とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》 作:エステル
◆ 8月16日 午前0時49分 ◆
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっあっああああぅあああひぎぅうううううああああ! イくぅううううううう!! またイクまたイクまたイクぅううあああうぅああああ!!」
初春は白目をむいて花を振り乱し、のたうち回りながら息を荒げる。捲りあげられたセーラー服と初春らしくない黒ブラジャー、両乳首にはローター、ツボというツボに撃ち込まれた鍼。血と汗と涙と唾液と、ありとあらゆる性的な液体が初春の体をぐちょぐちょに濡らしている。初春の汁は河川敷の土と混じり合い、泥となって制服をドロドロに穢す。黒子の与える無慈悲な快感はとっくに許容範囲を超え、思考回路は完全に焼き切れてしまった。喘ぎはやがて苦悶の声へと変わり、足先から手先まで、ピクピクと小刻みに痙攣させる。
「あっああっあああああーっ! しらっ、白井さっひぃいいん! もう止めて、お願がっ……あひっ……んンンンアアアーッ! ダメッ、あぐっ! ひゃぅううあああああああ!」
黒子は逃げ回る初春に馬乗りになり、クリトリスを自分の舌先に当て、ローターで挟みこんで刺激する。ローターが震えるたびに、黒子のトロトロの舌先に愛撫される。その振動数は一秒間に100回超。1秒間に100回のディープスロートが、何度射精した後も延々と続けられたらどうなるだろうか。拷問以外に名付けるべき言葉が見当たらない。
黒子も黒子で、愛液と潮と尿が混じり合った訳の分からない液体で髪までびしょ濡れ。ツインテールの先から透明な液体が滴っている。
「ダメ……ダメダメダメやめてぇええっ! もう死ぬっ、死ぬぅぅぅぅぅぅ死んじゃいますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! おまんこ壊れて死んじゃうんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
半狂乱で叫びまくる初春。彼女が信じていた百合幻想は、快楽のハリケーンによって無残にも殺されてしまった。佐天涙子への思いは、決壊した報酬系の濁流に飲み込まれ、脳の奥深くへと流されてしまったのだ。
「リック・マイ・プッシー! 初春、いい加減に観念して負けを認めなさいな!」
「わ、わかっんぐうぅう! 分かりまっしたっ、んっ、んンァァアアアーッ! わらしのっ……ひぅぅうっ! 私の負けれすぅうっ! だからもうやめっ、やめてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「はぁ……はぁ……認めましたわね? 私の勝ちを認めましたわね。あなたの負けですわ、初春! お姉様にしようとしてたこと、全部喋ってもらいますわよ!」
黒子はクリトリスに軽いキスで別れを告げ、体の針を全部飛ばしてから、馬乗りになったまま初春に向き直る。乳首のローターを引っぺがし、代わりに自分の指先でこねくり回す。癖になっているのだ。
「ひっひぃ、はぁはぁ……もうらめ、らめれす……す、少しだけ休ませてください……」
何十分も渡ってイかされ続けた初春は憔悴しきっている。焦点は定まらずぼんやりと天空を見つめ、安堵とカフェインとテオブロミンで緩んだ尿道から聖水を垂れ流しながら、衛生兵に遺言を告げるみたいに答えた。
「まーだご自分の立場がご理解できてませんのね。初春、あなたは私の奴隷ですの。あなたの都合でわたくしに命令できるとお思い?」
黒子は乳首を抓りあげて唇で唇を塞ぎ、初春の体内に直接流し込むように言った。骨伝導により体の内部から響き渡った黒子のお叱り。黒子が自身の一部として刻み付けられるような感覚。
