とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》 作:エステル
マスドライバー。地上から宇宙へと物体を放り投げる輸送機関。御坂美琴は現在太陽系の中心部に向かってある物体を加速し続けていた。そう、地殻ごと引きちぎった窓のないビルである。
初春飾利の入手した情報によると、窓のないビルは
「……、何やってんだよ、お前」
ただじっと
「とても繊細な作業をしてるの。話し掛けないでくれるかしら」
上条の登場にまるで興味を示さない。いつもの美琴なら赤面してしどろもどろになって愛液を垂れ流すはずなのに。
「……、やめろよ」
静かに立ちはだかる佐天涙子。その手には金属バットが握られている。何があってもここはと押さない。そんな強い意志を上条はひしひしと感じていた。
「佐天涙子――――テメェが御坂を操ってることは分かってんだよ。御坂は俺の友達だ。その御坂を利用して、テメェいったい何をしようとしてやがる―――!!」
上条は駆け出す。全身をバネのように使って爆発するかの如く。右手には拳、
対する佐天。まだ中学1年生の女子である佐天にとって、金属バットという武器の利があれど、男子高校生を相手にして互角に戦える力などあろうはずもない。しかも相手は喧嘩慣れしている上条。女子供にも手加減なしでぶん殴るDV男。絶望的な戦い。
一切の躊躇もなく、上条の右手は佐天に向かって振り下ろされる。佐天はバットで防御を試みる。が、あまりの速度と上条の超一流の反射神経では全く通用するはずもない。
「―――――ひっ!!」
上条の、それまでにない『本気』の拳が佐天の顔面へ突き刺さった。絹のように繊細な肌がアスファルトの地面へと叩きつけられる。佐天の胸から桜吹雪のように零れ落ちる
「――――そういうことかよ。だから御坂は
「そうですよ」
常盤台の上等な制服はボロボロに擦り切れ、ところどころに血が滲んでいる。年下の女子にこれほどまでの暴力を振るうなど、上条当麻とはどこまで男女平等主義者なのか、と佐天は血の味をかみしめながら思った。
されど佐天は立ち上がる。アレイスターを生かす訳にはいかない。彼女にはその理由がある。
「
「……」
「御坂さんに実験が露見するように、初めから仕組まれてたんですよ。初春は間違っていなかった。
「テメェ、何を言ってやがる!!」
佐天は杖にして立ち上がった金属バットを構え、再び臨戦態勢を取った。その目が見据えるのは圧倒的な力を持つ上条当麻。一方通行などという弱者とは比べ物にならない佐天の天敵。
「神様とお話をするために人工の天使を降臨させる――――虚数学区ってのはですね、要するに
佐天は目に沁み込んだ血を拭ってバットを振り上げた。
「アレイスター・クロウリーが、
再び駆けた上条に向け、全力で振りぬく佐天。だが上条は佐天のフルスイングをやすやすと左手で受け止め、右手でもう一発をお見舞いする。美しい佐天の頬に突き刺さる男の拳。じっとりと返り血で濡れたそれは、まるで純血を汚すペニス。
「ごちゃごちゃと訳の分からないことばかり言いやがって……! 確かにこんな計画を承認したアレイスターは最低の野郎かも知れねえ。だけどな、佐天涙子。誰かが犠牲になって作ったハッピーエンドなんか、俺は認めねえんだ!!」
上条のバックブロウが左の頬を汚す。後方へと勢いよく吹っ飛ばされる佐天。バットを地面に突き刺し何とか体勢の維持を試みる。バットの先端がアスファルトに擦れて激しく火花が飛び散る。
「9982件の殺人を犯した共謀共同正犯を、あなたは無罪放免で見逃せって言ってるんですよ! あなたはそこらへんに殺人鬼が歩いてたら、逮捕しないんですか!? アレイスターは、これからも人を殺し続けます。そしてあなたは、そんな彼に協力しようとしてるんです。だったらあなただって共犯じゃないですか!」
