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「すずか、お兄ちゃん困ってるからやめてあげて」
悔しさはあっても、まずは困ってるお兄ちゃんを助けるのが先。なにせ恥じらいのある白音は別として、お兄ちゃんが平気なすずか達だけじゃなくて朱乃や黒歌にしても隠す気もないのか、堂々とすずか以上の大きなお饅頭をさらけ出している。
だから、お兄ちゃんはこちらを向くことを頑なに拒んでいる。見ていて不憫になるぐらいに。あれで朱乃に触れられでもしたら卒倒しそうな気がする。
すずかもお兄ちゃんの成長に合わせて手にギリギリ収まる程度の大きさに成長させ続けてきたものの、ホルモンバランスの調整がここ二年ほどはそんなうまく行かずに、腰回りやお尻回りのサイズと比べ大きくなり過ぎたとこっそり嘆いていたのを私は知っているから、朱乃や黒歌級だとお兄ちゃんの理想からは逆に外れることを分かっていた。
ようは各部のバランスが取れているのが前提で、かつ程よく大きめだとより嬉しいのがお兄ちゃんの嗜好だ。何年か前にすずかが心理操作を悪用して聞き出したから間違いない。なお、聞き出されたことはお兄ちゃんは当然覚えていない。
その条件に一番近いのが実は私なんだけど、すずかってそういう微調整すら出来そうな気がするから恐ろしいんだよね。お兄ちゃんの好みに合わせるために、身体の仕組みすら変えてしまいそうな感じ。ただ大前提として、お兄ちゃんが相手の好意を心から信じられるようになった相手の中でという定義が入るから、私も条件を満たしてるわけじゃなかったりするけど。
面倒な男とはやて辺りは揶揄するけど、基本受身で受け入れたら全力で愛してくれるお兄ちゃんは、私やすずか達は逆に安心するんだよね。私からすると皇貴みたいにギラギラした部分を剥き出しにしている男性がよっぽど怖い気がする。はやてに言わせると、笑顔の下にギラギラを隠してる男がもっと怖いって言うんだけど、いまいちピンとこない。嘱託の仕事してる時も、男の人とは本当に最低限の会話で済ませるようにしていたし……お兄ちゃん以外の男の人と話しても、正直楽しいと思えないから。
「あ、すずか達だけじゃなくて、フェイトや朱乃さん達まで何してるんだっ。簡単に男の前で身体を晒すんじゃないっ」
「大翔さんの前だから平気なだけですわ。他の男性に見られたくなんてありませんし、しっかり隠しますから心配はいりませんわ」
「お兄ちゃんの背中を流す時に、隠したことなかったよね?」
お兄ちゃんが私に酷いことをするわけがないし、小学校の頃から一緒にお風呂に入ったりしてたんだから、今更だと思う。見られて恥ずかしいだろうとお兄ちゃんは言うけど、見られてもドキドキしたり、身体の奥が不思議と熱くなる感覚を覚えるぐらいで。
それこそ触れたりしてもらっても構わないし……気持ちが定まった今なら、すずか達のように愛してもらいたい、そんな気持ちが強くなってるのが分かる。
……あ、そうか。やっと分かった。お兄ちゃんは私を妹として大事にしてくれていたけど、私を女の子としてずっと認めてくれていたんだね。だから、私の裸を見るのに抵抗するし、強く諌めてくれていたんだ。
「……良かった」
「いや、何も良くないから、フェイト……」
「違うの、こっちの話」
思わず声が漏れてしまったけど、お兄ちゃんを困らせてる状況を何とかしてからだ。とりあえず皆を浴槽に浸かるように促して、ちょっとでも湯気等で首から下が目に入りにくくしていく。お兄ちゃんの正面には、すずかと私がいるような位置取りだ。ほんとは私も正面にいると良くないかもしれないけど、管理局を辞める報告もしないといけないから、この位置。お兄ちゃんの真横は、拒否反応が出ないアリサとお姉ちゃんで固めておく。
「お風呂から上がってから話をしようとも思ったんだけど、元々ここって防音効果も高いし、私達風呂上がりの後って時間がかかるじゃない。だから、悪いけどこういう形を取らせてもらったわ」
「朱乃さんや黒歌さん達にも関係がある話なのか?」
「巻き込むわよ、そんなもの。大翔の困りごとと言えば手伝うでしょ、アンタ達も」
相変わらずこういう時は強引だ、アリサは。ただ、お兄ちゃんが本当に駄目だと思うやり方はしないから、その辺りのバランスはしっかりしている。
「ええ、大翔さんが困るようなことならば、私で出来ることは何でも申し付け下さいな」
「大翔やすずかを困らせる奴らは、この黒歌さんがぎったんぎったんにしてやるにゃ!」
