※この作品はR-18です。

とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》   作:エステル

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第22話 第7学区の戦い

◆

「撃てぇぇぇぇぇ―――!!」

 

 誰が命令したのかは分からない。だが混乱の極みにある警備員部隊で、黄泉川の指揮系統は既に死んでいたのだ。SIGとトイソルジャーがほぼ同時に火を噴いた。警備員には防弾シールドがあったとはいえ、妹達(シスターズ)の地の利と武器の性能の差は決定的だった。教師たちは断末魔を上げながら次々と弾丸に倒れてゆく。肉体から吐き出され飛び散った血管からはどぼどぼと鮮血が迸る。あたり一面はまさに血の海。どす黒い静脈血と真紅の動脈血が混ざり鈍い赤色の絨毯が敷かれた。そんな血の床を踏みしめ、円形の輝くシールドを纏った麦野一行は病院の正面へと悠々と歩いて行く。

 

「ちっ……早漏どもめ」

 

 目の前で始まった銃撃戦を前に麦野は吐き捨てる。体制側であるアイテムは、一応味方である警備員(アンチスキル)を皆殺しにして道を切り開く訳にはいかないのだ。

 

「フレンダ、超捕まっちゃいましたかね」

「大丈夫。私は捕まったフレンダを応援してる」

「裏切ってやがったら粛清しないとねぇ」

 

 だがそんな理屈、麦野には通用しない。煌々とと輝く原子の光を纏い、残った警備員を焼き弾きながら3人は前進を始めた。

 

 

 その様子は初春と黒子にもよく見えていた。銃弾を吸い込みながら警備員(アンチスキル)と妹達(シスターズ)を物ともせずに突き進んでくる3人組。学園都市に7人、今では6人しかいなくなった超能力者(レベル5)の現第3位、原子崩し(メルトダウナー)こと麦野沈利とその下僕2人。

 

「初春。あなたの能力であいつをどうにかできますの?」

「残念ながら私では無理です。白井さんが頭に鉄矢(ダーツ)撃ちこむくらいしか対処法はありませんよ」

「あのおばさん、こちらを睨んでいますわよ……確か滝壺理后の能力追跡(AIMストーカー)は、どんなに離れていても能力者の位置情報を特定できるのではありませんの」

「ええ。白井さんが特定されていたら、テレポートも通用しませんね」

「こんなことなら、わたくしもあのレズビッチとエッチしておくんでしたわ」

「私の佐天さんをビッチ呼ばわりしないでください!!」

 

 警備員の部隊が2つに割れた。麦野の放った光がモーセの奇跡が如く人の海をなぎ倒したのだ。その照準はもちろん初春と黒子。

 

「ミサカ10032号は敵の超能力者(レベル5)からお姉様の御友人を防衛します」

 死神の光が2人の命を刈り取る瞬間、青い稲妻が光の軌道を空へと投げた。そして2人に向けられていた戦術超電磁砲(レールガン)が、眼前の敵軍へと向けられる。

「食らいなさい、おばさん」

 

 極超音速の徹甲弾が、燃え上がりながら麦野へと発射された。到達するには1秒も必要ない。一瞬、本当に一瞬としか呼べない時間で麦野は殺される。

 

「あん?」

 

 が――麦野がほぼ同時に発射した第2射にあっさりと焼き尽くされる。残った衝撃波だけが、警備員を数十人吹き飛ばしただけだ。

 

「ひゃはははは、まさかこれが第3位様の超電磁砲(レールガン)つうわけじゃねぇよなぁ? なんでこんなシケた能力のクソガキが3位で、この私が4位なんだ!? おいっ!!」

 

「あのおばさん、順位がどうとか叫んでますわ。あの手の輩は面倒ですわよ。力の差を思い知らせるまで黙りませんから。ちょっと初春? 聞いてますの?」

 

 戦術超電磁砲があっさり迎撃されたことで、さしもの初春もしばらくあんぐりと口を開け放心状態にあった。圧倒的な優位にあったはずが、一人超能力者(レベル5)が現れただけで形勢は逆転。これが学園都市の恐ろしい所なのだ。

