「すずかさんやアリサが彼の子を欲しいと強く願っているのはご存知ですよね?」
「うん、すずかなんて中学に入る頃には、高校卒業と同時に一人目妊娠するって、兄さんがいない私達だけの時とかハッキリ言い切っていたし。アリサも重婚法が成立するのが決まってからは、すずかと一緒に赤ちゃん産むんだって」
「まぁ、そんな早くから決めていたんですね、すずかさんは」
「すずかの兄さんへの思い入れぶりは、正直誰よりも強いと思う。すずかは兄さんのためなら、迷わずどんな相手も排除に走るから。アリサや私だって例外じゃない」
流石のすずかさんと言いますか、世界すら敵にすることを厭わないんじゃないかとか、色々納得してしまいますけど、今はフェイトさんの説得が先ですね。
「そんな思い入れの強いすずかさん達ですから、間違いなく、大翔さんの守るべき家族は増えます。自衛手段を持たない、全力で守るべき子供達が。そして、すずかさん達も子供を無事産んで、魔導師としてのブランクを再び埋められるまで、大翔さんと共に戦える存在から守られる存在へと変わってしまいますから」
「だから、兄さんを直接守れる人が減るし、逆に守る存在は増えていく……その言い方だとドクターの話は、知ってるんだね」
私は短く頷いて答えとしました。大翔さんと会える原因の元となった、狂科学者の話は聞き及んでいます。私からすれば感謝する部分が大きいですが、なにせ愉快犯の性質が強い人のようで、こうして次元転移の被害に遭うことも大きいのだそうです。
「兄さん自体がドクターの研究対象だから、トラブルには定期的に巻き込まれるから困ったものなんだけど。ただ、研究者としては超一流らしくて、次元転移で兄さんが確実に帰ってこれる『次元座標の演算方法』の基礎はあの人が作り出して、兄さんと母さんが改良した代物だからね……」
持ちつ持たれつ、かつ大翔さん達が住む海鳴には干渉しない。そんな条件の下で付き合っておられるようです。やってることは完全に犯罪者のそれですが、海鳴への干渉は行わない──その一点はずっと守られていて、関係性も良好とのこと。
「まぁ、ドクターの件も含めて、兄さんの守りは必要。兄さんがいくら実力者であっても、一人だとどうしても対応できる状況に限界がある。だけど、すずかも納得できる相手となれば……」
「旧家や大企業の跡取り娘である、すずかさん達につく護衛役も必要です。ただ、すずかさん達がそもそも私的空間まで入ることを許容できる人となると、そう人がいるわけじゃありません。すずかさんはそう判断していますし、だから、私が伴侶の一人になりたいと、強く願うのであれば認めるし、実際に彼女に鍛えてもらっています」
すずかさん自身もジレンマを抱えていることを、私は明かしてもらっていました。
『本当は、ひろくんをずっと私だけに縛り付けておきたい。ひろくんの子供は絶対に欲しい。だけど、ひろくんの子供を宿してしまえば、その間ひろくんを守れない。むしろ守られる立場になってしまう。足手まといになる』
『私は一時的にひろくんの盾になれなくなる。海鳴での外出時には、父さん達が雇うボディーガードが常についてくれているけど、超常的な力となれば難しいから。だからね、私は互いに信頼できて、ひろくんを心から愛してくれる人達で、望んで彼の盾になってくれる人を──』
本当は全部自分だけで出来れば一番いい。だけど、何より恐れるのは、大翔さんに万が一があること。ですから、すずかさんは自分がこの人なら許せるという女性を大翔さんの傍につけることを受け入れた……。
「ただ、前提として、大翔さんが受け入れられる人でないと駄目ですから。男の人の護衛は、すずかさんが大翔さん以外の男性を、近づけるのを極力避けていますし、アリサも私もアリシアさんもそれは同じですから……」
身も蓋もない言い方ですが、大翔さん以外の男性と至近距離に近づくことに強い嫌悪感があります。アリサはあの社交的な一面から、嫌悪感まではいかないみたいですけど。それでも、プライベート空間まで入られるのは勘弁だとハッキリ仰られていますし。
お父様など家族を除く話ではありますが、イッセーくんなど、仲間内の異性に対して、自分がどんな反応を示すか、少し怖い部分もありますね。それで気まずくなったらそれまでと思ってしまう時点で、私も割り切ってしまっているのだと思います。
