〈銀子ちゃん〉
「今度、デートに「嫌だよ。めんどくさい。」
いつも暇で電話も滅多にかかってこない万事屋に、ジリリリっと軽快な音で電話がなった。めんどくさそうに、電話を取ると恋人の土方からだった。
「何でだよ。久しぶりなんだから良いだろ?」
確かに、ここ暫くは逢ってないけどそれでも電話はしてたし別に無理して逢わなくてもいいと思う。
「生理なの。キツいからやだ。」
これ以上、土方の声を聞いていたら喧嘩してしまいそうで電話を切った。まだ、なにか話してるようだったから悪いことしちゃったかなぁ?
数日後、スーパーの特売があるからと新八に促されて出掛けるはめになった。マジでキツいんだけどな。そう思いながらも、トイレットペーパーの為にスーパーへと歩いていると前から見覚えのある奴が歩いてきた。
黒い隊服でしかめっ面、煙草をふかしてる土方。
気まずくて、土方の横を通りすぎる。
「こんにちは、土方さんに沖田さん。」
新八がご丁寧にも挨拶する。
「早く行かねぇと、売り切れるぞ。ペーパー。」
土方の側に居たくなくて、新八を急かす。
「じゃあ、失礼します。」
ペコッと頭を下げて、私のもとに走ってくる。
「銀ちゃん、酢こんぶ買っていいアルか?」
「1個だけね。」
私たちは、スーパーへと急いだ。
〈トシくん〉
「何かしたんですか?おもいっきり嫌われてますけど……」
「なんもしてねぇよ。俺だって理由がわかんねんだからどうしようもねぇだろ?」
やっぱり、この間のデート誘ったのが不味かったのか?生理の日取りなんて知るわけがない。
ハァ~とため息を吐きながらも見回りを終え、屯所へと帰った。
「おい、トシ居るか?」
見回りから戻り、自室で書類整理をしていると近藤が入ってきた。
「なんかあったのか?近藤さん。」
「いやな、この間商店街で福引きやってたろ?で、1等の温泉旅行ペアチケットが当たったんだよ。」
ぺらぺらとチケットを見せながら話す。
「まぁ、当てたのは俺じゃなくてとっちゃんの奥さんなんだけど、予定が入っていていけないからってくれたんだ。俺は、お妙さんにフラれちゃったけど……。で、トシどうだ?銀子ちゃんと行ってこい。」
「サンキュー。」
チケットを受け取りすぐさま銀子に電話した。
「はい、万事屋銀ちゃんで~す。ご用のある人は発信音のあとに用件をどうぞ。ピー。」
「新手の詐欺でも始めたか?お前んとこ未だに黒電話だから発信音も何も留守電機能付いてないだろ。」
「なんだ、バレた?普通はノリツッコミしてくれても良くない?………っでなんなの用件。」
声でお互いに誰だかわかる。まぁ、無視されたけど旅行の事を話した。
「旅行?」
「銀ちゃん、旅行いくアルか?私も連れてってね。」
受話器の向こうからチャイナの声がする。
「って、今の聞こえた?神楽も新八も行きたがってるけど、チケット2枚なんだろ?」
「ガキ達のは俺が払ってやるから……で行くんだな?」
「うん。」
“後で掛け直す”と伝えて旅館に予約を入れた。
「まだなのかよ。」
「ま~だ。」
万事屋の玄関先での本日何回目かのやり取りをする。あれから数日後、旅行当日。俺は、近藤さんに公用車を借りて万事屋に迎いに来ていた。ガキ達はすでに車に乗り込んでいる。今、銀子のメイク待ち。素っぴんでもいいと思うが、俺の前では未だに見せてくれない。2年だぞ?付き合って……。
「お待たせ。」
「遅せぇよ。対して変わんねぇのに……」
銀子は、いつも薄化粧でしてもしなくても一緒だと思うのはやっぱり俺が男だからなのかも知れない。
「これでも、変わるんです。」
頬を膨らませながら、怒る銀子が可愛い。これ以上言うと、本気で怒りそうなのでやめておく。
「早くいくアル。」
「そうですよ。行きましょ、土方さん。」
ガキ達に急かされ、車を走らせた。車を走らせること、2時間休憩を取りながら目的の宿に着いた。
テレビでも紹介されるような有名な旅館。看板犬が迎えてくれる。
「白くて定春みたいね。」
すかさず、チャイナが触ってる。チェックインを済ませ、仲居の後をついていく。
「神楽~置いてくよ。」
「待ってよ。」
駆け足でついてくるチャイナを見て、思わず笑みがこぼれる。
「なに、笑ってんの?キモ~い。」
すかさず、銀子からのツッコミ。
「いや、こんな家族良いなぁって。あの仲居さんには家族に見えてんのかなぁ?」
