とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》 作:エステル
「とは言うものの」と、黒子は下水の臭いに鼻を詰まんで言った。
衛星と監視カメラに加えて無人機まで飛ばし始めた学園都市の厳重な監視網をすり抜けるには、地下に張り巡らされた下水道を通るくらいしか選択肢がなかったのだ。
「
「まだ病院に残ってないでしょうか?」
「あなたのわがまませいで何時間無駄にしたと思っているんですの。何のために誰もいない病院を警備するんですの!」
美琴が実験阻止のために
「ではわざと騒ぎを起こして見つかるというのはどうでしょう?」
「何百人もの妹達と鬼ごっこしろと言いますの?」
「とりあえず病院に行って見ましょう。監視カメラの映像から、連中の1人がまだ残っているのは確実ですし」
初春が格闘しているPDAには、ぬいぐるみを抱えて歩いている金髪碧眼の白人の姿が映し出されていた。紺色のベレー帽に純白のスカートを翻らせ、その間から黒ストッキングの美脚を覗かせている。もはや姿を隠す必要もないと思っているのだろう。もちろん初春は顔認証ソフトから身元を特定し、
「フレンダ=セイヴェルン、アイテムなる統括理事会直下の秘密結社の一員。とはいえこいつらが計画にどこまで関わっているのかは分かりませんし、下手をすればただの傭兵という可能性も。大した情報を持っているとは期待できませんわね」
「だとしてもこの子が首謀者に繋がる唯一の手掛かりです」
「わたくしには、自ら選択肢を縮めてるようにしか聞こえませんわね」
妹達の位置情報は、警備強化のためカイツによってネットワークから切り離されており、初春ですら特定することはできなかった。唯一、
「
「ともかく、一刻も早く首謀者を見つけ出さないと、お姉様は学園都市そのものを破壊しかねませんですの……それにしても臭いですわね」
黒子はやはり鼻声で言う。いくら学園都市の下水処理能力が優れていようが、処理前の下水はやはり下水なのである。
「そりゃ下水道ですからね。あそこからでる色んな液体や固体がドクドク流れ込んでいますから」
「わたくしにスカトロプレイを期待しても無駄ですわよ」と黒子はスカートを後ろ手で押さえた。
「そんな期待してません!」
軽口を言いつつ、2人は病院の真下まで達する。
「初春、敵の状況は?」
「監視カメラの死角に居てまだつかめません。絞り込んでいますがなんとも。それよりも白井さん、これ……」
「ええ、そこら中に爆弾が仕掛けられていますの。正気じゃありませんわ。入院患者を巻き込むつもりですの!?」
現在この病院は、昨夜の"地震"による無数の負傷者が担ぎ込まれており、さながら野戦病院のようなありさまだ。2人が監禁されていた病棟だけは隔離され人気はなかったが、これほどの爆弾が
「結局、お子様の浅知恵は御見通しな訳よ! 馬鹿正直にテレポートで突っ込んでこれないとしたら、結局、侵入ルートはおのずと絞られるって訳よ」
突如白いテープに一斉に火花が迸り、ぬいぐるみ向かって高速接近する。導火線に火が付いたのだ。よく見ればぬいぐるみはマンホールを囲むように配置されている。逃げ場は下水管の中だけだが、下手をすれば地面が崩落して生き埋めにされかねない。
「白井さん、ここは私に任せてください。この程度の爆発物、脅威ですらありません。私と佐天さんの
初春は自身満々で地面に手を触れる。
「やりなさい、初春!」と言い残して黒子は消えた。
「見せてあげますよ。私と佐天さんの愛の力を!!」
初春は右手に力を籠める。昨日御坂美琴を殺すために使った力を、今度は彼女の目的を果たすため。
「
初春の手から白い霧が発生。瞬時に地面に拡散する。爆発とは要するに酸化反応であり燃焼である。物が燃えるためには、燃焼に必要な最低の温度に達していなければならない。ならば導火線を冷凍してしまえばどうなるか。答えはフレンダの顔に書いてある。
「ちっ……液体窒素でも巻いたって訳!? ……でもこれなら」
フレンダはスカートの下にはしたなく手を突っ込むと、砲弾型の爆弾を6つ放り投げる。空中に広がったそれは、着火すると初春目指して弧を描きながら吹っ飛んだ。
「無駄ですよ」
初春の全身が煌々と輝く。超電磁砲さえ防いだ
「効いてない!? テレポーターの方が高位能力者だって聞いてたけど、こいつも……」
「あははははは! いくらやっても無駄ですよフレンダ=セイヴェルンさん。私を殺すなら温感センサー付きの起爆装置を持ってきませんと」
(身元が割れてる!? 結局、あいつら何者なわけよ!?)
