推敲がやっつけ状態ですが、ひとまず更新します。
その後、明日にでも聞かせられる範囲でまた教えてもらえればと、素早く退室していったクアットロさんをよそに、私達はまず泡を吹いた大翔さんの気つけに取り掛かりました。
この巨大な部屋はベッドルームエリアやリビングルームの他に、浴室・洗面台・台所等が用意されています。その台所からアリシアさんが手早く用意した氷嚢を持ってきて、ソファーに横になった大翔さんをアリサが膝枕をして、安静にする態勢が整ったところで、被告人の申し開きが始まろうとするところなのですが……。
「って、すずかは何してるのよ」
「ひろくんの手を取って、少しでも元気付けてるだけだよ? 膝枕はアリサちゃんに取られちゃったし」
「それは分からなくはないわよ。ただ、ソファーの下に腰を下ろしてまで、大翔の手を自分の頭や髪に置いたり櫛代わりにして……」
「ひろくんが触れ慣れた感覚で早く元に戻ればいいなって。それに、私が触れられていると幸せです、えへへ」
すずかさんがあまりに平常運転のため、毒気が半ば抜かれてしまう私達です。とはいえ、いきなり泡を吹いて痙攣を起こして気を失った大翔さんを目にしていますから、被告人であるカリム・グラシアさんは沈痛な面持ちで深く頭を下げてきました。
頭を下げると同時に、さらりと流れる長く輝く金の髪。整った顔立ちからは元来の穏やかな性格がにじみ出ているようです。
「も、申し訳ありませんっ、その異性恐怖症とは知らず……」
「いや、そうじゃなくて……確かにそれもあるけど、なんで感極まりましたって感じで抱きついたのよ」
「この方こそが私の全てを捧げるお方なのだと、確信したものですから」
その言葉を発した瞬間の彼女は、一切の迷いなく、私達の顔をしっかり見つめたまま、きっぱりと言い切ったのです。一目惚れとしても、全てを差し出すような滅私にも近い決心が出来るかといえば、それは違います。
私も今の心持ちとしては、目の前の彼女が出した結論と変わりはありません。けれど、出会った直後にそこまで想ったかといえば、流石に違う話です。洗脳の類を疑いたくもなりますが、どうにも彼女は正気の様子。すずかさんに私や黒歌も各々で彼女にかけられた術式が無いか探りを入れたものの、そんな類の魔力の影響下というわけでもありませんでした。
「その気持ちに至った、詳しい説明希望~。その話をしてくれる間に、ひーちゃんも起きてくるよ。どうせ七日七晩、この結界内から私達は出れないし出さないんだから」
「も、申し訳ありません。どうも心が急いていたようですね。皆さま、長くなりますが、私がそういう答えに至った理由を聞いて頂けますか?」
「ぜひ、お願いしたいな」
台所に保管してある茶葉をお借りして、私が皆さんの紅茶を準備させて頂いてから、カリムさんはまず自分の背景から話し始められました。
「私はこの地球とは別の次元世界、ベルカ自治領に本部がある聖王教会という組織に籍を置いています……」
その聖王教会は、カリムさんが暮らす世界で最大規模の宗教組織とのこと。信徒が多いのは他宗教に比べ禁忌や制約が少なく、緩い部分があるからだと苦笑いをしながら説明をされました。
「教会騎士団の幹部ねぇ……」
「といっても、私は事務方で……恥ずかしながら、戦闘能力は殆ど無いのです」
祖父が枢機卿ということもあるのでしょう、と自嘲的に話す彼女。とはいえ、話を聞く限り、職務には誠実に取り組んでいらっしゃるのでしょう。すずかさんとアリサと似た、次代の指導者的立場といった感じなのでしょうね。
「私の背景はこの程度で本題に入りますが……まず、過去に数々の偉業を成し遂げた『聖王』様や近しい血族の方々、傍にあった騎士様達が私達の信仰対象となっています。そして、その伝え聞く聖王様と似た特徴を、陛下から感じたものですから……」
「あー……うん、なるほどね。ドクターのせいだわ」
「やっぱりあのひとだったかー」
『よていちょうわー』
「アリシアちゃん、紗月さん、完全に棒読みだよ?」
苦笑いしながら、今度はすずかさんが補足してくれます。大翔さんが先程、クアットロさんと話していた内容を補足する形で。
「ひろくんはドクターの悪巧みで、最後の聖王と呼ばれる人のDNAを注射されたことがあるの。入手経路はロクなものじゃないのは確か。ただ、ひろくんはレアスキルと合わせることで、自分の強化に必ず繋がるというドクターの言葉を受け入れた」
彼の戦い方は近・中・遠距離全対応であり、特定の距離を不得手としません。ですが、すずかさんやアリサのように近距離を得意とする人を複数同時に相手する時に、手数が足りずに押され気味になることが幾度か今までにあったそうです。