「うん、自分の身はたいてい自分で守れるし……兄さん以外の男の人って警戒心が先に立つから。仕事で付き合いのある人も、私が距離感を取ろうとしてるのは分かってくれているから、不用意に近づいてきたりしないし……たまに下衆な感情を出して近づいてくる人は、雷を落として黒焦げにさせてもらってるけど」
「あら、私も雷の扱いが一番得意なんです」
「そっか、貴女も。……分かったよ、頑張ってみる。ものすごく怖いけど、確かに私も諦められないよ。だから、一緒に目指してくれるかな」
「もちろんですわ。一人なら心が折れそうになるかもしれない。だけど、二人ならお互いに励まし合えますもの」
手を伸ばし、互いに固く握手を交わして、私とフェイトさんは共同戦線を張ることに決めたのでした。フェイトさんも自分が洗ってもらったからと、私の髪も丁寧に洗い返してもらって、互いの手入れのやり方を語り合いつつ、すずかさん達が温まる浴槽へと合流していきます。
「……今さらだけど、すずか、アリサ、お姉ちゃん。私も兄さんの恋人になりたい。目指すことを、許して欲しい」
そんな風に告げたフェイトさんを、今さらだと三人はすぐに受け入れていました。アリシアさんに抱き締められ、アリサに決心が遅過ぎると軽い調子で野次られ、フェイトさんは少し困り顔で笑います。
「フェイトちゃん、避妊はしっかりとお願いね。私が大学在学中に三人は産みたいから、その間、ひろくんや私達をちゃんと守ってもらわないと」
「……すずかはいつも通りだね、ホッとしたよ。いい機会だし、管理局の嘱託もすぐに辞めるから、その辺りは任せてくれて大丈夫。元々、すずかやアリサの子供を一緒に世話させてもらって、疑似的な母親をやるつもりだったし、それに何年かは兄さんの恋人をしていたいから」
すずかさんはいつも通りです。それに無理なく対応しているフェイトさんも慣れているということなのでしょうね。
「安定のすずかだったわ」
「どういう意味、アリサちゃん」
「そのままよ、すずか。ところで、フェイト。管理局をすぐに抜けても大丈夫なの?」
「私が向こうに協力することで、海鳴への不干渉が暗黙の了解だったけど、ここ最近は本気で使い潰すつもりで無茶をやらされていたから、いくらなのはやはやてが庇ってくれていても、ほんと愛想が尽きたよ。兄さんの封時結界の時間操作で休めなければ、確実に潰されていただろうね。どうせ上の人達は私を壊して、兄さんやアリサ達を含めて、海鳴に手を出す理由にしたかったんだろうし」
「今は私達も力もついたし、次元封鎖の目処も立ったから……本当にごめん、フェイト。時間稼ぎとはいえ、本当に無茶をさせたわ」
「ううん、元々、私が引き受けたことだし、海鳴で長期療養に努めた母さんの身体も完全に持ち直してる。というか、すずかや忍さんのお陰で若返ってるし、母さん。ちょうどいいタイミングだったんだよ」
話が見えない部分が大半の為、黙って聞くことに徹しますが、どうにもフェイトさんが人質のような立場になっていたのでしょうか。
「グレアム顧問官もそろそろ後ろ盾になるどころか、自分自身無事勇退出来るか怪しい状態になってるみたいだし、リンディさんも地上に降りてからは閑職に回されていて、私達に好意的な味方をしてくれる要職の人達がいなくなってきたから、逃げる機会はずっと計っていたし……」
「なのは達には悪いけど、すぐにでも正規ルートは塞ぎましょうか。抜け道は残すにしても、次元震が点在していて僅かに安定している、こちらで作成したポイントを何回も飛んでもらうようにして……」
「直接、転送装置なんて使えないように、海鳴の正確な座標は計測できないように干渉もしてしまわないとね。ドクターが遊びの延長で研究してた、危険な次元関連技術もこうして生かせて欲しくは無かったけど……仕方ないよね?」
「守るべきは、まず大翔や私達を含めた、この街の安全。そこは外せないし、それこそなのは達には帰ってきてもらうぐらいでちょうどいい」
……恐ろしい話になっているのはなんとなく分かります。すずかさん達は静かに怒りを覚えていて、ぶるりと身を震わす小猫ちゃんを黒歌がしっかりと抱き締めていました。
