※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第110話 晩酌という名の定例会

「明日の早朝と夕方の鍛錬、私も参加するわっ。だから今は我慢しないっ! 嗚呼、美味しいっ……!」

 

「アルジールさん、その通りよ! 食べた分飲んだ分、動けばいいんだからっ。それにしてもヒロ達はどうしてここまでお酒に合うものを出してくるの……!」

 

 宣言の後にお母様が飛鳥さんに注がれたグラスの中身をぐいっと飲み干し、シーマリア様が目の前のキスの天ぷらを一口、二口、三口と平らげていく。『悔しいっ、でも食べちゃう呑んじゃう』だよね、でも美味しいものは美味しいからね仕方ないよ☆

 

 確かにひーくんは酒呑みが好きな味付けをよく分かってるというか、こういうおつまみ系を作る時は濃い目の味付けにまとめる時が多いんだ。もちろん作るおかずによるから何でも濃いわけじゃないんだけど。生ビールが普通に出てくる月村家に慣れ過ぎてるね、私達。

 そんな晩餐を楽しめることもあって、ひーくんの結界内時間は多忙な旧七十二柱の当主夫妻に大好評☆ 明日のことを気にせず宴を楽しめるし、ゆったりとした休息も約束されてるからと、集まる度にひーくんへの評価が上がってる感じがする。というか上がってるよね。胃をがっちりつかめるのが強力な武器になるのは、旦那さんに限った話ではなく、両親にも有効だったわけだ☆

 

 グレイフィアちゃんの一件を受けて、正式にサーゼクスちゃん達に抗議をする手筈を組みつつ、アザゼルちゃんもがっつり噛んで、ひーくんに余計なことしたら現執行部から手を引くぞとまで言っちゃう方向でやるよと大公様達は私達に対して言い切っている。両家とも自領が豊かなこともあって、実際言い切っても何とかなっちゃうところもあるし。細かい部分は滞在中に詰めていくって言ってたけどね。

 名目上は家格ナンバー2、実質は中間管理職の大公職なんざ惜しくはないだとか、自領の発展がよっぽど大事だと大公様もお酒の勢いもあるけど思い切り言い放ってたもんねぇ……。私同様、腹に溜まってるものはかなりあるみたいで。

 

「アルジールにしてもシーマリアさんにしても、気にするほどのものかね……? 君も連れ添って随分年数が経ったが、相も変わらず素敵なのに」

 

「ふふ、そう言ってもらえるのは嬉しいけれど油断は大敵なのよ、あなた。いくら自分の望む外見に調整出来るとはいえ、元の姿から乖離しすぎていたら魔力の消費も馬鹿に出来ないのだから」

 

「ふむ、アルジールさんの言う通りだな。私も身体を引き締めなければと最近は思っていたところで。どうですか、シトリー殿。私達も鈍っていた身体を慣らすにはちょうどいい。結界内の滞在中は一緒に参加しませんかな」

 

「私も参加するわ。最近、お酒やおつまみが美味しいからってちょっと調子に乗ってたし……アザゼル、あなたもよ」

 

「……ぐっ。確かに、確かになあ。最近毎晩の勢いでプレシアとは晩酌してるわけだからな。……よし、やるぜ!」

 

 ひーくんやすずかちゃんの作るお酒のアテはなんというか、大公様やアザゼルちゃん達に危機感を抱かせるのは十分な威力があったみたい。私達も食べはするけど、毎朝毎夕の鍛錬を欠かしていないお陰でその辺りの不安はないからね☆ お父様もしれっと惚気ていたけど、お母様に慢心はなかった。

 ちなみに静かに晩餐を楽しんでるバラキエルちゃんは滞在時は必ず鍛錬に参加していて、一段と光力の扱いが上手くなってる。接近戦も得意だから、ひーくんの指導にも携わっているもん。

 

「……妙な暗示で敵対行動を取れなくしたと思えば、なぜ私は酒盛りに参加させられているのですか?」

 

「でも、大勢でわいわい美味しい食事とお酒って悪くないじゃない? 未成年組はノンアルコールカクテルだけど、楽しくやってるしね☆」

 

 すずかちゃんの心理操作能力はカテレアちゃんにも効いてしまいました。これで駄目なら覚醒ソーナちゃんの魅了でゲオルクくんに惚れさせる手も考えたんだけどね、すずかちゃん強い☆ 最上級悪魔クラスのカテレアちゃんに効果ありなんだもん。いやあ、模擬戦でも近距離だと押し負けるはずだねえ……。想いが成長を促すとか言うけど、どれだけ強い気持ちなんだろうか。私も負けてられないよ☆

