「揃ったようだね。今日は人数も多いしバイキング形式にさせてもらったよ。大翔くんに巻き込まれた形だが、私も妻もこの一週間はゆっくりと過ごさせてもらうつもりだ。ここにいる君達も多忙を極める者が多いだろう。蓄積した身体の疲れを滞在中に少しでも取っていってくれ」
「……征二さん、あえて俺を弄る意味は無いでしょう?」
「正式にすずかの婚約者になった後、いつまで経っても私を父と呼ばない君へのちょっとした当てつけだ。甘んじて受けたまえ」
すずかさんのお父様の声掛けから、大勢での朝食が始まりました。話のネタにされた大翔さんは思わず苦笑いになってしまいましたが、クアットロさんやミッドチルダの方々も集い、思い思いの一品に手を伸ばし始めています。
「はい、ひろくん。あーん」
「あっ、ずるいよすずか。お兄ちゃん、私のも食べて? はい、あーん」
「ひろ兄ちゃん、こっちのやつも美味しいよ!」
大翔さんは食べさせ合い合戦の標的状態です。両腕をしっかり確保されて、自分で自由に食べられないバイキングというのも大変ですね。まあ、そういう私も大翔さんの腕に自分の腕を絡め、ジュースなどを飲ませる役割をしっかり確保してますけれど。
「リア充め! 爆ぜてしまえ!」
「せやせや! 揉みしだきたいおっぱい独占反対!」
「二人ともいい加減にしないと……もぐよ?」
伊集院さんと八神さんのペアは早速、こちらを煽ってはすずかさんに睨まれ、互いに抱き締め合って震えています。この二人、確かお付き合いしてるのではなかったのでしょうか。
「皇貴ははやてのおっぱいでも愛でてなさいよ。愛情込めていればもっと大きくなるから」
「ちょい待ちアリサちゃん、それなら私は誰のおっぱいを愛でたらええんや!?」
「自分のおっぱい揉んでなさい」
「そんなの何も楽しくないやんか……私以外の女の子のおっぱいは夢と希望が詰まってるんや!」
なかなかぶれない方のようです。イッセーくんとさぞ気が合うことでしょう。伊集院さんもリアスにもしっかり二人に首輪をつけておいてもらわないといけませんね……うふふ。
「……なんか悪寒が……」
「俺は謎のプレッシャーを感じる……」
「皇貴くんはいつから乳タイプになったんや?」
「おいはやて、絶対カタカナじゃないだろ今の」
漫才コンビは一先ず後にして、落ち込みが激しい高町さんのところへ歩み寄る大翔さんに、私もそのまま同行するとしましょう。アリサがこちらは任せときなさいといったジェスチャーをしてくれているので、すずかさんやカリムさんも一緒についてきます。
「次元閉鎖……本気なんだね、大翔くん」
「フェイトを傷つけられて黙っていられるわけがない。以前になのはが管理局へ入る時にも話はしただろう? 強引に引き戻すことだってあり得る。その覚悟はしておけって」
「大翔くんが私のことも心配してくれているのは分かってる。大怪我を負いそうになったところを何回も助けてもらって……でも、私は。私には、魔法しか無いんだもの。だからっ……」
高町さんの顔は疲弊し落ち込んでいるものでした。朝食は朝食として楽しんでいる他の方と違って、彼女は昨晩の大翔さんの言葉を強く受け止めているようです。
「魔法しか無いことはないだろう、なぁ、ユーノ」
「え?」
「教導隊で随分と慕われているみたいじゃないか。厳しいけど、ちゃんと見ててくれる教官だって」
顔を上げた彼女の顔は驚きの色に染まっていて、ぽかんと口まで開けてしまっていました。彼女の隣にいるスクライアさんが微笑んでいるのを見る限り、大翔さんの情報源は彼からのようですね。
「なのはのお師匠みたいなものじゃないか、大翔は。だから、しっかり近況は報告してるよ?」
「き、聞いてないよ、ユーノくん!? 第一、司書の仕事で忙しいのにどこにそんな時間があったの!」
「大翔と僕が共通して得意なものは何かな?」
「……マ、マルチタスクをそんなことに使ってたのっ!?」
「といっても、通信で話すだけだから一つだけで済むもんな。な、ユーノ」
