※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第11話 拘り

 朱乃さんに手を取られても、自分の思考に埋没して認識出来ているのかいないのか怪しいひろくんだけど、魔力と共に『憑依』能力の詳細が流れてきているということは、並列思考の全てが自分への問いかけに当てているわけじゃないみたい。

 朱乃さんのお母さん・朱璃さんの姿を捉えられるようになった私は、アザゼルさん達の元へと戻ろうとしていた朱乃さん達の足を止めて、ひろくんが元に戻るまで待つことにしました。

 

『朱乃に言われて、初めて恋愛感情で自分を見ていると認識したのねぇ……朱乃、かなり分かりやすい態度を取っていたと思うんだけど』

 

『友好的とは思っていたけど、朱乃さんの感情は知人としてのものと捉えていたと思います。基本、女性の好意は信じられない人ですから、恋愛感情があるとは初めから頭に無かったと思います』

 

 なお、朱璃さんとのやり取りは念話でのもの。誰かに憑依していない時は霊体だから、思念をお互いに直接やり取りする感じだったりする。

 

『すずかさんも確か、何年もかかったと仰ってましたよね?』

 

『うん。完全に信じてくれたのは十七の時だから、十年近くかかったかな』

 

 好意自体は私やアリサちゃんが魔導師になった九歳の頃に信じてくれたから、二年ぐらいで済んだものの、恋に恋している状況だと思われている期間が長くて、私の発情期と合わせて、本気の恋だと身体ごと思い知ってもらったのが小学五年の時。

 さらにそこから『自分よりもっと相応しい男性に心が惹かれて、ちゃんと離れていくはず』という、自己評価の低さと女性を信じ切れない猜疑心の相乗効果──うん、嫌な効果だけど、それが合わさった変な概念を壊しきったのが高校二年。つまり、去年のこと。

 

 手を伸ばして裏切られるのは二度とごめんだという思いからか、自分から女の子を求めることに対して、ひろくんはどこまでも頑なだった。前世からひろくんの妻であり続ける紗月さんと、一体化しているアリシアちゃんだけが例外で。

 私はひろくんの血に最初から完全に酔っていたし、どう信じてもらうのかそれしか考えてなかったし、ひろくんに拒絶されたら自ら命を絶つだけと決めていたから、迷いもなかったけど。

 アリサちゃんは私という存在がいなかったら諦めていたかもしれないと漏らしたこともある。信じてもらえるまで身も心も捧げ続けるだけと言い切る競争相手……うん、私のことだけど、そんな強烈な相手がいることで逆に反骨心が燃え上がっていたらしい。だから、アリサちゃんも正式な恋人関係になる前に初めてを捧げたのだろうし、それが覚悟を固めることもなったのかなと思う。

 

『十年、ですか』

 

『十年だよ。ただ、それ以上かかったにしても、私はひろくんの隣にいて、彼を支えることだけを考えていたよ』

 

 ひろくんも偏屈な部分があって、私もひろくんに偏執し続けただけ。傍から見れば、歪んでるようにしか見えない二人。でも、私は幸せだし、今のひろくんも幸せを感じてくれていると信じられる。

 アリシアちゃんと紗月さんはひろくんの歪さを知っていて、ずっと見守り続けると決めているから、あの二人にしたって、ひろくんしか見えてないし見る気もない人。その関係性に踏み込んで、性格的なものもあって退路を断ったのがアリサちゃんだっただけのこと。

 

『すずかさんはどんな状況であっても大翔さんを支え続け、隣で歩き続けることが貴女自身の生き方になっているのね』

 

『ええ、朱璃さん。これが私自身の生き方ですから』

 

 ひろくんが好きなものは私も好きになる。ひろくんが守るべきものは私も守る。ひろくんの敵は私の敵だ。だから、ひろくんが朱乃さんをパートナーとして受け入れるのなら、私も家族の一員として受け入れる。彼の一番は譲らないし、朱乃さんに奪えるなんて思っていないから。

 

 ──だって、アリサちゃんにしてもそうだけど、ひろくんに『狂って』はいないもの。ただ、紗月さんだけは例外。あの人はどこまでも私のライバルで一番の強敵で親友で大先輩。ひろくんとは違った意味で、私にとっては別格な人。

 

