※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第15話 侵入者

 「んじゃ、大翔。準備出来次第、連絡をくれや」

 

「はい。集められる材料全部かき集めてきます。朱璃さんの最高の拠り代、絶対に作りましょう」

 

「朱乃、何があればすぐに連絡を。母さんと共にすぐに駆けつける」

 

『朱乃、大翔さんにご迷惑をかけ過ぎないようにね』

 

 お母様は次元を越えた転移に同行する私の影響を受けないように、次回の合流時までお父様に付いて行くことになりました。時にはお父様に憑依して、手料理を振舞ったり、アザゼルおじ様が暴走しないように見張ったりと、やることには困らなさそうだと笑っています。

 

「ええ、大翔さんの仕事がどういうものなのか、しっかり学んできますわ」

 

「ご飯も布団も借りてる手前、朱乃が戻ってくるまでは、ここを拠点に堕天使の連中は見張っといてやるにゃ。グレモリーの警戒網は甘々すぎるからにゃ」

 

 最初は海鳴に同行する意思を見せていた黒歌ですが、お母様が再度実体化するための準備を済ませ次第、駒王町に戻ることや、すずかさんが小猫ちゃんの件を聞いて『お猫様は須らく幸せでなきゃ駄目なんだよ?』と介入する姿勢を前面に押し出したものですから、連絡手段──次元を越えた海鳴でも連絡が出来る通信機を持った上で、こちらの異変を察知する役割を引き受けたのでした。

 

「悔しいけれど黒歌の言う通りで、堕天使やテロリストの侵入を取りこぼしていますから……部長に進言した上で、体制を再構築しませんと」

 

「学生だから、は言い訳にならないからにゃ。立場に責任がついて回るのは、大翔やすずか達の言動を見てれば分かるでしょ?」

 

 アザゼルのおじ様が大翔さんと話が合うのは、研究者気質だけではなく、大企業と名家の後継者の立場を背負う大翔さんの立場が、おじ様の立場と共通するから。自分の言動に責任を取るのが当然という世界に、彼は身を置いています。

 就寝前に毎晩、空間に浮かべたディスプレイを睨むように見つめて、難しい顔をして考え込んでいるのを見たことがありますが、それは彼が抱えるプロジェクトの進捗状況なのだと、アリサが教えてくれました。今回のように別次元の世界に飛んでいても、必ず一日に一度は見直して、頭に入れ直しているのだと。

 

 駒王町を自分達の支配下に置いているというならば、私もリアスももっとやらなければならないことがある。彼にそうしろと言われたわけではありません。ただ、彼の背中を見て、私は自分を恥じたのです。

 

「どうしたの、朱乃さん、黒歌」

 

「いえ、何でもありませんわ。元々の結界の運用など、家の細かい部分をもう一度黒歌に確認していたのです。海鳴の滞在中は彼女が使うわけですし」

 

「連絡装置は持ってるけどすぐに飛んでこれるかは別の話だし、ちょっとした所の確認にゃ」

 

「なるほど。それじゃ、こちらは帰り支度を進めておくから。朱乃さん、行ってらっしゃい。また後ほど」

 

「はい、行ってきます、大翔さん」

 

「そっちの探知網に引っかからない程度に、すずか達の仙術練習がてら勝手に動いてる堕天使連中の動きも調べておくにゃ。何か分かれば、お前からグレモリーに報告すればいいにゃ」

 

「ええ、黒歌。宜しくお願いしますね」

 

 外出時のちょっとした挨拶を交わし合うことに、心が温かくなる感覚を覚えながら、体感時間で二週間ぶりに、私は学校へと登校することになりました。欠席届をしっかり鞄に詰めて。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「朱乃!? どうしたの、ストッキングを履いてくるなんて。体調でも悪いの?」

 

 学校に着くなり、先に教室にいたリアスが驚きの顔で声を掛けてきます。これまではリアスと同様、ローファーに短めのソックスを合わせていたのですが、正直な話、素肌をあまり見せたくないと思ってしまったのです。この駒王学園の制服のデザインは気に入っているのですが、何分スカートの丈も短いので、歩く時も鞄を極力後ろ手に持つようにして、せめてもの防御対策のつもりでした。

 ええ、大翔さん以外の男性に見て欲しくないという思いからですが、リアスからすれば、今まで堂々と肌を見せていた私が急に変わったように見えるのでしょう。そのために、こちらを気遣うような問いかけになっています。

 

「あらあら、大丈夫よ、リアス。少し変化をつけてみようと思っただけ」

 

「入学してから今日まで、真冬でも履いたことなかったじゃない」

 

「それは貴女も同じでしょ、リアス」

 

