みんなにそれぞれの思いを投げかけられた祐斗は静かに瞳を閉じて、手の中にある結晶体へと声を掛ける。その声色は先程から思えば、信じられないぐらいに穏やかで落ち着いた色合いを持っていた。
「みんな、こんな僕だけど──力を貸してくれるかい」
『もちろんだよ、イザイヤ!』
『僕達は──いつまでも一緒だよ』
「ありがとう。見ていてくれ、僕の戦いを」
受け入れることを決意した祐斗の問いかけに、最後にそんな言葉を残してから、因子の結晶体が祐斗の体の中へと吸い込まれていく。フリードもその間も手は出すことなくその様子を見守りながら、軽く身体をほぐすに留めていた。
「部長や大翔さん達の前で、随分と情けないところを見せてしまった。君の言う通り、僕は……力も覚悟も足りてなかったんだな。だが、やっと覚悟は定まった」
「どんだけ自覚するのに時間かかってるって話っすよぉ? 待ってる間にこのトランジスタグラマなお嬢さんを人質に取るなり、後ろからサクッと殺る余裕もあったんですから」
紗月に目線を飛ばしながら、やった瞬間知覚出来ない早さで殺されるのが見えてるからやらなかっただけ──とフリードは言う。確かに非常に正しい判断だろう。攻撃した瞬間、複数持たせているアクセサリーの防御魔術が自動発動するので、それとせめぎ合ってる間に、フェイトやすずかといった高速戦闘を得意とする者が、人知を超える速度でその身を断ち切る。そして、俺が輪廻の輪から完全に外れるように、魂への呪いを練り込むまでが一連の流れだ。
まぁ、今表に出ている紗月にせよ、裏でフォローしているアリシアにせよ、多分そうなれば躊躇なく急所攻撃すると思うので、そっちの方がより酷い惨状になるかもしれない。
なお、みんなに持たせている護身用のアクセサリーは細かい頻度で改良を重ねている。オーフィスの力とかを見せてもらうようになってから、より強大な力に攻撃されたとしても一秒でも二秒でも耐えられるようにと。皆の安全に直結することだから、妥協は一切許されないのだから。
「次は力を見せるよ、僕の本来の戦い方でね。ありがとうございます、アリシアさん、グラシアさん。あとは下がって見ていてください」
そう言って、アリシアとカリムを庇うような位置に歩を進めた祐斗が手に発現させたのは、一振りの聖剣。無銘なれど、彼の仲間の想いが込められている一振りがそこにはあった。
「祐斗に宿る神器が『魔剣創造』だけではなく、『聖剣創造』の力を得たというの──?」
信じられないことが起きていると言わんばかりのグレモリーさんの呟きが聞こえたが、アザゼルさん曰く神器は未知の領域が多く、これまで例のない進化を遂げることも珍しくないのだそうだ。所有者の成長に伴い神器が進化するのなら──祐斗は一段、確かに高みへと登ったのだろう。
「僕はリアス・グレモリー眷属、騎士の木場祐斗だ。ただ、僕がイザイヤであった頃に傍にいてくれた皆が、僕に新しく聖剣を振るう力をくれた。そして──」
もう一方の手に出現させた魔剣と、聖剣の刃を合わせるようにすれば、光が二本の剣を包むように広がり──。
「……『聖剣創造』の力だけじゃなく、さらに禁手に至りやがりましたか。それも聖剣と魔剣を合わせるたぁねぇ。よっぽど、アンタのかつてのお仲間はアンタが心配でしょうがねぇらしい」
そこにあったのは聖と魔の力両方を内包する一筋の剣。白と黒、光と闇が同居する、不思議な一振りが祐斗の手に握られていた。驚きの声はグレモリーさんだけでなくソーナ達からも上がるのを聞いて、祐斗がこれまでの常識をひっくり返すようなことをしてみせたのだろうと推測したものの、友人としては誇らしいという思いが湧き上がる。彼がここで止まってしまう男じゃないと信じていたけれど、その方向性が変に歪んだ方向へと向かわなかったことにはホッとしている自分もいた。
「過去なんかじゃない。彼らはこれからいつも僕と共にある。声は届かなくても、その温かさは僕の中で息づいているさ」
「そうでやがりましたねぇ、けっ」
「ありえん、そんなことはあり得ん! 聖と魔を融合するなど、あってはならんこと──!」
「……じいさん、うるせぇよ。黙ってろ。現実を見ずに目の前に起こってることから逃避したけりゃ、自分の腸ん中だけでしてろっての」
闘気と共に叩きつけられたフリードの言葉に、非戦闘者のあの老司祭はすぐに怯えた表情となり黙りこくってしまう。蔑むような歪んだ笑みは鳴りを潜め、ギラギラとした鋭い目つきが祐斗を真っ直ぐに捉えていた。
「あいつ等はオレッちにも余計なことをして、より聖剣の力を引き出しやすくしていったみたいですがぁ……その剣なら、容易く折れるってことは無さそうだなぁ?」
「魔剣創造の禁手『
踏み込んだのはどちらからだったのか。幾重もの剣戟がぶつかり合う鈍い音が何重にも響き渡り、互いの死角、あるいは剣戟の隙を突こうと、または渾身の一撃で防御ごと叩き潰そうと、二人の姿がぶれ続けるような速度で動き回る。
