※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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導入です。
朱乃さんを自分なりに推していければ。

※60話前後の話と合わせて微修正しました(H28.3.28)


第1話 プロローグ

 「アーシア、逃げても無駄なのよ? 貴女の神器は私達の計画の要。今、素直に戻って来るならその男を殺さないであげるわ」

 

「レイナーレ様……」

 

「アーシア?」

 

「イッセーさん、ありがとうございます。こんな私なんかとお友達になってくれて……嬉しかったです」

 

「さぁ、行きましょう。アーシア」

 

「アーシア!」

 

 公園に駆けつけた私が目にしたのは地面に膝を着き、それでも叫ぶイッセーくん。光力が込められた槍に肩口をやられ、悪魔にとっての全身を蝕む毒に身体が思うように動かないのでしょう。その叫びは悲痛そのもの。

 ……だけど、イッセーくん。これ以上の絶望なんて必要ないのですよ? 私が長年抱えていた蟠りが少しずつ無くなっていっているように。

 

「イッセーくん、大丈夫ですわ」

 

 身体強化の術式を唱え、一呼吸の間にイッセー君の後ろへと踏み込む。元々、運動神経が特別に優れているわけではない私でも、この程度の速さは出せるようになっていた。

 ……もちろん、封時結界という時間の流れが緩やかになった特別な訓練場所で、基礎トレーニングと魔力制御を積んできた成果も出ているのでしょうけど。訓練時のあの人は容赦が無く厳しい教官となりますし、あの目で睨まれると身体がゾクゾクするように……あらあら、いけませんね。今は浸っている場合ではありませんわ。

 

「あ、朱乃さん!? い、いつの間に後ろに!? え、そんな顔が近、あ、ちょっ」

 

「説明は後。まずは回復をしなければ」

 

 改めて近くで確認すると、肩口の傷は思ったより深いですね。それなら、彼からもらった魔力と共に授かった新たな力。彼の世界の魔法を使いましょう。

 

「……静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

 

 イッセーくんの傷口付近に浮かび上がる、深紅の魔法陣。そう、私の魔力が深紅の色合いを帯びるようになったのも、この魔法陣も彼の力を取り入れたからこそ。

 

「相変わらず、すげぇ……。痛みが消えていく──」

 

 そう、種族を問わずに傷を癒す『治癒魔法』。この世界では、神器あるいは『フェニックスの涙』でなければ存在しない回復手段。風属性は得意とまではいきませんが鍛錬はしっかり積んできましたし、この回復系の上位魔法も使えるようにはなりました。

 

「体力までは完全回復といきませんけれど、多少は元気になったはずです」

 

「ありがとうございます! これなら、アーシアを!」

 

「あらあら、彼女達ならもう上空ですけどね」

 

 そう、見上げればシスターを抱えた堕天使がこちらを驚愕した目で見下ろしています。腕の中のシスターも目を丸くして驚いていますね、うふふ。

 

「な、なんだその力は! 神器やフェニックスの涙以外で、傷を回復できるなど!」

 

「魔力を、生命力や自己回復力に変換しただけのことですわ」

 

 この世界の摂理からは外れたイレギュラーですけどね。種族を超えて回復もできたりすることは言う必要もありませんし、黙っておきましょうか。

 

「それより、よそ見をしていて宜しいのですか?」

 

 隙だらけですね。ほら、私と同じ深紅の小さな魔法陣が貴方の肩口に。まぁ、見えていても避けられない早さで、あの人は魔法を命中させるでしょうけれど。

 

「づっ!?」

 

 シスターを抱える堕天使の肩を闇の属性を帯びた一筋の矢が貫きます。

 激しい痛みを感じたのか、堕天使は腕の力を緩めてしまいました。物理法則に伴って腕から滑り落ちたシスターは、巫女装束を身にまとった私の先達ともいうべき方──すずかさんの腕の中へ受け止められていました。

 ちなみに、私が元々神社の巫女ということで、皆さん遊び心からか、自分用の装束を作られたのですよね。また、こうやって戦いに介入した時に、衣装の印象が強く残るからという狙いもあるようです。私達のお揃いの戦装束といったところですね、うふふ。

 

「王子さまじゃなくて、ごめんね?」

 

「は、はい、あ、ありがとうございます」

 