 

「どうしましょう白井さん!! あんなのの存在は想定外でした。まさか妹さんの超電磁砲が効かないなんて!!」

「心配せずとも、こちらには人質がおりますわ。ぐひひ、あの娘を利用すれば問題ありませんわ」

 

 黒子は下卑た笑いを残し小走りでフレンダを連れに行った。その間も御坂妹と麦野の不毛な攻防戦は続く。ただ、その距離は徐々に縮まり、今ではもうお互い声が聞こえるほどの近距離に接近していた。黒子は数人の妹達にフレンダのベッドを運ばせ、業務用エレベータを使って1階へと進出する。

 

「風紀委員(ジャッジメント)ですの。能力(武器)を下ろして跪きなさい」

 

 黒子の正面玄関に仁王立ちし、颯爽と立ての紋章をかざしてアイテムの行く手を遮った。あられもない姿のフレンダと共に。

 

「ムキノッ――!! ムキノタンケテ――――!!」

「お黙り!!」

 

 強烈な平手が、フレンダの美しい腿に突き刺さる。その痛みは麦野を見た希望からか快感へと変貌し、純白の2枚貝からは透明な雫が一滴、零れ落ちた。黒子は浮かび上がる2つ目の雫を指に塗り付けると、見せつけるようにクリトリスをこねくり回す。

 

「この娘の命か貞操が大事なら、さっさと投降しなさいですの」

 

「超風紀が乱れてるんですが1」

 

 と、絹旗が呆れたように呟いた。ギャグボールを咥えさせられ、分娩台で大股を開いたフレンダの姿に、滝壺はショックを隠し切れず顔を伏せた。麦野は俘囚の辱めを受けたフレンダを粛正するかどうか悩みつつ、黒子に向かって問答無用で原子崩し(メルトダウナー)を発射―――。

 

 すかさず飛び降りた御坂妹は乱射魔が如く連発された原子崩し(メルトダウナー)をことごとく弾きながら、黒子を庇うように着地した。

 

「9983号から10030号まではミサカの直援部隊に編入します、とミサカは指揮官を気取ります」

 

 号令と共に病院から新手の妹達(シスターズ)が現れアイテム一向に向け一斉に銃口を向けた。

 

「ミサカ10000号は概念実証妹(エルダー・シスター)の決断に従います」

「お姉様(オリジナル)の行動様式からして独断専行が多く、ミサカは最もお姉様に近いミサカ10032号の指揮能力に疑問を覚えます、とミサカ10030号は抗命権を行使します」

《ここは長女のミサカ9983号か、末妹のミサカ20000号に指揮権を預けるべきでは? とミサカ15009号は対案を具申します》

《ミサカはミサカ10032号が指揮官で良いと判断します、とミサカ20000号はミサカ15009号の提案を却下します》

「むしろちょうど真ん中の15009号が指揮を執ってはどうか、とミサカ9983号は提案します」

 

 そして始まる指揮権をめぐる争い。妹達(シスターズ)も一枚岩ではないのだ。

 

《もう、そんなことしてたら一生組織化できないって! とミサカはミサカは1個歩兵師団を編成して番号ごとに人員を割り振って見た。ミサカはミサカは師団長で、10032号は遊撃部隊の隊長にしたって、ミサカはミサカは報告してみたり!》

「しゃーねーから最終信号(ラストオーダー)に従うかよ――、とミサカ10032号は妥協します」

 

「なんなんだこのクローン人間どもはよぉ。全員ぶち殺してもいいのかァァアァァァア?」

 

 拡散支援半導体(シリコンバーン)。多数を相手に出来ない原子崩し(メルトダウナー)の欠点を補う兵器。これを使用した時、榴弾だった原子崩し(メルトダウナー)はキャニスター弾が如く面制圧兵器と化す。

 

「…………は?」

 

 だがその全ての散弾は、クローン人間たちの非力な電撃によって全て撃ち落とされてしまう。

 

「…………」

 

