そんなの私の知ったことじゃないですよっ! 私が許せないのは……御坂美琴、あなたです!」

 

 余裕綽々を気取っていた初春が、突然豹変して声を荒げて指を刺す。

 

「あ、あなたが佐天さんを泣かせたから! 佐天さんは私といればそれで幸せだったのに……。あなたみたいな人に関わったから自分に自信を失ってしまったんです。幻想御手(レベルアッパー)に手を出して、御坂さんみたいな強者に媚びへつらう生き方しかできなくなったんですよ!」

 

 妙な感覚に、美琴は眉をひそめた。あれだけ佐天に固執しておいて、馬鹿にするような物言い。語気の強さのわりに、感情が篭っていない。初春の目は冷静そのものだ。

 

「アンタこそ佐天さんを見下して馬鹿にしてんでしょうが。佐天さんはねぇ、アンタの思ってるような娘じゃないわ」

「うるさいシャラップ黙ってください! 何が自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)ですか。学園都市なんかクソくらえですよ。佐天さんの人生を滅茶苦茶にしておいて……あなたみたいな能力者に、私を糾弾する資格があるって言うんですか!?」

 

 滅茶苦茶なのは初春の言動だ、と美琴は思った。佐天はいつも通りの夏休みを送っている。それほど佐天を思うなら、なぜ百合幻想(キマシタワー)計画を妨害する美琴を敵視するのか。それこそ、美琴が初春を疑えなかった最大の原因。つまらない恨みより、佐天に忍び寄る危険を回避する方が先のはずだ。

 

「どうしてよ」

「何がです!?」

「百合幻想計画のことよ。佐天さんはそんなクソッタレな計画に利用されるのよ。あなたはそれでいいの?」

「……御坂さんには関係ありません。佐天さんは私が守りますから。自ずと計画も破綻します。私の目的は、あなたから佐天さんを取り戻す、それだけですよっ!」

 

 守れていない。口から出まかせだ。佐天と百合妹達(レズ・シスターズ)は既に接触している。特に今日は、白昼堂々と接触を許している。つまり初春は、佐天の保護よりも美琴の捜索を優先したのだ。

 

「だったら素直に私に相談すればいいでしょ……。あなたが能力をここまで制御できるって分かってたなら、私だって佐天さんをあなたに託すことが出来たわ。現に、あなたのことは黒子に託したのよ。それに、黒子に佐天さんを守らせてもよかったのよ。ただ、佐天さんは部屋が焼けちゃったから、私の手元に置いただけで」

 

「は……はぁ!? 今さら何言ってるんですか。だったら御坂さんがうちにくればよかったのに、どうして逆にしたんですか!?」

「だって、初春さんと黒子の方が仲いいでしょ? それだけの話よ」

「そ……そんな理由で……!」

「ねえ初春さん。そんなに佐天さんが恋しいなら、なぜ後からでも相談しなかったの?」

 

 美琴は疑わし気な目で糾弾する。初春の平静は完全に失われている。目は左右に泳ぎ、神経質そうに首を掻き、時折耳を触る。

 

「そ、それは……! 御坂さんを信用できないからですよ! あなたが佐天さんに好意があるとすれば、私にはどうすることもできませんし!」

 

 明らかな嘘をついていた。美琴は佐天と初春の前で、同性愛が気持ち悪いとはっきり宣言をしたのだ。少なくとも、今日美琴を敵視する理由にはなりえない。

 

「ずっとおかしいと思ってたのよ、初春さん。私が憎いなら、百合幻想(キマシタワー)計画妨害の邪魔をする……なんて回りくどいやり方せずに、直接文句言えばいいじゃない。あなた、黒子とも正面から喧嘩したことあったわよね」

「御坂さんは白井さんと違って超能力者(レベル5)で……」

「私が怖いから、とは言わせないわよ。実際あなた、私と戦いに来たんだからね?」

「…………」

 

「あるのね、理由が。私に言えない情報を、あなたは知っているのね」

 

「関係ない……御坂さんには関係ない話ですよ……!」

 

 声が震えている。美琴は手を組んで跪いているというのに、初春はおびえたように後ずさる。

 