「ち、違います。命令などではございません白井様……! 生意気な奴隷をお許しください。何でもしますからぁ、どうか哀れな奴隷に酷いことをしないでください……!」
従順な奴隷はご主人様の手を取って接吻し、服従の意を示す。初春は一時的にせよ、抵抗する理由をすっかり奪い去られてしまったのだ。
「よろしい。お姉様を呼んで参りますの。そこに這いつくばって沙汰を待ちなさい」
「はひぃい!」
黒子はぐちょぐちょに乱れた服を申し訳程度に直し、立ち上がって初春を解放する。
身も心も再起不能にする最悪のテレポーター、白井黒子のチャーミングな体重が消えたことに安堵しつつも、初春はなぜか名残惜しさを感じて黒子に手を伸ばしてしまった。黒子は満足げにその手に指を絡ませて微笑んでから、汚物でも付着したかのように振り払った。
一人残された初春は、夜空を見上げたまま、ひんひんとしゃくり上げることしか出来ない。
◆
美琴と言えば、当初こそ興味本位で覗き見たりしていたものの、今は地面に体育座りになって耳を塞ぎ、星の数を夢中で数えている。
2000年前、東方から来た3人の博士も、彼女と同じように星を見ていたのだ。古代、世界は地球を中心に回っていた。コペルニクスとガリレオは地球を回し、アインシュタインは時空を歪ませた。しかし量子力学は、宇宙全体を確率の海に沈め、"観測"などという訳の分からない主観の中に全てを閉じ込めてしまった。地球どころか、人間を中心に世界が回り始めたのだ。宿命的退化、神の存在否定。その結果白井黒子が初春飾利のクリトリスを執拗に責めることになった。馬鹿げているとしか言いようがない。
その美琴の肩に、黒子の手が優しく触れる。ハンカチで拭いたようだが、仄かに性的な匂いがするのは気のせいではないだろう。
「く……黒子、終わったの?」と美琴は声を裏返らせて言った。
「はい、お姉様。初春はわたくし達に好意で協力してくれるそうです」
「そぅっ!?」
美琴は結果的に男を選ばなかった自分の選択を肯定しつつも、その場を立つと挙動不審気味に黒子から若干距離を取る。
「お姉様? どうしてわたくしから目を背け、控えめなお胸とスカートを御隠しになっているのです?」
「べ、別にっ! 夜風で冷えるといけないからよ!」
「そう言えば……お姉様も随分と濡れ濡れのぐちょぐちょですわね」
「これは川に落ちたからよっ! アンタが想像してるようなことは絶対にあ・り・え・ね・え・からっ!」
黒子は美琴の短パンに視線を落とす。仮に美琴のパンツが濡れているとしても、先ほど川に突っ込んだのだから仕方ないことなのだ。夏とはいえ深夜。乾くにはもう少し時間が必要だ。黒子はそう納得した。
「あのね黒子……昨日はごめんね。アンタが悪くないってことは知ってたのよ。いろいろあってちょっと虫の居所が悪くて……。アンタにはその……感謝してるわ。でも、だからって私への変態行為はダメだからね?」
「ええ、分かっておりますの。わたくしが求めるもの、それはお姉様と深い信頼に基づく親密な関係ですもの」
もちろん性的な意味で、とは言わなかった。黒子にもそれくらいの自制心はあるのだ。
「そ、そっか。あのね黒子。その……なんというか、アンタにはお礼しなきゃいけないし……キ、キスくらいなら……」
美琴は相変わらずビクビクしながら、羞恥心に耳たぶまで赤く染めて、消え入るような声で言う。
「お姉様……?」
何が起きたのか、黒子には一瞬理解できなかった。言葉は耳に入っているのだが、その言葉が持つ意味が自分の記憶と中々合致しなかったのだ。
「ぉおおお、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? いま、いま黒子とベーゼをなさりたいと仰ったのですか!? 黒子の聞き間違えでなければ! わたくしの舌とトロトロになるまで濃厚な愛を交わしたいと、お姉様はご所望なのですね!」