 麦野の動きが止まる。警備員部隊はほぼ全滅していた。銃を捨てていた黄泉川だけが、血の海の中で呆然と立ち尽くしている。

 

「あなたの攻撃、どうやら電撃使い(エレクトロマスター)には通用しないようですわね」

 

 黒子がフレンダの頬をなでながら言った。

 

「なんでこいつら動きに無駄にないんだ……能力同士がぶつかって一発くらいぶち当たってもおかしくないだろォォオオオ!?」

 

 2発目のキャニスター弾、やはり通用しない。すべてが迎撃され、空の彼方へと吹っ飛ばされる。麦野は偶然ではないと確信した。クローンはまるで一つの生物のように個々の能力を操っているのだ。

 

「ミサカたちはミサカ・ネットワークにより情報を共有していますから、とミサカはおばさんに暴露します」

「何で教えるんですの!?」

「問題ありません」

 

 プラズマの花傘をさしてふわふわと落下してきた初春が言った。勝利を確信したのだろう。

 

「ミサカ・ネットワークは私の制御下にあります。知ったところで何ができる訳でもありません」

「そっかそっか、そういう仕組みなのね。だからわざわざ第3位様のクローンを量産したのかよ。AIM拡散力場にはそういう使い方もあったって訳ね」

 

 何かを理解したらしい麦野は満足げに頷くと、悪意満面の笑みで滝壺にタブレットを投げる。

 

 その時だった。ほぼ同時に携帯電話の着信音が鳴り響いた。一つは黒子、もう一つは麦野。二人は顔色を窺うと、暗黙の休戦協定を結んで電話に出る。

 

「はいですの」

「一方通行(アクセラレータ)は片付いたから。オーバー」

「ちょっ、お姉様!! 片付いたってそれはどういう、」

 

 一言で通信を終える御坂美琴。逆探知対策だろう。

 

「あのガキ……ヤりやがった……!」

 

 麦野は麦野で携帯を握り潰さんばかりにぴくぴくと右手を震えさせている。同じ情報がもたらされたのだ。カイツ・ノックレーベンの任務は絶対能力進化(レベル6シフト)計画の防衛。核となる一方通行が消えた以上、彼女たちの戦う理由とやらがなくなってしまったわけだ。

 

「超どうしたんですか麦野」

「我らが一方通行(学園都市最強の超能力者)が、超電磁砲(第3位様)にぶち殺されたらしいわ。つーわけで……」

 

 戦いは終わった、そう初春は安堵する。緒戦は勝利に終わったのだ。

 

「滝壺、能力追跡(AIMストーカー)の最大出力でミサカ・ネットワークを乗っ取りなさい」

「やってみる」

 

 即答する滝壺。AIM拡散力場に干渉できる能力追跡(AIMストーカー)は、使いようによっては学園都市の全能力者を代替できるとも言われている。滝壺がその気になれば、AIM拡散力場で構成されたミサカ・ネットワークを上書きすることは不可能ではない。ただし……

 

「ちょっ……超待ってください。相手もミサカ・ネットワークを超乗っ取ってるんですよ。逆に滝壺まで乗っ取られたら超どうするんですか?」

 

 ……相手が初春でなければの話だが。

 

「これはチャンスなのよ絹旗。この私が学園都市の第1位に君臨するためのね!!」

「もう学園都市自体が超終わりだと思いますが。そんな順位に拘っても超無意味です」

「絹旗、あなた私に刃向うつもり?」

 

 光弾をチラつかせ味方を威圧する麦野。彼女にとって仲間とはその程度のものなのだろう。

 

「私は超冷静になってくださいって言ってるだけです。超々電磁砲(スーパー・レールガン)は一方通行(アクセラレータ)を超始末したんですよ。それに超能力者(レールガン)クラスの超能力者(クローン)に、1個師団規模の超最適化された能力者の軍隊。私達3人にどうにかできるレベルじゃないと超断言しますが」

 

 絹旗は周囲を見回しながら言った。病院の周囲は敵軍の支配下にあることはもはや疑いの余地はない。完全に敵陣のど真ん中で孤立してしまっている現状に、麦野は気づいていないのだ。

