「では、いつでも始めて頂いて大丈夫ですよ」
「お待ち下さい、ソーナ様。手合わせを始めるのが当然のような言い方をなさいますが、旧校舎から私達は強制的に転移させられたのです。まずは一刻も早く部室へと戻るべきです……!」
ルシファー様の名代であるグレイフィア様が表情を硬くしたままソーナに詰め寄るけれど、ソーナの受け答えは至って落ち着いたものです。大翔さんがああいう言い方をされたということは、解決の糸口を見つけたということ。ただ、大翔さんに解決するメリットが無いのも事実で、その辺りをすずかさんやセラフォルー様、シーグヴァイラ様と判断することになるはずです。
「無用の心配です、グレイフィア様。レイヴェル様やユーベルーナさん達に万が一のことがあれば、私がライザーの女王になっても構いませんので」
「つまり、心配は全くないということだな。ソーナ嬢」
「その通りよ、ライザー。何の心配も無用よ。レーティングゲームで実質負け知らずという貴方の実力、じっくりと拝見させてもらうわ」
「くく、まぁしっかり見ておくがいい。しかし、彼女は君からも絶大な信頼を寄せられているようだな。ますます興味が沸いてくる」
顎に手を当て片目を閉じ大げさに考え込む振りをしながら、ライザー様は何か思いついたのか、不意に提案を持ちかけようとしてきました。
「ああ、そうだ。せっかくだ、リアス。賭けでもするか?」
「何のつもりよ、ライザー」
「万が一だ。万が一、俺に降参を言わせることができたら、結婚の話は予定通り大学卒業まで待つことにしよう。その代わり、俺に膝や背中を地面につかせることも出来ずにお前達が屈した場合は即座に彼女を連れて帰り、俺のモノにする。俺が膝や背中をついたものの、降参とまでは行かなかったら賭けは不成立。……どうだ、乗るか?」
「随分とご執心ね。いいわ、ライザー。その賭けに──もがっ!?」
私もかなり苛々としていますが、リアス、容易く挑発に乗ってどうするの。流石に口をつぐませてもらうわよ?
「ライザー様、そもそも彼女の意思を無視していますわ。彼女は多国籍企業の次期後継者でもあります。即座に冥界へ、と行ける立場でもありません。部長の眷属『候補』というのはそういう意味も含めてのことです」
「人間界の事情など知ったことではないな。彼女はすぐにでも悪魔として転生し、その才を冥界という大きな世界で存分に振るうべきだ。雷の巫女──まさか、堕天使陣営に引き込むつもりはあるまい?」
……人の世界の繋がりなど知ったことではない、ですか。ああ、本当に分かり易い、典型的な貴族悪魔の考え方ですわね。堕天使陣営に引き込む? 三大勢力の枠に収まる方ではありませんわ。
「てめえ、さっきから聞いてれば勝手なことばかり言いやがって! 結局はヒロ……ムさんのおっぱいが目当てなんだろうが!」
「それも否定しないな。身体に傷がある? 彼女の美しさがその程度で薄れるものか。どうしても気になるならば、フェニックスの涙を使ってその傷跡を小さくしていくことだって出来る。それにポーンの少年、気づいているのかな。彼女の魅力はそれだけじゃない──転生前から悪魔のしきたりや歴史についても熱心に学んでいるようだし、あの度胸に洞察力、知性。俺の元に来て少し学べば、フェニックス家の経済面を担ってもらうことすら可能な逸材だろうさ」
名前を呼び間違えかけたイッセー君の叫びにも皮肉交じりに返すあたり、人を見る目はあるようですね、焼鳥様は。しかし、私達の──私の大翔さんを奪えるなど思わないことです。
「リアス、ごめんなさい。即座に賭けに乗るのもどうかと思ったものだから。でも、私も……頭に来たわ」
「ふふ、いいのよ。朱乃、ぶっ飛ばしてやりましょう。ライザー! その賭けを持ちかけたこと、後悔させてあげるわ!」
「ライザー様、リアスお嬢様……分かりました。立会人を務めさせていただきます」
「リタイアレベルのダメージを受けたかは、私やグレイフィア様で判断するしかないでしょう。生死に関わると判断すれば、強引に止めさせて頂きます。それで宜しいですか、リアス、ライザー」
「任せるわ。ソーナ、悪いわね」
「ふん、君の水の魔力で俺を止められるといいがな。俺は構わんさ」
「色々とやりようはありますから」
グレイフィア様も強引に収めるよりは、一度ぶつかり合わせた方がいいと判断して頂いた様子。さて、不死鳥の心を叩き潰すとしましょうか、ふふ、ふふふふふっ!