今にもかぶりつきそうな勢いで美琴に抱きつく黒子。初春を一方的に責めていたとはいえ、多少は黒子も興奮しているのだ。そんなところにキスの許可が出たら、黒子の性格からすれば止まる訳がない。
美琴はそんな変態をむげにもできず、迫りくる唇から首を伸ばして顔を逸らす。ファースト・キスが初春の愛液の味で、それが死ぬまで人生に刻まれるかと思うと、いくらなんでも惨めすぎる。だからと言って今の黒子に電撃を浴びせられもしないのだ。
「そこまでは言ってないでしょうが! か、軽いのよ。ちゅってするだけ。それくらいなら、い、いいけど?」
「ほっ……ほ姉様ぁ……」
うっとりとして卑猥な目つきで美琴を舐め回す黒子。もう終わりだ、と美琴は諦めかける。計画の阻止や初春の命と引き換えに後輩に唇を差し出すくらいなら、美琴の乙女心もギリギリ許容できるだろう。
「あぁん、白井さん……私を捨てて御坂さんの所に行くなんて……酷いですよぉ……」
あと数センチと言うところ、回復した初春がやってきて、黒子の足に縋りつき引き離そうと引っ張りだす。あれだけ嫌がっていたくせに、不意に訪れた疎外感に耐えられなくなったのだろう。
「黙りなさい初春。あなたはわたくしが求めた時だけに体を差し出せばよろしいんですの。さもなければ……お分かりですね?」
「くぅん……」
従順な初春は黒子の足元にうずくまって、花を真っ白に染めた。
「さぁお姉様! 黒子の唇と淡く切ない愛を!」
「待ちなさい、今は駄目よ! 当面の問題が片付いてからね。今は、もっと大事なことがあるでしょう」
図らずも初春の妨害は、羞恥心に熱せられた美琴の理性を冷やす切っ掛けとなった。美琴は黒子を強く抱きしめると、頭を肩の上に載せる。キスを防ぐためにしたことだが、黒子にとってはハグも十分な報酬。顔のパーツはとろけきって、今にも落ちてしまいそうだ。
「承知しましたの。約束ですわよ、お姉様ぁあ」
「うん。それより――」
必然的に美琴は、黒子に打ち捨てられた初春を睨みつける格好となる。
「初春さん。あなたがどうしてこんなことしちゃったのか……理解したくないし、するつもりもないけれど。まあ佐天さんを盗られたくなかったって気持ちだけは理解してあげるわ。だから……ね? もう怒ったりしないから、正直に告白しなさい。
冤罪をでっち上げる刑事コンビのなだめ役みたいな優しさで、美琴は初春に語り掛ける。
「はい……。橋の下に関連資料の入ったリュックを隠してあるので、取ってきていいでしょうか?」
初春はがっくりとうなだれて、下を向いたっまま呟いた。結局のところ初春は美琴に嫉妬したままであるが、ご主人様の命令なのだから仕方がないのだ。
「わたくしがご同行致しますの。その方が早いですわ」
この期に及んでも逃走や隠蔽を警戒しているのか、黒子が初春を伴って消える。ものの十数秒後、いつも背負っている茶色いバックを持って戻って来た。
「……これ、です」
初春はソリテールと一緒にコピー紙の束を提出する。美琴はライトを口に咥えながらパラパラと目を通す。
「
『前略――
なお、百合妹達が戦闘において超電磁砲と同レベルの能力を発揮するためには、交戦時間に比例した高濃度身体的接触が必要となることが、就寝時に佐天涙子に接触させた
またミサカネットワークを通した脳波リンクは能力上昇の効果を持たず、個体ごとの接触を必要とする。このため継続的な対象への就寝時接触を要し、
※ 絶対能力進化計画は現在第9981次実験まで終了している。
ソリテールはいつの間にか地面に光の筋を作っていた。
美琴は読み終わるまで一度も瞬きをできなかった。どこか浮かれていた意識が、壊れたエレベータの中に閉じ込められて、闇の底まで急降下していく。学園都市第3位の頭脳は、ここに踊る悪文を理解することを拒絶している。虚数学区のキの字もない。
「……何なのよこれ……どういうことよ?