 さてさて、まずは一週間の欠席を申し出ないといけませんね。以前、アリシアさん達と相談したように、とある出来事がありお父様との関係が改善する機会があったことや、その兼ね合いで日本国内のグリゴリの拠点に出向く用事が出来たことを説明して、いつまでも家族の問題から目を背けているわけにはいかないから──と訴えれば、リアスは認めてくれるでしょうし。

 

「リアス、昼休みに時間をもらえないかしら。ゆっくり話したいことがあるのよ」

 

「やっぱり今日の朱乃、ちょっとおかしいわよ。分かった、昼休みね」

 

 そして、昼休みになり、私は屋上で人気払いの結界を張ってから、リアスに早速説明をして、一週間の休学を学校側に提出したいと願ったのです。その結果……。

 

「朱乃ぉ、良かった、良かったわね、やっと前に進めたのね!」

 

「……ありがとう、リアス」

 

 泣きながら私に抱き着き、何度も良かったと繰り返すリアスを宥める羽目になりました。ずっと、彼女の中でも私の親との確執は引っかかっている所があって、自分のことのように喜んでくれています。

 本当に優しいわね、貴女は。大翔さんに出会うまで、私を支えてくれたのは間違いなく貴女だったもの。ああ、貴女の抱える問題も私が力になれればいいのに。

 

「光力の扱いも少しずつ身につけているの。これからは『雷の巫女』の二つ名が『雷光の巫女』になれるよう、精進するから」

 

「お父様との集中特訓で、家族の時間を取りつつ光力の扱いにも慣れるため。ひいては、私の女王のパワーアップに繋がると言われてはね。でも、堕天使の拠点でしょ。私も行った方が……」

 

「その間、街に侵入していて勝手な判断で動いている堕天使を放置するわけにはいかないでしょ? 私が訪問するのはアザゼル総督から排除許可のお墨付きを頂くのも兼ねるわけだから、ね」

 

 ごめんなさい、リアス。流石に『まだ』大翔さんのことを話題に出せないから、実はもう裏が取れているとは言えないわね。大翔さんのことを知れば貴女は強引に眷属化しようとするだろうし、そうなればすずかさんがそれこそ真祖返りを起こしかねません、怒りのあまりに。

 対応策を考えてからリアスには報告することになりそうですけど、会長にこっそり相談しておくことも考えておきましょう。あの方なら、ある程度はうまく取り成して頂けるでしょう。小猫ちゃんの一件が絡んでくる以上、顔を合わせずに済むことはありませんからね。

 

「何かあればすぐに連絡すること、いいわね?」

 

「ええ、分かりましたわ、『部長』」

 

 この後、学校側に休学届を提出して、海鳴へ同行するための手続きは完了したのでした。ですが、黒歌の元で仙術の熟達に務めていた大翔さん達は、厄介な気配を察知したために街中へと飛び出していたのです。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「無力化完了……しっかし、えらく手数も多いし、やけにハイテンションで、ひたすら喋り続けていたし、これがこの世界のエクソシストなのか……」

 

「多分、こいつが例外なだけにゃ。ただ、悪魔即殺については、大体合ってるけどにゃ」

 

「戦っていて、別の意味で疲れたわよ……」

 

 魔法の広域探索と仙術の気配察知を合わせることで、消費を抑えながら広域の気配探知を利用して、この街の廃墟と化していた教会から堕天使たちの気配を察知した俺達。偵察に向かった途中で、フリード・セルゼンと名乗った悪魔祓いが襲い掛かってきたわけだが、五対一ということもあり、何とか傷を負うことなく彼の無力化に成功していた。

 

「なんなんすかね、これは! 全く動けねーじゃないじゃありませんか! 俺があんた達もけちょんけちょんにするはずが、この深紅に光る輪っかのせいで簀巻き状態じゃありませんかぁ! なんなのお前ら! 悪魔の糞の癖に!」

 

 なお、簀巻きになっても元気だ。光の力を帯びた退魔剣と銃は回収させてもらっている。防御障壁をしっかり張っていなければ、退魔剣や銃で前線で戦うアリサや黒歌が猛毒を食らいそうな場面もあったし。

 

「うんまぁ、あんたの言うように悪魔は悪魔だからなぁ……まだ、人間やめたつもりはないけど。はぐれみたいなものだし、人に躊躇いなく斬りかかれる君の方が人間やめてる気がするよ」

 

「けっ、悪魔に何を言われても、これっぽっちも痛くも痒くもありませんー! というか、これ解けよガッテム! 解いたらすぐに殺してやるからさぁぁぁぁ!」

 

「……もういいよ、ひろくん。こんな外道神父に手を穢すことは無いけど、ここでしっかり『壊して』おいた方がいいから」

 

