※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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なんかまとまりない感じですが、ひとまず更新。
修正入れる場合は、この前書きに追記しておきます。

※加筆しました。


第18話 妹の想い

「お兄ちゃん! ただいまっ!」

 

「フェイト、お帰り。はは、どうした、久し振りに甘えたさんだな」

 

 家に戻れば、長い金色のツインテールをなびかせて俺に飛びついてくるフェイトの姿があった。普段は真面目に職務や勉学に取り込み穏やかな性格のまま成長した彼女だが、歳を重ねてもプライベートではこんな甘えた一面を見せてくれて兄代わりの俺としては嬉しい限りだ。

 ただ、彼女もすずか達と同じく少女から女性に変わりつつある年齢でもあり、無闇に異性に抱き着いたりしてはいけないと注意はするのだが、俺だけにしかこういうことはしないから問題ないと聞く耳を持ってくれないのが唯一の悩みの種か。

 

 飛び込んできたフェイトを受け止めるために今まで繋いでいた白音さんの手をとっさに離してしまったけど、すずかが彼女に耳元ですぐに何やら囁いた後は同情めいた瞳でこちらの様子を見守るようになった。……すずかは一体、何を言ったんだろう。

 

「だって、嘱託の仕事でお兄ちゃんに二週間ぐらい会えなかったんだよ? また明日にはすぐに戻らないといけないし……」

 

 お兄ちゃんなどと呼ばれているが、実際には同学年だったりする。フェイトが兄代わりになって欲しいと願い、俺が受け入れたことで、随分と長い間こんな関係性が続いていた。

 

「そうか、頑張っているんだなフェイト。ただ、無理はしないでくれ。どうしてもしんどいなら嘱託魔導師の仕事を辞めてしまって構わない。お前一人養うぐらいの力は持っているんだからな、もし強引に引き止めるんなら、皇貴やはやてのやつをとっちめてやるから」

 

「うん、ありがとう、お兄ちゃん。でも、私は大丈夫だから」

 

 頭を軽く差し出すフェイトの髪をそっと撫でながら、手早く魔力の流れを確認する。フェイトも俺が魔力を通し始めても、軽く身じろぎする程度で、特に拒否を示すわけでもない。これ幸いと、やや乱れているリンカーコアの周辺の魔力の流れを整えておく。

 

「お兄ちゃん……」

 

 俺の手を取り頬に当てて、少し潤んだ瞳で見上げてくるフェイト。真っ直ぐな信頼が向けられていることに、俺はさらなる精進を心に誓う。フェイトの兄として彼女が誇りに思えるよう、信じ続けられる男でいられるようにと。

 

「フェイト、実は今晩例の結界を張るつもりなんだ。だからお前が良ければ、少しゆっくりしていくといい」

 

「ほんとっ!?」

 

 満面の笑みとはこの事だろう。この笑顔を見られるだけで、大規模な封時結界を張る意欲が湧いてくるというものだ。

 

「……あれで、本当に気づいてないにゃ?」

 

「ね、信じられないでしょ」

 

「だから、直接言葉にしないと通じないっていうのはそういうことなの」

 

「よく分かりましたわ……だから、言葉で繰り返し、真摯に伝える、なのですね」

 

「……前途多難ですね。兄さまらしい、そんな感じもしますけど」

 

 後ろの黒歌さん、アリサ、すずか、朱乃さん、白音ちゃんは一体何のひそひそ話をしているのか。振り返って声を掛けようとすると、目の前までアリシア達がやってきていた。

 

「フェイト、お帰り~」

 

「姉さん、ただいま。もう急に抱き着いたら危ないよ?」

 

「ちゃんと受け止めてくれると分かってるもん~」

 

 なお、フェイトの背中を咄嗟に俺も支えて、事なきを得ていたりするので、抱き着かれたフェイトからはお礼の意味の目配せをされている。

 

「ねえ、お兄ちゃん。ところで、見覚えのない人がちらほらといるんだけど。おまけにお兄ちゃんの魔力を感じる人まで。写したんだね……ねえ、どこまで? すずかの力は私も貰ってないから、当然渡してないよね?」

 