 

「へぇー、ならどうするって言うのよ。まさか、このまますごすごと引き下がって、他の暗部組織に付け狙われる人生を選べってかあ⁉」

「はい。それが超最善の道です」

 

 再び絹旗は断言する。

 

「学園都市を超裏切って超御坂美琴に超味方しましょう」

「んだとこらぁああ!」

「ですから麦野。たとえこの場を切り抜けられても、超々電磁砲(スーパー・レールガン)は一方通行(アクセラレータ)を超倒したんですよ。超悔しいですが、このままじゃアイテムは超全滅です」

「全滅ねぇ……はっ! それも面白いじゃない。滝壺、あんたはどう思う?」

「私は……よく分からない。フレンダを拷問して人質に取ってるあの人たちは許せない。だけど降伏すれば、フレンダを責めなくても済む。私は……みんなで生き残れる道を選びたい」

「滝壺ぉぉおお!」

「麦野、超多数決の結果です。超諦めましょうよ。仮に麦野が戦うつもりでも、私は行きますよ。麦野を超裏切った方が、生き残る可能性が超高いですから」

 

 麦野の血管はいくつかブチ切れていた。しかし、原子崩し(メルトダウナー)が通用しない敵軍は、この小さな仲間割れを興味津々で伺っており、2人を粛清しようものならこの人数を1人で相手にしなければならなくなる。いくら興奮状態でも、それくらいの状況判断能力は備わっているのだ。

 

「っだああ! わーったわよ。超電磁砲(ビッチ)と空間転移(淫売)に降伏すんのも、フレンダを許すのも癪だけど、今回だけはあんた達を尊重してあげる」

 

「会議は終わりましたか?」と黒子。

「ちっ……気が進まないけど、あんた達をアイテムの部下にしてあげるわ」

「それはつまり、私達の指揮下に入ると言う事でよろしいんですわね?」

 

 黒子はフレンダの胸のあたりを摘まみながら宣言する。

 

「んくっ……む、麦野! この小学生は信用できないよ。早く殺して!!」

「黙れと言っておりますの!! あなたはわたくしの性奴隷ですのよ」

「ひぃぎいいい!!」

 

 乳首を力いっぱい抓る黒子。美琴を失ってからという物、彼女は性欲のはけ口を見つけることに余念がないのだ。

 

「こっちはもう戦わないって言ってるんです。フレンダを超解放してあげてください」

「はぁ……仕方ありませんわね。初春、拘束を解いて上げなさい」

「はーい」

 

 黒子は名残惜しそうに、そして見せつけるようにフレンダの硬く閉じた唇にキスすると、フレンダを分娩台から解放してやった。

 

「麦野ぉお怖かったよぉおおおお」

 

 フレンダは主人の帰宅を迎える子犬のように飛びかかると、汚された唇を麦野の胸のあたりにこすり付ける。

 

「纏わりつかないでよ。うっとうしい」

 

 悪態をつきながらもフレンダの乱れた髪を優しく直してやる麦野。目の前で行われる美しい姉妹愛的行為に対し、初春は憧憬の念を、黒子は激しい嫉妬を覚えながら、勝利の余韻に浸ろうとしていた。

 

「来ます」

 

 とだけいって、いきなり御坂妹は戦術超電磁砲を虚空に向けてぶっ放す。鼓膜をぶち破りそうな凄まじい衝撃波が一向を襲う。光の筋はまっすぐ空を突き進み、どこかの空で複数回の大爆発を起こした。妹達(シスターズ)の部隊は全速力で走りながら病院の包囲から、外敵の迎撃体制に移る。

 

「白井さん。六枚羽が接近中です。警備員の増援も。駆動鎧(パワードスーツ)部隊です」

「学園都市が誇る最新の戦闘ヘリですか。ようやくわたくし達を自分たちの敵として認識した訳ですの」

「ちっ……だからってんなもん耳元で撃つんじゃねぇって。ヘリは私が全羽落とす。お前らは警備員(アンチスキル)をどうにかしろ」

 