『……ただ、朱乃さんが少し羨ましいな。今のひろくんは、私の時みたいに子供の恋愛だからと一蹴する歳でも無いし、朱乃さんの気持ちを信じてもらうこと自体はそう難しくないと思うから』

 

 ただ、ひろくんが受け入れるかは別の話。朱乃さんにこの数日間、尽くし続けているし、朱璃さんの一件も必ずいい方向に落着させるだろうけど、ひろくんは朱乃さんからの見返りを特に求めていないもん。

 ひろくんは助けられる力がたまたまあって、日程としても余力が取れたから、手を伸ばしただけ。ボランティアに近い感覚だし、朱乃さんに礼を言われれば十分と思ってるだろう。だから、朱乃さんの告白に対して、強く困惑している。

 好意についてもそうだし、一生を支えたいと思うぐらいの強い思いを持った要素なんてどこにあったのか、ひろくんには全然分かっていないはず。

 

『うふふ、大翔さんのことです。早く冷静に戻るべきだ、一時の気の迷いでそんなことを口にしてはいけない──そんなことを言いそうですね?』

 

 ……ひょっとして、これは認識を改めるべきかな。朱乃さんは想像した以上に、ひろくんを理解しているのかも。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 すずかさんの瞳は時折、完全にひどく澱んだ色に染まるように見えます。私だけがそう感じるのかもしれませんが、言動からしてもそう外れてはいないと思うのです。

 すずかさんは、大翔さんでなければ幸せになれない人。本能でそれが分かっているから、何が在ろうとずっと隣にいて、支え続ける生き方を貫いている。頑なだった大翔さんの心に届いたのは、ぶれない彼女の言葉や態度だったからこそと思うのですが、アリサさんと比べれば、彼女の大翔さんへの拘りは数段上のものです。

 

 紗月さんとアリシアさんは、茶目っ気が入ったお母様と印象が被るところがあって、大翔さんの隣でいられること自体が幸せだというのかしら、大翔さんとすずかさん達との関係や繋がりも含めてどうなっていくのか、静かに見守っているところがあります。

 

『ただ、私は……大翔さんの魔力を受けて、転生とはいえ、魔力そのものが個々の生き方に反映される悪魔にとって、他の男性など考えられなくなるには十分だったんです』

 

 私も自分自身、同年代の異性が苦手でありながら、重たい女だという自覚もあり、一度、誰かに惹かれてしまえば、縋りついて離れないのかもという予感がありました。相手に恋人がいても諦めないような、そういう類のものを。

 

『魔力の影響をより強く受ける、悪魔の私です。彼の魔力は、私の心全てを奪うのは十分だった。様々な力の属性を内包する安心感、暖かさ、優しさ。奥の方には、漆黒の昏い魔力も見え隠れしていて。優しさだけじゃない、荒々しさもある、濃厚な魔力。魂を捕まれるのはこういう感覚なのだと、今なら分かりますから』

 

 すずかさんは魔力とは違う形で、大翔さんの色鮮やかな内面の色調に心を囚われたのではないかと思います。アリサさん達にしても、大翔さんのこととなれば目の色が変わりますから、すずかさんほどにないにせよ、自分の心が大翔さんに強く囚われていて、そのことに喜びすら感じている一面があって。

 

『うふふ、あの魔力に包まれながら、大翔さんに抱かれたら、一時も離れたくなくなるのかもしれませんわ』

 

『……朱乃。悪魔の身とはいえ、ちゃんと対策はしてね?』

 

 実はお母様、学生時代からお父様と付き合っていたという裏話があります。なので、こういう言い方になるのも無理はないのです。

 

『ええ、子供が出来たからなどと、そんな脅しのような形だなんて真っ平ですもの』

 

 先程の告白の際には、流石に口にしませんでしたが、大翔さんの子供なら喜んで産ませて頂きますけどね。愛する人の子供を腕に抱くのは、女の本懐の一つと思いますから。

 

『あ、あはは……』

 

 そんなことを考えていると、何故かすずかさんの瞳が泳いでいます。初めて見る珍しい表情かもしれません。

 

『ああ、アリシアちゃんに聞いたあの時期のことかしら?』

 

 それは初耳です、お母様。すずかさんの弱点ならば是非押さえておきたいと思うのですが。

 

『隠してもいずれ分かることだし、私から言います……あのね、私の一族の力は話したと思うけど、日光とか十字架とか聖水が効かない特殊変異の吸血鬼もどきなの。だからこそ欠点もあって、その欠点があるからひろくんも私の一族の力だけは朱乃さんに渡していないんだ』