「そんな険しい顔をするな、フェイト。信用できると判断したし、すずか達にも相談したから渡した。それにお前の言う通り、全ての力を渡したわけじゃない」

 

 将来の家族を増やすということに、フェイトは強く反応する。いずれは嫁いでいく身とはいえ、年に何度か里帰りする家族に、自分の認められないような人物が加わる可能性を考えているのか。

 それに、そんな相手を射殺すような険のある顔は、すずか達だけでなく、お前にもして欲しくない。フェイトには穏やかな笑顔の方がよっぽど似合っているから。

 

 ──実際には朱乃さんに魔力を奪われたわけだけど、真実を伝えるのが良いとは限らない。

 

「あ、うん、分かったよ、お兄ちゃん。えへへ、そうだね、すずか達も判断しているわけだし、そこまで心配いらないもんね。でも……」

 

「でも?」

 

「『まだ』お兄ちゃんのパートナーじゃ無いよね、あの人」

 

「……分かるのか」

 

 もちろん、と強く頷くフェイト。アリシアや紗月はなぜか頭を抱えているが、どうしたというのか。

 

「俺に好意を持ってくれているとハッキリ伝えてくれているが、俺が応えるかどうか答えを出せていない状態なんだ。彼女には悪いと思っているが、今は待ってもらっているんだよ」

 

「そっか。じゃあ私も十分に見極めてあげないと──」

 

 戦場に出る時のような鋭い瞳で、フェイトは朱乃さんを真っ直ぐに見据えていた──。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 完全にロックオンされましたね、私。大翔さんと話しながら、私に念話を飛ばしてくるなんて。

 

『お兄ちゃんの魔力を、お腹の奥から感じない。貴女がまだお兄ちゃんのパートナーじゃない証拠だね』

 

 大翔さんへの想いは明らかに妹のソレではなく、女性としての情念。強烈な嫉妬を隠すことなくそのまま念話に乗せて、こちらへと叩きつけてきます。うふふ、想いをずっと告げられずに鬱屈した感情を私にぶつけられても困りますけれど。

 

『ええ、今はまだパートナーではありませんけれど、必ず大翔さんを支えるに足る伴侶の一人となってみせますから』

 

 貴女は怖いだけ。今までの、あまりに居心地のいい『妹』という立ち位置を失うことを恐れ、想いを告げることが出来なくなっている。

 私だって、怖さが無いわけじゃない。けれど、大翔さんだけにこの身を捧げ、一生を共にしたい、彼を幸せにしてあげたいと、私の『女』全部が強く訴え叫んでいた。だから、私はその想いが叶うまで、大翔さんに私自身を常に高めながら、売り込み続けるだけのこと。

 

 絶対に諦めないと、自分で決めてしまえば意外と腹が据わるものですよ? 本気の想いで大翔さんを幸せにしたいのならば、すずかさん達は受け入れてくれるのですから。

 

「初めまして、フェイト・テスタロッサです。大翔兄さんやアリシア姉さんがお世話になっています」

 

『伴侶なんて言うのなら、マルチタスクぐらい使えますよね? 兄さんの側には足手まといはいらないんですよ? それとそっちの牝猫、兄さんの妹を名乗っていいのは私だけだから、調子に乗らないで下さい』

 

 彼女の表情は笑顔を形作っていますが、瞳には冷たく澱んだ昏い光が宿っています。話し掛けると同時に個人宛の念話を使うのは結構ですが、小猫ちゃんはこちらの魔法体系を知りません。

 

「姫島朱乃と申しますわ。よろしくお願い致しますね」

 

『あちらの着物姿と小柄な子は、此方の世界の魔法技術を知りません。ですから、念話を飛ばしても正しく受け取れませんよ』

 

 並行思考。私もまだ二つまで、しかも平常時でなければ使えませんが、大翔さんの助言で短いながら、毎日訓練を続けてきたのです。これぐらいはこなしてみせますわ。

 

「朱乃先輩。頭にノイズみたいなのが届いたの、そのアリシアさんの妹さんの仕業ですよね?」

 

 念話の魔力を感じたのか、小猫ちゃんが私の隣について、フェイトさんへの疑問を口にします。

 