 すずかの声は極寒の氷点下と化しており、漏れ出る魔力は辺り一体を氷の世界へと変えていく。散々やかましく煽る言動を繰り返していた神父の身体は首から下を残して氷像へと瞬く間に変化完了、といった状況で。

 

「ほれほれ、黒歌。アンタも近くに来なさいよ。少しは暖が取れるでしょ」

 

「おぉ~、アリサの炎は暖かいにゃ……これ、気も混ぜ込んでる?」

 

「そうよ、せっかく黒歌に教えてもらったんだから。すずかの氷の魔力に充てられても簡単に消えないわけ。無意識下ですずかが魔力を放出する時は、全方位に容赦なく向けられるしね」

 

「結界張ってもおっそろしい寒さだよ……眠ったらそのまま召されちゃいそう」

 

 アリサ達はさっさと魔法で作り出した焚火に集まり、手を当て暖を取りながら俺が対応するのを待つ態勢に入っていた。早く対応しなさいと目線で訴えるアリサだけど、俺もそう簡単に近づけないからね?

 

「メールを頂いて飛んできましたが、すずかさんはお怒りのようですね。あのエクソシスト、殆ど氷像と化していますわ」

 

「朱乃先輩、どうして、あの人がここにいるのですか……しかし、寒いです」

 

「し、白音……」

 

「ついてこないように言ったでしょう、小猫ちゃん。思うところはあるでしょうが、今は動かないで下さいね。動けば、貴女もあの氷像の仲間入りですから」

 

 駆けつけてきた朱乃さんの声と、硬く緊張した色合いを強く含んだ、朱乃さんと比べれば少しだけ幼い声。黒歌さんの漏らした呟きから、答えは出ているようなものだった。

 だが、今はすずかの対応が先だ。目の前の神父に至っては完全に氷像と化している。

 

「すずか。氷像にする前に『干渉』は終わったんだろう?」

 

「うん。氷像にされる恐怖からか精神抵抗も弱くなっていたから、身体を動かすのも苦痛に感じる程の倦怠感が常に襲い掛かるようにしたし、その上で私達に仇なそうとすれば、全身を駆け巡る激しい痛みに常に襲われるように刷り込んだよ」

 

「だったら、もういいさ。俺も身体が冷えた。誰か温めてくれると助かるんだけどな」

 

「ふふ、分かったよひろくん。だけど、くっついたら簡単には離れてあげないからね?」

 

 魔力を霧散させたすずかが胸元に寄り掛かってくるのを抱き止めて、空いた手で氷像を溶かしていく。そんなに簡単に無造作に出来るなんて、と驚く声はあえて捨て置く。黒歌さんの妹さんも二週間前の朱乃さんと同じで、元々十分な魔力や妖力を待っているからか、魔力を細かく制御する習慣がなかったみたいだしね。

 別に無造作に出来るわけでもないし、片手でも炎の魔力を制御出来るのは鍛錬のたまものだからね、うん。

 

「朱乃先輩、説明してくれますよね? 急に姉さまの匂いを感じさせていた理由も」

 

「……ええ、とりあえずは私の家へ行きましょう。リアスにはこのまま帰宅するとメールを入れておきますから。この外道神父は、鎖の拘束魔法で引きずっていくとしましょうか」

 

 朱乃さんが補助系の魔法として俺達から学んだ拘束魔法の鎖を神父に巻きつけ、続けて風系統の魔力を使って身体ごと浮かせて、鎖を引くだけで楽に連行出来る態勢を整えていく。

 

「いつの間に、風系統の魔力も慣れた感じで使えるようになったんですか……」

 

「それも後で話しますわ。さ、移動開始しましょうか」

 

「なんだか凧みたいだよね。あ、私アリシア! アリシア・テスタロッサっていうの、宜しくね! 朱乃さんにはお世話になっているんだ! あ、飴ちゃん食べる?」

 

「……塔城小猫です。……頂きます」

 

 早速、アリシアと紗月が間に入って、自己紹介を始めたようだ。あちらは一旦任せるとして──。

 

「……すずかぁ、大翔ぉ」

 

「不安そうな声を出さなくても大丈夫だよ、黒歌ちゃん。よしよし……」

 

 俺の腕の中から出ようとはしないすずかだけど、近寄ってきた黒歌さんの不安を宥めるべく、黒猫に戻った彼女をそっと抱き上げて、落ち着かせるように撫でていく。

 

「ふにゃあ……あう、白音の前なのにぃ……相変わらずの猫殺しにゃぁ……」

 

「……なんですか、これ」

 

「対猫種族の特効効果を持つ匠の技ですわ。小猫ちゃんも気をつけないと、一瞬で堕ちますわよ?」

 

 妹さんの前で威厳もへったくれもなくなっている黒歌さんであるが、満ち足りた顔をしているし、いいのかな?

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