※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

116 / 121
お久しぶりです。
コカビエルと相見える前の下準備みたいな一幕となります。

しばらく書くことから離れていたこともあり、
次回もそういう感じですが、こんな拙作を宜しくお願いします。


第116話 渾身の一振り

 この鬱屈した感情にケリをつける前に僕は死んでしまうかもしれない。光力の槍やら鞭、あるいは拳に光力を纏う僕の仲間たちはきっと聖剣使いなんて歯牙にもかけないと思うんだ。

 

「嗚呼、空って遠いなあ……」

 

 手を伸ばしたって、空にはとても届かない。直撃を何とか魔剣で受け止めたはいいけど、あまりの威力に僕は束の間の空中遊泳を体験する羽目になっていた。本日何回目かな、もう数えるのはやめてしまった。やがて重力に引かれ、地面目掛けて急降下していく僕の耳にグラシアさんの詠唱が聞こえて、軟着陸を果たす僕の身体。

 

「そろそろ私の魔力の残りも頼りなくなってきましたね……」

 

「じゃ、本日は終了ね。壁や地面への激突を防いでくれるカリムのサポートはこの訓練に欠かせないもの。木場もお疲れ様。体力もついてきたし、攻撃を捌く技術もさらに向上して、随分長く戦えるようになってきたじゃない」

 

 カリムさんの風魔術のお陰で地面や結界壁に叩きつけられることは無いものの、訓練そのものは常に生死の境を覗き込んでいる気分だから。どうにかなんとか今朝も生き延びたみたいだ。バニングスさんが賛辞の言葉をかけてくれるけど、強くなった感じが全然しないんだよね。

 

 濃厚な光力を纏った副部長の鞭、浄化の力を宿した小猫ちゃんの拳に、フェイトさんの愛鎌であるバルディッシュ、大翔さんが打った無銘の聖剣を振るうバニングスさんにアリヴィアンさんにアザゼル総督。『アザゼル・ダイナミック・ブレード』って明らかに何処からかネタを引っ張ってるって僕でも分かる。お巫山戯みたいな電飾まみれのスーツに身を包んでいても、その強さが変わることなんてなくて。ここに、会長の光力の矢が飛んできたりするわけだ。表では堕天使の力である光力を堂々と使えないからと、丁寧に練りこまれた濃度の矢が飛んで来るんだよ。

 どれも一つ喰らえば致死傷にもなりかねない悪魔への特攻のある一撃。鍛錬でいくら耐性がついたとはいえ、龍神や魔王様に追いつけ追い越せで日々鍛えている仲間たちの力は悪魔という枠には収まらない。

 

 直撃を食らって生死の境を彷徨っても、ヴァレリーさんとアーシアさんの二人がいれば仮死状態なら数分で全快してしまう。それでも足りなければ、今はこの場にいない大翔さんに仙術と不死鳥の力と聖杯と吸血鬼の力を転換した癒しの力を注がれて強制復活だ。

 聖杯の力は封印してたんじゃないのかって話だけど、非常時に使える程度にしておくのは当然だと言われて、やはり大翔さんは大翔さんと思ったり、能力の複写を済ませている月村さんと黒歌も既に殆ど同じことが出来るとか、他の女性陣も勿論訓練中とか、どこを目指しているのか本当にわけが分からない。

 

「さて、彼は休憩の時間だけど私達は残りのメニューを消化するわよ。元士郎達もお待たせ。あ、カリムは休憩で構わないわ。先に汗を流してらっしゃいな」

 

「私はそろそろ差し入れの用意をしてきます。大翔さん達、こちらから声を掛けないと限界近くまでずっと打ち続けていますから」

 

「私も椿姫の様子を見に行きたいから、朱乃、私にも手伝わせて?」

 

「ああ、確かにそうね。じゃ、そっちは朱乃達に任せるわ。大翔やすずかは慣れっこだけど、志願したとはいえ、あの熱気にやられて椿姫やシーグヴァイラが先に倒れかねないし」

 