「失礼ですが、そちらの方は?」

 

「塔城小猫です。別の呼ばれ方をされる時もありますが、妖怪の端くれなので、そちらの名前とでも思って下さい」

 

「どうして、大翔兄さんのことを、兄さまと呼ぶのか、是非お聞かせ頂きたいなぁ」

 

「兄さまやすずか姉さまが許して下さったから、そう呼んでいるだけです」

 

 二人とも言葉は丁寧なものなのに、刺々しさを隠そうともしません。さて、このままだと埒が明きませんし、一つ手を打ちましょうか。アリシアさんの妹さんとギスギスした関係性になるのも出来れば避けたいですし、彼女の内包する魔力はとても大きなもの。

 

『すずかさん、夕食前ですがお風呂お借りできますかしら? 出来れば、すずかさんも一緒に来て頂けると助かるのですけど』

 

『白音ちゃんもフェイトちゃんも一緒にってことだね、いいよ。……あ、そうだ。いっそ、皆で汗を流しちゃおうか』

 

 念話を向けてみれば、すずかさんもすぐに意図を汲んでくださり、最終的には皆で入浴タイムと洒落こむことにしたのでした。

 なお、フェイトさんはすずかさんの吸血姫パワーで強引に連行され、小猫ちゃんはすずかさんのお願いとなれば、拒否も出来ずに同行するのでした。そして──。

 

「どうして、貴女が私の髪や身体を洗ってるんですか」

 

「すずかさんに聞きましたもの。大翔さんの家族になろうと思うなら、互いを尊重して、ちゃんと仲良く出来る人だけを選ぶんだって」

 

「だから、私とも仲良くしようと?」

 

「それだけじゃありませんよ。私とフェイトさん、よく似ている所があると思って。お話ししてみたいなって思いまして」

 

 似ているというか、似た性質ですね。独占欲が強くて、この人だと思ったら誰かの恋人であってもどこまでも諦め切れない。

 だって、心を包むように温めてくれて自分が抱えていた長年の蟠りを救ってくれた大翔さんを、既にすずかさんやアリサの伴侶だからなんて、諦められるはずがなくて。フェイトさんも姉のアリシアさんが彼のパートナーと判っていてもずっと諦め切れないから、妹という別の特別な枠で彼との繋がりを強く保とうとしているんじゃないかと、そんな風に感じたのです。

 

「似ているって意味では、すずかさんもそうですけど。ただ、あの人は最初に大翔さんを捕まえたっていう大きなアドバンテージがありますから」

 

 とんでもなく広い浴場ですから、すずかさん達がお湯に浸かっているのは見えても、こうして声を潜めて話せば、あちらにこちらの声は届かないぐらいの距離があります。

 

「……待って、私が大翔兄さんを異性として見てるような言い方は止めてもらえないかな。兄さんに失礼だよ」

 

「この髪も肌もこんなに丁寧にケアされているじゃありませんか。綺麗な自分をいつもあの人に見せたいからではありませんか? すずかさん達の手入れも徹底していますもの。手を抜いたら、こちらがすぐに見劣りしてしまうぐらいに」

 

 大翔さんが気づく、気づかないとはまた違って、周りの女同士での評価に直結してしまうから、手は絶対に抜けなくなりました。まして、大翔さんと付き合っていくということは、社交場に出る機会も増えます。つまり、大翔さんの女として、私の振る舞いや立ち姿一つがそのまま大翔さんの評価に直結してしまう……。

 

「パートナーという立場じゃなくても、護衛役や秘書的な役割として、大翔さんの横に立つということは、常に見られる立場になるということですから。大翔さんに綺麗な自分を見せたいと努力を続けることが、大翔さんの評価にも繋がっていきますし」

 

 私から見ても、アリシアさんと同じような流れるような長い金髪に、魔導師として鍛えているのでしょう、四肢も引き締まっていて、バランスの取れたボディラインをお持ちです。すずかさんやアリサと並んでも決して見劣りすることのない、素敵な女性に見えるのです。それに口ではどう言おうとも、大翔さんへの強い想いをこの人は持ち続けている。初対面の私が少し話したり、様子を見るだけで、ありありと伝わってくるものがあったのですから。