 

「大翔の作る麺は美味いだろ?」

 

「なんで白龍皇がドヤ顔なのかな。しかし、確かに美味いよこれ。敵対行動封じられてもやっぱりこっちに来て正解だったな」

 

「あ、ヴァーリにゲオルク。冷やしラーメンがざるそばになっても良ければお代わりあるよ」

 

「「お代わりっ!」」

 

「あ、じゃあ悪いけど、台所まで取りに来てくれないか?」

 

「お安い御用だ。出来た大皿も一緒に運ぶぐらいはさせてもらう」

 

「日常魔術もしっかり収めておくものだよ。浮遊魔術もこういう形で生きるんだから」

 

 横では敵対行動を封じられたゲオルクがヴァーリくんと麺の喉ごしを幸せそうに堪能してる。なんでも禍の団で属していたグループは食事にそれほど拘らないところだったらしく、こっちに来て大正解だと豪語してた。

 ひーくんは自分の作ったものを食べて喜んでもらえるのが本当に嬉しいみたいだから、熱心に料理についても学んでいるし、すずかちゃん達と台所で一緒に作るのも楽しいみたい。すずかちゃんとアリサちゃん、アリシアちゃんは結界内暮らしのベテランだから自炊が得意だし、朱乃ちゃんやフェイトちゃんも作るのが好きだし、ソーナちゃんもひーくん達に学んでお菓子に負けず劣らずの一品を出してくるようになってる。こういう所でも切磋琢磨してるわけだね、調理組は☆

 

「元ちゃん、私達も作ってみたんだけど……どうかな?」

 

「……美味い。すげえ腕を上げたな、三人とも」

 

「これですぐに元士郎の妻になっても大丈夫といったところか?」

 

「翼紗、茶化さないでよ。私達はまだまだ『いい女』になるための修行中なんだから。ね、留流子」

 

「はい、先輩。元士郎先輩に置いて行かれないように、今は毎日に全力投入ですから!」

 

 ソーナちゃんの眷属同士の恋も順調に絆を深めているようでいいことだ☆ ヴァレリーちゃんとギャスパーちゃんは何というか、仲良く食べさせ合いっこしてる姿が完全に姉妹に見えるけどこれはこれでいいんだよね、きっと。

 

「酒に合う品とそれ以外で味付けを変えているし、確かに悪くはない。ただ、貴女達の目的が分からないのが気持ち悪いですが」

 

「えっと、結界内で一週間弱過ごしたら送ってくけど? 現実的には一晩だし。ただ、急なことだからこちらの予定にある程度合わせてもらう感じだけどね☆ あ、こっちにもお代わりちょーだいっ」

 

「承知致しました。お酒は冷やでいい……よろしいっすか?」

 

「うん、小さなグラスも二つお願いするよ。ふふ、言葉遣いも頑張ってるよね、ファイト☆」

 

 給仕係の堕天使四人組もちゃんと動いてるし、台所との行き来の間にちゃんと食べてるみたいだね。一番要領がいいのは『失礼しましたっ』と頭を下げて足早に歩いていく小柄なあの子だけど、動きも機敏。馴染むのも早かったもん。

 

「彼らは普通、歓待役ではないのかしら。主人が炊事場に立って、堕天使が給仕役というのもよく分からないわね」

 

「本当のこの家の主人はすずかちゃんのお父様とお母様。大公様や私のお父様達の相手を務めていらっしゃるし、だから作る側にひーくん達は回ってるんだよ」

 

「……歓待される側のバラキエルの妻も台所にいるようですが」

 

「朱璃さんはそれが楽しいんだって。朱乃ちゃんや息子になるひーくんと一緒に料理出来るのが幸せだって言うんだもの」

 

 変な連中だとカテレアちゃんは呟く。同意しつつも、それでも皆仲良くやっているから私達はこんな感じであることも重ねて伝えておく。

 

「変に腑抜けていたらどうしようかとも思いましたが、力は増しているようですし、オンオフの切り替えが上手くなったということですか」

 

「あ、あはは……カテレアちゃんには普段から真面目な所を見せろって良く怒られたもんね、私」

 

 自然体でいるのと、自然体の振りをするのは大きな違いがあったということで、あの戦争までは注意されてばかりだったことを思い出していた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 私はずっと、目の前のこの女に嫉妬し続けてきた。それが私の実力を高めることに繋がったのは皮肉だが、それ以上にこの女の成長速度は群を抜いていた。

