なんだかまとまりの無い文面になったなぁ、と。
……え? いつものこと? 申し訳あr(ry
遥か昔の学生時代、女同士で集まっていつまでもお喋りに興じた記憶。あの雰囲気がまさしく目の前にありました。その時はまだ私と明確な敵対関係でなかったセラフォルーもその輪に大体いたものです。
まあ、雰囲気は似ていても、女性陣の殆どがインナーが透けて見えるナイトドレスを着ているので、男にとっては眼福の光景が広がっているわけですが。その唯一の男は複数の女に両腕と背中からホールドされて、逃走を完全に封じられていました。草食系男子と肉食系女子……ふむ、これが。本当にこの男がこれだけの女達を満足させているとは俄かに信じがたいですね。
「……なんか、こう堂々とされると給仕服を着ているうちらの方がなぜか恥ずかしくなるっすね。錯覚なのは分かってるっすけど、姐さん達はプロポーションも抜群っすからねぇ……」
「同性の私達が見ていて本当に綺麗と思うからな、ミッテルト。私もそれなりの自負があったのだが、元の素材に磨きを掛け続けているお嬢様方にはとても敵わないさ。ともあれ、私達の格好に違和感を感じてしまうこの場の雰囲気には同意する」
雰囲気に呑まれるとはやはり下級、いや中級クラスの域を出ませんか。言ってやればいいのです、情婦みたいな格好をしている貴女たちが変なのだと。……ま、あえて口に出すほど私も親切ではありません。
「だって、みんな自分磨きに本当に手を抜かない子ばかりだもん☆ まあ、互いに手入れとかフォローし合うから、全部一人でやるわけじゃないんだけどね」
私がセラフォルーを憎むほどになったのはレヴィアタンを名乗ることになったこともありますが、その大切な家名を使って自分の趣味である魔法少女の主役ドラマ化をやり始めたという、私を嘲笑うような行動に出たからというのが大きい。
ところが、あのセラフォルーに男が出来たという噂は冥界の辺境まで恐ろしいスピードで伝わり、そして現実ではドラマを打ち切りに近い形で終わらせていた。その後、同じ系統のアニメを彼女原案の元で始めたのだが、冥界の子供達向け娯楽の継続といった意味合いで製作にはほぼ関わっていないとの裏も取れました。
さらに魔王の辞任の意思に加え外交業務からも完全に退く意向を内通者から得たことで、男の話はどうであれ執行部から離れるつもりだということはハッキリしたのです。シャルバやクルゼレイはむしろセラフォルーに男が出来たかをしきりに気にしていたが、かといって自分では手に余るというのだから……全く、一体何がしたいというのか、内心呆れたものです。
「一人でやると面倒臭くなって、髪を乾かしたらそのまま寝ることも前は良くあったっすから……メイド長と一緒に風呂上がりに手入れするのが一連の流れになって、やっと習慣になった感じっす」
「ファリンもそういう所に手を抜くのは許さないもんね。多分、ノエルの影響だろうなぁ」
目の前で堕天使とも気軽に語らっているセラフォルーを、最初は半分あざ笑ってやるつもりでやって来たのです。レヴィアタンを名乗りながら、好き勝手にやったあげく投げ出すのとか。
……ですが、実際に顔を合わせてみれば、悔しいことにセラフォルーはこちらが一瞬見惚れてしまうほどに綺麗になっていました。調子のいい言動の裏に時折見え隠れしていた陰りもほぼ払われたように映り、一連の出来事から憎しみの対象であるセラフォルーが私の預かり知らぬ所で全くの別人に変化していくことが、私が見えない場所で私との軋轢を一方的に清算して勝手に幸せになるのが納得いかなかったのです。
オーフィスとこの場にいる真祖還りを起こしている吸血鬼の精神干渉を受けて無効化されてしまうという体たらくを起こしたのも、結局はセラフォルーへの『嫉妬』が一番の原因であるのは流石に分かっていました。