怒らないと言った手前、手こそ出さなかったが……美琴は無意識に空気を焦がしまっていた。初春は祟りを恐れる古代人みたいに竦み上がり、黒子さえ黙りこくって遠巻きに見守っている。
「それはその……私がでっち上げた嘘なんです。統括理事会が承認してるってのも、全部ハッタリです。私の目的は別に御坂さんを殺すことじゃないですし……真相に気付かず幻想の計画を追い続けて貰えればそれでよかったんです」
「初春さんあなた……こんな計画を守ろうとしたの? これ、人が死んでるじゃない……」
初春は震えながら黒子の足元にすがり付いたが、それは黒子がまだ資料を読んでいないからでしかない。あれを読めば、黒子だって豹変して初春を殺しかねないのだ。
「だ、だって……御坂さんは
「だから百合幻想計画なんてのをでっち上げて、私の注意を逸らしたって!? こうしている間にも、
「有り得ません。だって佐天さんは私が24時間衛星で監視していましたから。佐天さんと
その妨害は2万人の妹達殺害へと導く行為であるのだが、幸い頭に血が上っている美琴には察することができなかった。彼女が冷静なら、初春は五体満足では居られなかったかもしれない。
「佐天さんはね……もうとっくに巻き込まれてるのよ!」
「なんで御坂さんにそんな事分かるんです……!」
「佐天さんに聞いたからよ。今日の午後、セブンスマートの前で、
美琴はゲコ太携帯を開いて初春に突きつける。画面踊る佐天の番号、既に呼び出し音が鳴っている。初春は慌てて美琴に駆け寄り、電源ボタンを押して発信を打ち切る。直後に佐天からの折り返しがあったが、自分宛でもないのに勝手に電源を切ってしまう。
「だいたい監視してたんなら、私に"誘拐"された時、佐天さんがどこに居るか分かったはずよね?」
「きょ、今日は御坂さんの捜索で忙しくて……」
初春は伏し目がちでごにょごにょと呟く。どちらにしても、事実として初春は実験を止められていない。結果的に言えば、ただ美琴に嫌がらせをしていただけなのだ。
「それだけじゃないわ。報告書には
「寮の出入りは監視してましたし……」
「わたくしのような
黒子が美琴のところまでやってきてライトを拾い、報告書を覗き込みがら言った。初春へ向ける感情に幾分殺気が混じっているのは、錯覚ではないだろう。
「詰めが甘いお子ちゃまですわね、初春」
「で、ですが佐天さんは御坂さんと一緒に住んでるんですよ!? 佐天さんを守るって言ったじゃないですか! なのに気付かなかったのは御坂さんの、」
「お黙り初春!」
性的でない一撃が初春の頬を焼く。じわりと広がる痛みを、初春は悲哀と歓喜が入り混じった不気味な表情で耐え忍ぶ。
「よりにもよってお姉様に責任を押し付けるんですの? 呆れた……ここまで見下げた人間に成り下がるとは! あなたにはもっときついお仕置きが必要なようですわね」
「ひぃいいいい! お許し下さい白井様! 決してそんなつもりで言ったわけじゃないんです! 私はただ佐天さんのことが心配で……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
慰めてくれる佐天は居ない。普段の初春なら泣いてしまうかもしれなかったが、今の彼女にはどんな暴力も罵倒も、黒子からのものならば快感に変換されてしまうのだ。
お仕置きを求めようと縋りつく初春を、黒子は邪魔臭そうに振り払う。黒子は、自分を変態と罵る美琴の気持ちが、少しだけ分かった気がした。
◆
「ともかく――」と美琴はじゃれあう2人を注目させる。
「私は