 

「……私は兄さんに相応しい妹でいようと、心がけているだけです。兄さんには、すずかやアリサ、アリシア姉さんがいる」

 

 フェイトさんの声色は全然納得がいってないのだと、とても素直で。

 

「自分に嘘をつくのって、苦しいですよ」

 

「今日初めて会った貴女に、何が分かると言うんですかっ……!」

 

 背中を泡立てていた私に振り返り、憤りを顕わにするフェイトさん。ええ、出会ったばかりの私が何を言うのかと、怒りを覚えているのでしょう。

 

「ええ、私は貴女がどれだけの想いを抱えながら、長い年月を妹という立場で大翔さんの傍にいるのか、想像もつきません。分かるのは、私が大翔さんを見つめる視線と、貴女が大翔さんを見る瞳が同じで、同じ男性に強く惹かれているということぐらい」

 

「……」

 

「私のきっかけは大翔さんの魔力を直に感じたことが始まりで、正直、結界内で引き延ばした時間を加えても、あの人と出会って二週間ぐらいです。それでも、毎日接する中でどんどん惹かれていって……すずかさん達がいても、諦められない。そう思うのに、時間は掛かりませんでした」

 

 想像がつかないと返され、気を削がれたところに私が大翔さんに惹かれた理由を話し始めたことで、フェイトさんの瞳は困惑の色に変わっています。

 

「そう、諦めるなんて……出来ない。貴女も私も其々の強い理由で、大翔さんのずっと傍にいたいって想いを捨てられない。だから、私はフェイトさんに言いたいの」

 

「何を、ですか?」

 

 問いかけてくれたフェイトさんに、私は一つ息を吸って、吐いてから、ちゃんと彼女の目を見据えて真っ直ぐに考えを伝えます。

 

「ねえ、私と一緒に、大翔さんのお嫁さんを堂々と目指しませんか。すずかさん達の居場所へ私達も割り込んでしまいましょう」

 

「……言ったよ、私。兄さんには既にすずかやアリサ、姉さんがいる。だから、兄さんのパートナーはもう十分魅力的な女の人達がいる。私『なんか』とても、兄さんのパートナーは務められない」

 

「いえ、足りないんです。これはすずかさんとも意見が一致しています」

 

「……どういうこと?」

 

「今は、いいんです。大翔さんとすずかさん、アリサ、アリシアさんが、互いに互いを守れる。特にすずかさんは大翔さんと同じく不得意分野がないタイプの方ですから、何かトラブルがあっても対応が可能です。それが魔法関係のような超常的なトラブルであっても。ただ、予定では高校卒業と同時にすずかさんとアリサがトラブルの場には出にくくなりますよね?」

 

 独占欲が強いはずのすずかさんが、大翔さんの伴侶が増えるのを認める理由。それは、魔法や夜の一族のような非日常の世界の事情を知り、かつ大翔さんを守れる力のある女性を必ず傍につけておくため。

 人のためにすぐに無茶を打ったり、トラブルへ飛び込んでいく大翔さんを、すずかさんやアリサが普通に動ける時期は助けたり、止めることができる。けれど、彼の子供を宿している時期に、そういう場に出ることを大翔さんが許容するわけがない。

 ……いざとなれば、すずかさん達は動ける限り、大翔さんの無茶を止めようとするでしょうけど、大翔さんのサポートをするだけでなく、すずかさん達を守る人も必要になっていく。大翔さんを守れる人が一時的に減るだけばかりか、守られる対象が増えるわけですから、単純な計算で倍の人数が必要になります。

 

「プライベートな空間まで、家で雇うボディーガードに入られるのもキツい話ですから。『家族』として信頼できる人に、大翔さんや動けない時期の自分達のフォローを、と考えているんです」

 

 黒歌や小猫ちゃんがペット枠で家族になってくれたら、とすずかさんの想いはあるようですが、大翔さんの伴侶になってもそれはそれで、という覚悟はお持ちの様子。フェイトさんについては以前から、いいきっかけがあればと考えていたみたいですね。

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