「なるほど、大本は先代のメイド長でしたか。一度だけドイツから忍様達の帰国に合わせてご指導を受けたことがありますが、今のメイド長と一緒にみっちり絞られましたからね」
「体術でカラワーナちゃん達を普通に圧倒してたもんね……それ以上にすずかちゃんの義理のお兄さんだっけ。あの人、魔力を封じられたら普通に切り殺されると確信したもん☆ 世界は本当に広いよ☆」
「『戦闘民族高町家』だからなぁ……」
「美由紀さんも銃弾を普通に避けたり斬ったりするし、なのはにしても剣士の才能を全部魔法の才能に振り替えたようなもんだしね……」
「なのはの集束砲撃魔法は絶対に受けたくない。だから傍から撃たさないようにするか、いざとなれば魔力を全部突っ込んで命がけで打ち返すしかないし」
あの空知という男の妙な発言に続き、金髪の姉妹がどこの悪魔の話だというような物言いをしたため、そんな人間がいるわけないという顔をしたのでしょう。セラフォルーや真祖還りの女がどこか虚ろな表情で、一言『実際に現実にいるんだよ』と呟いたのを聞いて、私はそれ以上この件について触れるのを止めました。『海鳴は人外魔境』という誰かの呟きも私の耳はしっかり拾ってしまっていましたから。
「こほん。ところで、そろそろ私の聞きたい話に戻していただいても?」
こちらが害意を向けない限り、回復後に私を解放する意向を示していることもあって、私としては降って湧いた特別休暇のつもりで、半ば開き直りの境地になりつつありました。この際ですから、傷もしっかり癒してレヴィアタン本来の力を取り戻しつつ、セラフォルーの変化の過程を野次馬よろしく弄りながらしっかり聞き出して帰ってやるのだと。
そんな学生時代に戻るような錯覚をいっそ楽しんでこそ魔王としての余裕というものだと言い切るぐらいのつもりで、給仕役の堕天使からウオッカベースのレモネードを受け取り炭酸のスカッとする感覚を味わいながら、セラフォルーに催促してみせるのです。
「あ、うん、そう、そうだったね……えーと、その……」
どこの生娘ですか! 顔を真っ赤にして俯き加減になって、言葉を選ぼうとしてしどろもどろになってるこんなセラフォルーを見る日が来ようとは。
「お姉様。朝と晩に最低でも必ず一度ずつ、全員しっかり抱いてもらってますよね。その後の入浴の時にも順番に身体を洗ってもらいますし。手が透いているか、順番待ちの子で結界を維持するから時間の心配は殆ど要りませんから」
躊躇なく言いますね、セラフォルーの妹は。それにセラフォルーとはどうも気質の異なる魔力を持っているようですし、シトリーの力に覚醒しつつ理性を保てている? 何度か放ってしまえば身体の仕組み上、しばらくは収まる男悪魔と違い、女悪魔でそんなことがあるのでしょうか。
「時間の確保のためだと時間経過の引き延ばしも含めて、封時結界の制御については全員が短期間で早々に習得しましたからね……ええ、私も必死でしたもの。うふふ」
「そうね、朱乃。加入する度に皆が目の色変えて習得してたし、逆に教える方も真剣そのものだったし……シーグヴァイラが全員できるって聞いてドン引きしてたもんにゃ」
「時間や次元に関する魔力制御や魔術というのは高難易度として有名な分野なのに、しれっと全員そういう結界は張れるって言うのだもの。驚きもしたし、最初は信じられなかったわ、黒歌」
「カリムやソーナ達が加わったぐらいから封時結界については皆で教え合えるレベルだったもんな。俺は細かい調整の部分についてアドバイスするぐらいだったし。上達の早さには本当にビックリしたよ。いくら結界内で学ぶ時間があったとは言ってもね」