明らかに初春に向けた宣言。初春が歪ませた世界は結局元の在り方に戻る――それが世界の選択なのだ。初春に許されたのは、この泥沼な状況を肯定的に解決することだけ。すなわち、美琴に全面的に協力することのみが、彼女がこの先生きのこる方法なのだ。
「というより、
ちなみに学園都市のある日本はジェノサイド条約には加入していない。これは憲法9条の拘束により、ジェノサイド阻止のために積極的な武力行使を行えないためだ。自国内でジェノサイドが発生した場合はまた別の話であろう。
「……相手はあらゆるベクトルを反射する学園都市最強の
「黒子はお姉様のお傍を離れませんの。初春がまた裏切らないとは限りませんし」
黒子はセーラー服のふくらみに訝し気な目を向ける。どさくさに紛れて銃を回収しているのだ。
「酷い……私は白井様の哀れな奴隷ですのに……」
初春は跪き、主人の太ももにキスをしながら弁明する。太ももへのキスは支配欲の現れだとする説もあるが、気のせいだろう。
「そもそも、本来はお姉様ではなくわたくしども
「は、はひっ!」
初春は跪いたまま空中に放り出され、そのまま美琴の真正面へと正座させられた。仕事の時間だ。
「……好きになさい。で、今そいつはどこにいるの?」
美琴は腕を組んで初春を見下ろしながら、ドスの利いた声で訊く。
初春は慌てて
「すぐ調べます。えとえと……な、なにこれ!? 衛星の向きがロックされてますよ。見たことない暗号です」
そんな初春が出鼻を挫かれた。衛星の制御プログラム自体が何者かに上書きされているのだ。悪意を持ったシステムの改変、クラッキング。これではネットワークを乗っ取ったところで命令の出しようがない。
「ハッキングはあなたの担当でしょう。何とかなさいな!」と黒子が檄を飛ばす。
「最初から不正ログインしてるんですよ! ちょっと待ってください。実験が予定通り行われたとすれば昨日の午後9時だから、サーバーのデーターは……ないですねぇ。ならテンポラリの画像データを遡って……うそっ、こっちも消されてる⁉ 白井さん、間違いありません。何者かの隠蔽工作です」
昨日までは初春がやっていたことを誰かが引き継いだのだろう。警告は正しく伝わったのだ。初春は声しか知らないカイツ・ノックレーベンなる警備責任者を思い浮かべる。痕跡を残し過ぎた強引な手口だが、裁かれない立場にあるのなら実に合理的。初春は端末の縁を指でつつきながら、自分のお花畑を蹂躙するかつての同胞の殺し方を練る。
「初春さん、居場所に検討はつかない?」と美琴。
「今回の実験は、第7学区から第17学区に至るエリアで行われているはずですが……でもこの地域を管轄する
「交通局のカメラはどうですの?」
「周辺の監視カメラは全部乗っ取られてます。取り返すこと自体は可能ですが、調べてる間に日が上りますよ。……そうだ。
初春にとって既存のセキュリティーは無意味。何しろ彼女は守る側の存在なのだから。数時間おきに更新されるメインフレームのパスワードも、通知経路が丸裸では鍵の体をなさない。PDAの画面には衛星通信のデータログがすべて表示される。案の定、侵入の痕跡があまりにもはっきりと残されていた。
「ほら見てください。異なるIPアドレスから繰り返しアクセスした形跡があります。これ全部
「説明はよろしいですから、早く追跡なさい!」
「はいはい。やってますから黙っててください。まったく……これだから素人は」
ハッキング中の初春は過度に集中しているために、自分の置かれた立場や状況の一切を忘れ去るのだ。偉そうな口を利く初春の頬を、黒子が摘み上げた。
「わたくしに生意気を言うのはこの口ですの?」
「ひゃわわぁ! しゅいません白井様ぁ! 調子に乗りましたぁ……」
「邪魔してんじゃないわよ黒子!」