「すずかの義兄にある恭也さんに師事して古武術を学んでもいたけれど、打撃力に欠けるとは言われていたのよね。捌くのは一級品なのにって」
「ただ、私が教えた仙術と合わせて鍛え続けてるから、近距離も得意って言える日も近いにゃ。強い男は私も大好きだし、頑張って鍛えてやるにゃ」
「そういうことだったのですか……陛下のお言葉から、オリヴィエ聖王女の血筋だと思っていたのです。記憶の継承の話をされておられましたし、検査の最後に大変短い時間ですが、右目が翡翠、左目が紅玉色に変化されていましたから……」
カリムさんの位置からは、大翔さんの両目の色彩が変化していたのが見えたということでしたが、古代ベルカ時代に『聖者の印』として尊ばれたものであり、聖王女も同じ特徴を持っていたといいます。
「聖王の血筋に現れる虹色の魔力光をお持ちではありませんでしたが、私の持つレアスキル、『預言者の著書』による未来視の預言内容にも陛下のことが描かれていました。普段は難解な詩文形式で記述されるのに、その一文だけは分かりやすいものだったのです」
誰にも明かさず、カリムさんはその一文を自分の内にだけ秘めていたといいます。
『預言の聖女は虹と漆黒の魔力に囚われ、心の安息を得るであろう』
……指導層の血筋を引くことやレアスキルの所持も相まって、ひがみや妬みも集まりやすく、身の安全が脅かされることも多かった彼女は、教会から出ること自体が非常に少なかった生活にどこか嫌気が差していたのだそうです。
調和を重んじ、礼節を尽くし、慈愛を分け隔てなく注ぐ教会騎士団の女騎士。長年にわたり役割を強いられ、今や身体に染みついてしまった皆が求める自分の姿を演じ続けていく……。人形のような生き方が変えられないのを彼女は諦めていた部分もあり、要職の責務を自分から投げ出すことは出来ず、自分の現状が打破されることを密かに願いながら日々を送る中、今回の強制転移にあえて巻き込まれた、と。
「予言に出た陛下なのだと確信して、この方こそが私の全てを捧げる方なのだと思い、ふしだらな行動をしてしまいました……お恥ずかしい限りです」
「……深窓の令嬢みたいなもんだにゃあ。確か、さっきの連中も護衛役がいるみたいなことも言ってたし、男と関わる機会がそんなに多く無いんじゃないかにゃ?」
「はい、殿方と話すのは、仕事や懇親会のパーティーに出席した時ぐらいでしょうか。シャッハという優秀な護衛役がついてくれていますので、必要以上に近づこうとする人物は遠ざけてくれていますし」
「実際の男を知らないから思い込みも激しくなる、期待感を自分の中で上げてああなったということにゃ」
黒歌の指摘に、顔を染めて頬に手を当て恥ずかしさに俯くカリムさんを、私達は責める気を無くしつつありました。あまりにも異性に対しての免疫が無い彼女です。
「えっと、カリムさん。先に伝えておくけど、ひろくんは貴女ひとりのものになりえないよ? 見ての通り、彼に寄り添う花はもう片手ではあまるほどいるんだから」
「?……陛下、つまり王たる者が麗しく才のある王配を何人も持つのは当然では? 歴史がそれを物語っていますし……」
「あー、うん、貴女もそういうタイプなんだね……」
すずかさん、こちらを見ないで下さい。確かに私はアリサに同じことを聞かれた時にそう返事をしましたけれど、多分、彼女も私と同じ感覚を大翔さんに抱いたのではないでしょうか。
「もちろん、理性はそれを認められても納得できるかは別の話です。ですが、陛下の花でおられる貴女達を見れば、一人ひとりが大切にされているのだと分かりますから」
結局は、大翔さんだから大丈夫だと信じられた。すずかさん、アリサ、アリシアさんが一人ひとり大切に愛されているのだと、見れば十分に伝わるから。そういうことなのだと思います。
「生まれ育った土地から切り離すことになると思うよ?」
「陛下に今を壊され奪われるなら、本望で……」
「待ってくれっ! というか、俺の意思はどうなってるんだよ……」
アリサの膝元から飛び起きた大翔さんが慌てて、結論が出かけているすずかさんとカリムさんの間に割って入ります。
「ひろくん、どの辺りから聞こえてたの?」
「……未来視の力の辺りから。そもそも預言の内容が俺を差し示すって断言するのは……」
「初めて聞いた私でも分かります。虹色は聖王のことですよね、兄さま」
「漆黒はナハトのこととしか思えないよ、ひーちゃん」
小猫ちゃんとアリシアさんの素早いツッコミが入り、言葉に詰まった大翔さんに、微笑みを浮かべたカリムさんが補足をしていきます。