アガレス家の次期当主が真偽を確認するレベルというのだから、なかなか異例な習得速度のようです。この人数が全員短期間で高難度の魔術を使いこなすとなると、めったにあるような話ではありません。教える側教わる側両方の強い熱意に、その分野への素養がある程度無ければといったものですから。
「兄さまとの交わりは病みつきになりますから、必死になるのも当然かと」
「夜の帝王だもんにゃ、大翔は。もう公言していいレベルよ?」
「公言されても困りますけどね。私達だけの大翔くんで居て頂かなくては」
「うふふ、ソーナも随分素直になってきたのね。ただ、大翔さんが私達だけの旦那様であって欲しい気持ちは良く分かりますわ。広く知られたくないって思いますもの」
「黒歌ちゃん達が加わって仙術を覚えた辺りから、私もほんとヤバいって思うようになったな。どっぷり嵌っちゃうと思ったけれど、やっぱりこうなったよ……って感じで」
「こんな毎日乱れちゃ駄目だとか、朝も晩も抱いてもらわないと我慢できないとか、色々葛藤もしたんだけど……全部吹き飛ばされたわよね。本当に悪い男になったもんだわ、大翔も」
「仙術を習得される前の大翔様に寵愛を頂く機会はあまりありませんでしたけれど。日々寵愛を頂く度に気持ち良さが深まっていって、今は毎回気を失いそうになるのを必死に意識を繋ぎ止めるのがやっとですもの」
「カリムもよく頑張るよね。私は最近途中で飛んでるもん。飛んでは身体が感じてる刺激で戻ってまた飛んでって感じで。お兄ちゃんの温もりは傍にあるし、なんだかずっとふわふわしていて、格別な時間だから問題ないんだけど」
「こちらの嗜好にも合わせて満たして下さいますから、他の方を気にする余裕なんて欠片もないですよね。周りにみんながいるのが分かっていても、大翔さんを感じるだけでもう一杯一杯で、でもそれがいいんですよね!」
「私は“まだ”『感覚共有』でしか知らないけれど……他の男性なんて考えられないって気持ちになるのはよく分かるわ。ふふ、お父様達も認めてくれた以上、もとより私はヒロ以外眼中に無いけれど」
「周期が来た私も逆に組み伏せて満足させてくれるぐらいになってくれたもん。さらに惚れ直しちゃったよ」
「みんなさらっと何で言えるかなっ!? ほら、ひーくんも苦笑いするしかないじゃない!」
仙術──その中に含まれる房中術を得意とする猫魈の姉妹は別としても、この中でセラフォルーが一番初心なのはよく分かりました。しかし、本当に全員がこの男の虜になっているのですね。ただ、意思はしっかりしているし、自意識を奪われているわけでもないと。
アスモデウスの力を引き継ぐクルゼレイに壊されながらも幸せそうにしている女達に一部通じるものがありますし、この娘達は健康でそれでいて肉感的な身体を持っている。
「幸せに思いこそすれ、恥じることなど何もありませんから。淫蕩だと表面だけしか見ない連中にいちいち訂正する必要もないでしょう?」
「そ、そりゃあ私もソーナちゃんもまとめて幸せにするって言い切る男の子だもん。外野は勝手に言ってなさい、だけどね。学生の本分とか家のこととか、私でいえば引き継ぎとか、しっかりこなしてのことたし。分かってるよ、もちろん……その、えへへ、女で良かったなって毎日感じさせてくれるもん」
私からすれば生娘だったセラフォルーが何とも色艶めいた女に変わっていたことが私の中で一番の驚きだったわけで。
私も少なからず経験はあるので分かってしまう。セラフォルーは文字通り『心身共に満ち足りている』状態なのだ。無論、セラフォルーだけでなく、あの男の女は全員女である喜びを日々謳歌しているのは言葉だけでも充分に伝わるもので。
「まさかセラフォルーから惚気を聞く時が来ようとは……しかし、どうにもガツガツしている感じを受けない彼と、貴女たちが言う彼の姿が重なりませんよ」
