※この作品はR-18です。

とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》   作:エステル

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第3話 熱膨張って知ってる?

「どういうこと?」

 

 佐天は訝し気に返事をする。なんせ家が焼けてしまったのだ。責任の所在ははっきりさせておかねばなるまい。

 

「ほら、最初と同じです。身体測定(システムスキャン)の日も、佐天さん、私にキスしましよね。今日も、佐天さんとキスした後に、火事になっちゃいました」

「ぐ……偶然でしょ、そんなの!」

「いいえ、確実に関係ありますよ!」

 

 初春は目を輝かせて断言したが、佐天の顔は暗い。期待すれば裏切られるし、仮にそんな能力があった所で……既視感バリバリのチート能力(ずる)である。

 

「あのさ初春。まさかだけど……あたしがあんたに幻想御手(レベルアッパー)使ったでも言いたいわけ?」

「違いますよ。ただ、佐天さんとキスしたら、私の能力が上がったんです。佐天さんにはもしかしたら……キスすると他人の能力を上げる能力があるのかもしれませんよ!」

「……人間幻想御手(レベルアッパー)ってこと? 初春さぁ、あたしに喧嘩売ってんの」

 

 佐天はジト目で初春を舐め回す。口調は道化染みていたが、それでも僅かな不快感が上乗せされている。

 

「いったん幻想御手(レベルアッパー)から離れてください! 今回は別に佐天さんがずるしてる訳じゃないんですから、良いじゃないですか!」

「でも他人にずるさせる能力じゃん! そんなのあたしはぜんっぜん欲しくないってば!」

「他人じゃありません、だってキスしなきゃ発動しないんですよ!? 佐天さんは他人にずるさせるためにチューしちゃうんですか!?」

「そりゃしないけどさぁ……」

 

 滅茶苦茶な詭弁を言っている気がするが、佐天には初春を論破できずになんとなく納得させられてしまう。初春は媚びるような邪悪な笑顔を浮かべて、佐天の腕に無い胸を押し付けた。

 

「ともかく、どこか広いところで検証してみましょう! 能力が上がるって最初から分かってたら、私もある程度は制御できると思うんです」

「その前に、あたしのアパートが焼けちゃったんだけど! はぁ……もうすぐ夏休みだってのに、不幸だぁぁああああああ!!」

「まあそう落ち込まないでください。佐天さんは今日から私の家に住むんですから」

「また勝手に決めて……。だいたい初春はさぁー」

「ほら、行きますよ佐天さん!」

 

◆

 

 昨日は結局、アンチスキルでの取り調べで潰されてしまった。初春は佐天の能力をひた隠しにして、能力が制御できず天ぷら油を燃やしてしまったと嘘をつき通した。実際そうなのだが。佐天も余計なことを言わず、言われるがままに隠蔽工作に付き合うことにした。

 翌日、2人は朝から第七学区にあるいつもの公園にやってきた。佐天は昨日と打って変わってすっかり乗り気で、能力を試したくて仕方ないと言った感じでウキウキしている。その様子がちっとも性的でないので、初春は嬉しいような悲しいような複雑な心境で頬を膨らませている。

 

「ちょっと待ってて、ジュース買って来るから」

 

 スキップしながら自動販売機に向かう佐天。自販機には先客がいた。すっかり見慣れた常盤台の制服に茶色の短髪。スカートの下にはめくりがいのない短パン。常盤台の超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴だ。

 

「ちぇいさーっ!」

 

 佐天の尊敬するあの御坂美琴が、妙な掛け声とともに自販機に向かって蹴りを入れた。しゃがみこんで取り出したのは、初春絶賛のいちごおでん。「はずれかー」と言いながら、ごくごくとまずそうに飲み始める。

 

「あの……御坂さんは何をやってらっしゃるんでしょう」

 

 佐天は若干引き気味に話しかけた。美琴は初めて目撃者の存在に気が付いたのか、尻尾を踏まれた猫みたいに全身の毛を逆立てて、戦闘態勢をとる。

 

「うえっ!? さ、佐天さん!? もしかして……今の見た?」

「はい、バッチリ見ちゃいました。御坂さんも、ああいうことするんですね☆」

 

 佐天はある種の共感を込めて言い放つ。皮肉めいてない純粋な微笑みだ。

 

「ち……違うの! 昔この自販機に1万円飲まれちゃって、それを回収してるんだけなのよ!」

 

 あまりにも無垢な視線に耐えきれなかったのか、美琴はしどろもどろの言い訳をかます。

 