 

『……それは、どんな欠点なのですか?』

 

『……女性限定の弱点なんだけど、妊娠する確率がすごく低いの。それを補うように発情期があって、その時期は子供を授かりやすくなってまして、その』

 

『まさか、初めてお会いした日のアリサさんの状態が……』

 

『血筋そのものを受け継いでるわけじゃないから、一族の力を複写しただけのアリサちゃんとかは二、三日で収まるんだ。衝動もそれほど強くないよ。だけど私はその時期に入ると、一週間はまともに動けなくなる感じなんだ』

 

 子孫繁栄のための仕組みを女性側だけに負わせている……そんな感じもするけれど、一人、二人と出産をするごとに、その衝動も出にくくなっていくのだそうです。

 

「それでは、その時期はずっと部屋に篭ってなければならないのでは?」

 

 思わず、声が出てしまって、改めて念話で言い直す私です。弱点というか、それは女性としてもあまりにも辛いものではないでしょうか。

 

『それでも日常生活は送りたくて、ひろくんには色々とご迷惑をおかけしたりしてます……学校に隠し部屋を作ってもらったのも、寄付額が大きい実家の力があったからだし……』

 

『え、ええと、答えにくかったらいいのだけど、すずかさんはその時期はずっと耐えがたい衝動に襲われているのかしら?』

 

『一度抱いてもらえば、一番酷い時期でも二、三時間は持ちます……ただ、それ以上は厳しくて。それと、私、自己暗示なども含めて、そういう衝動はひろくんにしか向かないようにしてるので、余計に一人に全部向かってしまうから、えっと』

 

 動揺が見え隠れしているお母様の質問にも、覚悟をしているのか、すずかさんの答えはハッキリしていました。大翔さんの隠れた一面を見せられた感じですね。その状態のすずかさんを受け止め続けているということは、つまり……。

 

『私の特性を知ったひろくんも対策をしていてね、魔力を精力に変換する術を覚えたり、避妊の魔術も万全にしてくれているし、私の力を応用した、感覚同調とかも使って……一度で、深く深く満たしてくれて、かつ、何度でも付き合ってくれるから……うう、言葉にすると、私ものすごくエッチな子だよね……』

 

『つまり、安全にエッチを楽しめて、かつ、複数の相手を同時に満たすことも出来る王様、みたいな感じなのかしら。あの歳で恐ろしい子ね、大翔さんは』

 

 私、大翔さんから離れる自分が全く想像できなくなってきました。心だけでなく、身体も深く充足させてくれるパートナー。これは離れられるわけがありません。大翔さんの住む街に永住する方法をリアスの女王という立場も含めて、本気で考えなくてはなりませんね。

 ただ、大翔さんが異性関係に対して、基本は受け身の方で良かったと安堵もしました。自分から積極的に行く人なら、彼の周りはそれこそ怨念と情念が漂う後宮や大奥の世界となりかねませんわ。

 

「はっ! ご、ごめん、完全に考えに没頭してた! 待たせてごめん!」

 

「大丈夫ですわ、私が驚かせてしまったのですから。さ、参りましょう?」

 

 戻ってこられた愛しいこの方は、悪い女に触れさせては絶対にいけない。改めて、強く決意した私は、大翔さんに微笑みつつ、すずかさんだけに念話を飛ばしました。

 

『すずかさん。私、他の女悪魔を大翔さんに近づけませんわ。だから、もっと厳しく自分を鍛えます』

 

 嬉しいことに、大翔さんは意識していないかもしれませんが、私が堂々と手を引いても彼の身体に拒否反応が現れていないのです。

 

『すずかさんがカバーしきれない時間や場所は、私が大翔さんの盾になります。海鳴にもついていきます。大翔さんに認めてもらえるまで離れるつもりはありませんし』

 

 堕天使の力も克服して、私のものにしてみせる。大翔さんの傍に侍るには、外面内面ともに強くしなやかに美しくなければ。不用意に近づこうとする女を、すずかさんやアリサさん、私の姿を見ただけで意気消沈させられるぐらいに。

 その前に、彼の特別な存在にして頂く必要はありますが、そうしてもらうまで離れませんし。ですので、その先のことだって今から考えておくのです、うふふ。

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