「バカ〃〃」
耳まで真っ赤になった銀子が、背中を叩いてくる。こういう照れてるとこが好きなんだよな。
「こちらの部屋になります。お食事は何時に致しましょう?」
「桔梗か。あっちには紅葉とかあるし、こういうの好き。」
どうやら部屋の名前で機嫌が治ったらしい。
「19時でお願いします。それと………」
仲居に耳打ちし、ある事を伝える。
「なに話してんの?」
どうやら、ヤキモチ妬いてるらしい。“なんでもねぇよ”と銀子の髪をクシャクシャと撫でる。
「も~う、やめてよ。」
銀子が、嫌がってるが本気で怒ってはない。
こんな俺たちを他所にガキ達は、景色を楽しんでいる。部屋を3階にして良かったと思う。景色も悪くないし、ガキ達と同じ部屋というのは少し納得いかないが……急に予約を入れたから仕方ないか。
「銀ちゃん、あそこお祭りするみたいね。」
「へぇ?マジで?」
銀子と一緒にベランダから外を覗き込む。下の川沿いに提灯がぶら下がっていて出店が転々と並んでいる。
「後で、仲居さんに今夜あるのか訊いてこようか。」
「うん。マヨラーの癖に気が利くアルな。」
「マヨラーは余計だけどな。先に温泉入るか?」
俺達は、下着を持ち1階の露天風呂に向かった。
「じゃあ、後でな。ここ混浴らしいし。」
「じゃあね。」
無視してたのが嘘みたいに、機嫌良く話しかけてくる。いったいなんだったんだよ。と、思うもあまり考えないように脱衣場に向かう。誰にも気付かれないように、清掃中の札を出しておく。
「誰も居ないみたいですね?」
当たり前だ、誰も入らない時間帯を選んだんだから。同じ女に見られるのはなんとも思わないが、男だと話は別だ。絶対、エロい目線で見るに決まってる。このメガネにも見せたくないくらいなのに……。
「あぁ。」
裸になり、風呂場に出るとすでにチャイナが泳いでた。
「あ、トシちょっと神楽叱かってよ。言うこと聞かなくて。」
“ハァ~”とため息を付きながら叱ると文句を言いながらも言うことを聞いてくれる。
「浸かる前に身体洗うよ。神楽、おいで。」
「はいね。」
二人で仲良く身体を洗い出した。こんな時でも銀子はメイクしてる。メガネは、というと隅で身体を洗っていた。
自分も身体を洗い始める。
「銀ちゃん、また胸大きくなった?」
そう言うとチャイナが、銀子の胸を揉み始める。
「ちょ、やだ。神楽、ダメ。」
「マヨラーに胸、揉まれて大きくなったアルか?」
「嫌がってるだろっていうか、揉むな。」
チャイナを叱り、銀子の隣に行く。
「お前もあんま見んな。」
胸を手で隠してる。
「今更だろ。………後で揉んでやるから。」
耳打ちすると、顔を真っ赤にした。
俺達が、風呂から上がると部屋にはすでに食事の用意がされていた。部屋に戻る際に仲居に先程の事を訊くと、どうやら今日やっているらしい。
「で、お前ら行く?」
「銀ちゃん、行きたいね。」
「僕も行きたいです。」
「なら、お前達行っといで。」
「銀ちゃん、行かないアルか?」
どうやら、俺と一緒に居たいらしい。“焼きリンゴ買ってきて”と話してるのでメガネに1万円を渡し、“時間かけて帰ってこい”と伝えるとそそくさと部屋を後にした。
「やっと、二人っきりになれたね。」
銀子が抱き付いてくる。
「あぁ。バタバタ飯食ってヤろ?もう、我慢できんし。」
「ふぇ!?ヤらないよ?」
「はぁ?何のために時間かけて来いって言ったかわかんねぇだろ?」
“なんで?”と訊くと目線を反らされた。俺の手から離れて勝手に食事を始めた。
「トシ、茶碗蒸し貰って良い?」
「あぁ。」
俺も席に着き渡す。せっかく、旅行に来たのにお預けなのかよ。黙々と食べながらもチラチラとこちらを見てくる。
「この前さぁ……」
急に話題を振られ
「生理だって言ったじゃん。だから、今日危険日なんだよね。私だってしたいと思うけど………」
「いっつも、ゴムつけてんだろ?生でヤらせて貰ったことないけど………」
「子ども出来たら困るし……」
「ハァ~、たくもう少し後で渡そうと思ったのに……ちょっと待ってろ。」
席を立ち、襖を開け隣の部屋に行くとすでに布団が横並びに敷かれていて顔が赤くなる。鞄から小さな箱を取りだし、銀子のいる部屋へ戻る。今更ながらものすごく手汗をかいてる。緊張しながらも、小さな箱を渡した。