「……兄さまやすずか姉さまの悩んでる顔を、私が手助けすることで笑顔に戻せるなら、やります」
お兄ちゃんを慕い、すずかが認める女の子は、お兄ちゃんの強い味方だ。もちろん、私だって。
「お兄ちゃん。管理局のことも含めて、私から説明をしていいかな。朱乃達は詳しくは知らないんだよね?」
「朱乃さんはミッド式の魔法も覚えているし、必要だよ、ひろくん」
「しかし……」
「大翔さん、お願いします。私を貴方が助け、支えてくれたように、私にも恩返しする機会を下さい……」
それでもすぐには首を縦に振らなかったお兄ちゃんも、朱乃が真剣な表情で頭を下げたことで折れてくれた。白音が驚いた表情を見せたから、朱乃がこういう姿を見せることは珍しいんだと思う。ただ、彼女はそれだけお兄ちゃんに本気で、一つ一つ信じてもらえるように、動こうとしているんだ。
「科学の代わりに、魔法を発達させた世界の統治機構……ただ、聞く限り、かなり歪な組織のようですね。今の冥界の在り様と重なりますわ……」
「悪魔や天使、堕天使が実在する世界……いや、この羽を見せられたら、信じる以外ないよね」
管理局について説明する中で、朱乃も自分の世界の概要を教えてくれた。蝙蝠のような悪魔の翼と、朱乃の髪色にそっくりな艶やかな黒い堕天使の羽が一組ずつ、背中から大きく広げて。素直に綺麗だと呟いたら、朱乃はどこか照れ臭そうにしながら、お兄ちゃんのお陰なんだと、言った。
お兄ちゃんに出会うまでは、色々抱えるものもあって、悪魔と堕天使の翼を片方ずつしか出せない歪な状態だったけれど、その辺りをお兄ちゃんが解き解して、原因の元についても解決の道筋を立ててしまったらしく、それじゃ惹かれるなという方が無理があるよね、と朱乃と頷き合ってしまう。この辺り、お兄ちゃんは昔から助けると決めたら、どこまでもという感じなので、私の時もそうだったんだと話せば、朱乃はすぐに納得してくれていた。
お兄ちゃんじゃなくて、すずかがやけに誇らしげなのもいつも通りだね、ほんと。お兄ちゃんが誉められると自分が認められたかのように喜んで、自分自身への評価はお兄ちゃんからの評価だけを重視している。
だから、他の人から綺麗だの麗しいだの言われても、『正直どうでもいい』から、調子に乗ることもない。あっさり流してお兄ちゃんの元へと足早に戻っていくので、月村家の後継者は本当に婚約者を慕っているからと、似たような家格のお嬢さん達を敵に回すこともなく、しつこい虫は一緒に追い払ってくれたりする。『すずかさんは本当に空知さん一途なのだから、余計な手出しをするな』って。
私も似たようなものだから、すずかのことはとやかく言えないけど、すずかの傾倒ぶりは有名でいい虫除けにもなっていた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんが自分らしく行動することで、昔の私みたいに朱乃は救われたと感じているだけだよ。お兄ちゃんがどう思うかじゃなくて、この場合は相手がどう感じたかだし、朱乃がお兄ちゃんに惚れ込むぐらいに深く感謝してるって話なんだから」
『家族』が絡むような問題になると、お兄ちゃんは自分の持ち得る技術や魔法、自分の伝手など使えるものを全部使ってでも何とかしようとする傾向が強い。それがかつてのお兄ちゃんの悔いから来ていることは、私やすずか達はもちろん知っているし、今回みたいに女の子相手だからって止めたりはしない。それでお兄ちゃんが見返りを求めて、自分と付き合えということも無いのも分かっている。
……ただ、今回の朱乃のように、特定のパートナーがいない、家族に問題を抱える女の子がここまでしてもらうと、うん、余程好みから外れていない限り、こうなるよね。お兄ちゃんは女性の好意をうまく察知できないから、困惑してしまうけれど。
「朱乃、細かいことはまた後で、話をしようね。お兄ちゃん達の魔力の性質が変化していることも含め、聞きたいことはまだまだあるんだから」
「!……え、ええ」
あ、目を逸らした。やっぱり、お兄ちゃん達の性質が変わったのは、朱乃が関わってたね。まぁ、それは夕食も終わって、封時結界を張った後でゆっくり聞けばいいし。悪意がないのはもう分かってるから、原因を聞いておいて、今後の対策が必要なら立てればいい。お兄ちゃんが既に手を打っているならそれでいいしね。