「量産型能力者(レディオノイズ)計画が、佐天さんの能力が判明してから百合妹達(レールガン量産)計画として復活したとは考えられないわ。1ヶ月にも満たない期間に、それほど大がかりな設備や人員が用意できるとは思えない。こんなこと、冷静に考えれば分かったはずなのに。9982号(あの子)に会った時、真っ先にあなたを頼るだなんて……私も随分と平和ボケしてたってことかしら。それで、あなたは何を知ってるの?」

 

 初春は歯軋りをしながら銃を抜き、美琴に向けて構える。そんなものより強力な能力を持っているくせに。

 

「白状なさい、初春飾利っ!」

 

 叩きつけるような叫び。初春はその場にへなへなと腰を抜かす。震える手で銃を向けるが、とても照準を定められる様子じゃない。

 

「し……知った所で、御坂さんには何もできません。降伏してください……」

「言いなさいよ……知っていることを全てっ!」

「わ、私に負けたくせに……上から目線で要求できると思ってるんですかっ!? 立場を弁えてください。さもなければ、本当に撃ち殺しちゃいますからね!? ここで御坂さんを殺しても、私は罪に問われるどころか表彰物ですよ!?」

 

「いいわ。撃ちなさい。でも約束して。私を殺した後、百合幻想(キマシタワー)計画を必ず止めるって。これは私の遺言よ。私は、佐天さんを妹達の慰み者にするのは絶対に許せないし、自分のクローンを強姦魔にするのも耐えられないの。あなただって、同じ気持ちでしょ?」

 

「やめて……もうやめてください……! 私は御坂さんから佐天さんを取り戻すことだけを考えてるんです! それ以外は何もない、関係ないんですからっ!」

 

 両手をガチガチに固めて、初春は美琴に銃を突きつける。指先まで固まって、とても引き金を引ける状態じゃない。

 

「初春さん……私があなたの気持ちに気付かなかったのが悪いのよね。謝るわ。本当にごめんなさい。さぁ、私を撃って、全てを終わらせなさい。佐天さんのこと、よろしくね」

 

 美琴はここにきて初めて、いつもの柔らかい微笑みを、全てを受け入れるように初春に捧げ……目を閉じた。初春は美琴の微笑みから逃れるように、四つん這いになりながら背後に回り……後頭部に銃口を押し当てる。冷たい金属の感触を、美琴は静かに受け入れる。電磁バリアはない。初春が引き金を引けば、美琴は本当に絶命するだろう。カタカタと震える金属音が、夜のしじまにこだまする。

 

 一方で美琴には確信があった。何がきっかけになったのか、初春は正気を取り戻していると。さらにもう一つ、美琴の勝利を盤石にする要素。先ほど対岸でこちらを見ていた人影。

 

 

 

「ジャッジメントですの!」 

 

 

 

 今際の静寂を切り裂いた凛々しくも鋭利な声。初春は憑き物が落ちたかのように跳ね起き、聞こえて来た方向に銃を向ける。――いるはずがない。なぜならその相手は――

 

「お姉様を独り占めにして、随分と楽しそうな夜会(パジャマ・パーティー)を楽しんでおりますのねぇ、初春?」

 

 かざすは盾の腕章。桃色がかった茶髪のツインテールを振り乱し、烈火の如き微笑を浮かべる少女が、土手に仁王立ちして2人を見下ろしていた。これ見よがしに両手に握っているのは、幾多の犯罪者を血祭りにあげてきた金属矢(ダーツ)ではない。カラフルな針管(薬莢)に装填された、数十数百本もの極細の針(弾丸)。

 彼女の名は白井黒子。『変態』の異名を恣にする、常盤台の空間移動系能力者(テレポーター)。

 やはり黒子は自分を裏切らなかった、と美琴の口元がゆるむ。キスくらいなら許してあげようかな、と柄にもないことを考えるくらいに。




黒子「お姉様!お姉様!お姉様!お姉様ぁぁぁあああわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!お姉様お姉様お姉様ぁぁああぉおおぁわぁああああ!!! 」

上条「次回、使い方によってはこういうこともできるんですのよ。科学と佐天が交差する時、物語は始まる――!」
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