 

「自分が道化になって、若手同士での軋轢を少しでも減らそうとしていたのが滑稽に見えたのですよ。あれだけプライドの高い者ばかりが集まっていたのです、分かりやすく力を示せば良かったものを」

 

「臆病だったんだよ。命の奪い合いになるのか嫌だっていう、完全な私の個人的感情だったんだ。でも、結局みんなを守らなくちゃって、あの戦争で多くの敵をこの手にかけた事実に押し潰されてしまいそうになっちゃってさ。自分が夢見た優しい魔法使いをコンセプトにした、人間界の魔法少女を演じることでどうにか顔を背けてきて……自分でも滑稽だなって思うよ」

 

 本人が欲しくて手に入れた魔王の座ではないのは知っている。あの戦争後の混乱を静めるために、老害どもから担ぎ上げられることをあえて受け入れたことも。その経緯すら私を苛立たせる理由の一つだった。

 

「ええ、だから貴女は魔王に相応しくないと私は言い続けてきた。如何に力が強くても敵を屠ることに心を痛めているようでは、強い悪魔を導くための魔王の資格は無い。先程も言いましたが、一刻も早く退くことです。本来のレヴィアタンの名を持つべき私にその名を返しなさい」

 

 直系が引き継いでいくわけでもなく、襲名制などという今の四大魔王。許せるはずも無い。それを古馴染みのライバルだった、セラフォルーが手にしているのが余計に許せなかった。

 

「……うん。貴女だけだよ、こうしてハッキリと言ってくれていたのは。ただ、こんな私も出逢えたんだ。血に塗れた私の手を迷うことなく手に取って、私の弱さも醜さもまとめて受け入れて一緒に生きてくれる男の子に出逢えたの」

 

 心を支える者との出会い。打たれ弱い部分があったセラフォルーを包み込み、女として愛される実感を与えた男。だからこそ、強さも弱さも変に隠すことなく自然体でセラフォルーは今私の前で穏やかに笑っている。

 

「決めたんだ。千を殺めたのなら万の命を共に拾い上げよう、育てよう……そう、本気で言ってくれた『ひーくん』に、私は最期まで寄り添って生きていく。その為に重荷になるものは全て置いていく。だから、貴女への妬みも清算してみせる」

 

「妬み……貴女が私に?」

 

「何でも先に出来るのはカテレアちゃんだったもん。後から追い越すことが出来ても、最初に成功するのは必ず貴女だった。先の戦争でもそう。私が最前線で敵を倒すことに集中出来たのも貴女が軍勢をまとめ、背後を突かれる芽を摘み取り、しっかり退路を確保してくれていたから」

 

 個の実力で劣るならばせめて指揮官としての働きで圧倒的な差をつける。対抗心で行ったことだった。

 

「分かりやすく戦果を上げたからか、勝手に周りは祭り上げようとしてきた。でも、私自身は唖然としたよ。貴女のフォローが無ければ命を落としていたのは私なんだもの」

 

「何を……今更何を言うの、セラフォルー」

 

「個人的な感情なんだよ、これは。勝手に貴女への想いを清算してるだけ。貴女の影に囚われてるのはもうおしまいにするんだって」

 

 学び舎に通っていた時を思い起こさせる。私とセラフォルーはお互いの我をぶつけ合い、幾度となくこうして言い争いや時に物理的な大喧嘩を繰り返してきた。

 

「男の子にモテるのも、素敵な彼氏が出来るのも全部貴女が先で。羨ましくて仕方なかったんだ、私は。でもね、そんな想いも……これからは忘れられる」

 

 戦争後も私をクルゼレイは変わらず側に置いていたが、現状は数ある女の筆頭格といった部分があった。他にも色んな女に手を出しているのも知っているが、彼の愛情表現はいささか過激で乱暴なところがあるため、普通の悪魔ではすぐに壊れてしまう。

 私とて長年、奴のやり方に馴染まされた身体は多少の無茶や痛みを許容できるようになってしまっている。旧魔王の血筋が再び権力の座に帰り咲く。それだけが今の私の支えだった。

 

「ソーナちゃんやお父様やお母様、そしてひーくんやひーくんを共に支えていく家族。私はそれだけで満たされるんだって、今は分かっちゃったから」

 

 だが、追い落とすはずのセラフォルーが私をもう顧みない? 男との愛に生きるため、魔王の地位のみならず、今までの実績も含めて……全てを捨て去る決意を固めている?