「お兄ちゃん、それで私、嘱託を辞めようと思うんだ。最近の出撃回数も極端に多くなってきて、お兄ちゃんの結界内で休息の時間が取れていなかったら、疲労が溜まってしまうような状況だったし、グレアム執務官もリンディさんも後ろ盾になるどころか、自分達の身の安全を確保しないとマズいところまで来てる。なのは達には悪いけど、潮時だと考えてるよ」
「フェイトを潰して、それを理由に地球への干渉を強めるつもりだったんじゃないかって思うわ。向こうに大翔や私やすずかの存在は知られてしまっているしね」
闇の書の一件を収束させたことや、魔法生命体と化していた防衛プログラム・ナハトヴァールを使い魔としていることで、お兄ちゃん達の存在自体がロストロギア扱いだ。
ナハトヴァール自体が、お兄ちゃん、アリサ、すずかの三人共通の使い魔であり、それだけ強大な力を有していて、その中で主契約者であるお兄ちゃんを管理局は利用したがっている。
私はある意味、防波堤の役割だった。次元犯罪者となってしまった母さんや、一人で戦局を変えられる力を持つ、お兄ちゃんに手を出させないために。だけど、ずっとお兄ちゃんの傍にいると決めた私は、なのはやはやてと関係を断ってでも、もう管理局には与しない。
「母さんの体調は万全になった。多少の干渉は、私達で十分に跳ね返せる」
「ミッドチルダと地球間の次元封鎖をしよう、ひろくん。非正規転移ルートは一時的に残すけれど、期限を設けて、なのはちゃんやはやてちゃん達の判断を促すよ」
「リンディ達も含めて、関係者への連絡はこっちでやるわ。大翔、アンタは次元封鎖の準備に集中して欲しい」
「……いや、とっくに準備は整っている。俺は、フェイトが出す答えを待っていたんだ。フェイトの意思で管理局に属しているのだから、ギリギリまで待とうと決めて」
私達は一斉にお兄ちゃんの顔を見てしまう。つい先程まで、朱乃達の裸に動揺していた表情とは打って変わって、瞳に強い意思を宿し、引き締まった表情で、私達を強く引っ張ってくれる──私が見蕩れるお兄ちゃんの一面だ。隣のすずかも艶かしい吐息を一つこぼしているあたり、私と同じ感覚を覚えたみたい。
「管理局にはドクターが内偵をずっと潜り込ませている。フェイトに負担がかかっている時はすぐに知らせももらっていた。だから、任務先の宿やミッドの宿舎に戻った時に、俺達がいること、ちょくちょくあっただろう?」
「ひーちゃん、フェイトにここのところ過保護だと思っていたけど、そうじゃなかったってこと?」
私もお姉ちゃんもここ数ヶ月のお兄ちゃんのタイミングの良さは、お兄ちゃんが調査網を張っていたからだと初めて知った。アリサも多分知らなかったんだろう、一瞬目が大きく開いたし。
「ああ、封時結界内で数日間の休養を頻繁に取らないといけないぐらいに、フェイトが激務になっていたってことだ。すずかには、問い詰められた時に話さざるを得なかったけど、しっかり黙っていてくれた。どちらにせよ、俺はそろそろ限界とは思っていたし、強引に引き戻すのもやむを得ないと考えていたけど──フェイトが自分から辞めると決めてくれたのなら、もう遠慮なんていらないよな」
お兄ちゃんは口調だけは冷静であろうとしているけれど、抑えきれず漏れ出た魔力が暴れ、浴室内に突風が吹き荒れ始めてしまう。お兄ちゃんは静かに怒っていた。私のために──そんな想いが私の心を温かくしてくれるけれど、初めてお兄ちゃんの激情を目にしたのか、朱乃や黒歌が身体を強張らせてしまっているのを横目に、それよりもお兄ちゃんの憤怒をどうするべきか、すずかや私はとっさに浴室全体に防御結界を張りつつ、思案を始める。
「猶予なんていらない。なのは達関係者は、強引に海鳴へ強制転移させる。その上で、すぐにでも次元封鎖をしよう。フェイトを潰そうとした報いを、受けてもらおうじゃないか」
お兄ちゃんは相当キているようで、怒りに反応して、指示していないに係わらず、普段はお兄ちゃんの体内で大人しくしている、ナハトヴァールまでもがその姿を見せてしまった。
身体の大きさはある程度変えられるからか、お兄ちゃんより少しだけ大きい程度で出てきているけど、神話で語られるスキュラを模した姿で、上半身はリインフォースに似た美女の姿とはいえ、腰回りに獰猛な六本の狼の首、足の部分は十二本の長い蛸足風の触手を持っている格好だ。
畏怖感を感じさせる姿の上に、戦闘力はそれこそ浴室内にいる私達を一体で難なく相手出来るぐらいに強いし、お兄ちゃんの供給魔力が増すにつれて、魔力総量はSSSランクオーバーだから、朱乃達はさらに固まってしまうのも無理も無い。
高町道場は生死を超える何かをつかめる素晴らしい道場です!(お目目ぐるぐる)