「お前らナチュナルに黒いな。いや、朱乃は堕天使の血を引いているけどよ、ブラックジョークにしかならねぇぞ。というか、そんなに次元に関する魔法を連発して、大翔は大丈夫なのか」
隠蔽に関する鍛錬の成果はまずまずのようで、突っ込みを入れてくるアザゼルさんの目からは、俺やすずか達は人間の枠から出ていなかったようだ。朱乃さんから堕天使と悪魔の力も複写させてもらってます……とは、なかなか伝えにくい話だし、全て見ていた朱璃さんにも、この一件は伏せてもらっている。
『いやぁ、毎度のことながら制御訓練は苦行でしたね……』
『ママの訓練メニューに比べると有情だよ、紗月さんや……』
『でも、触れられたら一発じゃない? もしくは真剣にこっちの力を探られてもアウトでしょ。この人、じゃないわ、堕天使さんは、滅茶苦茶強いわよ』
『分かってて、すっ呆けてくれているのかもね』
『同じ研究者思考の大翔さんだから、余計な詮索をしていないだけかもしれません。グリゴリでこういう話題を出来る者がいないと、以前から言っていましたから』
好きなように念話でのやり取りを交わす四人をよそに、俺は魔法の師匠が次元魔法を最も得手にしていて、徹底的に叩き込まれたことを伝えた。外での一分を結界内の一日に引き延ばせるレベルの封時結界を張れるようにとか、デバイスの補助なしで次元転移を連発できるようになれだとか、敵からの波状攻撃を凌ぎながら、次元転移の雷を別世界にいる敵のリーダーに当てろだとか……。
「次元や時空に関する魔力や魔術は、そこまで詳しく無いが、お前の師匠が相当荒っぽいのは良く分かるぜ……」
「娘を任せるのだからこれぐらいは最低限だと言われれば、奮い立つしかなかったですから」
「娘?」
「私のこと~。私のママが、プレシア・テスタロッサっていうの」
魔石等から自身の魔力に変換運用できる特殊技能持ちだったプレシアさんはその技能も飛び抜けたレベルで運用していたから、俺もその能力の譲渡を受けている兼ね合いもあって、魔力が切れかけたら、口の中に魔石突っ込まれて、無理やり魔力回復させられていたっけ……。
「これだから、親馬鹿って奴は怖いんだよなぁ。人間だろうが堕天使だろうが変わりゃしねえ」
「今は以前に比べると、少しは認めてもらえたのかと思いますけど」
「……お前もなかなかネジが吹っ飛んでやがるな。生死の境を普通に彷徨う修行なんざ、俺みたいな堕天使や悪魔のような奴らじゃまだしも、逃げ出したっておかしくないぜ」
でも、それをすれば、堂々と紗月達と一緒にいられなくなっただろうし、そのお陰でデバイスいらずで次元魔法は使えるところまで来たし、結果、命は繋がっているんだから、今じゃ思い出話に出来ている。
そんなことを伝えると、アザゼルさんは腕を組んで唸り出し、やがて隣で話を聞いているすずかに問いかけ始めた。
「おぅ、お嬢ちゃん、いつから、コイツはこうなんだ?」
「出会った時からそうでした。だから、絶対に目を離せませんし、私達の誰かが必ずついて離れないようにしています」
「筋金入りだなおい。まぁ、今後もそうするべきだし、朱乃にも手伝わせたらいい」
「まだ彼女は弱いので、必死に鍛えてもらっているところですから、もう少し先の話ですね」
すずかは通常、遠距離及び支援タイプの魔導師だけど、スノーホワイトの形状変化で、槍使いとしての中距離、鉤爪つきの籠手をつけた接近戦も含めて、全ての距離で戦える。
夜の一族の飛び抜けた身体能力に補助魔法を組み合わせられるから、接近戦の適正は高いんだけど、俺達は接近戦特化のアリサもいるし、好戦的な性格でもないから、ミッドチルダの傭兵業務をこなす時は、俺と同じ中衛か、背後を突かれた時も即座に対応が出来るから、後衛を務めてくれることが多い。
「朱乃よりも、お前さんが強いと?」
『事実よ、アザゼルさん。模擬戦も幾度かこなしているけど、相性もあって、朱乃は封殺されているわね』
「朱璃が見てるんなら、そうなんだろうな。ふーん、せっかくだ。この滞在中、俺も少しお前らを鍛えてやるよ」
「書類仕事から逃げたいだけだろう、アザゼル。まぁ、いい。私も彼を直接鍛えてやりたいしな」
「……部屋はありますけれど、食材の量が足りるかしら?」
結界内の残期間まで滞在を決めた二人に、朱乃さんが不安の声を漏らす。結界外は現在、大体夜中の零時過ぎ。一時間程度で帰って来られる、二十四時間営業のスーパーとかがあれば何とかなるか?