スクライアさんは並列思考を小さな頃から得意にしていて、大翔さんも知り合った時に何重もの並列思考を身につけるコツや考え方などを聞いて参考にしたのだと聞きます。それからは親しい友人関係であり、遠距離にあっても通信などを含めて話す機会は結構多いのだとか。
「うん。いきなりやらせて理解させるんじゃなくて、訓練の意図や目標を最初に伝えるように……そんな風にアドバイスしたこともあったよね。あれ、大翔の入れ知恵だから」
「にゃ、にゃにゃにゃっ!?」
「基礎を大事にする。その方針を貫いているから、地力もつくし、現場に出た教え子から後から感謝されたりとか……そういうことも『ちゃんと』聞いてるぞ、なのは」
「ううーっ! ひどいのっ、ユーノくんも大翔くんも!」
「ははは、ごめんねなのは」
ぷりぷりと怒り出す高町さんですが、少なくとも暗い雰囲気は彼女から薄れています。男性二人の狙いはおおよそ成功といったところでしょう。
「それにね、なのは。次元を閉鎖するといっても、完全に閉鎖するのはなかなか難しいんだよ」
「……ユーノにはお見通しか、やっぱり」
「大翔達が本気になれば出来るんだろうけど、ただ、その場合に起こる弊害が無視出来ないってところだよね」
「さすがは無限書庫の司書長、ですかね~。まー、完全に塞ぐと大規模な次元震を誘発してしまうでしょうからぁ、地球だけでなく他の次元との行き来に影響が出る可能性が大きいですよね~」
話題が変わることで、クアットロさんも場に加わってきます。ただ、緊張した感じもなく、研究者なら推測がつく──そういう類の話ではあるようです。正直、私は次元について詳しくないため、聞く話全てが勉強になるのですけどね。
……だって、大翔さんの話についていけないだなんて、悔しいじゃないですか。彼の学ぶ分野全てを分かるようになるとは思いませんけど、それでも最初から諦めることはしたくありません。
「次元の狭間みたいに元が不安定で流動的なものを無理やり堰き止めると、狭間以外の部分……俺達の街自体に余波が及んでもたまったもんじゃないからな」
「数人ぐらいが転移出来るルートを残す感じかな? 船が通せるようだと意趣返しにならないよね、大翔」
「落とし所はその辺りだと思ってるよ」
「はい~。私もミッドに行くことはありますし、ルートを完全削除ってわけにはいきませんしね~」
カリムさんの通勤経路も必要な話ですから、通用口程度は必要。そんな感じなのでしょうか。
「だ、だからユーノくんは落ち着いていたの……?」
「大翔達と逢えなくなることはないと予想してただけさ。ただ、逢いにくくなるのは確かだよ。この地球とのルートが大幅に狭まることで管理局は警戒を強めるだろうし、特になのはやはやて達……出身世界が地球の局員への監視もより厳しくなるとは思う。だから、大翔はこの機に帰って来いっていうわけさ」
「仕事ならいくらでもあるぞ。すずかにも言われることだけど、俺達が信頼がおける護衛が足りない。プライベート空間にいてもらっても大丈夫で、かつ実力もしっかりしている……なんて、そんな人はそういるわけじゃないからな」
「教え方がなのはは上手だから、教師を目指すのもありだよ。理数系は得意なんだから、そういう方向に進んだっていいんだよ?」
「教員免許を取るなら私もバックアップするよ、なのはちゃん」
フェイトさんやすずかさんも、高町さんの道は一つではないと指摘します。長年の友人であるお二人も、彼女の身を案じているのですから。
「だけど……」
「僕のことは気にしないで、なのは。なのはが選んだ道を僕は応援するし、えっと……僕も離れるつもりもないからね?」
「えっ……?」
高町さんの懸念──スクライアさんと離れ離れになることを、彼は心配ないと照れながらも言い切ってしまいました。大翔さんもすぐに顔を赤くしている彼の言葉を補足していきます。