「黙れ、理屈じゃねえんだよ! 法律も権利も宗教も善悪も関係ねえ! アレイスターは俺の友達だ! 友達を助けるのに理由はいらねえ!」
「友達が人を殺して回ったら、差し違えてでも止めるのが真の友情ってものでしょう! 仲良く一緒に殺し始めたら、それはもうただのキチガイです。冷静になってくださいよ。上条さんあなた、頭がどうかしちゃってますよ!」
「うるせえ! ぐちゃぐちゃ言ってねえ、三下がァアア!」
上条は吠える。もはや自分でも何を言っているのか分かっているとは到底思えない。なぜ彼がアレイスターのために戦っているのかも。それでも一つだけ上条には分かっている。佐天涙子は学園都市の破壊を目論むテロリスト。そして世界に対して何らかのよからぬ計画を首謀していることだけは。
もしもすべてが嘘で、佐天涙子が美琴を使って学園都市を崩壊させようとしているのなら、上条はそれを止めなければならない。この街には彼の友人がいる。その友人たちを破壊と混乱の渦に巻き込んだのがこの女子中学生だとすれば、一切の問答は無用なのだから。
上条の拳は、佐天の顔面に3度突き刺さった。後頭部から地面に叩きつけられ、縦に回転しながら後方にごろごろと転がっていく佐天。それでも生きているのは、やはり彼女が
頭から血を流し、それでもふらつきながら立ち上がる佐天。だが彼女はもうバットを構えなかった。だらんと両手を下げ、音を立てて地面に這わす。無抵抗。
「何のつもりだ――――御坂」
御坂美琴が、超電磁砲の照準を上条に変更していたからだ。
「終わったのよ」
冷酷に、事実を告げる御坂。
「アレイスターは太陽系最大の溶鉱炉で焼き尽くされたわ。学園都市はもう終わりよ」
「テメェ―――自分が何やってんのか、本当に分かってんだろうな」
「当たり前よ。そして世界は代償を支払わなければらない。誰もが笑って、誰もが望む最高な世界は、あんたや
御坂の手にはコイン。音速の3倍で射出されるそれは、全てを撃ち貫く意志。
「私が
カキィィィイイイン!!
超電磁砲は打ち返され、天高く飛んで行った。佐天涙子のフルスイングによって。
「涙子……何やってるのよ! どいて! そいつ殺せない!!」
「この人を殺しちゃ駄目です、美琴さん。こんな事しても、意味がありません」
「でも涙子!」
「ダーメ。私達には出来ることがあります。誰も傷つかず、それでいて二度と過ちを繰り返さないために、人類に最後の審判を下す方法が」
「佐天涙子……何をするつもりだ―――?!」
佐天は上条を見据え宣言する。彼女にこの能力が宿った日、あの初春とのキスから決定されていた事実を。
「この世の全ての女の子を、レズにしちゃうんです! 生命を冒涜する人類への裁きと、流血の否定を両立するには、人類全員を同性愛者にするのがベスト! それこそが、私が人類に下す最後の審判、
「
あまりに予想の斜め上を行く佐天の宣言に、上条は素っ頓狂な声を上げた。
「素敵よ! 涙子の
美琴は美琴でうっとりと佐天を見つめ、少女みたいに両手を組んでいる。
「テ……テンメェ、んなこと本気で言ってるんじゃねえだろうな」
上条は怒るに怒れないと言った中途半端なトーンで怒鳴る。どこまで本気なのか分からない。だが少なくとも、これだけは言える。もしも佐天涙子の計画が実現したとすれば、上条当麻は金輪際
許せない、と上条は思った。この世にどれほど悪辣な陰謀が溢れていたとして、これほど悪意のある計画がどこにあるだろう。
「んな馬鹿げた計画――――許せるわけねえだろうが!!」
上条「