 この場を外している大翔さんは邸宅内の開発兼研究室に程近い裏庭の一角に鍛冶場を持っており、そちらにさらに封時結界を張った上で、ひたすら無銘の聖剣を造ることに集中していた。最初の数振りは模擬戦で使うと強度に難があったりということ──いや、ほんと斃すか斃されるかみたいな実戦さながらだからね──があって、凝り性の大翔さんのスイッチが入ってしまった。今の自分に打てる最高の聖剣を打つんだ、と。大翔さんの趣味は自分の趣味にしてしまう月村さんと、真羅の力を使いこなすようになったことで金属への干渉が可能な副会長がその補助を行い、シーグヴァイラ様が結界維持を担う体制になっていた。

 

「俺も様子を見てくるかね。分野が違えど、モノづくりってのは見てると本当に心が躍るぜ」

 

「総督、シーグヴァイラが仕事に戻る時間を考えたらそろそろ休ませないと間に合わないから、皆に休息取るように強く促してくれる?」

 

「あいよ、アリサ。キリのいいところで結界解除させるとするさ。アリヴィアン、お前さんはどうするよ」

 

「ヒロがいればお嬢様は問題ない。俺はもう少し身体を動かすとする。……バフィールがサボらないように見ておく必要もあるのでな」

 

 あ、バフィールさんの表情が完全に抜け落ちてしまったね。この鍛錬に巻き込まれてる時点で御愁傷様なのに。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「一体、どこを目指しているというのでしょうか……」

 

 封時結界が解かれるまで帰宅が出来ないレイヴェルちゃんが見学を兼ねて可能な範囲で朝練に参加していたものの、この発言からして、出来るところまで自分達を徹底的に追い込む訓練のあり方に困惑しているみたい。

 

「良くも悪くも深窓の令嬢だということですか」

 

 私の隣で息を整えていたカテレアちゃんがぽつりと呟く。先の戦争を経験している私達は、訓練で自分の限界をしっかり把握しておくことの重要性を認識してる。上級悪魔の血を引く者は鍛えなくともある程度は強者の位置に立つことができるけど、それでも体力や魔力の限界というものはあるし、ひーくん達みたいにしっかり鍛えている相手──種族問わずだけど、あっさりやられてしまうんだねぇ。

 圧倒的なアドバンテージかと言えば、必ずしもそうじゃないわけ。まして、オーフィスちゃんのような規格外の存在も身近にいるわけだから、自分の今の能力限界はしっかり把握しておきたいし、留まることなく強くなりたいと思うから。

 

 ……だってさ、ひーくんに一緒に歩んでもらう道は色んな軋轢がどうしても避けられないし、戦いを避けられない場面もきっとたくさん出てきてしまう。悪魔の世界は力を示せない者は容赦なく淘汰される。上に立てば立つほど、それは顕著になっていくから。堕天使陣営や日本神話との繋がりも太くなりつつあるし、私が余計に足手まといになんてなるわけにはいかない。それこそ、ひーくんが戦う必要が無いぐらいに強くなってしまえるのが一番なんだよね☆

 

『セラ、大丈夫。辛いならもう戦わなくていいんだ。俺が必ず守るから』

 

 たっぷり愛してもらった後でひーくんの腕枕に包まれながらそんな言葉を耳元で囁かれたりすると、決心があっという間に崩壊しかけたりするのが困りものなんだけど☆ ただ、そのまま腑抜けていたら、すずかちゃんから魂ごと凍て付かせるような冷気が流れてくるので、我に返ることが出来るんだ。うん、水や氷の魔力を主属性としている私をあっさりと凍て付かせてしまいそうな彼女って一体……。それもちょっとお怒りモードになっただけで、強い攻撃の意思は無い状態でアレだよ? ……えっと、深く考えるのはヤメテオコウ。

 

 さて、そんな自己逃避から帰ってきた私の目の先では、赤龍帝くんがレイヴェルちゃんに、訓練で自分を追い込んでおくことで実戦になった時の心の持ちようが違ってくるのだと説明をしている。神器所有者は自身の成長と共に神器自体も成長していくものであるということも。この辺りは元士郎くんや椿姫ちゃんも含めて、彼らを見てればよく分かるよね。ただ、レーティングゲームという模擬戦しか経験のないレイヴェルちゃんだと理解は出来ても、実感が伴わないだろうねぇ。

 