「いいんですよ、御坂さん。分ってますから」

 

 罪深い子羊を包み込む慈悲深い声。佐天は糾弾も侮辱もせず、美琴の犯罪行為をただ理解する。美琴の良心に打ちこまれる極太の五寸釘。

 

「こ……これいる?」

 

 いたたまれず飲みかけのいちごおでんを差し出す美琴。

 

「えっ……でもいいんですか? 御坂さん喉乾いてたんじゃ」

「いいのいいの」

「"御坂さんがそうしたいのでしたら"、頂いちゃおうかな」

 

 追い打ちをかけるように塗りこまれる天然塩。天真爛漫な後輩の声も、美琴には『あたしを共犯者に仕立て上げて自分の罪から目を背けるつもりですか? 御坂さんってそういう人なんですね。幻滅しました』と自動変換されてしまう。もちろん佐天はただ気を使っただけだ。

 

「やっぱこれはナシ! 新しいの奢ってあげる」

「ほんとですか!? 御坂さんって優しい人ですよね!」

 

 きらきら輝く佐天の無邪気な瞳。ここまでくるとわざとやっているのかと疑いたくなるほどだ。

 

「な、何が良い?」

「ホットでも飲めそうな奴が良いからー……ヤシの実サイダーください! 」 

 

 贖罪のつもりなのか美琴は1万円札を挿入した。当然のように金は吸い込まれ戻ってこない。美琴は脊髄反射的に電流をぶちかます。分っていても止められないのだ。

 

◆

 

「佐天さん、そんな大量のジュース買って来てどうしたんですか? 御坂さんまで!」

 

 帰ってきた佐天はちょっとした略奪犯となっていた。初春は佐天と美琴の抱えてきたジュースを、1つ1つ降ろしてピラミッド状に組み立てる。面目を失った美琴はがっくりとうなだれたままだ。

 

「ところで2人とも朝から公園で何やってるの?」 

「よくぞ聞いてくださいました。この前初春が大能力者(レベル4)になったって言ったじゃないですか」

「……初春さんが大能力者(レベル4)に?」

 

 さも当然のように言う佐天。美琴は驚くというよりも、冗談だと受け取ったのか乾いた笑いで答えた。

 

「あれはですね、私とキスしたからだったんです! 今日はそれを検証するために来たんですよ」

 

 得意満面で言い放つ佐天。完全に開き直ったのだろう。初春は「なんで言っちゃうんですか!」と上ずった声で抗議しながら佐天の上着の裾をツンツンと引っ張る。

 

「佐天さん……あなた何を言ってるの?」

 

 一方の美琴は何から突っ込んでいいのか分からないと言った具合にぽかんと立ち尽くす。

 

「いえその……本気じゃないですよ。ちょっとしたスキンシップみたいなものですから! ほら、女の子同士胸揉んだりするじゃないですか。欧米じゃキスなんて挨拶ですし」

「佐天さん……本気じゃなかったんですか!? 遊びで私の処女を奪ったんですか!」

「うそうそ、本気だよ! あたしは初春が大好きだから!」

「私も佐天さんのこと誰よりも愛してます!」

 

 明らかに適当な言い訳だったが、初春は付き合って一日目のバカップルみたいに体をくねらせる。花飾りはどんどん成長し、今では頭上庭園とでも呼べるくらいだ。

 

「そうじゃないわ。初春さんが大能力者(レベル4)になったって、それ本当?」

 

 2人の痴話喧嘩を完全スルーの美琴。普段から変態黒子をあしらっていればこの程度の耐性は身に付くのだ。

 

「あれ、初春言ってなかったの?」

「ええ、言ってませんよ。だってぇ、あの結果には私自身半信半疑でしたし、転校の話が来た時は佐天さんがあんなことしちゃいましたもんね♪ 私の身体測定の結果(ひみつ)を知ってるのは、先生以外は佐天さんだけです♡」

 

 頬に手を当ててもじもじと恥じ入る初春。1人だけ遠い所で幸せになってしまっているようだ。美琴はますます訝し気な顔で両者を見比べている。

 

「だけど本当は私に宿った能力のせいみたいで、それを今から検証する所なんです!」

「えっと……さっき言ってたキスがどうのこうのって奴?」

「はい、私がキスしたら初春のレベルが上がるんです! はい、これ持って初春!」

 

 初春にヤシの実サイダーを持たせると、おもむろに初春の両肩に手を乗せる。初春は目を閉じると、顔を上に向けてつま先立ちになった。ゆっくりと接近する2人の唇。

 

