もう展開は原作と乖離してるけども。
「ふふふ。ソーナ様のそんな表情を引き出すとは、空知殿も相当人誑しであるようだ」
レイヴェルさんの付き人を務めていることで既にソーナとは面識のあるイザベラさんが、仮面で覆われていない顔の半分で面白そうに笑っていた。
「ご存知だろうか。シトリー家からの公表があって、若手有望株の中でも特に厳格な性格で知られるソーナ様を口説き落としたという相手がいると、冥界でも結構な話題になっているのだ。それも同じく有望株と称されているリアス様の女王の婚約者でもあるとなれば、気にならないというのが嘘になる」
「実は他にも将来を誓い合った方がたくさんいて、そのことを女同士も互いに認め合っている……ライザー様と私達以外にそのような関係性を築けている方達がいることに、驚きと共に嬉しくも思えたのです」
「ふふ、ライザー様とタイプは違えど貴方もハーレムの主に相応しい殿方であるようだ。こほん、話が逸れてしまったな。空知殿、ユーベルーナ、すまなかった」
イザベラさんやユーベルーナさんの言葉ですずかや朱乃、ソーナの機嫌が一気に良くなったので逆に助かった感じだ。さて、本題に戻ろうか。
「その、再発の可能性についてはあり得る話ではあります。今お渡しした精神異常を防ぐアクセサリの許容範囲を超える可能性はあります」
断定までは出来ないが、俺はまずライザーさんの精液が体内に溶け込もうとする性質を帯びている可能性を口にした。粘膜からだとより吸収が早くなるだろうということも。
「……これはフェニックスの涙が強力な治癒効果をもたらすことからの仮説ですが、フェニックスの血を引く方の汗や血液にも似たような効果はあると推測しています。ただ、涙を作成する儀式の際に心を無にするということが考えれば、輸血というのも一つのやり方ですね。ただ、血液は長期保存が利きませんから短期間に限定されるかと」
「つまり……私達がライザー様の精を頂戴することで、体力の回復を促すということでしょうか?」
デリケートな話をしていても、ユーベルーナさんは動じない。説明をしている俺の方が、変な焦りを覚えてしまっていた。というか、そろそろ辛くなってきた。自分のパートナーじゃない女性に真面目に性的な話をするとか、ほんと拷問というか……。
「血液に効果があるなら男性の精液でも同じ効果があると考えています。……その、放出の瞬間って男性も何も考えられなくなるような瞬間がありますから。ある意味、儀式で無になるのと同じことが起きているのかなと。正規の儀式を経ているわけではないので、回復効果は落ちるでしょうが、ライザーさんはこれだけ大勢の女性を相手にされるということもあって、一般的な悪魔男性よりも精力が強いのでしょう。ゆえに、その精液自体も一般的なフェニックスの男性と違って、涙と同等量の痛みの除去、体力回復だけでなく、か、感度の上昇とか、催淫効果も付与されている、のではないかと……」
そこまで口にしたところで、後は流れるようにすずかに頭を包み込むように抱き締められて静かに撫でられていた。
「ひろくん、もういいよ。後は私達がやるから。私達以外の女の子にそれ以上頑張らなくていいからね」
自分でも気づけないほどに身体は冷え切っていたらしい。すずかの温かさに包まれながら、俺は意識が落ちていくのを感じていた。
◇◇◇◇
「推論ではあるが、おおむね当たっているだろうな。ここに来る前のこいつ等は確かに異常なまでに俺に固執していた。俺の精が女を魅了するのに抜群の効果があるなら女好きの俺にはありがたい話だが、ただ過度の依存を誘発するとなると喜んでもおれん。俺の身は一つしかないし、正直限界に近い状況でもあったからな」
大翔さんが意識を失ってから、再び焼鳥さん──もとい、ライザーは口を開きます。自分が感じていたことと、大翔さんの推測が近しいことを認めていました。