「魔法にしてもなんでもそうだけど、至上主義になって、それ以外の世界を下に見る人達と関わる必要は無いんだから。フェイト、ごめんね。情けないお姉ちゃんで。でも、私もやっと厄介事は自分で払えるぐらいの力はついたから」
「朱乃達には訳の分からない部分も多いだろうけど、駒王町との行き来に影響は出さないから、その点は安心して。大翔や私達に害を及ぼす世界との行き来を出来なくするだけのことだから……よし、こうしちゃいられないわ、大翔の所に行くわよ。一人風呂でのんびりするのは悪いけどおしまいにしてもらわないと!」
「この壁の向こう側が、月村家を訪れた人が泊まる時に使ってもらう、男性用の大浴場なの。のんびり一人風呂してるって念話で伝えてきていたし、この下を潜れば、向こう側に通じてるから。順番についてきて。私は先に行って、ひろくんを捕まえておくから」
飲み込め切れない部分は多くても、私達はとにかくすずかさんの先導で、浴槽内の壁にぽっかり開けられた移動口を通り、順番に移動を始めます。
……でも、大翔さん、いきなり私やフェイトさん、黒歌や小猫ちゃんの身体を見て、卒倒しないんでしょうか。チャンスとは思いつつ、大翔さんの心配も覚えながら、私は浴槽内の移動口を潜るのでした。
◇◇◇◇
「私、潜るのは……」
「息を止めておけば、お姉ちゃんがさっさと連れて行くにゃ」
「兄さまに身体を見られたら、幻滅されます……」
「仙術の修行すれば、白音もすぐにグラマラスになるにゃ。逆に今の小柄な可愛い白音は今の内に見てもらうにゃ。私だけじゃにゃくて、大翔やすずかも補助してくれるから、暴走の危険性の心配も殆どにゃいし、無理やり止めていた成長期がやってきたらあっという間にゃ!」
あの猫耳を出した姉妹は何をしているんだろう。実際には姉しか耳が出ていないんだけど、ロッテやアリアと同じ感じがするから、猫又の仲間なんだろうし。
「これ、使って」
「!……あ、ありがとうございます。テスタロッサさん」
「フェイトでいいよ。最初は正直ムカッともしたけど、妹以上になる決心がついたら、貴女が兄さん……ううん、ほんとは普段、お兄ちゃんって呼んでるんだ──貴女がお兄ちゃんを慕って、兄のように呼ぶのも別にいいかなって。現金でしょ、私」
私は身体を洗うために持ち込んでいた柔らかい生地のタオルを渡しながら、そんな風に自嘲する。ほんと勝手だ、私は。お兄ちゃんに私は、本当はずっとお姉ちゃんやすずか達みたいに愛してもらいたかった。妹じゃなくて、一人の女の子として。
朱乃はそんな私に、自分自身に嘘をつくのを許さなかった。一緒に勝ち取ろうと、手を伸ばしてきた。そんな朱乃の手も、実は少しだけ震えていて。彼女も怖いんだって思うと、ちょっと楽になって。
「……お借りします。私、人の世界では小猫ですけど、ほんとは白音って言います」
「うん、白音だね。分かった」
「それと、私は兄さまに好意的な感情を覚えていますが、この気持ちがフェイトさんや朱乃先輩のようなものなのか、まだ分かりません。ただ、兄さまの手はとても温かくて、撫でられているととても幸せな気持ちになれるんです」
「そっか、その感覚は私も同じ。もし、お兄ちゃんへの気持ちが白音の中で定まったのなら、また教えて欲しいな」
「はい。ただ、一つ言えるのは、兄さまやすずか姉さま、黒歌姉さまと長く一緒にいられたらいいなって、今はそう思ってます」
「白音ぇ!」
「過度なスキンシップは必要ないです、黒歌姉さま」
上げて即座に落とされる黒歌と呼ばれた姉。それでも、お湯に完全に潜るのは怖さがあるのか、白音は黒歌に連れられて、移動口を通っていく。
「お兄ちゃん……私、もう隠さないからね」
呟いて、一つ深呼吸。それから、私も最後に浴槽へ潜っていく。壁の厚さだけを潜るだけだから、すぐに悲鳴を上げるお兄ちゃんの姿が湯気の間から見え隠れするようになる。すずかに完全に捕まって逃げられないみたいだけど、すずかを完全に受け入れてるお兄ちゃんが、あの破壊力抜群の膨らみを押し当てられても、拒絶反応を一切起こしていないのが──起こすわけが無いんだけど、どうにも悔しかった。
次々話ぐらいからR-18に移動するかもしれません。
いきなり露骨な表現になるかは別として。