「朱乃さん、ごめん。聞きたいことがあるんだけど──」
◇◇◇◇
「朱乃さん、アザゼルさん、すいません、全部出してもらって」
「気にするなって。こっちに来たばかりで、こっちの金持ってないのは当然じゃねえか。俺もちょこちょこゲームとか買いに来るからよ、換金をしてるだけの話だ。それに、俺の方はこの魔石で貰い過ぎな位だ。元は普通の鉱石になんでもう丁寧に魔力を込められるかね……光力でも同じことが出来るのか、興味が尽きないな」
「私もこのブレスレットを頂いているので、これぐらいはさせて頂きませんと」
大翔さんの提案は、一時的に結界を解いて、すぐに買い出しを済ませて戻り、もう一度結界を張り直せば、時間ロスも少ないということでした。
駅前に二十四時間営業のスーパーもありましたし、金銭面では私が出せば済む話でしたから、私達は手早く食材の調達を済ませていました。おじ様には、私がうまく悪魔や堕天使の気配が抑えられているか再度確認し、大丈夫だろうとの答えをもらいましたし、逆におじ様やお父様も問題なく、人に見える程度の細工は出来る為、大翔さん達も含めて、七名で一気に荷物を持ち帰ってきています。
購入費用はおじ様も半分持ってくれましたので、せめてお礼とばかりに、大翔さんからは、おじ様にストックしていた魔石と、私には身体・精神防御機能つきのブレスレットを頂きました。なお、おじ様も研究素材に欲しいと言い出したのですが、作るのに多少時間がかかるからと、後日のお楽しみという話でまとまっています。
そもそも、私相手に大翔さんから頂いたものを横から欲しがるのは、流石におじ様と言えど、消し炭に変えられても仕方のない言い分だと思います。私はもっともっと、貪欲に力をつけなければなりませんね。堕天使の総督であるおじ様ですら、雷で灰に変えられるぐらいには。その脅しが通じるぐらいには、必ず。うふふ……。
「この街、本当に人以外の気配があちらこちらから感じられて、朱乃さんやアザゼルさんの言う通りなんだと、改めて実感しましたよ……」
戻ってくる途中、怪我を負い、さらにぐったりしていた毛並の良い黒猫を拾い、すずかさんと共に治療を終えた大翔さんが、私やすずかさんと夕食の仕込──そう、結界内では大体、そんな時間帯なのです──をしながら、ぽつりと呟きます。
「神器でもレアな即時治癒だけじゃなく探知も出来るってか……お、軽く味付けして火を通しただけなのに、これビールと合うな」
「アザゼルさん、作ってる横からつまむの止めて下さいよ」
「いやぁ、缶ビール片手に何も無いのも寂しくてな」
「するめとかのつまみも一緒に買ってきてたでしょう、あれ食べといて下さい。アリシアに頼めば、お酌位してくれますし、缶じゃなくてグラスでどうぞ。後で冷やしたグラスと交換しますし」
「何でも出来るオカンみたいだな、大翔」
「じゃあ台所を預かるオカンの邪魔をするとどうなるかも分かりますよね?」
「夕食抜きは勘弁だ、撤退するぜ」
参りました、と言いながら退出していくおじ様だが、大翔さんとのやり取りはまるで長年の友人のようなやり取りでした。すぐにお父様が少し顔を出して、手間をかけてしまったが、おじ様を離さないようにしておくと、私達に声をかけて、居間へと戻っていきます。
こんな家族のやり取りも、私は何年間もしていなかったためか、細かく刻んだ玉葱のせいにしつつ、そっと目元を拭いました。
「猫さん、猫さん、鮭食べるよね? 焼いても大丈夫かな?」
すずかさんはすずかさんで、猫大好きな一面を隠すことなく、助けた猫さんに話しかけています。怪我に加え、お腹も相当空いていたのか、朝の残り物を綺麗に平らげた後は、すずかさんか大翔さんの傍についたままです。
「ただの猫さんじゃなさそうだし、その子も。あー、構えなくていいよ? 君みたいな子は、元々知り合いにいるからさ」
「……どういうことにゃ」
「やっぱり喋れたんだね。いや、狼タイプで人型になれる知り合いがいるんだよ」
しれっと会話をされてますが、大翔さん達は猫が言葉を話せることに違和感が無いのでしょうか……。普通、驚きませんか?