「密封が可能な容器に精液を採取して頂ければ、こちらで詳細な調査は進めて、その結果と対処方法を講じた上で合わせてご連絡致します」
そのライザーに対応するのはすずかさん。結局のところ、詳細な原因は確かに調べなければなりませんが、私達の体内とユーベルーナさん達に起こっている事象はほぼ同じものでした。
ライザーの精液に強烈な魅了成分が含まれており、自分だけを強く愛する女性を大量に発生させる条件が整っていること。そして、彼の精液そのものへの依存が進むため、ライザー自身しか鎮めることが叶わないこと。
私達の状態と置き換えれば、つまりはそういうことなのです。私達の場合は手を触れ合って魔力を受け取り合うところから始めたように段階を踏んで、加えて自分に対する影響を説明された上で自分の意思で受け入れてますから、依存が深まるのにも自覚を持った上でという違いがありますけれど……ただ、特定の男性しか受け付けなくなるという終着点は彼女達も同じでしょう。
「……なんとも君は物怖じしないな。生々しい話を持ち出すような育ちにも見えないが」
「私にとってひろくんとの営みは愛おしく、互いに幸せを再確認する大切な時です。愛する男性に目一杯愛してもらえる幸せをどうして隠す必要がありましょうか。とはいえ、その詳細な内容は私だけがこの身と心で覚えて、誰にも触れさせたくないのですけど」
「そして、彼以外は眼中にないから、恥ずかしがる必要も無い……か?」
「ええ、ひろくん以外の男性にどう思われようと知ったことではありませんし。こちらを害するつもりなら、存在ごと消し去るまでです」
淡々とした声の調子の中に、大翔さんや私達に手を出すつもりなら容赦なく排除するという明確な意思を乗せる。直視できずに目を逸らすライザーだけではなく、周りの眷属さん達も目を逸らしたり一歩後ずさる様子を見せるあたり、すずかさんの発する威圧感はまるで部屋の温度を一気に下げたように感じてしまいます。
「……君は自分の容姿を自認しているだろう。君だけじゃない。他の女性陣も付き合う男性を選べる、そんな魅力にあふれている。そんな君達が惹かれたハーレムの主が、女を怖がっているのか? そうとしか思えない反応だった」
「ええ、やっと私達にここまで心を預けてくれるようになったんです。……ここまでやっと積み上げてきたんです」
すずかさんの手は愛おしい大切な宝物を扱うように、膝枕の上で眠りについている大翔さんの髪に触れていました。今回の一件に立ち会うことを引き受けてくれたのも、私がリアスの女王であり、小猫ちゃんがリアスの戦車であるから。リアスの問題に私達が巻き込まれると分かっている以上、逆に積極的に関わって解決策を探るという話だったのです。
「今でこそ初対面であっても女性と話すこと自体に問題はなくなりましたが、その後で急に体調を崩すこともありますし、私達の誰かがついているだけで顔色が随分と違ってきます」
「……申し訳ありません。空知さんには辛いことをさせてしまいましたね」
「いえ、ユーベルーナさん達が気にされることではありません。ひろくんが引き受けると決めたことですから、ギリギリまで任せると決めていました。……彼の進む道を支えるのが私の生き方ですので」
大翔さん以外の男性に目を向けるつもりはそもそもないし、これからも彼と共に生きる。すずかさんは私達を代表する形でそう明言したのです。
「それと……もう一つ申し上げておきますが、私達もユーベルーナさん達もそうですが万が一、別の男性に抱かれるようなことがあれば、遠からず人格崩壊や突発的な自殺を起こすものとは思っていてくださいね?」
そして微笑みを浮かべたまま、すずかさんはこの場に爆弾発言を投げ込みます。私達だけでなく、彼女達も?