「しかし、自分のことながら嘆かわしい。こんなことすら見えなくなるほどに、私も弱っていたということですね」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、そんなことを言うカテレアちゃん。日に日に力が戻ってきているのは私にも伝わってきている。まー、負けるつもりはさらさら無いんだけどね☆

 

「コカビエルと戦うことが出来ればいいリバビリになるでしょうが、まあ急いても仕方のないこっ──!」

 

 そんなカテレアちゃんが言葉を途切れさせた理由。私も一瞬で理解する。この場にいる悪魔は全員、背筋に走るどうしようもない悪寒で思い知らされたはずだ。工房から出てきたひーくんの手にあるその一振りの剣が悪魔にとって容易に致命傷を与えるものだと──!

 

「ひーくん、それヤ、ヤバくないかな? ヤバすぎないかな!?」

 

「……また随分と物騒な一振りを打ったものですね?」

 

 堕天使の光力をひたすら練り込みつつ、金属を司る白虎の力で強度と斬れ味を高め、邪気を焼き払うという朱雀の破邪の力を内包する一振りが試行錯誤の中でやっと出来たんだと、ひーくんが疲れを滲ませながらも微笑みを見せるんだけど、普段は安心する笑顔が獲物を見つけた捕食者の笑みにしか見えないよぉっ!

 

「私や朱乃さんは今、駒を抜いているから大丈夫だけど、うん……これは悪魔の皆にとっては拙いモノが出来たよね」

 

「ええ、聖剣というよりは破邪の霊刀と呼ぶべきものかもしれませんが……」

 

 精魂を注いだ疲労感から、すずかちゃんと朱乃ちゃんに肩を借りているひーくん以外にも、シーグヴァイラちゃんや椿姫ちゃんが卒倒してしまったらしく、ソーナちゃんがフォローに回ったらしい。アリヴィアンちゃんも既にこの場を離れてそちらの対応へと向かってる。

 

「駒を抜かないと持つにも手が震えて仕方ないからね。鞘に納めていて、この圧力だから」

 

 三人のネックレスのオブジェとなった女王の『悪魔の駒』を見ながら、お揃いですと楽しそうなすずかちゃんや朱乃ちゃんはさておき。そんなひーくん達の横には七尾の三毛猫、そう参曲のおばあちゃまも連れ添っていたんだ。

 

「分体とはいえ、石凝姥(いしこりどめ)様と木花咲耶(このはやさくや)様が力を貸したんだ。このくらいは打ってみせてもらわないと困るからね」

 

「ええっ!? 参曲のおばあちゃま、しれっととんでもない名前が出たよ!?」

 

「日本の妖怪勢力と懇意にしてる坊ちゃんなんだ、神クラスが出てきてもおかしくはないだろう? ……ま、ぬらりひょんの御大将がこっちに来る前にグッタリしてたからね。前振り無しで私の此方への転移に混ざることになったようだよ」

 

「……普通に日本神話の神々が別次元に来ている時点でもう何が何やら……」

 

 カテレアちゃんの瞳のハイライトがゆっくりと消えていくのを、私はそっと肩に手を置くことで留める。理解の範囲外に対しては無理に理解しないこと、それが心を守ることに繋がるんだから、うん……。

 

「久し振りに鍛え甲斐のある若者が出てきたってえらくご機嫌で帰っていったけどね。次元も違うわけだし、具現時間にも制限があったのは逆に良かったんだよ。わりと自由なところがおありだからねぇ、天照様や月読様、素戔男様みたく主神級特有の不自由さもないわけだからさ」

 

「幹部クラスが結構フリーダムなのはどこにもある話なんだね……いや、最近まで私もそうだったんだけど」

 

「ともあれ、取り乱すことも無かったからね、嬢ちゃん達は。収まるべきところに収まった女は肝が据わって、一気に落ち着くもんさ。自分の居場所を何としてでも守るっていう覚悟が決まるからね。まぁ、最初の会合時に坊ちゃんや黒歌達も必死に御大将や私の支配に抗ったり、月村の嬢ちゃんなんぞ反転すらしてみせたんだ。最後は坊ちゃんなんぞ無理やり魔力を暴走させて、自傷の衝撃で支配を完全に振り払うわ、傷だらけの旦那様を見て、黒歌達も支配を断ち切ってみせたからねぇ……。研鑽の積み重ねと想いの強さが合わされば、こういうこともあると久し振りに面白いモノを見させてもらったさ」