「もう一度言うけど『仕事ならいくらでもある』んだ、なのは。ユーノが俺の補助的な役割をしてくれるなら、それこそ大歓迎さ。秘書的な役割はここにいる朱乃がやってくれるけど、腹心になってくれるような同僚も必要だろ?」
「大翔の補助は大変そうだから、古書店の店主をやろうとでも思ってるけど?」
「にゃろう。こっちと兼業しろよ、ユーノ」
「あ、あの、あの……」
「大丈夫、なのは。司書の仕事に拘るわけじゃないし、この世界の考古学も興味深い。僕はなのはの傍でやりたい仕事をする。もちろん、食べていける程度には頑張るけど。だから、心配はいらないんだよ。あーだこーだ言ってお人好しの友人も、地球にいる限りは助けてくれそうだし」
後はユーノさんに任せておいて大丈夫そうです。高町さんにしっかり考えてもらって結論を出すのを、私達は待てばいいのですから。そっと二人から距離を取り、私達は再びアリサや八神さん達の近くへと戻りました。
「かーっ。二人で雰囲気作って。珈琲が甘くて仕方ないで」
「リインフォースの胸を擦りながら言う言葉じゃないわよ、はやて」
「リインのおっぱいが今は癒しなんや……!」
融合型デバイスでもあるリインさんですが、元々は夜天の魔道書の管制人格であったこともあり、今も主人の無茶振りに戸惑うお姉さんにしか見えません。八神さんの手を跳ね除けずに、仕方がないといった様子で好きにさせるあたり、彼女は八神さんにかなり甘いのかもしれませんね。
「あ、大翔くん。私は海鳴には戻らんよ。グレアムおじさんのこともあるし、ヴォルケンリッターの皆もまだ向こうや。やらなあかんこともあるしな……」
「……ねえ、はやて」
「なんや、カリム?」
「私、設立協力が今後は難しくなると思うの」
「んなっ!? どういうことやのっ!?」
八神さんが決意表明した直後、カリムさんからの爆弾が投下されます。カリムさんは預言のことは伏せ、大翔さんが聖王の力を開花させつつあることと、教会の熱心な信者として彼の付き人を務める決心をしたことを話していきました。
「ちょ、ちょい待ってぇな。そんなの、枢機卿さんや教皇さんが納得するわけが……」
「ええ、だからしばらくは教会の職務は務めつつ、お父様や教皇様を説き伏せるつもり。ただ、私はプライベートを全て、大翔様に捧げると決めたわ」
「……何したんや、大翔くん! 洗脳か! 魅了か! 完全にカリムが別人やないか!」
「はやて、私は私よ。これは私の意思」
「……カリムぅ! 目を覚ますんや! 大翔くんは悪い奴やないけど、ハーレムの王なんやで!? 複数の女性に手を出してウハウハ言ってるんやで!?」
「ええ、昨晩見学をさせて頂いたわ」
「自室に戻ったんとちゃうんかい!」
必死に慰留するはやてさんに、落ち着いた態度で意思は変わらないと繰り返すカリムさん。二人のやり取りの横で、伊集院さんが大翔さんへ話しかけてきました。
「……どうなってるんだよ」
「今は、カリムさんの意思としか言えないよ」
「お前が魅了とか使うわけがないのは分かってるし……かといって、強さに惹かれる人でも無いんだよ。はやてとかリインフォースがお前を評価してるのを聞いてたとしても……」
「うん、彼女が話してくれるのを待ってくれとしか言えないけど……ただ、俺も戸惑ってる側だってことは言っておく」
「だろうなぁ。姫島さんやフェイトと違って、お前の距離感が明らかに開いてるからなぁ」
ええ、朝から大翔さんの隣は、私・フェイトさん・すずかさんの三人のいずれかが張り付いている状態です。私やフェイトさんは昨日の一夜から大翔さんに出来るだけ触れていたい衝動にずっと駆られていますし、すずかさんは平常運転ですから。
カリムさんが覚悟をしたと言っても、大翔さんが受け入れると覚悟するかはまた別の話。そもそも大翔さんの身体は一つなのですから、望むなら戦うのみ……ですよね。
「キャットファイトしなけりゃ、競り合いも必要にゃ。白音、これもいけるにゃ」
「!……確かにこのパン美味しいです。もう少し頂きます」
そんな私達の傍で、黒歌や小猫ちゃんは普段通りのままなのでした。