「り……理由を聞こうか」
「私達はひろくん、ユーベルーナさん達はライザーさんの魔力が身体に非常に馴染んでいます。溶け込んでいると言っても差し支えないでしょう。それぞれの伴侶に触れられ、愛され、貫かれ、子宮に精を浴びせられることを身体が求めていると言っても間違いないと思います。少なくとも私はいつでもウェルカムです。これが行き過ぎると、朝昼晩関係なくどこでも何回でもみたいな感じになったりするわけですね」
「お、おう」
すずかさんのストレートな物言いにライザーだけでなく、あちらの眷属の何人かも顔を痙攣らせます。シーグヴァイラ様も真っ赤になってしまった顔を伏せてしまいました。
「身体も、心も魂に関わる次元まで──ただ、一人の男性だけの女なのです。身体は既にそう認識しているわけですし、釣られた心が唯一の愛しい人だけのものだと思えば、身体はさらに認識を強めます。相乗効果を折り重ねその想いを積み上げた先には、他の男性が全て能面──同じ顔にしか見えなくなる女の出来上がりです」
誰かが唾を飲む音が聞こえます。すずかさんは落ち着いた口調で話しているのに、場の全てを支配していました。あ、能面の見本をソーナが何処からか取り出したタブレット画面に表示させていますね。何だかシュールな雰囲気になってしまいましたよ。
「まあ、ここまで行きつくかは別としてもです。確かに身体は快楽に慣れてしまっていて反応しやすいかもしれませんが、もしもがあったとしたら強い違和感、嫌悪感……激しい自己否定、そして相手への強烈な殺意は抱くのではないでしょうか。大切な人を裏切ってしまったこと、防衛反応で偽りの快楽を認識する身体。自分の身体と心が乖離して狂う前に相手を塵に変え、その上で自分の存在を抹消しようとする……本気で男に惚れ抜いた女はそれぐらいはやってのけますよ?」
「同意しますわ。ライザー様以外の殿方にこの身体を好きにされるなど……想像するだけで背筋が凍るようです」
すずかさんのこんな一面に慣れっこの私とソーナ、向こうではユーベルーナさんぐらいですね、態度を変えずにいられるのは。
「う、うーん。そこまでになるかは性格にもよるんじゃないだろうか。まあ、魅了状態の自分ならどうだと言われると何とも言えないが」
「拘束などをされて他の男性に犯されるぐらいなら、体内魔力を無理やり暴発させて相手ごと屠りますね」
「私は強引に光力で自分を焼き尽くすでしょうね。ソーナにとっての魔力と私にとっての光力は同じようなもの。元々体内にあるものですから暴走だけなら思うだけで可能ですし」
「私はそうなる前に相手を消滅させるかな? 気は扱いに慣れてくると、身体のどこからでも発動できるから」
動揺を隠せないイザベラさんの発言に対しては、私達はそれこそバッサリ切り捨てるような感じでお答えしました。制御する必要が無いので、意識が少しでも残っていれば暴走させるだけなら何とでもなりますから。これも自分の力を正しく認識して扱うようになったからこそ出来るようになったわけですけれども。
後は私達全員が転移魔術の理論や実践が可能になったことに伴い、その意思一つで海鳴への転移魔術を発動できる、ハートの形を象った紋様を大翔さん以外の男性が決して見られない場所に刻んでいます。数ある自己防御対策の一つですね。
水着着用も問題ないように不可視の切替が出来る処置も済ましていまして、大翔さんには事後報告を行いました。……反対されるのを分かっていましたし、報告した時は私達は揃って身体に消えない傷をつけちゃいけないと懇々と叱られました。みんな大切に思われているのが嬉しくてほっこりしていたら、さらに叱られちゃいましたけどね。
「あ、あれ? 私がおかしいのだろうか……?」
「しっかりしろ、イザベラ。この男のパートナーはそういう性質の女が揃ったということだ。だが、手を出そうにも命をかけてという女ばかりというのは十分理解したよ」
「ご理解いただけて、何よりですわ」
私もすずかさんもソーナも三人で調子を合わせて微笑んでみせる。その様子に身を震わせたライザーは粗暴な愚者では無かったようですね。
「……シーグヴァイラ嬢。貴女もこの集まりに入るつもりなのか?」
「そのつもりなのだけど。まだ、ヒロの心の準備が整っていないものだから順番待ちといったところね」