フレンダは早々に逃亡を開始する。爆薬まみれの病棟へ向かって全速力で走り出す。
「
入口に待ち構えるは白井黒子。病院中を走り回ってかき集めたぬいぐるみの山にもたれかかり、一つを手に取って弄んでいる。
その時、フレンダは勝利を確信した。相手が
はるか上空、天まで落としそうな大爆発が容赦なく大地を揺るがした。腹に響く轟音。降り注ぐ鉄の雨。フレンダはもう少し考えるべきだった。相手はテレポーターなのだ。しかも強力な。
「なぜこんなものでわたくし達を始末できると思えるのか、不思議でなりませんわ」
黒子はあきれ顔で
「
「それはこっちの台詞だって訳よ!」
フレンダはやはりスカートの中から、自分の身の丈ほどもある巨大なライフルを取り出した。F2000R――オモチャの兵隊《トイソルジヤー》。
「結局、剣と魔法の時代は銃の登場と共に終わった訳よ。両手を高く上げて跪きなさい!」
銃口を黒子に向けるフレンダ。後ろからは初春が靴音を響かせて迫っているが、そんなものを気にしている余裕はもうない。
「やれやれ、そのようなものに頼るとは。哀れですわ」
消失する黒子。フレンダの放った銃弾は虚しく空を切った。
「白井さん、どうします? せっかくだからもう一回撃たせてあげましょうか?」と飛んできた黒子に初春は言った。
「仕方ありませんわね。初春さん、懲らしめてやりなさい」
「はーい」
フレンダは訓練された兵士の動きで振り返ると、迷いなく引き金を引く。赤外線により標的を追尾し電子制御で弾道補正するそのライフルは、狙いを付ける必要もないのだ。
だが初春の能力は戦闘経験に比例してその威力を増している。今の初春は
初春は黒子を背にして両手を広げ、全ての弾丸をその身で抱きしめた。
「こいつ、5.56mm弾を受け止めてる!? 絹旗クラスの防御力持ってたって訳!?」
カチャカチャと玩具をすり合わせたような音が響いた。
「弾切れ……? 私のギャラ……はんぶん……」
フレンダは後ずさりしながら病院まで後退する。黒子と初春は、逃げ場のなくなったフレンダを追い詰めるようににじり寄る。
そして、フレンダは泣きそうな顔で囁いた。
「Miji」
「何ですって?」
「cavino capri citreva sgichovire sgicacci slano happa fumifumi?!」
だがそんなはったり、変態白井黒子に通用するはずがない。フレンダの口には誘拐された少女のようにテープが貼り付けられた。次の瞬間には、全身をテープでガチガチに拘束されていた。自分の貼った起爆用テープだ。
「テレポートにはこんな使い方もあるんですのよ」
爆薬にぐるぐる巻きにされたフレンダ。初春が指先に火をともし、くるくると回して威圧する。導火線はその足元に伸びている。もしも火が付けば、全身バラバラになるのは確実。
「だから無駄だって言ったじゃないですか。もうあきらめてください。あなたはどこにも逃げられないんですよ」
「さて」と言って、黒子はフレンダの口に指を突っ込んでテープに穴を空ける。
指先に柔らかい舌が触れたので、黒子はとりあえず味を見ておいた。白人も日本人も唾液の味はそんなに変わらりませんわね、と黒子は思った。それからやっとダーツを抜いて、フレンダの目の前にちらつかせて脅し始める。初春はどこからともなくストレッチャーを運んで来て、全身包帯フレンダを寝転がした。そして2人は、問答無用でフレンダを転がしてゆく。
「あなた達の素性は分かっておりますが、誰に雇われたのかが分かりませんの。要するに黒幕は誰かってことですわ。さあ、雇い主の名前を吐いてもらいましょうか」
手術室まで。フレンダは手術台にガチガチに拘束され、ハチの巣のような強烈なライトに照らし出された。黒子は白衣を羽織り、ナース服に着替えた初春がメスやら注射器やら、物騒なものを乗せたトレイを次々と運んでくる。病院の中でも手術室だけが放つ特有の気配に、さしものフレンダも少しだけ股に尿をにじませた。
「け、けっ……結局……、喋ったら殺される訳よ……」
「ですが喋らなければ、死ぬより辛い目に遭って貰いますわよ?」
「吐いた方がいいですよフレンダさん。白井様の
初春はフレンダに耳打ちする。尋問を身をもって体験した初春の真に迫った小声。フレンダに動揺が走る。結局、逃げ場はないのだ。交渉する以外に生き残る道はない。
「結局、私はプロな訳よ。合衆国まで安全に亡命させてくれるなら依頼主を教えてあげないでもないけど。合衆国大統領に電話を繋ぎなさい」
「いい加減にしないと、あなたもジェノサイドの共犯で国際刑事裁判所に突き出しますわよ」
「何の話よ? 結局、無実の市民を虐殺してんのは
「話になりませんわね。初春、"ヤりますわよ"」
そう言って白井黒子は、初春に向かって右手を差し出す。
「えぇ……私もヤるんですか? 私は白井さんと違って誰とでも寝る変態じゃないんですけど」
その右手に初春が置いたのはメス。触れるだけでぱっくり切れそうな、必要以上の鋭利。人間の身体を容易くバラバラに解体できる刃物だ。
「私、言いましたわよね。『わたくしの許可があれば、他のご婦人と交わらなければならない』と」
「分かりましたよ白井さん……しょうがないですね」
文句は言いつつも、手術台で怯えている金髪の美少女を前にすれば、大抵のレズはその欲望を押さえきれなくなるのだ。
「結局……まじ……?」
白衣の黒子は、メスをチラつかせながら眉間から胸へ、腹部へと刃横で撫でる。
「これからあなたには、メスの味をたっぷり味わっていただきますわ。フ レ ン ダ」
凶悪な金属の冷たさと耳元に掛かる吐息にフレンダがピクリと震えた。始まるのだ。フレンダ解体ショーが。
上条「フレンダをあっさり片付けた2人のレズビアン。始まるのは尋問という名の拷問。畜生、こんなことが許されると思っているのかよ。待ってろよビリビリ。お前らの百合幻想を必ずぶち殺してやるからな。次回、これからあなたには、メスの味をたっぷり味わっていただきますわ。科学と魔術が交差する時、物語は始まる――!」