◇◇◇◇
「ちくしょう、腕や足、頭をふっ飛ばしてもすぐに復活するなんてよ……」
「全くだよ、本当に……攻撃自体が通じるのは分かったけど……いくら腕や首を切り飛ばそうとも、結局は回復能力を上回ることが出来ない……!」
「降参だ降参! 心臓潰しても復活してくるってどうしろってんだよ! 神様や魔王様クラスの一撃か……道は遠いぜ」
『倍加の限界回数がもっと増えればそれだけでいずれ見えてくるがな。だからこそ、お前の師匠は基礎を重視する。そういうことだ、相棒』
「おう、力がついているって実感も出来たしな。これからも頑張るぜ!」
ふふ、アーシアから聖水を借りたりせずにあえて小細工なしで挑ませたけど……毎日の鍛錬が実になっているのが良く分かったわ。実質的な被弾は無し。イッセーと祐斗はきっちりと迎撃や回避で対応してみせた。
「さ、流石に心臓を中心に上半身の大半を吹き飛ばされた時は肝が冷えたぞ……ふん、侮っていたことは認めてやる。だが、俺に膝をつかせるには至らなかったな!」
棒立ちになっていただけというのよ、ライザー。いちいち言うつもりもないけれどね。あ、グレイフィアも珍しく驚いてるわね。ふふふ、自慢の眷属達はどんどん成長しているのよ!
「ソーナ様は彼らの実力をご存知だったのですか……?」
「共に鍛錬を積む仲でもありますから。今はどうやって神器を禁手化に至らせるかが課題のようです」
さて、後は戦うメンバーは私と小猫、朱乃なんだけど……。朱乃も小猫もライザーを仕留められるかもしれない悪魔にとって天敵と言える力を高いレベルで有してるのよね。アーシア? ソーナの隣で回復係としてスタンバイしてもらってるわ。だからこそ思い切りやれるのだから。
「次は私よ、ライザー」
「ふん、リアス一人で俺を相手にするのか?」
「私は自分の眷属達を信頼しているわ。それにレーティングゲームとなれば王があんまり最前線に出るのも良くないし、こういう機会はしっかり生かしたいのよね」
「自分達の力を過信していると叱るべきか、先のことを考えて動く考え方を褒めるべきか……まあいい、掛かってくるといい」
こう言ってくれることだし、遠慮なく。取り敢えず普通に滅びの魔力を打ち出してみましょうか。
「くくく、流石はリアス。あっさり半身が吹き飛んだぞ」
腕一本ぐらいと思ったんだけど、あー、うん、思った以上に私も強くなれてるみたいね……。とはいえ、再生がすぐに始まってるから、勝つなら全身を一気に吹き飛ばすしかないか。でも、その溜めを簡単に許しはしないだろうし……。
「火傷の跡はすぐに涙で消してやる、安心して炎に包まれるがいい!」
迫り来る炎はあえて避けずに受け止めてやるわ! ……滅びの魔力を身体に纏わせることで炎はおおよそ打ち消せるわね、これは予想通りっ。
「ア、アハハハハ! 余りの炎の激しさに避けることも出来なかったか!」
露骨に食らったと思ったのかライザーは高笑いだけど、悪いけど朱乃の雷光で黒焦げは慣れっこなのよ! 言ってることはちょっと情けないけど。この間に少しでも魔力を手に集めるっ!
「お生憎様、ほとんどダメージはないわよ」
制服がもう使い物にならないし、髪も少し焦げてしまったけど、炎を完全に搔き消すまでの間にある程度魔力を圧縮出来たわっ。さあ、食らいなさいっ!
「なにっ、接近戦だとっ!」
ライザーに向かって駆け出しながら、空いたもう一方の手で魔力を連続して放つ。この程度ならどうしてもライザーは簡単に弾いてしまうけど、足止めさえ出来れば十分なのよ!
「機会は生かすって言ったでしょ!」
襲い来る炎の迎撃は纏い続けている魔力で何とか凌ぐっ! 手に集めて濃縮された滅びの魔力球を短く跳躍してから、ライザーの頭に叩きつけるようにダンクの要領で叩きつける!