その後ろから頬を捻る美琴。黒子は久しぶりの愛のあるスキンシップに身もだえしながら初春を解放する。
「えーっと……午後9時前から初めて……こっちに動いてからこうだから……」
カイツが残した痕跡から、初春は彼の思考をトレースしていた。お花畑を踏みつけられた足跡を辿るだけの簡単な作業。こんなもの小学生にだってできる――ただし、気の遠くなるような手間さえ惜しまなければ。
「ここです! 一番新しくカメラが逸らされた地域は……つい先ほど、午前0時51分! 第17学区の操車場です!」
2人の前にPDAを突き出す初春。黒いウィンドウに数字やアルファベットが並んでいるだけだったが、初春には違うものが見えているのだろう。
「一方通行と
「それ以外に衛星を逸らす理由がありませんよ。仮に罠だとしても、行ってみる価値はあります」
橋の向こうからサイレンの音が鳴り響く。ようやく消防車が駆けつけてきたようだ。橋は既に鎮火して黒こげになり、あちこちから上がる細い煙だけが火災の余韻を残す。これほど遅れたのは第7学区の混乱の影響なのだが、学園都市の外れで無意味な争いに没頭していた彼女たちには知る由もない。
「お姉様、直に
「離れるわよ。黒子、一緒に来るなら送ってちょうだい」
「はいですの!」
黒子は地面に散らかっていた自分のパソコン部品を拾い集める。適当に土を払って初春のバッグに押し込めると、その余計な荷物を初春に背負わせた。
「初春さん、よくやってくれたわね。あとは私が自分で決着をつけるわ。あなたは佐天さんと一緒にホテルに隠れてなさい。場所は知ってるわね?」
初春は一瞬キョトンと目を丸くした。御坂美琴は、あろうことか自分を殺そうとした人間を、あっさり信頼していた。佐天と一緒になれば、今度こそ佐天の力で美琴を抹殺……なんてことを予測して然るべきなのに。美琴に協力したとはいえ、黒子に強要されてイヤイヤやったに過ぎない。しかも初春はくだらない理由で大量殺人の幇助まで目論んだのだ。この場で殺されたって不思議じゃない。それを美琴は、しつこく責めるでもなく、自分を労い、あまつさえ身の安全を心配さえしてくれた。
初春は、ここすっかり失っていた美琴に対する敬意のようなものが、ふつふつと湧き上がってくるような感覚に囚われる。初春は出会いからして美琴への憧れが動機であったのだ。初春は自身の中に、強烈な罪悪感と共に激しい意志の火が灯るのを感じた。
この気持ちが神経伝達物質の影響だったとして……それが何だと言うのだ? 反復こそが、人間の美徳なのだ。
「御坂さん、私も一緒に行きます。行かせてください。実験について一番よく知っているのは私です。何かお役に立てるかもしれません」
「そんな事で罪滅ぼしになるとでも?」
黒子が冷たい口調で言い放つ。ただしそれは奴隷や狂人に対する挑発ではなく……友人に対する遠慮のない問いかけであった。
「……思いません。ですが、このような事態を招いたのは私の責任です。本当に……すまないと思っています。ですから!」
美琴はしばらく何も言わずに、初春の目を睨みつけていた。お互い服も体もボロボロ、丸2日近く動きっぱなし。それでも美琴には、100%の正気を保っているように見えた。黒子の命令でも、美琴を陥れる為でもなく、純粋な好意から美琴に手を貸かそうとする1人の友人となった初春飾利が、闇の底から這いあがって来たのだ。
「いいわ。来なさい、初春さん」
「はい!」
美琴は軽く微笑んで初春の手を握り、反対の手を黒子と結ばせる。三角形――彼女たちは長い混乱の果てに、神の摂理を取り戻したのだ。そして3人は、血塗られた戦場へと、旅立ってゆく。
上条「御坂、白井、初春。3人の少女は、