「なるほどにゃ」
「その形態でいると、魔力消費が抑えられるのかな。知り合いはそうなんだけど」
「その通りにゃ……しかし、こちらの正体を察しても、躊躇いなく普通に介抱して、こうして食事までくれるなんて、お人好しにゃのね。あっちの居間で飲んだくれてるおじさんや世話してるおじさんも、相当強い堕天使みたいだし、こっちも危害を加えてくるようなら、さっさと逃げるつもりだったけどにゃ」
「可愛い猫さんは正義だもの。アザゼルさん達は朱乃さんに危害が及ばない限り、動かないと言ってくれているしね」
「と、すずかに言われてしまえば、俺の選択肢は決まってるから。あ、そうだ。苦手な食べ物はある?」
「苦手はにゃいけど、魚マシマシで頼むにゃ。ん? そっちのお姉ちゃんは頭を抱えているけど、大丈夫かにゃ」
猫又と察した上で、介抱をして、ご飯も上げていると。そして、この猫又も相当に肝が据わっているか、あるいは腕に自信があるのか、体力や妖力が回復するまでは貰えるものは貰う方針のようですが、なんとも図太いことです……。
弱っていた力が多少回復したからなのか、彼女からは悪魔の力も感じますし、結界が解かれるまでには、大翔さんにも彼女の存在自体が厄介である可能性を分かってもらう必要がありますね。あの有名なSS級はぐれ悪魔の特徴にも重なる部分がありますし……まさかとは思いますが。
「それでねー、私は猫魈っていう仙術が得意な猫又の上位種族にゃのよ~。黒猫とでも呼んでくれにゃあー、あー、すずかの撫で方は危険にゃ……脱力してしまうにゃ……」
「ふふふ、家ではたくさん猫さん飼ってるからね。撫で方にも年季が入ってるもん。でも、良かったよ。せっかく綺麗な毛並だから、傷は丁寧に治さないといけないと思ったし、頑張った甲斐があったよ。撫でている私も癒されるもん」
「すずかとそっちのお兄さんの治癒魔法、でいいのかにゃ? 回復の早さと丁寧さに加えて、魔力が温かいと感じたのは貴重な経験だったにゃ……きっと、すずかの猫に対する愛情と、お兄さんの気質なのにゃ……」
「私の婚約者さんだもん。料理も上手なんだよ? 楽しみにしててね」
仮の名前で『黒猫さん』と名付けられた彼女は、すずかさんの手技によりぽろぽろと自分の情報を漏らしてくれています。そのせいで、どう見てもSS級はぐれ悪魔としか思えなくなった私なのですが、そうなると、大翔さんには別の意味で危険が迫ります。
確か、人型になる際には着物を着崩してくるという、昔の遊郭の遊女に似た格好をしているはずです。私は女性陣に念話を飛ばし、迂闊に大翔さんを黒猫と名乗る『黒歌』に近づけないよう、あるいは必ず誰かが隣につくように注意を促すのでした。
……しかし、恐らく小猫ちゃんの様子を見に来ていたのでしょうか。小猫ちゃんを見捨てて、はぐれとなった彼女は仙術と妖術を恐ろしく高度なレベルで使いこなすといわれ、単独行動もお手のもののはず。その彼女がここまで傷を負わせられる相手が、この駒王町に入り込んでいるとでも……?
「それでねー、流石に三日以上まともな食事を取れてなかったから、強い私といえど、不意を突かれて、この街に侵入していた堕天使の光力にやられちゃったのにゃ。やっぱり空腹は最強の敵にゃのよ」
「じゃあ、その悪い堕天使さんは次に会ったら、すぐにやっつけられるんだね」
「余裕にゃ。一宿一飯の恩義って奴で、しばらくこの街にいるからその間、こっそりすずか達を守ってやるにゃ」
「ううん、それよりも身体の調子がちゃんと戻るまで、しっかりご飯も食べてこうして撫でさせてくれたら嬉しいな。私もちゃんと自分の身ぐらい守れるんだよ?」
……街に堕天使が入り込んでいる、と。おじ様に確認を取らなければなりませんね。ただ、どうにもその堕天使の独断のように思えますが。
「朱乃さん、今は食事を仕上げてしまおう。一人ぐらい暴れても、この家にいる人達なら追い出すぐらいは出来るだろうし、美味しいご飯を食べれば、そういう鬱屈した気分も多少晴れるってもんだよ」
……そうですね。聞き取りはすずかさんにお任せして、まずは大翔さんの言う通りに、目の前の調理を済ますとしましょう。
彼女はヒロイン勢のパワーアップの為に、最初から絡ませるつもりでした。
ただ、押しが強い彼女なので、ヒロイン候補になり得るというと、
ちょっと難しい一面があります。
ヘタレは異性としては、好まないような気もしますし。
※次回更新は、15日(木)が目標です。