 一方的に宣言した麦野はまとわりつくフレンダを従えてエレベータで上っていく。

 

「初春、妹さん。空はおばさんに任せてここを守り切りますわよ」

 

 

◆

 

 

「さて、次は責任者を潰さないとね」と御坂美琴は静かに零す。

「研究者ですか? それとも……」と佐天は口ごもった。

「それとも、の方よ。この学園都市という狂った街を作った元凶」

 

 第7学区に聳える、ひと際巨大な窓のないビル。美琴はそいつを睨みつけながら言った。

 

「学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリー」

 

 

◆ とあるコンビニ ◆

 

 

 上条当麻が土御門元春の勤務するコンビニに辿り着いたのは日暮れ直前であった。何しろそこらじゅう瓦礫だらけで道路なんてあってないようなものだったし、文字通りのコンクリートジャングルを乗り越えなければなかったからだ。命からがら辿り着いたご褒美は、土御門から貰ったコーヒー1杯だけだった。自動販売機が壊れていてせいで朝から何も飲んでいなかった上条は、水分補給には悪いと知りつつもブラックコーヒーを一気飲みした。

 

「そいつの能力名は変数証し(カムアウト・ヴァリアブル)。上やんの幻想殺し(イマジンブレイカー)と同じく、能力者にとって……、いや、科学と魔術両方にとって最悪の能力だ」 

 

 上条が美味そうにコーヒーを飲み終えたのを見計らって、土御門はそう言った。

 

「それで土御門、その変数証し(カムアウト・ヴァリアブル)ってどんな能力なんだよ」

「『神はサイコロを振らない』。聞いたことくらいあるだろ?」

「えーっと……カエサル?」

「そいつは投げた方ぜよ。アインシュタインの言葉で、つまりこの世には真の意味での偶然はないってことだ」

 

 アインシュタインは敬虔なユダヤ教徒というわけではなかったが、ともすればこの世は単なる偶然の積み重ねでしかないという結論を導きかねない量子力学を批判したことで有名だ。

 

「それが今何の関係があるんだよ」

「学園都市で開発される能力は、ハイゼンベルクの不確定性原理に基づいてミクロの世界を自分だけの現実(パーソナル・リアリティー)によって選択することで成り立っていることは知ってるな。だがこいつの能力は……その不確定性原理を全否定しちまうんだにゃー」

「不確定性原理の否定だって?! そんなことが可能なのか?」

「ああ。こいつの自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)は、アインシュタインの提唱した『隠れた変数(ヒドゥン・バリアブル)』そのものなんだ。変数証し(カムアウト・ヴァリアブル)が認識した現実は、魔術だろうが科学だろうが改変できない。分かりやすく言えば、ほぼ全能のチート野郎ってことだ。要するに、カミやんの幻想殺し(イマジンブレイカー)以外、この世の誰もそいつに勝てないって訳だにゃー」

「アインシュタインは不確定性原理の反証に失敗したんじゃねえのかよ!」

 

 と上条は意外な博識さで反論を試みる。

 

「アインシュタインには証明できなかったというだけだぜい」

「なんつーか、そいつの目的は一体何なんだ?」

「俺にも分からん。ただ、そんな奴を放っておいたら、世界はとんでもないことになっちまうだろ? そいつの思い通りの世界になるってことなんだからな」

「似たような能力を持つ奴と戦ったことがある」

「黄金錬成(アルス=マグナ)のことか? あれと一緒にしない方が良いと思うぜい。変数証し(カムアウト・ヴァリアブル)は現実を歪めるわけじゃない。むしろ逆だ。あっちの方が正しい現実ってことだにゃー」

 

 不幸だ、と上条は言いたかった。だが自分以外止めることができないなら、止めるしかないのだ。上条はアインシュタインは正しいんじゃないかと思いかける。上条にとって、世界には選択の余地など無いように思えてならないのだ。

 

「ったく、で、そいつの素性は?」

「柵川中学1年、佐天涙子。元は無能力者(レベル0)の空力使い(エアロハンド)だ」

「レベル0!? って、佐天涙子……!? 確か一度会ったことがあるぞ。んな危険な奴には見えなかったんだが。まてよ、そういやなんかインデックスが祈らせてくれとか妙な反応してたな……」

