※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第17話 即堕ち

「……ものすごく寂しかったよ、姉さま。いつ力が暴走するか分からないからって、始末されそうになっていた私をリアス部長が眷属にしてくれて、妹のようにずっと可愛がってもらっていたけど、私にとっての姉さまは、血の繋がった家族は、黒歌姉さまだけだったから」

 

「白音ぇ……」

 

「姉さまの言っていることと、私を始末しようとしていた奴らの言っていたことが正反対だから、正直混乱してますけど。ただ、姉さまの言葉に嘘はないと感じたし、そう信じたいから」

 

「うん……うんっ……」

 

「それにね。あれだけ月村さんの手でだらしなくあられもない声を漏らす姉さまが、自分の力に酔うっていうのも、なかなか想像しにくいですし」

 

 あら? 姉妹の和解に立ち会えると思っていたのですが、なんだか雲行きが怪しいような……?

 

「撫でられただけでマタタビを嗅いだみたいに口元を緩ませて呆けちゃうなんて、ずっと会いたいと願っていた姉さまが一気にただのダメ姉に見えましたし、そんなダメ姉が力の暴走とか、ちゃんちゃらおかしいです。私の感動を返して下さい。出来れば、このお店のシュークリーム5ダースぐらいで」

 

「にゃっ!? そ、そんなにだらしないトロ顔なんてしてないにゃ! 第一、5ダースって多すぎるにゃ! お一人さま2個までって貼ってある札が見えないの!」

 

 涙すら浮かべていたはずの黒歌も一気に素に戻り、立ち上がっては小猫ちゃんに抗議の声をあげます。

 

「ばっちりトロ顔してました。それに、私の食欲がそんな札一枚で止まるはずもありません」

 

「留まれにゃ! 入店禁止になったらそれまでにゃ!」

 

「む……それは」

 

「それにっ、白音だったら、そんな風にならないと言うのかにゃ? 堕ちたりなんかしないとでも?」

 

「当然です。猫は気まぐれなんですから、そう簡単に靡くなんて」

 

「ぐぬぬぬぬ……大翔、すずか、ぎゃふんと言わせてやってにゃ!」

 

 話を振られ、困惑する大翔さんに対して、表情に喜びの色が見えるすずかさんは、すぐに大翔さんの迷いを振り払うべく、声を掛けていきます。

 

「……いいのかな?」

 

「あの綺麗な白銀の髪、撫で心地が良さそうだし、猫姿になったらもっと愛らしいと思うよ。それに姉妹が仲違いしているのを助けることにもなるし、ひろくんは何も悪くないし、むしろいいことの手伝いをするんだよ」

 

 ああ、これがフラグというものなのですね。アリシアさんが概念を教えて下さっていましたが、知識でしか知らない私にもハッキリと分かりました。

 人の身ですら抗う意欲を失わせる、大翔さんの手。種族:猫への特効を持つ、すずかさんの手。どちらの手にかかるにせよ、数分後、きっと小猫ちゃんは──。

 

「にゃあ……ふにゃあ、もう戻れないです……大翔兄さま、すずか姉さま……本当にずっと可愛がってくれますか?」

 

「もちろんだよ。環境を早く整えて、黒歌ちゃんと一緒に、ずっと私達と一緒に暮らせるようにしようね」

 

「姉妹なんだから、仲良くするのが一番だよ。すずかのGOサインも出ているし、俺達も塔城さんが望んでくれるなら、家族の一員としてこれからどうぞ宜しく、って話になるけどね」

 

 二人同時に撫でられるという波状攻撃に、大翔さんとすずかさんの膝上に寝転ぶ姿勢となった小猫ちゃんは、猫耳も尻尾も隠せずに出してしまって、尻尾はふりふりと気分良さそうに揺れ続けています。

 

「……私以上に早かったにゃ。でも、あれは本当に気持ち良さそうにゃ……」

 

「黒歌、貴女も気持ち良さを思い出したからか、耳と尻尾が出ていますよ。ただ、小猫ちゃんがああなるのも無理はないかと。お二人同時に、それもすずかさんは本気で落としにかかったみたいですし。意外と二人ともノリがいいのですね」

 

 実際、一分持ちませんでしたね。瞳を潤ませてもっとと願うようになった小猫ちゃんを二人は膝上に誘導して、十分程度が経過しましたが、完堕ちした小猫ちゃんは、すずかさんが黒歌と一緒に暮らせるようにする提案に迷いもなく頷いて、ずっと可愛がって欲しいとせがんでいる有様です。

 

「黒歌~。私も撫でさせて欲しいよ。艶やかな黒髪、ずっと気になっていたんだから」

 

「あ、アタシも撫でたい。すずかばかり独占していて、アタシ達だって犬も猫も大好きなんだから」

 

「ふにゃ、構わないけど……おおぅ、アリサもアリシア達も気を抜くと一気に力が抜けそうにゃ……」

 

「ひーちゃん達みたいに、私達の膝上においでませ? 安心して脱力出来るよ~」

 

「くっ、悪魔の誘いにゃ……だけど、既に堕ちている黒歌さんはホイホイその提案に乗ってしまうのにゃ」

 