「君の方は準備万端というわけか……。君達の敵にはならないように気をつけるとするさ」
◇◇◇◇
「お前は……心が強いんだな……」
「フェニックスさん……! しっかりして下さい、瞳が虚ろになってますよ!?」
「お前の女達は何かしら心に傷を負っていたり、生まれながらの重責を背負うものであったり、拠り所を求めるのも無理はない事情を持つ者が殆どだと聞いた。その全てを受け止め切った上で幸せだと憂いのない笑顔で言い切れるお前は……本当に強い」
封時結界の中で眠りから覚めた俺は、なぜかライザーさんと二人で話をしたいと言われて結界解除前に話す時間を作っていた。眠っていた間に待ちきれなくなったセラや、それに便乗する形で黒歌に白音を始めとして、もう一方の部屋の皆がまとめて結界内にやってきていたり、グレモリーさん達の代行で街の見回りをしていた椿姫や助っ人で手伝っていたフェイト達が結界内への転移で報告に来たりで、普段の騒がしい日常に戻ったことにより、俺もスッと目が覚めたわけなんだけどな。
なお、主な目覚めの要因となったセラはすずかのお説教を受けている。あと、グレモリーさん達を完全に置いてきてしまってることについても突っ込まれていた。
「あのお前の正妻格の月村嬢……真っ向から魔王のセラフォルー様を威圧して抑え込んでいるが、あの覇気はグレイフィア様も冷汗をかいていたからな。最上級悪魔も真っ青だ。後から合流してきたシトリー眷属の女王もリアスの女王と同じく、お前に忠実なのはすぐに分かった」
聞けば俺が眠っている間に、すずか達とユーベルーナさん達がお互いが特有の環境下──ハーレムを構成する女性達として、共感を持ちながら会話に花を咲かせていたらしい。その場自体にはライザーさんも途中まで同席していたが、女だけの内緒話となるために解放されたのだそうだ。
「……その、ユーベルーナは元々、情が深いというか俺を立てる部分が強かったんだが、他の者についてはそこまででも無かったわけだ。愛してくれているとは感じられるが、ベッタリというわけでもないといったところでな。ただ、ここ最近は肉体関係を持つ眷属が全員俺への依存を深め、ユーベルーナに至っては俺を神格化するような勢いだった」
元に戻って正直ホッとしたのだという。なお、俺が目覚めるまでの間にユーベルーナさんの奉仕により、ライザーさんは別室でしっかり精液の採取もされたらしく、その時のユーベルーナさんの目がまた行き過ぎた時の彼女の目を思い出させるように澱んでいたのだと嘆かれた。
「お前との繋がりを強く求めるからか、毎晩望むなら全員の相手をするとも言っていたが、お前の女も十人を超えるのだろう? 時間の問題が解決出来てしまうがゆえに、体力などの消費が洒落にならないだろうに。確かに男冥利に尽きるといえばそれまでだが……」
「応え続けられるように鍛錬を欠かさないだけです。幸い、長い寿命も得られたことですし時間についてもある程度の引き伸ばしが効く。それに……本当に幸せだと腕の中で心から微笑んでくれるひとときは毎回その度に心が震えますから。男を選び放題のはずの美女や美少女が俺と一緒に過ごして幸せだと本心で想ってくれている。だから明日も頑張ろうって、そう思えるんです」
すずかはむしろ頑張らなくてニートになるのはいつでもウェルカムという、俺が駄目男になるのを半ば望んでいる節もあるので、すぐに甘やかそうとしてくるんだけどな。そうなってもみんな今更離れられるわけもないからって悪い顔してたけど、すずかの俺への評価は採点がだだ甘なので話半分に聞くぐらいでちょうどいい塩梅だ。
それに俺もすずかには相当甘えている。強い依存をしている自覚もある。仮にすずかを失ったら、俺も生きる意思を失うと確信できるぐらいには。出会った頃は月村家の令嬢で然るべき家に嫁ぐ、あるいは家格の高い婿を迎えるまでの間、夜の一族であることに怯えていた彼女の支えになればいいと考えていたのに……完全に心身ともに彼女にのめり込んでしまっていて、その温もりから二度と出られそうにもない。
すずかは守るべきパートナーだけど、俺の精神を守ってくれる女性でもある。アリサもアリシアと紗月も同じような関係で、だからこそ三人、いや四人は別格で、その中でも特にすずかへ依存してしまっているのが俺の実情だ。