「えっ……えぇ⁉ なにやってるの2人とも……!」

 

 自分をからかって遊んでいるのだろうとでも思い込んでいた美琴は、ようやく冗談でも何でもないこと理解した。嫌でも理解せざるを得ない。朝の公園で、友人の女子中学生2人が、息を荒げて舌を絡ませ合っているのだ。脱ぎ女に匹敵する衝撃、いやそれ以上だ。短い付き合いとはいえ、佐天と初春とは親友と呼べるほどの間柄なのだ。どう考えても挨拶でない情熱的な口づけ。白井黒子もここまでしない。いや……ある意味それ以上のことばかりしているが。

 1分ほどたって顔を離した2人の間には、名残惜し気に唾液の橋が垂れていた。

 

「あっ……やっぱりダメですっ……あつっ、熱い……ッ!」

 

 嬌声で絶叫すると、初春は噴水に向かってヤシの実サイダーの缶を放り投げる。

 爆発。平穏な朝には似つかわしくない銃声にも似た破裂音。空中にまき散らされる煮えたぎったサイダー。粉々に飛び散るアルミ缶。美琴はとっさに初春の前に滑り込み、磁力全開砂鉄の鉄槌で、破片を地面に叩きつけた。

 

「ひゃっ! だ、大丈夫初春!? 早く冷やさないと!」

 

 佐天は新しいヤシの実サイダーを両手に掴むと、器用に片手でプルタブをはじいてドボドボと初春の右手に掛け始めた。

 

「うぅ……酷いですよ佐天さん……ベタベタしちゃったじゃないですか」

「火傷するよりはましでしょ?」

「そっちに霞(ミネラルウォーター)もあるじゃないですか!」

「ごめんごめん」

「もう佐天さんってばぁ……」

「2人とも、見て!」

 

 いちゃつく2人をよそに、美琴はかなり真剣に驚いた様子で、初春のとちびらせた破片を指さした。初春の能力、定温保存(サーマルハンド)は、物の温度を一定に保つことしかできない。キンキンに冷えていたはずのヤシの実サイダーは跡形もなく蒸発。飛び散ったアルミニウム片は、マグマのように赤く煮えたぎり地面を焼いている。

 

「何ですか御坂さん……あっ!」

「おお! ヤシの実サイダーが爆発しちゃいました! でもなんで爆発したのかなぁ。ホットサイダーにしてもらう予定だったのに」

 

 駆け寄ってきて破片を囲む3人。美琴はそれを集め固めると、しゃがみこんでまじまじと観察する。

 

「ねぇ、2人とも。熱膨張って知ってる? 物体は加熱する事で体積を変えるの。初春さんが缶の温度を急激に上げちゃったことで、缶が膨張して破裂しちゃったのよ」

 

 どこかで聞いたようなセリフを背中で語る御坂美琴。佐天と初春は美琴の頭越しに互いに顔を見合わせる。

 

「サイダーが沸騰して内圧が高まっただけなんじゃ……」

「……………………」

 

 美琴は無言で立ち上がると、残骸を弾丸にして軽電磁砲(ミニ・レールガン)を放った。残骸は放物線を描いて綺麗にゴミ箱に収まる。

 

「い、いや、違いますよね! 別に御坂さんに反対してるじゃ……きっと熱膨張で爆発したんですよ! 御坂さんが言うんだから間違いありません!」

 

 ご機嫌をとるためにしどろもどろの言い訳をする佐天だが、振り向いた美琴は、何かを企んでいるかのように、にやにやとほくそ笑んでいる。

 

「ふふっ……なかなか面白い現象じゃない。もっと実験してみましょう。実験台は私が用意してくるわ」

 




黒子「お姉さま……お姉さまはどこですの!? 一体どこまでテレポートしてしまったのでしょう。まさか、本当にアルゼンチンまで」

外人「へい、チーノ、ケパソ!」

黒子「チーノじゃありせんけんけど……丁度いいですわ。ドンデ・エストイ?」

外人「ブエノスアイレス! ノス・バーモス・ア・カサース!」

黒子「いえ、結構ですわ。それにしても初春……決して許しませんわよ。私が認めた友人とはいえ、お姉さま以外の女性とベーゼをさせるなどと! はっ……もしやお姉さままで!? こうしてはいられませんの! 今すぐに学園都市に戻らねば!」

黒子「次回、幻想深化(イマジン・サポーター)。黒子とお姉さまが交わる時、わたくしとお姉さまの愛の物語が始まりますの!」
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