「そ、空飛ぶ巫女さんだっ! 朱乃先輩も巫女姿! が、眼福だぁ!」

 

 さて、彼女達と肩を抑える堕天使の間に、忍者をイメージするような黒装束を着たあの人が静かに割って入ります。あの人まで巫女装束というわけにはいかず、今回のこのチョイスとなりました。

 なお、彼女も彼も顔の上半分を覆う木製の仮面をつけています。彼が例の恐怖症を抱えている以上、救出は私を含めた他の女性陣の役割です。私がイッセーくんのフォローにいきましたから、空中戦もそつなくこなせるすずかさんがシスターの救出に回ったのでしょう。

 ただ、イッセーくんが仮面をつけるだけで、すずかさん達だと認識できていない感じが……。この巫女服姿で頭が一杯になっているのでしょうね、相変わらずだこと。あ、でも、すずかさん達は声を魔法で多少変えてますから、それもあるのでしょうか。

 

「な、なんだ、お前達は! ぐっ。人間の気配しか感じないのに、貴様らが闇の魔力を使いこなせるはずがっ!」

 

「使えるからしょうがないじゃない。あ、潜んでた男女三人……人って数え方でいいのかは知らないけど、そちらも拘束させてもらったわよ」

 

 一方、地上では私やイッセーくんの反対側から、何重もの拘束魔法で身動きが取れなくなった堕天使達を引きずりつつ、同じように仮面を装着している巫女装束のアリサさんとアリシアさんがやってきます。

 

「拘束魔法には、魔力に反応してつよぉい静電気が流れるようにしてあるから、脱出しにくい代物になってるからね~」

 

『女性達の服装は色気たっぷりの女性教師にゴジックロリータだね。それに比べて、宙に浮かんでるあの人は、王道過ぎて逆につまらないというか……』

 

 私やあの人たちだけに分かる念話だから構いませんが、聞こえたら怒りに油を注ぐ発言ですね。自由な彼女らしいですけど。

 

「ドーナシーク! カラワーナ! ミッテルト! 下賤な人間共、そいつらを離せ!」

 

 叫び声と共に肩を押さえながらも強い勢いで投げつけられる堕天使の光の槍に、彼は片手を突き出して一つの魔法を唱えました。

 

「部下思いではあるようだけど。『プロテクション』……レイナーレといったか、痛みのせいかな。随分と光力の集束が甘い」

 

 防御障壁を一枚。その障壁を貫けず、光槍は形を留められなくなり霧散していきます。同時にもう一方の手で彼は中規模の転移術式を発動させていきました。

 

「私の槍が全く効かないなんて……それに、二つの魔術を同時に操れるなんて、一体!」

 

 動揺する堕天使に構ってはいられません。私はイッセーくんに手短にこの後の対処を伝えます。

 

「イッセーくん。部長に堕天使の一件は私が対応済みだと伝えて下さい。後ほど改めて私から詳細も含めて報告を入れると」

 

「は、はい」

 

 転移にイッセーくんを巻き込むわけにはいきませんから、伝えることを言い終え彼の転移魔法の効果範囲へと歩を進めます。ああ、そうそう。もう一つ伝えておかなくてはいけませんね。

 

「シスターさんは一旦、私で身柄を預かります。部長への報告に同行させるのもいらぬ軋轢を生みそうですし。明日か明後日にはもう一度会えるように調整しますから、部長への報告に専念してくださいね」

 

「お、おっす! アーシアのこと、宜しくお願いします!」

 

 シスターのアーシアさんにもすずかさんが簡単に説明を終えて、笑顔を取り戻した彼女が転移直前にイッセーくんに声を掛けています。

 

「イッセーさん! また、明日か明後日です!」

 

「ああ、アーシア! またな!」

 

 その声を境に、私達は別の場所へと瞬く間に移動していました。連行されたレイナーレ達堕天使たちが、移動先の封時結界内に『神の子を見張る者』の総督が待ち受けているなど予想できるはずがなく、驚愕と恐怖に震える姿は私の嗜好を満たすものでしたね。

 

「お前ら。俺は確かに神器が大好きだが、『無ければ造ればいい』が信条なんだよ。大翔のお陰で一層研究が進んだしな……デバイス造りの考え方は人工神器作成と重なるところが多い」

 