「知り合いなら話が早くて助かるぜい」

「いや、知り合いって程でもねえよ。で、その佐天涙子は何をしようとしてるんだよ」

「超能力者(レベル5)の頂点、一方通行(アクセラレータ)を殺そうとしてる。第3位の超電磁砲(レールガン)、御坂美琴と組んでな」

「ビリビリが……⁉ ちょっとまて、あいつはいきなり電撃浴びせてきたり自販機蹴り飛ばしたり電化製品ぶっ壊したり、ろくでもないことばっかりする奴だけど、他人様を殺めるようなことはしないぞ」

「忘れたのかカミやん。佐天涙子は変数証し(カムアウト・ヴァリアブル)を持ってるんだぜ」

 

 土御門はわずかに目を逸らし、視線を落として言った。彼もすべてを理解している訳ではないのだ。

 

「クソッ……御坂はそいつに操られてるってことかよ……!」

「操られてるって言い方は正しくないにゃー。聖定(さだめ)されている……とでも言うべきだ」

「じゃあ御坂は自分の意志で従っているのか!?」

「ある意味ではな。佐天涙子は科学や魔術で図れるような奴じゃない。あれはもう形而上学の領域だ」

「形而上学!? 何だそれ」

「神……なんてにゃー」

「冗談じゃねえ、そんなもんが居る訳ねえだろ」

「それは俺の信仰を冒涜してるってことぜよ?」

「そういう訳じゃねえけどさ」

「つーか神の奇跡(システム)さえ打ち消せるって豪語してるカミやんが、神の存在を否定できるのかにゃー?」

「……悪かったよ土御門。インデックスにも同じこと言われたぜ。というか、なんでそいつとビリビリが一方通行(アクセラレータ)を殺さなきゃならないんだ。意味が分かんねえよ」

「…………力を誇示して学園都市のナンバー1になりたいとかそんな理由だろうぜい」

 

 投げやりに言う土御門。真実を言ってしまえば、上条がどちらの味方になるかなど火を見るよりも明らかなのだ。

 

「御坂はそんなくだらない理由で人を殺したりしねえよ。それでもあいつが殺すとしたら―――佐天涙子の仕業以外にありえねえ」

「ま、その野望も阻止されるわけだが……すまんカミやん、電話だ。俺だ……なっ……⁉」

 

 土御門が凍る。口を半開きにして、一点を見つめ放心している。

 

「どうした、土御門」

「ア……一方通行(アクセラレータ)が……殺られちまったようだ」

「―――ッ!」

「佐天涙子と御坂美琴は、次の標的を統括理事会に設定したらしいぜよ。窓のないビルをぶっ壊すつもりだ」

「統括理事会だぁ!? 頭でも狂っちまったか!」

「急ぐぞカミやん。このままじゃ世界そのものが消滅しかねん」

「土御門、お前は部屋に帰ってろ」

「そういう訳にはいかないにゃー。カミやんだけに世界の未来を背負わせるほど、」

「お前じゃ足手まといだっつってんだよ、土御門」

 

 ごちゃごちゃうるさい土御門を背中で黙らせる上条当麻。そして最高のキメ顔で振り返る。

 

「お前を守りながらじゃ、俺が本気で戦えねーつってんだ」

「――ククッ。その顔、ねーちんに見せてやりたいぜ。ハイパー堕天使ドエロメイドコスでパイズリフェラしてくれるに違いないぜよ」

「お前いつか神裂に殺されちまうぞ」

「おーよ。世界を救って来い、カミやん」

 

 そして―――主人公が舞台に登る。

 




上条「御坂美琴の前に突然現れたわたくしこと上条当麻。いいぜ、御坂。わかんねえなら教えてやる。この物語の主人公は誰かってことを。神の奇跡なんて打ち消せるってことを。次回、幻想殺し(イマジンブレイカー)。科学と魔術が交差する時、物語は始まる――!」
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