 嬉しそうに膝上に移動していく黒歌、完全に懐いた飼い猫さんですね。極端に小柄な小猫ちゃんと違って、人型では膝上に乗れませんから猫に戻る辺り、撫でられる気満々ですね、まったく。

 

「すずかちゃん達には及ばないだろうけど、どう?」

 

「アタシもどうしても犬特化みたいな部分があるから、言ってくれたら調整するから」

 

「はふぅ……いや、アリサもアリシアと紗月も、十分に魔性の手を名乗っていいと思うにゃ……。この手から逃れたいと思う猫はきっと猫を辞めてるにゃ」

 

「ちなみにひーちゃんとかすずかちゃんのってどんな感じ? 私もひーちゃんに魔力や気を込めて撫でられていると、ふわふわしてすごくいい気分になるんだけど」

 

「まず、思考がまとまらなくなるにゃ。心地良さのあまりにボーっとして、大翔やすずかの言うことを全部聞いてしまうみたいな感じにゃ……よく考えたら恐ろしい話にゃんだけど、一度あの感覚を知ってしまえば戻れない、麻薬のようなものにゃ……」

 

「それって強制魅了みたいなもんじゃない……封印されたアイツの力と一緒ね」

 

「ただ、あれは精神抵抗力が強かったり、他にしっかり愛情を育んでいる人がいれば、普通にレジスト出来るから。同性への効きは弱かったりするし」

 

「比べてる人が誰か分からにゃいけど、あの手は同性異性関係なく猫に対して発動するから恐ろしいにゃ。大翔は猫に限らない気もするし、アリサの場合も、犬相手だったら同じことになるんじゃないかにゃ」

 

「確かに家のあの子達はアタシの言うことを絶対に聞いてくれるけど……」

 

 今もうっとりはしているようですが、会話はしっかり成立する黒歌です。そう考えると、大翔さん達の手は黒歌や小猫ちゃんにとって、本当に危険なものになってしまいますね。

 

「……ところで、大翔さんが躊躇いなく、小猫ちゃんを撫でたり出来ているのはなぜでしょう? 黒歌だって、猫姿でないと大翔さんは拒否反応が出てしまいますのに」

 

「多分、フェイトと一緒なのかも。あ、私の妹なんだけどね、今日の夕食時に顔合わせするけど。ほら、姉や妹に異性を感じるかというと、そうはならないじゃない。ひーちゃんの中でそう定義づけ出来たら、女の子よりも肉親の情が先に立つんじゃないかな」

 

「だから、フェイトは未だに長い片思いが続いてるしね。実際、フェイトが今の立ち位置である程度満足もしてしまっているから、なかなか崩す気にはなれないでしょうし」

 

 大翔さんに片思いをしている、妹的存在、ですか。一体、どんな人なんでしょうか……。

 

「私よりもひーちゃんにベッタリだもん、フェイトは。寝る時はいいとしても、お風呂のタイミングも考えないと。またひーちゃんの背中を流すとかいって、乱入していきそうだし」

 

「流石に大翔も裸見せられたら卒倒しちゃうしね。それならタオルを巻けばいいとか、あの子は言うけど、あれって計算じゃなくて、素で言ってるし……」

 

「……性教育、してないにゃ?」

 

「母姉ともども過保護過ぎたと反省している」

 

『だが天然培養のフェイトは可愛い!』

 

「例の母親が将来を大翔にしか任せるつもりが無いから、大翔相手だったら間違い起こっても問題ないとか思ってる節があるし……頭が痛いのよ」

 

 大翔さん相手には外堀から埋めるのが有効とは思いますが、まさか親御さんが埋め立てを促進して、退路を封じようとしているとは……。

 これは海鳴でも、一騒動二騒動と有りそうな感じですね。大翔さんと関係性を進められる時間を何とか作り出せるように頑張りませんと。

 

 ところで、小猫ちゃん。あっさりお腹を見せるのは仕方ないとしても、猫姿にならなくていいのかしら。その状態でお腹を大翔さんに撫でて欲しいというのは、流石に無理があると思いますから……。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「小猫ちゃん、猫姿には戻らなくていいの? 可愛いおへそも全部見えちゃってるよ?」

 

 ──ふわふわして、気持ちいい。気持ちいいから、いいんです……。大翔兄さまは、どうしてお腹は撫でてくれないんですか?