「バリアジャケットの流用でメタルヒーローっぽい神器も作ってしまいましたし。いや、楽しかったからいいんですけど」

 

「おうよ、せっかくだから見せてやる! ……蒸っ!」

 

 ポーズまで取るアザゼルおじ様。ノリノリなのは結構ですが、また仕事を投げ出して来てるんでしょうね。また逃げ出してきているとシェムハザ様やお父様に連絡を入れておかないと。

 

「その掛け声はアウトです、アザゼルさん」

 

「お、そうか。しゃあねぇな、装っ! 着っ!」

 

「冥界刑事アザゼルは戦闘の際、バトルスーツを装着するタイムは僅か0.05秒にすぎないっ。では、装着プロセスをもう一度見てみよう!」

 

「おお、なんかそれっぽいな、アリシア! いいじゃねえか!」

 

「アザゼル様が恐ろしく光沢のいい電飾ギラギラの全身金属スーツ姿になってしまったわ……」

 

「すっ、すっごくキラキラしてます!」

 

 アリシアさん達の解説も入りますますカオスになる封時結界内で、アーシアさんが瞳を輝かせたり拘束されたままのレイナーレが呆然とする中、私は自分に大きな変化をもたらした大翔さん達との出会いを思い出していました──。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 鳥居をくぐった巨木の幹に寄りかかり、気を失っていた殿方。顔立ちは可もなく不可もなく平凡な青年のものだったけれど、内包する魔力に私は最初から惹かれていたのかもしれません。

 そう。本来、悪魔にしか宿らないはずの『魔力』をハッキリと彼から感じて、けれど、その存在からは悪魔の気配を感じられなかった。警戒しなければならないはずの相手。それなのに私は、同じく気を失っている小柄な女性を庇うように腕の中に抱き締めたまま気を失っていた方に危険性を感じていなかったのです。

 

「目を覚ますまでの間、すこぉしだけ味見させてくださいね?」

 

 返事が出来るはずもない青年の手を取り、指先を口に含む。彼の魔力の流れをつかみ、ストローでジュースを飲むように、ちゅう、ちゅうと吸い上げていく。自分の吐息になぜか熱が籠もっているのを感じながら。

 

「!……これはぁ、んっ……」

 

 身体を巡る感覚に思わず、身を震わせてしまう。彼の魔力が私の体内へと溶け込んで、交じり合い、一つになっていく──。

 

「あむっ、ちゅるっ……もう少し、だけ……いいですよね」

 

 身体を巡る心地良さと、ただただ気持ちいい……そんな感覚に囚われて。吸血鬼が見ず知らずの青年の血液を吸い上げ、多幸感を感じるような。味見だけのはずがその一体感を出来るだけ感じていたくて、あと少し……あと少し……とずるずると終わりを先延ばしにしてしまう。

 

「んっ……」

 

「!……私は、なんてことを」

 

 眠りについている王子様が身じろぎしたことでやっと私は我に返り、咥えていた指を離す。そして、自らの身体を巡る魔力の質が様変わりしていることにようやく気づく。

 

「これは……」

 

 元々、私は雷の扱いを得意としつつも、火や氷の魔術も使えないわけではなかった。ただ、雷を扱うようにはいかなかったはずなのに。

 

「分かる……慣れ親しんだ雷を使うように、使えますわ……」

 

 指先一つ一つに異なる属性を発現出来る。こんな細かい制御など雷でしか出来なかったのに。

 

「貴方は、一体……」

 

 彼から取り込んだ魔力が私の体内で溶け合い、とても暖かく包み込んでくれている……そう感じるのは、気のせいではないと思えていました。

 

「リアスには、絶対に言えませんわね」

 

 幸い、この神社はいくつかの協定の上で転生悪魔である私が住まうことが許されている場所。地域的には閉鎖された神社としての扱いの為、参拝者が訪れることも無く、また、張り巡らされている結界から他種族が安易に近づくことを避けるようにもなっている。

 

「……今はゆっくりと御眠り下さいね。この場所は安全がある程度保障された場所ですから」

 

 私の力で殿方を抱えるのは難しい。そして、この方から離れたくない……そんな、抗い難い衝動に囚われた私は大胆にも彼の隣に腰を下ろし、肩口に頭を預けながら一緒にそのまま一時の眠りに身を任せてしまったのです──。

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