僅かに避け切れなかった剣が、互いの頬、肩、腕、胴体、足へと複数もの切り傷を生み出していく。それでも、二人の速度は少しも落ちることは無かった。
「ふぅっ。……聖剣での攻撃だ、悪魔のアンタにゃ激痛が走ってるはずじゃないんですかぁ? オレッちとしてはそれぐらいやってくれた方が斬り甲斐があるってもんですがねぇ!」
「ああ、鋭く刺されたような痛みが続いているよっ。だけど、先程までの不甲斐なさや自分への怒りと比べれば──この程度の痛み、クソ食らえだからさっ!」
鍔迫り合いの間にも互いの意地をぶつけ合い、二人の剣はより鋭さと速さを増していく。恭也さんが鍛えてくれた目をしっかり凝らさなければ、見逃してしまうほどに。
「……ほぅ? 手負いというのに、感じる力がより高まるとは……」
コカビエルから感心したような言葉が聞こえてくる中、二人の剣戟は早さと鋭さがさらに増していく──! 見る力を意図的に鍛えていなければ、悪魔の力による身体能力の底上げだけじゃ、そろそろ追えなくなっている子もいるかもしれない。俺自身も位置取りを変えつつ、アリサやすずか、元士郎達、動きが見えている前衛組に念話を飛ばして、力がぶつかり合った時に発生する余波を避けられない可能性のある子達をそれとなく庇うような位置へと動いてもらう。
ただ、白音? イッセー君を庇うような位置に動くのは、本人もショック受けてるみたいだよ。グレモリーさんについた朱乃が苦笑いしてるもの。見えてないでしょう、って言われたら落ち込んじゃったようけど。
「それでこそ、狩る意義があるってもんだぁ! ついてこいよ、悪魔くぅんんんんんっ!」
「君こそっ、人の身体の限界を超える早さでいつまで動けるのかなっ!」
「てめえをぶった斬るまでですよぉおおっ!」
「それなら、君が動けなくなる前に決着をつけてあげようっ!」
雄叫びと共に、裂帛の剣閃が幾重も舞い、激しく火花を散らす。圧倒的な熱量。聖剣の力を引き出すことに慣れ始めた二人の剣は強く光を帯び、広がる光が二人を包み込んでいく。
「馬鹿、な……狂信者と悪魔がなぜ聖剣の力をあそこまで引き出せると、いうのだ……信心などない彼らが」
「聖剣だから魔剣だから、そんなものは関係ない。扱うのに必要な最低限の素養を持てば、剣の力をいかに引きだせるかは、本人の技量次第。善も悪もない。本人が己の才能をどこまで磨き、そのための努力をどこまで積み上げたか。その点において、奴等は剣士としての才があり、また努力も重ねてきた。それだけのことだ」
緑のメッシュが入った青髪の教会の女戦士──レオタード姿だとはしゃいでいたイッセー君は当たり前のようなグレモリーさんの折檻を食らっていたが──は辛うじて意識を保っていたのだろう。目の前の光景に強い衝撃を受けてどこか悲痛な想いすら漂わせながら呟いた声を、フリードがあの老司祭を言葉の刃で斬って捨てたように、同じようにコカビエルが彼女の無知を詰るように言葉を吐き捨てる。
「そもそもだ。剣の力を引き出せたのは奴等の技量によるものだが、あの悪魔の剣を見ろ。妙だとは思わんのか? 聖と魔が一つの剣として力が合わさることが、元来強く反発し合うものが何故一つになり得る? 教会の指示が絶対なのだとキリングマシーンに成り果てて、自立思考を半ば投げ捨てているお前達には思い至らないことであろうがな」
「何が、言いたい……っ、大罪人コガビエルっ」
「そうか、そういうことか。悪魔も魔力を持たぬ者が生まれたり、逆に逸脱した力を持つ者が現れたり、既に元来の流れから外れているではないかっ。これはつまり……ひぃっ!?」
「バルパー、余計なことは言うなよ? お前の聡明さは認めているが、余計な一言は身を滅ぼす。今はこの娘への問答中だ」
バルパーが何に気づいたのかは気に掛かるが、それよりも今は祐斗の戦いだった。本来の技量と速度を持って戦える状態となった祐斗と聖剣の力を十全に引き出すフリードの力は互角。ただ、時間の経過と共に徐々に祐斗の振るった剣がフリードを切り裂く回数が増えつつあった。それは祐斗が戦いの中で禁手に至った新たな剣に馴染んでいったこともあるけど──。
「……なぜ、剣を止めるんですかねぇ」
「君の反応速度が落ちてきてる。技量は君のほうが上だろうに、惜しいね、種族差ゆえの体力だけはどうしようもない。僕だって徹底的に自分を苛め抜いてきたから、体力にはこれでもまだ余裕があるんだ。ああ、これは情けでも何でもないよ、言っておくけど。散々僕を罵ってくれたというのに、不甲斐ない君を斬るのは意味がないから」
一呼吸置きながら、祐斗は分かり易い挑発をしてみせる。瞳に荒々しい戦意を漲らせて、唇の両端を吊り上げて獰猛に笑い、らしくない言葉遣いでフリードを炊きつけようとする。
「いい加減、そろそろケリをつけるとするさ。『お前』が全力を出せるうちにその腕や足を使いものにならないようにしてやる。剣士として二度と戦えないように。だから……死ぬ気で足掻いてくれよ?」