 

「認めない……認められるものですかっ!」

 

 私は七つの大罪『嫉妬』を司るレヴィアタンの血を継ぐ者。セラフォルーのように襲名制で名乗った偽者ではない。セラフォルーへの妬みが燻っていた私の力に火を付ける。……だが、その力の高まりに私の痛んだ身体が悲鳴を上げたのです。

 

「あ、ぐ……!?」

 

 お腹の奥、生を宿し育み産み出す器官が激しい痛みを訴える。嫉妬や羨望の感情の増減の影響を受け易い箇所が、久方ぶりの心からの激情に連鎖反応を起こしていました。

 

「──ちゃん!? しっかりして、カテレアちゃん!」

 

 遠ざかる意識。セラフォルーが血相を変えて椅子から倒れそうになる私を支えようとするのを認識したのを最後に、私はそのまま意識を手放してしまったのです。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「しっかりして、カテレアちゃん!」

 

 グループごとに分かれていた食事会に響いた悲しい叫び声。お兄さまに置いていかれた格好の私はリアス様のテーブルにお邪魔する形になっていたのですが、この声にいち早く反応し、セラフォルー様の所へ駆けつけたのは空知様でした。台所から短距離転移を即座に発動したのでしょう。

 

「黒歌、白音!」

 

「はいにゃ!」

 

「まずはこの場で応急処置を!」

 

 続けて一足飛びで彼の元に駆けつける猫魈姉妹が即座に措置を始めて、流れるように月村さん、グラシアさん、アルジェントさんといった回復のスペシャリスト達が加わっていきます。

 

「神器よ、力を貸して下さい。彼女を苦しめる痛みを癒してあげて──!」

 

 目的をハッキリと口にして願うことで神器の特性上効果が高まりやすいのだと、イッセーさまは教えてくれました。それを知ってから、アルジェントさんは発する言葉に強く意思を込めて神器を扱い続けることで治癒能力が上がっているのだとか。

 

「ふふ。いつも優しい色だよね、アーシアさんの神器の光って。さて、体力はこちらで受け持つよ。黒歌ちゃんと白音ちゃんは経路の方をお願いね。水の恵みよ──!」

 

「この状態だと、アーシアさんの体力や精神力の消費も激しくなりますね。風の癒しよ、この患者様とアーシアさんに力を──」

 

「魔力の供給は気にせずにやってくれ。カリム経由でアーシアさんの体力もこっちで維持する」

 

「空知さん、私にも手伝わせてくださいな。神器は使えなくても、アーシアさんの体力維持ぐらいは教えて頂いた魔術で十分対応できますわ」

 

「助かります、ヴァレリーさん。カリム、アーシアさんはヴァレリーさんに任せて、カテレアさんに集中してくれ。魔力や神器の力の出し惜しみはいらない。消費する魔力等は俺から供給します! 元士郎!」

 

「おう! 大翔さんからヴァレリーさんに俺経由で魔力を譲渡すればいいんだな。ラインよ!」

 

 空知さんが膨大な魔力を背中に手を置いた二人に注ぎ始めることで、二人は最初から全力の回復魔術を施していきます。そう、私達の世界では存在しない系統の魔術を。さらに、ヴリトラの神器を使うソーナ様の兵士さんを経由して、ヴァレリーさんにも魔力が絶え間なく供給されていっていました。

 しかし、空知さんのあの魔力量──模擬戦の後だというのに、どれだけの力を秘めているというのでしょう。

 

「一誠君、譲渡を俺に頼む。念のためだけど、黒歌や白音に気脈の供給もやるから、思った以上に消耗していることは避けたいから」

 

「了解ですよ、大翔さん。足りなくなるなんて想像はできないですけど、消耗は少ないに限りますよね! 行くぜドライグ!」

 

『五回程度、倍加を重ねて渡せば十分だろう。多少渡し過ぎたとしても制御を誤る相手でも無いからな』

 

 真紅と深紅、漆黒、そして新緑を思わせる色の共演の中、あの姉妹が丁寧に体内の力の流れを整えていき──。

 

「ふう、これでひとまず大丈夫にゃ。皆さん、酒盛り再開してオーケーよ?」

 

 時間にすれば五分足らずのことでしょう。黒歌さんの治療完了を告げる言葉に自然と場に拍手が沸き起こったのです。もちろん、見事な手筈に私も手を打ち鳴らしていました。




登場人物が多くなっているのは作者の構成力のなさではありますが、
焦点をうまく当てて行きたいなと無い頭を今後も絞っていきますです、はい。
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