「ええ、はやてから『闇の書の闇』……管制人格・リインフォースと分かたれたロストロギアを制御し、魔法生命体の使い魔として使役しておられるとお伺いしています。その魔力光は漆黒。主である陛下の深紅色とは異なるものだと」
「犯人ははやてか……」
「詳しくはリインフォースが教えてくれました。消える運命にあった自分を融合型デバイスとして再形成し、残った防御プログラム・ナハトヴァールの暴走を止めて、彼女にも生きる道を残してくれた最高のマイスターだと」
「……大翔、聞いた?」
「ああ、アリサ。怒れないよ、リインフォースに悪気はないのは分かるし……ただっ! 出会ったばかりの人間に全てを預けるだなんて、そんな判断をしちゃダメだ!」
彼女の目の前に駆け寄り、カリムさんの決断を押し留めようと懸命に訴える大翔さんですが、残念ながらハッキリ言って後押しするだけのような……。ほら、彼女の瞳はみるみる間に潤んで、頬も喜びに紅く染まり、感動に震えている状態です。
「陛下……私のためにそんなに懸命になって頂くなんて、恐れ多いことです。ほとんど面識のない私にまで、なんと優しいお言葉……。迷いなどあるはずがございません、カリムは貴方様に全てを捧げますわ。私の信仰も、身体も心もどうぞ貴方様のものに……」
はい、止めを刺してしまいました。彼女の教義にある信仰対象が目の前に現れただけでなく、その相手が彼女の身を案じる発言をしたわけですね。両手を組んで祈りを捧げるカリムさんの行動に私を含め、とっさに痛みに対して身構えてしまいますが、信仰先が大翔さんなので私達は痛みを覚えずに済んだようです。いわゆる聖書に抱えた神に対しての祈りだから、ということなのでしょうか?
「グ、グラシアさん? ど、どうして?」
「カリムとお呼び捨て下さい、陛下」
「大翔さんがお休みの間にカリムさんが説明されていましたが、彼女は『聖王教会』という宗教組織の若き幹部ですわ、大翔さん。カリムさんにとって、聖王の生まれ変わりとも思える方の発言は、啓示に等しいものだと思いますわ……」
私の説明に意識を失いはしなかったものの、再び崩れ落ちる大翔さんを間近に私とカリムさんがとっさに支えますが、受けた衝撃からか認識が曖昧なのか拒否反応が出ることもなく、二人で彼をソファーへと座らせます。
すずかさんやアリサがカリムさんを拒否する方向に動かなかったということは、少なくとも候補として様子を見ようということでしょう。ですから、大翔さんの発言を止めもしなかったのでしょうから。
「さて、難しい話は明日にしようそうしよう? すずかちゃんもアリサちゃんもそのつもりでしょ?」
「うん。ひろくん、今夜は私達に溺れて……ね?」
「今後のことは目が覚めてからにしましょ。さて、今からは大人のお楽しみの時間だから、刺激が強いのが辛い人は今の内に退室してちょうだいよ?」
言うが早いか、お三人さんは自分のネグリジェに手をかけて、ブラジャーとショーツだけの下着姿へと早変わりしていきます。アリサは朱色、すずかさんは紫色、アリシアさんは白主体と、手早くソファーの背もたれに掛けられるネグリジェとそれぞれのインナーの色合いは各人で統一されているのですね。
「お、おい、すずかにアリサ。そんな皆の前で」
「何を言ってるの、大翔にいつ見られても恥ずかしくないように磨きをかけている身体よ? 同じ女に見られたって別に構わないわ」
「うん、ひろくんが見せろと言うならどこででも……前から言っていることだよ?」
「他の男に見せるなんて絶対に嫌だもんね、ひーちゃんは」
「いやそりゃ自分の彼女の下着姿や裸を他の男に見せて喜ば……こら、俺まで脱がしに掛かるな!」
大翔さんの服に手を掛けるのは、三人だけではなく、黒歌まで手を伸ばしています。もう、黒歌はまだ大翔さんの女になる意思も見せていないというのに!
「黒歌! 貴女は部屋の外に出なさいな!」
「なんでにゃ? 主人の傍にいるのは飼い猫としておかしくないにゃ。あ、それと大翔。その考えは甘いにゃ。自分の女が乱れる姿を他の男の前で見せ付けるのが好きだっていう下世話なやつも結構いるにゃ……見えはするし乱れる声も聞かせるけど、触れられるのは自分だけっていう捻じ曲がった欲の満たし方にゃ」
「俺は嫌だっていう話、ってこら手を止めろ」
「せっかく鍛えた肉体なんだから、気にせず見せるといいにゃ。あ、ただ、見せていい相手はちゃんとこちらで見極めるから、所構わず脱ぐのは勘弁かにゃ。それに……誰も出る気は無いみたいにゃ?」
恥ずかしさに頬を染めている小猫ちゃんやカリムさんにせよ、立ち上がる気は無いようですし。フェイトさんと私も三人に倣って、寝間着を脱いで皺にならないように先にさっさと折り畳んでしまいました。
細かいところの調整はまた明日に掛けてでもやります。