「ぐぼぉっ!」
「あっつ……それにヒリヒリするし……また制服買い直しね、これは……」
イッセーが持ってる格闘ゲームの技のイメージから取ってみたんだけど、ほんとは膝蹴りで顎を浮かせつつダンクの要領で拳を叩きつける感じ。鍛錬の間の休憩時間とか就寝前に、匙君や大翔、あとは小猫や月村さんが混じって、やっているのを見ていたのよ。
しかし、流石にここまで接近すると熱にやられるわね。火傷であちこちが痛むけれど、もう少し魔力の層を熱くしないと駄目ってことね……ふふっ、これも実戦だからこそ学べること。
「はい、膝をつきましたね」
「ソーナ様同様、私も確認致しました。……無茶をなさいますね、リアスお嬢様」
「ダメージ覚悟で至近戦で滅びの魔力を叩き込むとは、な……し、しかし、俺の再生はこの程度では止められないぞ? 膝はついたが、俺はまだまだこの程度では終わらん!」
狙い通り膝はつかせたものの、心が折れたわけでもないから回復速度は早い。でもライザーが動けない間に自動迎撃状態の炎さえ何とか出来れば、ある程度魔力を溜めてそこそこの大きさの球の形にすることは可能なのよね。
「じゃあお代わりをあげるわ。はい、どうぞ?」
回復しきる前にまた消し飛ぶ上半身。炎が集まりまた身体を再構築しようとするけれど、また吹き飛ばしてあげることの繰り返し。短めの溜め時間だけど、回復を阻害する程度の威力は出せると分かったわ。
「うん、溜め時間の課題はあるけれど、魔力の集束を高めていけば使える目処が立ったわね」
普段、オーフィスやヴァーリを相手にしているとあっさり打ち消されたりするから、また集束が足りないのかと思いがちなんだけど。うん、いい機会になったわね。
「リアスぅっ! 許さん、俺をコケにしやがって!」
怒りの炎の波が私に襲いくる。なので、魔力を全力で防御に回し、黙って癇癪を受け止めて差し上げたわ。私ってなんて寛大なのかしら……なんてね。ホッとしたわ、私もちゃんと強くなれてるって思えた。朱乃や小猫に置いていかれっぱなしというのはあまりに寂しいもの。
「ライザー、私はリザインするわ。膝は付かせれたけれど、倒しきるには少し足りないもの。今の炎を何とか捌くのに魔力も消費しちゃったしね……」
溜め時間がとは言わない。勝手に魔力や実力不足と思い込んでくれるでしょう。というか、朱乃や小猫に任せないと、溜めている怒りの捌け口がどこに向かうか分かったものじゃないわ。賭けの不成立条件を満たしてさえおけば、後は檻から解き放たれた二人が蹂躙してくれる。
「な、に……? そ、そうか。実力差はしっかり理解しているのだな。ふ、ふふふ、リアスも強くなった。俺も油断しておれんな」
ライザーの強がりに笑いを何とか堪えながら、そうねと相槌を返せた私は頑張ったと思うの。アーシア、治療をお願いするわね。
「は、はいっ。火傷跡なんて絶対に残しませんからっ」
傷や痛みを癒す『聖母の微笑み』と体力面にも効果がある大翔の世界の回復魔法の併用。入浴中のような心地良さに、思わず吐息が漏れてしまう。
「気持ちいいわ……ふふっ。ありがとう、アーシア」
「あと、私のケープを羽織っておいて下さい。ところどころ制服の下が見えていてイッセーさんがエッチな目してますから……」
「ぐ……アーシア、気づくのが早いぜ」
「そんなに見たいのなら、私ならいつでも……」
「え?」
あら、アーシアってば大胆。でも、私も負けるつもりはないの。イッセーにケープの内側を見えるように身体の角度を変えて、あえて見せ付けてあげる。
「んぅー!」
ほっぺを膨らますアーシアも可愛いけれど、それはそれ。スケべな頑張り屋さんのイッセーに王としてのご褒美もあげないとね。
「さて、後は私と小猫ちゃんですわね……」
「雷の巫女と戦車の君、二人同時でも一向に構わんぞ?」
「そうですか。では朱乃先輩、焼と……いえ、フェニックス様のご好意に甘えるとしませんか?」
ああ、小猫が口角を上げた邪悪な笑みを浮かべているわ……。声を出さずに口元が去勢開始ですわ、と動いた朱乃もたいがい悪女の微笑みを浮かべているけれど。
『ソーナ、結界維持に私も回るわ。朱乃や小猫が自重を止めたら、校舎や校庭が更地になってしまうもの』
『そうしてちょうだい、リアス。二人とも笑みの下は怒りが膨れ上がってるもの』
『……ちなみにソーナも怒ってる、わよね?』
『まぁね、いい気はしないわよ。ただ……あの二人が代わりに
念話で短めにソーナとやり取りを交わして……え? やり遂げるって意味に聞こえないんだけど。困惑しつつも私はイッセーや祐斗を呼び、イッセーには私やソーナへ力の譲渡の準備を、祐斗には結界維持に集中する私達を飛んでくる戦いの余波から守るように指示を出していくのだった。