 

「猫姿だったら多分、大丈夫と思うんだけど。ちょっと体質的な問題。ごめんね、小猫ちゃん」

 

 白音、本当の私の名前……兄さまと姉さまには、そう呼んでほしい、にゃ。

 

「白音ちゃん、だね。分かった、そう呼ぶね」

 

 すずか姉さまのお腹を撫でる手が、兄さまの耳や髪を撫でてくれる手が、本当に気持ち良くて、安心できて、全部預けてしまいたくて──。黒歌姉さまの言ったこと、本当だったよ。ごめんね、黒歌姉さま。

 二人に思わず、兄さま姉さまと呼びたいってお願いしてしまうぐらいに、二人の手は欲しかった温もりや愛情や安心感とか、全部伝わってきて。魔力や仙術の気の力をこんな風に温かく使いこなす二人に、私はあっさり懐いてしまった。

 

 難しいこととかは、考えられない。悪魔らしく、この人達の傍にいたい欲望がどんどん強くなるから、傍にいるだけ──。黒歌姉さまも、きっとそうだよね。

 

「さて、そろそろ家に帰らないと。白音ちゃんにもご馳走が待ってる。一時帰国してるノエルさんが張り切っていたからなぁ、何が出てくるやら」

 

「大丈夫、白音ちゃん。ほら、ひろくんと私と手を繋いでいたら、その感覚がちゃんと身体を巡るのが分かるでしょう?」

 

 身を起こして、二人と手を繋ぐ形になってみれば、ぼんやりとしていた思考がちゃんと出来るようになってくる。だけど、身体の中にある温かい感覚は消えるわけじゃなくて。

 ──本当は、お父さん、お母さんと呼びかけそうになった私がいる。それだけは何とか思い留まったんだけど、二人にはそんな温かさを感じた。

 

「なんで、こんなことが出来るんですか?」

 

「うん、俺の稀少技能がその理由なんだけど──」

 

 兄さまの『融合』という力。魔力等を介して、相手の能力を複写出来て、一度複写した力はまた誰かに複写させることが出来る。これだけ聞けばものすごい力だけど、熟練度まで一緒に複写できるわけじゃないから、素養を渡せる程度のものなのだという。

 ただ、魔法使いや仙術の素養が無い人がその技能を磨けるようになるのもすごい話だし、魔力や気の力の総量自体は大翔兄さまから何度も力を循環させることで少しずつ増えていく。だから、努力次第で実力者になれるための才をもらえるようなもの。

 

 すずか姉さまやアリサさん達は、大翔兄さまの力になりたくて、その力を受け取り、同時に磨きをかけていて、最低でも中級悪魔程度の力は持っていそうな感じだ。その寵愛を受ける大翔兄さまは本当に上手に隠しているから、予想込みだけど、部長よりも上かもしれないという気がする。少なくても、今の私じゃ敵わないだろう。

 

「それで、基礎能力を上げられるってことで、小学校の頃からよく循環させていたんだけど、その内、すずかやアリサ達の魔力の流れが澱んでいたり、乱れているのが分かるようになったんだよな。それで流れの強さを変えてみたり、按摩のやり方を覚えて、身体の凝りをほぐしながら、魔力を集中的に浸透させてみたりとか……」

 

「それって、気の通し方と殆ど一緒です」

 

「うん、だから黒歌さんにも異常に身に着くのが早いって言われた。黒歌さんに気を流してもらった時、一気に要領を得た感じだったよ」

 

 今だってこうして話しながら、送迎の車の中でも魔力や気が私やすずか姉さまを通じて、また兄さまへ戻っていくのが分かる。私の猫魈の力がそれに伴って活性化しつつあるけど、兄さまが暴走しないようにうまく散らしてくれているのも伝わっているから、安心して兄さまの話を聞けている。

 

「私は、自分の中にある猫魈としての力が怖くて、無意識に抑えていたから、身体の成長も止まってしまってるって、悪魔のお医者さんに言われたことがありました。でも、兄さんがいたら、もう必要以上に恐れなくてもいいんですよね?」

 

「ああ、制御の手伝いはこれでも得意な方だから、大丈夫。きっちりフォローしてみせるさ」

 

 得意な方、なんてレベルじゃなくて制御技術は達人クラスと思うのですが、兄さまはもっと上の頂きを見ているんでしょうね。普通、こんな日常会話をしながら、活性化したばかりの私の仙術や妖力を──そう、妖力まで整えているなんて。

 

「この感覚を毎日教えてもらえれば、そう遠くない日に私も仙術や妖術を使えるって、そう思えます。……だから、帰りたくない、って思ってしまいます」

 

「大丈夫だよ、白音ちゃん。ねぇ、ひろくん?」

 

「あっちでも張っていたけど、こっちでもやりますか。黒歌さんとゆっくり話をする時間も必要だろうし……」

 

「遅くても24時までに集合して、後は鍛錬場所にいるだろうから、庭の大部分と、家全体に結界を張れるように補助具も用意しないとね」

 

 兄さま達は一体何の相談をしているのでしょうか。ただ、兄さまや姉さまの微笑みを見ている限り、悪いようにはしない、それは分かりますけど。

 

「白音、白音。大翔の制御技術を生かした、すごいものが今晩見れるから楽しみにしてるといいにゃ」

 

「黒歌姉さまは知っているんですか?」

 

「海鳴への転移前にね。私達にとってもいいことだから、楽しみにしていればいいにゃ」

 

「姉さまが得意そうにする権利はありませんけどね」

 

 私に説明をしてきた黒歌姉さまは、自分のことのように得意気です。私は、そのことにツッコミを入れつつ、大翔兄さまとすずか姉さまと手を繋いだまま、本日宿泊させてもらう月村邸──すずか姉さまの実家へと戻ってきたのでした。




姉妹共に陥落。
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