とある佐天の百合洗礼《レズテスマ》 作:エステル
第8話 あの馬鹿
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上条当麻。自分の能力に絶対的自信を持っていた御坂美琴のプライドを、右手1つで粉々に殺し尽くした男。あいつにはどんな能力だって通用しない。そんな男が目の前に現れれば、初春は卒倒するに違いない。
「って――あたしあいつの連絡先知らないじゃない!」
美琴はわずかばかり思案して、ついさっき別れたばかりの佐天の元に戻る。佐天は肩で息をしながら、繁華街の歩道をよろよろと彷徨っていた。
「佐天さーん!」
100%の笑顔で愛嬌を振りまく美琴。いきなり豹変した態度に佐天は不信感丸出しでたじろぐ。
「御坂さん……なんです? 釈明する気にでもなりました?」
「悪いんだけどさぁ、ちょろっと制服貸してくんない?」
自分を泣かせといて厚かましくそんな要求をする美琴。いい加減ブチ切れても良い頃だな、と佐天はプルプルと震える。
「はいぃ!? 私に裸で帰れって言うんですか!」
「そんな訳ないじゃない、この服と交換よ?」
そう言って薄汚れた自分のTシャツをパタパタと広げる美琴。
どうかしてる。そんな御坂さんの匂いが染みこんだ服をただでくれるなんて……と一瞬浮かびかけた変態レズシンキングを封印する佐天。今は美琴に媚びたって付けあがらせるだけだ。
「嫌ですよ、そんな趣味の悪い服。どこで買ったんです? だいたい御坂さんは素材は最A5但馬牛クラスなのに、調理法が小学5年生の林間学校で作るカレー以下なんですよ! 御坂さんはろくに玉ねぎも切れない小学生に神戸牛を託しても平気なんですか!? あたしは絶対に無理です。だから今度一緒にセブンスミスト行ってあげますから――」
「あのね佐天さん、時間がないのよ。これお小遣い。1万円あげるから、今すぐ制服交換して!」
ゲコ太財布から差し出される几帳面に折りたたまれた一万円札。|上から目線のいけ好かないクソッタレレイシスト《福沢諭吉》と目があった瞬間、佐天の中で何かがぷっつりと切断された。
「み……見くびらないでくださいよッ! あたしはお金なんかで服を脱ぐ安い女じゃありません! それも1万円って! 御坂さんにとってあたしの価値は1万円ってことですか!? 1万円で買える女って言いたいんですよねえ! どこまであたしを虚仮にすれば気が済むんですか!」
それでも美琴に気を使って、財布からお金だけを叩き飛ばす。ひらひらと舞う諭吉を、美琴はひょいとつかみ取る。そのしぐさがますます佐天の怒りを買うとも知らずに。
「もう……一体どうしたら交換してくれるのよ……」
「その露骨にとぼける態度をやめてくださいよ! さっきはあんなに素直でかわいかったのに……」
「はぁー、もういい、面倒だわ。少し黙ってなさい」
首筋に当てられる美琴の細い指。指先が青く発光したかと思えば……
「み、みしゃきゃうっ」
バチン……OFF。佐天の意識がカットされる。
美琴は気絶した佐天と制服を取り換えると、タクシーを拾って常盤台女子寮まで届けさせた。寝言で誰が好きだとか愛してるとか呟いてたが、生憎美琴は女には興味はない。
◆
常盤台の制服に身を包んだ美琴。どこからともなくレモンの香りが漂う。佐天の使っているボディソープの匂いだろうか。と思ったらポケットにジャラジャラと騒がしいレモン・キャンディーが入っていた。美琴は一つ舐めてみる。頭がクリアになるような、刺激的なレモン味が口いっぱいに広がる。万が一あいつとファーストキスをすることになっても、これで何とかなるだろう、と美琴は頭を桃色に染める。
美琴は第7学区の中心部へ舞い戻る。そろそろ
いるいる。見た目からしてイっちゃってるヤンキーが選り取り見取りだ。天下の学園都市を、サウス・ロサンゼルスか80年代のニューヨーク地下鉄と勘違いしてるんじゃないだろうか。てな感じで、権力大好きな美琴には、格差や不良を大量に生み出す学園都市の構造的欠陥など見える訳がないのだ。
道に迷っちゃいました、てな感じでおろおろしながら歩いていたら、絵に描いたようなチンピラがわらわらと集まってきた。美琴はいつものように店仕舞後の閑散とした商店の前に追い詰めらて、シャッターにもたれかかった。後は待つだけだ。
「君、可愛いねえ」
「うひょー、しかも常盤台じゃん」
「今からオレたちと遊びにいかない? 帰りは送ってやるからよぉ」
「ま、いつ帰れるか分かんねえけど」
「「うっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃけーっけっけっけけけけけ!!」」
こいつら、ハッピーになる薬でもやってるんじゃないだろうか、と美琴はいらぬ心配をする。通り過ぎる学生たちは、いろんな意味で危険極まりないヤンキー軍団とのパーティーに参加しようなどと考えるはずもなく、そそくさと通り過ぎていく。誰だって自分が可愛い、それが普通。見ず知らずの人間のためにそんな事する奴がいたとしたら、そいつは馬鹿か――
「ここで何やってんだよ、御坂」
ありえないことが起きた。あのド馬鹿はいつものようにいつもの如く颯爽と現れて、当たり前のように不良たちに立ち向かって……。それだけじゃない……今、名前を呼んでくれた。ティファールよりも高性能な電磁ケトルが美琴の血管を沸騰させる。
「な、何って……あんたには関係ないでしょ」
「こちとらずっとお前を探してたんだよ。なのにお前は何やってんだ!? 一般市民の皆様方を電撃ビリビリ攻撃で脅して、金でもせびる腹か!? おい、テメェら! ここは俺に任せて早く逃げろ。こいつは学園都市第3位の
ジャンキーどもが上条に向けていた敵意は、超電磁砲という単語と共に信頼に代わる。不良たちは互いに顔を見合わせあって、「仲間がファミレスで短髪の電撃使いに絡まれて半殺しにされた」だの「携帯をぶっ壊して弁償もせずに逃げやがった」だの「最狂無慈悲のビリビリビッチ」だの、言いたい放題言い始める。
「行けっつってんだよ! ビリビリをマジで怒らせると、10万3千アンペアの電撃で消し炭にされちまうぞ!」
……あれ? と美琴は首をかしげる。どうも上条の言葉に、美琴の想定するコンテクストとの齟齬を感じる。上条はどうやら、か弱い美少女に取り囲んでいたぶっている、ろくでもない犯罪者どもの味方をしているらしい。
凄まじい雷鳴が轟いた。砲兵旅団の一斉射撃を受けたみたいな音の戦場。不良の皆さんが情けない悲鳴を上げながら尻もちをつき、後ろ手でじりじりと後退する。美琴が無意識的に放った電撃の槍が、そこら中のコンクリート壁や地面を黒く焼き尽す。一発でも当たれば軽く昇天できるだろう。ヤンキーがまだ生きているのは、上条当麻の右手が彼らを守っていたからだ。
「ど、どこの誰かは知らんが礼を言う、ひゃあうぁあああ!」
「お前になら掘られてもいいぜ! いつでもここに連絡してくれよな!」
上条に名刺を挟んで逃げていくヤンキー。残ったのは上条ただ一人。問答無用の武力行使に脅えながらも、勇敢にも美琴に立ち向かう。
「で、何で私を探してたの?」
「お前なあ! いきなり電撃浴びせやがって、質問する前にまず謝ろうとか思わねえのか!」
「答えなさい」
美琴はポケットからコインとり出して……
「お詫びが飴ちゃん一個か? まあ、くれるってんなら貰うけど。サンキュー、御坂」
上条の手がわずかに指先に触れた。接触点から激しい生体電流が逆流し、美琴の報酬系をガンガン刺激する。
「うん、美味ぇじゃん。このレモン・キャンディー」
コインはない。そうだ。コインは佐天に履かせた短パンの中だ。ゲーセンに寄って回収していかなければなるまい。
「だから……」
「ん、ああ? ビリビリ、お前学園都市中に指名手配されてんぞ。一体何やらかしたんだ?」
「ふーん。で、あんたはあたしをとっ捕まえて、アンチスキルから懸賞金でも貰おうって腹かしら」
すーっと空気が変わる。お道化ていた上条の目つきが、経験豊富な役者みたいに一変した。
「心配して探してたに決まってんだろ」
唐突に真面目モードに豹変する上条。あまりのギャップの激しさに、美琴の乙女心は猛烈な勢いでかき回される。はち切れそうなほどドキドキする鼓動。美琴は顔どころか全身を真っ赤に染め、太ももをすり合わせる。
「お前がなにをやったにしろ、悪意からやったなんて絶対に思わねえ。困っていることがあるなら、俺に相談してくれよ。俺なんかじゃお前の力になれないって思われてるのかも知んねーけどさ。それでも、目の前で苦しんでる女の子の前にして、じっとしてるなんて耐えられねえんだよ! 御坂、何でも良い。俺にできることはないのか!?」
美琴の子宮がぎゅうっと収縮する。テンションが振り切れてニューロンがスパークし始める。
女同士で恋愛? 馬鹿げている! 男とセックスすることこそ女の子の悦びなのだ! 上条当麻とセックスをして子孫を残す、それが御坂美琴が生まれて来た唯一の意味ではないか! 子孫繁栄こそ人類の存在意義であり、子供を残せない人間になど生きている価値はない。子供を産めない同性愛者など死ねばいいのだ。自分は子供を産んで学園都市と日本に貢献する選ばれた
「あ、あんたじゃ力不足かもしれないけど……まあ、聞いてくれるってんなら話してあげるわ」
上条「