「へぇ?なにこれ?」
「結婚して欲しい。」
震えながらも懸命に伝える。
「…………………ごめん。受け取れない。」
「へぇ?………理由聞いて良いか?」
「ごめんね、嘘ついて。」
「嘘?」
「この旅行自体、嘘なの。松平のとっちゃんが福引きで当てて本人達が行けないのはホントなんだけど、妙の奴珍しく
何を言ってるのか理解できない。
「あのね、別れて欲しいって頼まれたの。松平のとっちゃんに……。上層部の人から言われたらしくて、トシ…お前に婚約の話が出てるんだって。その話決定らしくて、断ると真撰組を解散させるって脅してきてるみたいなの。トシの相手の女の人、幕府の人らしくてトシに一目惚れしたんだって。私さぁ、未練たらしくいるつもりないしだから歯切れ良く別れよう。」
「なんだよ、それ。」
“ごめん”と言い残し、銀子は旅館を後にした。
たった一泊の旅行だったけど、その後何をするにも上の空でよく事故せず帰れたと思う。仕事も手につかず、ため息ばかりが出る。
あの日から、銀子とは1度も逢ってない。それどころか、ガキ達とも逢えず銀子の様子が全くわかんなくなっていた。
そんなこんなで、今日銀子が言っていた幕府の
「よろしく、お願いします。」
上物のピンクの着物を羽織った相手が言う。銀子が着たら似合うかなぁとか思ってしまう。
あまり会話もせず、ただの顔合わせは終わった。
本当に、あの子と結婚するのかぁ。
近藤さんとその子を見送り、自分たちも帰ろうと思った時料亭の裏側に見覚えある人物がいる。
気が付くと俺は、その人物を追いかけるため走り出していた。
「待ってくれ、銀子。」
腕を掴み自分の方に向かせた。
「ごめん。依頼で……」
無意識に抱き締める。
「俺、別れるから。だから、俺と……」
「ダメだって。真撰組が解散させられちゃう。私とは釣り合わないから。」
「真撰組より、お前が大事なんだよ。銀子。」
自然と腕に力が入る。
「トシ………」
銀子は、ただ泣くばかりで首を振ろうとはしない。
「トシ、どうしたんだ。急に走り出して………って。」
俺の後ろから、近藤さんがやって来る。
「銀子ちゃん。」
それから、どのくらい経ったか実際はほんの少しなのかも知れないが無言のこの空気が痛い。
「わかった。」
先に静寂を破ったのは、近藤さんだった。
「今回の話は、無かったことにして貰うから。」
「ダメ。真撰組が……」
銀子が震え出す。
「そのくらい、俺が何とかしてやるから。お前達がバタバタ結婚すれば、上も文句言えないだろ。まさか、離婚して今回の子と結婚しろなんて言わないだろ。お前達も真撰組も守ってやるから。暫く、身を隠してろ。何もないってのはさすがに免れないだろうからな。」
「でも……」
止めたいが、良い言葉が見つからない。俺もこんな上の命令での結婚なんかより、銀子との結婚が良い。
「じゃあな、俺はとっちゃんの所に行ってくれるから。」
近藤さんが俺たちに手を振り、遠ざかるのを見ることしか出来なかった。
その後、俺は銀子の住む万事屋に身を寄せた。
「銀ちゃん、おめでとうアル。」
チャイナが、銀子に抱きついてる。
「まだ、決まった訳じゃないって。」
「そうなのか?」
俺が思わず聞き返す。
「う~ん。どうなんだろう?本当に良いの?」
銀子の判子を持った手が止まる。俺達は、今婚姻届けを書いている。銀子が判を押せば完成する。
「まだ、迷っているのかよ。良かったとまではいかなかったけど、相手にも好きな人がいたんだし。この話はなかったってことになったんだから。」
あの後、近藤さんの懸命な説得によりとっちゃんが折れ、上に何度も頭を下げてくれた。すると、相手方にも恋人がいるのがわかり俺の写真を見て“好き”と言ったのを父親が勘違いしたみたいで、今回の騒動に発展したらしい。まぁ、彼女の言った“好き”はあくまでもファンとしてでのことで、loveではなくlikeなのだと。
「銀ちゃん、結婚っていうかこれ出したら屯所に住むアルか?」
「やっぱり、万事屋辞めちゃうですか?」
「今まで通りで良いよ。俺がこっちに住むから。」
「そうなの?」
“ガキ達の居場所も無くなるしな。お前が屯所に来ると。”そう伝えると、照れくさそうに笑い判を押した。
長くなった。こんなに書いたの初めてだ。近藤さん×お妙も書きたい。