「カカカカカ……似合わないぜ、イケメンの悪魔くぅん。その口ぶり、慣れてないのが丸分かりだぜぇ……だからよぉ……その茹だった脳味噌詰まった頭、胴体と永遠にバイバイ、させてやるぜぇ?」
「言ってろよ、出来もしないくせにさ」
「てめぇこそ、嘘吐きは悪魔の常套句ってなぁ。さぁて、じゃあ俺も禁断の手使うとするかねぇ? どうせもう長く戦える余力もないことですしぃ、もうちょっと身体が壊れても一緒だってねぇ!」
「禁断……?」
「なぁに、ちっと人の身から外れるってぐらいのもんでよぉ。ただ、正直使いこなし切れて無いのが実情でね、さらに制限時間アリアリっていうパワーアップアイテムなんですがぁ、ただ、お前ぐらいは瞬殺出来るぜ?」
そう言ったフリードが手に持ったのは一枚の鱗だ。すぐに分かった、それから感じる力はオーフィスと同一のもの……! 今回の一件、カテレアさんが言っていたように禍の団が裏で動いているとは聞いていたけど、オーフィスが残した蛇の一部をコカビエル達にも渡していたということか。
「フリード、お前は俺の心を十分に滾らせてくれた。そろそろ代わっても構わんのだぞ」
「それこそジョーダンきついぜ、コカビエルのおっさん。ただ、悪いけど俺が完全に自意識ぶっ飛んだら殺してくれや。倒せた後にそのまま暴走しかねないからよぉ?」
「いや、取り込んだ瞬間、即座に存在ごと消し去ってやるといった熱い視線が飛んできているからな」
「悪いことは言わないからその鱗を使うのだけは、僕もお勧めしないかな……って」
「なんだあ、イケメン悪魔くんまで日和っ……ぐっ……!?」
周りの声は黙殺して二人の間へと割り込んでいくと同時に、躊躇無く力を解放する。二対の悪魔の羽、同じく二対の堕天使の翼。そして、それを覆うような大きさとなった一対の龍の翼を広げ、俺はコカビエル達を見据えた。
身体的疲労や流した血の多さから、力の解放に伴う威圧に耐えきれなかったと思われるフリードは膝をついてしまっていた。意識を失わないのは流石というべきなのか。なお、この威圧はコカビエルやフリード達にだけ向けている。オーフィスの力は暴れん坊、いや、やんちゃ娘というべきなのか? ともかく、かなりのじゃじゃ馬なので、力の解放も取り込んだ内の一部だけに留めている。『もっと我の力を使え』と力自体が意思を持っているようなもので、今も宥めながらの解放だ。
例えるならそうだな、オーフィスの無邪気なワガママを聞く感覚に似てるか。全部解放したら一緒に遊んだり抱き締めたり寝てくれる相手もまとめていなくなるし、つまらない日常に後戻りだよと頭を撫でながら語りかけるようなもの。この力も気質がオーフィス個人と似てるから、ちゃんと向き合えば分かってくれる。
「ククククク……そうか、貴様はオーフィスの力すらも我が物にしているのか。身体が強張り恐怖に動けなくなるほどのあの力、その一端がお前から感じられる」
「全てを解放したわけじゃないけどね。決闘に水を差すのはどうかとは思うけど、その力を使うというのなら見過ごしておけない」
「くそったれ……慢心しない人外なんて、ゴキブリ並みに性質が悪いつーの……!」
オーフィスの加護──彼女が俺達に力を貸すという意思を明確にし、日々を共に過ごす中で、彼女が俺に無意識に託してくれた権限めいたものがある。
「まだまだ自分のモノに出来たとは言いがたいけれど、あの子から託された力を預かる俺は、彼女の力の欠片を見つけたら回収をお願いされている身なんでね」
俺が魔力と共に取り入れたオーフィスの力を少しだけ解放すれば、フリードの手元にあった鱗は彼の手を弾きながら俺の手元へと舞い込んで来る。そして、俺の肩にオーフィスと出会った日から共にある分体の蛇が姿を見せて、その鱗を一呑みしてみせた。
長らくお待たせ致しました。
って、更新の度に書いてる気が……。
戦闘描写ホント苦手なのがほんともう……。(語彙崩壊)
ハーメルンの他作者さんの描写をたくさん見ても、
自分の作品に落としこめる技量が無いという致命的な話。
それならD×D題材にするなって話ですよねぇ、ハハハハ(乾いた笑い)
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朱乃さんは姫島の炎を織り交ぜた雷光を放った!
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コカビエルは黒焦げの消し炭になった!
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勝った!エクスカリバー編、完!
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って、三行描写なのは流石にどうなんだって流石に思うわけで。うーむ。