「お母様もそれは言ってたよね。もっとギラギラしてると思ったって」
「ひろくん、実のところ性欲自体強くないもんね。基本、女の人苦手だし。今もこうしてカテレアさんやミッテルトちゃん達と普通に話をしてるけど、それも私達が隣を固めてることもあるから」
精力はあくまで人並みで、魔力や仙術で補うのが上手なだけ。それも訓練の積み重ねの賜物なのだと言う。このすずかという娘が言うように、彼の両隣、時には膝の上や背中に寄りかかる形で常に誰かが寄り添っている。
「まー、極端に近づかれたからといって、身が竦んで動けなくなるレベルじゃなくて、いざとなれば容赦なくぶっ飛ばしてくるレベルっすから。うちらもその辺は気をつけてるっすよね、まだ死にたくないですし」
「若旦那さま相手の組手の時のあの抜き身の刃を思わせる雰囲気は、本当にこちらの身が縮こまりそうになるよ。事情を聞いていて、なお震えるからな」
「カラワーナが震えるほどの戦意は実は威嚇行動っていうね……ま、大翔はそれでいいんだけど。変な女が寄り付きにくくなるし。あと、龍の眼光よろしく妙なことをしようとしたら、すずかのレバーブローが刺さるから問題ないわよ」
「私はそこまで野蛮じゃないよ、アリサちゃん。人相手なら知覚出来ない早さで軽く顎を揺らすぐらいに留めるかな。そもそもひろくんを強引に抱っこしてその場から離れる方が早いし」
彼や彼の主たるパートナーはいわゆる多国籍企業や大きな宗教団体の跡取りといった立場らしく、ボディーガードがついているのが当たり前の環境とのこと。狙われやすい立場で脆弱な身体の人間ならば数でカバーするしかなく、完全にフリーなのは自室や寝室ぐらいとのことでした。そのためかセラフォルーや彼女の妹、アガレス家のご息女など、責務を生まれながらに背負う立場への理解が早く、互いに共感を得やすい環境下にあったようですね。
「貴女達が彼に傾倒していて、貴女達の普通が悪魔の一般的な『普通』とは違うのはよく分かりましたよ。彼が本気で望めば冥界へ一定の影響力を持つことも出来るだろうということも」
「……権力なんて面倒なので出来るだけノーサンキューです」
「え?」
「すずかにアリサ、カリム、ソーナにしても、次の当主や代表であるのはあくまで彼女達です。そんな彼女達に惚れ抜いてしまった以上は全力でサポートしますし、彼女達の休暇や余力を作るために出来る手は全部打ちます。それは当然としても、俺は既にすずかとアリサとの婚約を認められる条件として、両家が経営する会社の持ち株会社の経営陣に加わることになっています。すずかもアリサも多国籍企業の跡取りですから、俺達の肩に万を超える社員さん達の生活がかかってくる。そのことで手一杯になるところに、さらに責任ある立場なんて欲しがるなんて自殺行為ですよ」
「実際の業務など、下につく部下達にやらせればいいのでは? 権力者というのは君臨していればいいのです。些事はすべて下が担うべきものなのだから」
「貴族悪魔の領地経営が絶対王政と同じならそれでいいでしょうね。ただ、俺達がこの世界で抱えていく経営はそうは行かないですよ。力だけで全てを抑え込めないのが、人の世界なんですから」
「強さと名声を集めれば大部分が従うのが冥界の常識みたいなところがあるもんね。トップは強者っていうのが前提だし。観光業を主としていて、気持ち良くお金を使ってもらって領地が潤うっていうシトリー領は冥界の中でも例外というか。だから、ひーくんの考え方が合うんだけどね」
下等種族ゆえの常識の違いというものですか、これほどの力があれば躊躇わず振るえばたいていの者は黙るでしょうに。いや、強者がそのまま絶対的な存在と思わぬゆえに、セラフォルーの膨大な魔力に反する心の弱さを見て、虜にすることが出来たということなのか。