 

「兄様が傷だらけになっているのに、私達が心地良い幻に浸っているわけにはいきませんから」

 

「その通りにゃ。大翔の足手まといになるなんて、絶対にごめんだからにゃ……」

 

「くくくっ、そういう情念の深さは私好みだよ、黒歌、白音。ああ、そうだ。今回の一件、正式に私達は坊ちゃん……空知大翔を東日本に属する日本神話側の代表代行として任命したよ。私達は情報収集やら人間社会に極力害が及ばぬように結界を張ったり等の補助を務める。大翔は迎撃に集中してもらうって寸法だね」

 

「非公式ではあっても私に直接話を通してもらっていたし、朱乃の婚約者である空知が日本勢力側の窓口になってもらえるのは此方としてはありがたいわ。義姉様の話を受けたお兄様が近々駒王入りするつもりで動いているし、空知の立場がよりハッキリするのはいいことだと思うのだけど……ただ、その、責務もそれだけ増すわけでしょう? 負担が重くなり過ぎないかしら。あ、ちょ、朱乃、今の大翔を連れて近寄るのは──!」

 

 おー、リアスちゃんが成長しているぅ☆ ただし、シリアスが長続きしないのも『らしい』感じだね☆ というか、全力で逃げるのも無理ないよね。力尽きていたはずの騎士君も赤龍帝の彼も僧侶の彼女やレイヴェルちゃんを抱えて、リアスちゃんと逆方向に必死に距離を取ってるし~。

 

「ちょ、ちょっと! イッセー! 祐斗! 私を守りなさいよぉ! 私はキングなのよ! ねえキングなの分か……朱乃ぉ! なんでそんないい笑顔を浮かべて近寄ってくるのぅ、月村さんも何で満面の笑みなのよぉ!」

 

「今の僕では足手まとい……申し訳ありません、部長」

 

「部長なら大丈夫って俺信じてます! 俺はアーシアやレイヴェルさんを守りますっ!」

 

「薄情者ぉぉぉぉぉ!」

 

 ひーくんへの普段のぞんざいな接し方に色々溜まっている筆頭の二人組が、ひーくんを両腕で抱えて高速移動しながら、リアスちゃんを追い回している。二人がかりのお姫様抱っこかぁ、やっぱりひーくんはヒロインだった?

 

「グレモリーの懸念に対しては、日本神話勢力の妖怪でもある私や白音が頑張るだけのことなんだけどにゃ。堕天使でいうなら朱乃だし、悪魔の話ならセラフォルーにソーナやシーグヴァイラが対応する。五大宗家が絡むなら、朱乃だけじゃなくて椿姫も頑張るわけだし。あと、私達女性陣の統括として、すずかやアリサがいるのよ? 大翔にだけ無理をさせるわけないじゃにゃい……って、聞いてないか」

 

「そりゃ逃げるでしょうに……私やセラフォルーでも正直、相対したくない禍々しさです」

 

「部長は本当にタフですから、それでも『私でなければ即死だった……』とか言ってくれると思いますけど」

 

「グレモリー、タフネスさは誇っていい。それだけとも言う」

 

「キング自らメイン盾。うーん、戦術としてはダメダメですね」

 

 おぉ……オーフィスちゃんのお墨付きだよ、やったねリアスちゃん! っと、ひーくんが多少なりとも回復したのか、二人からの羞恥プレイから脱出してきた。

 

「そろそろ調査や索敵だけじゃなくて、此方からも釣り出しに行くとしようか。この刀がいい撒き餌になるでしょう。グレモリーさん、参曲さん、よろしいでしょうか」

 

「任せておきな、一般人への人避けの結界やら、その辺はすぐにでも動けるようにしてあるからね」

 

「空知と祐斗は必ず複数で行動すること。それは徹底してもらうわ」

 

「ええ、その辺りは祐斗と俺が一緒に動くつもりですので。さぁ、祐斗。作戦完遂に向けて、動こうじゃないか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。